交通事故でむちうちの怪我を負った場合の保険金は?請求の流れや注意点について解説
執筆者 野沢 大樹 弁護士
所属 栃木県弁護士会
私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。
「交通事故が原因でむちうちになった場合どのような保険金の支払を受けることができるのか」
「保険金の支払を受けるまでの流れや注意点を知りたい」
交通事故などの衝撃で首がむちのように強くしなり、筋肉や神経などの軟部組織が損傷したことにより生じる症状を総称してむちうち症といいます。
診断名としては「頚椎捻挫」や「外傷性頚部症候群」とされることが多く、症状は首から背中にかけての痛み、腕から手にかけての痺れに加え、頭痛、吐き気、耳鳴りなどが見られることもあります。
交通事故によってむちうちの怪我を負った場合、被害者は、加害者側の保険会社に対し、発生した損害の賠償を保険金として請求することができます。
本記事では、交通事故によってむちうちの怪我を負った場合に保険金として請求できる損害項目、請求の流れなどについて解説します。
なお、加害者が任意保険に加入していない場合、保険金の請求は自賠責保険に対して行うことになります。
自賠責保険へ請求を行う際の注意点については、以下の記事もご覧ください。
- 交通事故によってむちうちの怪我を負った場合には、怪我の治療費や傷害(入通院)慰謝料、休業損害、入通院に関する費用を保険金として受け取ることができる
- むちうちの症状が完治せずに残存した場合、後遺障害等級の認定を受けることで、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益の請求も認められる
- 十分な金額の保険金を受け取るためには、怪我の治療の段階から注意すべきポイントが数多くあるため、不安や疑問がある場合はなるべく早期に弁護士に相談することがおすすめ
1.むちうちの怪我に関して受け取ることができる保険金

むちうちは、首に不意の強い衝撃が加わることで生じるものであり、追突などの交通事故によって比較的起こりやすい怪我です。
そして、交通事故によってむちうちとなった場合には、これによって生じた損害について、加害者側の保険会社から保険金として支払を受けることができます。
支払を受けられる主な損害項目は以下のとおりです。
- 治療費
- 傷害(入通院)慰謝料
- 入通院に関する費用(入院雑費、通院交通費等)
- 休業損害
- 後遺障害慰謝料
- 後遺障害逸失利益
このうち、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益は、原則としてむちうちの症状について後遺障害等級に認定を受けた場合に請求が認められます。
むちうちの症状が完治した場合には支払を受けられません。
(1)治療費
むちうちの症状の治療を行った場合、症状と治療の間に因果関係が認められる範囲の治療費について請求が認められます。
加害者が任意保険に加入している場合、その保険会社が医療機関に直接支払を行う「一括対応」が行われるのが一般的です。
一括対応が行われる場合、保険会社が医療機関から資料を取り寄せるための同意書を提出する必要があります。
この書式は保険会社から送られてきますので、署名して返送するようにしましょう。
なお、保険会社には一括対応を行う義務があるわけではありません。
被害者の過失割合が大きい場合や、車両の損傷が小さく事故と症状の因果関係に疑問がある場合などに拒否されることもあります。
そのような場合には、健康保険を利用して治療を行い、治療費については自賠責保険に請求することが考えられます。
自賠責保険に請求する場合の注意点については、前述の記事をご覧ください。
また、むちうちの治療で加害者側の任意保険会社から一括対応を受ける際に注意すべきポイントについては、以下の記事も参考になります。
(2)傷害(入通院)慰謝料
傷害(入通院)慰謝料は、交通事故によって怪我を負ったことによる精神的苦痛に対して支払われるものです。
その金額は、治療日数や治療期間によって算出され、その算定基準には以下の3つがあります。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 裁判所基準
自賠責保険基準は、自賠責保険から支払われる保険金の算出に用いられます。
自賠責基準では、以下のような算定式に基づいて傷害(入通院)慰謝料が算出されます。
- 4,300円×日数
ここで用いる日数は、「治療期間」と「実治療日数の2倍」のうち、少ない方となります。
任意保険基準は、各任意保険会社が用いる算定基準であり、その詳細は非公開となっているものの、金額としては自賠責基準と同様かやや上回る程度の金額が算出されることが多いです。
裁判所基準は裁判所が用いる基準であり、他の2つの基準に比べ高額な金額が算出されやすくなっています。
したがって、慰謝料を請求する場合は裁判所基準によるのがよいのですが、加害者側の保険会社は被害者本人からの請求に対しては裁判所基準の金額での支払をほとんど認めません。
代理人弁護士からの請求であれば裁判所基準での支払に応じるようになりますので、多くの金額を受け取りたい場合には弁護士に依頼することがおすすめです。
傷害(入通院)慰謝料の金額の算定については、以下の記事も参考になります。
(3)入通院に関する費用(入院雑費、通院交通費等)
治療費以外のむちうちの治療にともなって発生した費用についても、請求が認められます。
入院雑費や通院交通費など、治療費と同じく事故との因果関係が認められる費用がこれに含まれることになります。
入院雑費については原則として入院1日につき1500円の請求が認められ、現実の支出がこれを超える場合、必要な範囲でその超えた部分の請求が認められることもあります。
通院交通費についても、必要な範囲の請求が認められます。
例えば、公共交通機関を利用して通院できたにもかかわらずタクシーを利用した場合、タクシー料金の請求が認められない可能性があります。
支出の必要性を客観的に証明する必要がありますので、どの範囲であれば請求が認められそうか、弁護士に相談するのもよいでしょう。
タクシー代の請求が認められる場合でも、金額について立証する必要がありますので領収書などを残しておくようにしましょう。
(4)休業損害
休業損害は、怪我の治療のために仕事を休まざるを得なくなったことで減少した収入に対する賠償金です。
その金額は、「基礎収入日額×休業日数」によって算出します。
休業日数については、怪我の治療のために必要と認められる日数のみが対象となり、実際に休んだ日数すべてによることが必ず認められるわけではありません。
休業損害の算定式や計算を行う際のポイントについては、以下の記事もあわせてご覧ください。
(5)後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、後遺障害の残存による精神的苦痛に対して支払われるものです。
すでに触れたとおり、むちうちの症状について後遺障害等級の認定を受けた場合に請求が認められます。
後遺障害等級の認定を受けるためには、症状固定(それ以上治療を続けても症状の改善が見込まれず、症状が一進一退となった状態)になったあと、自賠責保険に対して認定手続の申請を行う必要があります。
むちうちの場合には、痛みやしびれ、頭痛、吐き気といった症状について以下のいずれかの等級に認定される可能性があり、等級ごとに定められた慰謝料の支払を受けられるようになります。
| 後遺障害等級 | 自賠責基準 | 裁判所基準 |
| 12級13号 | 94万円(93万円) | 290万円 |
| 14級9号 | 32万円 | 110万円 |
※()内は2020年3月31日以前に発生した事故の場合
ただし、むちうちの場合、多くは14級9号の認定となり、12級13号に認定されることはかなりまれです。
また、非該当となることも決して少なくありません。
少なくとも、半年程度通院を続けてもしつこく症状が残っているという場合でないと認定されるのは難しいといえます。
むちうちの症状と後遺障害の関係については、以下の記事もご参照ください。
(6)後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益は、後遺障害を負ったことによって減少すると考えられる将来の収入を補填するものです。
後遺障害慰謝料と同様に、後遺障害等級の認定を受けることで請求が認められます。
逸失利益の金額は、基礎収入のうち後遺障害によって影響を受ける割合、労働能力の制限を受ける期間、中間利息の控除など注意すべきポイントがいくつもあります。
むちうちの症状が後遺障害として認定された場合の後遺障害逸失利益の計算方法や注意点については、以下の記事で解説しています。
2.保険金の支払を受けるまでの流れ

加害者側に賠償を行う義務が生じるのは、治療が終了し、事故による損害が確定してからとなります。
これは、請求先が保険会社であっても同様です。
保険金の支払を受けるまでの流れは以下のとおりです。
- 完治または症状固定まで治療を続ける
- 症状固定の場合は後遺障害等級の認定申請を検討する
- 加害者側の保険会社と示談交渉を行う
- 示談の成立・示談金(保険金)の入金
なお、被害者に発生した損害のうち、車両などの物的損害については、怪我による損害とは別に示談を行うことができ、通常は先に示談交渉を行うことになります。
物的損害に含まれる具体的な項目や示談交渉のポイントについては、以下の記事で詳しく解説しています。
(1)完治または症状固定まで治療を続ける
まずは治療の必要がないといえる状態、完治または症状固定に至るまで治療を続けることが必要です。
治療の必要がなく、終了となれば治療費や慰謝料などの損害が確定することになるためです。
治療期間やその間の通院の頻度などは、医師と相談しながら決めていくべきでしょう。
月1回しか通院していないなど治療の頻度が極端に低いために治療の必要性を疑われたり、反対に症状が軽いのに毎日通院してしまって過剰診療を疑われたりすると、治療費の一括対応が打ち切られたり傷害(入通院)慰謝料が減額されたりするなど、保険金支払の拒否につながる可能性があります。
医師の指示に従って治療に専念し、何か疑問に思うことがあれば早めに弁護士に相談しておくようにしましょう。
むちうちの治療の期間や通院頻度の目安については、以下の記事も参考になります。
(2)症状固定の場合は後遺障害等級の認定申請を検討する
治療を継続したものの、完治せずに症状固定となってしまった場合には、後遺障害等級認定の申請を検討しましょう。
後遺障害等級の認定申請を行う際には、医師が作成する後遺障害診断書が必要です。
そのため、症状固定の診断がされた場合には、後遺障害診断書の作成を依頼しましょう。
なお、この後遺障害診断書は専用の書式があり、加害者側の任意保険会社や自賠責保険会社からもらうことが可能です。
後遺障害診断書を作成してもらう際は、その記載事項に気を付けないと、本来等級認定を受けられるはずが非該当になってしまうという事態になってしまうこともあります。
後遺障害診断書の記載項目や作成してもらうための注意点については、以下の記事で詳しく解説しています。
また、後遺障害等級の認定申請の流れや注意点などについては、以下の記事もあわせてご覧ください。
(3)加害者側の保険会社と示談交渉を行う
むちうちの症状が完治して一括対応が終了した場合、それから1~2か月程度で加害者側の保険会社から示談案が提示されることが多いです。
また、後遺障害等級の認定申請を行った場合には、認定結果が出てから示談案が提示されます。
保険会社が提示する示談案では、任意保険基準によって保険金が算出されており、裁判所基準で算出した金額と比較すると、その額は十分なものではないケースがほとんどです。
また、被害者に発生している損害項目に抜けや漏れがある場合もないわけではありません。
この場合には、損害の発生を被害者が主張・立証しなければなりません。
しかし、損害の主張・立証について被害者自身が行うには困難が伴う場合が多いです。
そのため、加害者側の保険会社との交渉に不安や悩みがある場合には、まずは弁護士に相談することが重要です。
弁護士に相談し見通しを確認した上で示談交渉を依頼すれば、保険会社との交渉に関する負担を軽減することにもつながります。
(4)示談の成立・示談金(保険金)の入金
加害者側の保険会社と交渉を行い、示談が成立した場合には、その内容を証明するための書面を作成します。
多くの場合は、保険会社が作成する免責証書に被害者が署名押印することになります。
署名押印した免責証書を保険会社に送付した後、1~2週間程度で示談によって取り決めた金額が被害者に支払われます。
示談に関する書面に記載される項目や作成・取り交わしに関する注意点などについては、以下の記事も参考になります。
3.十分な金額の保険金の支払を受けるための注意点

交通事故に遭い、むちうちの怪我を負った場合には、加害者側の保険会社からさまざまな損害について賠償を受けることが可能です。
しかし、十分な額の保険金の支払を受けるためには、以下のようなポイントに注意する必要があります。
- 定期的に医師の診察を受ける
- 一括対応の打ち切りに対して治療終了するかどうかはしっかり検討する
- なるべく早期に弁護士に相談する
順にご説明します。
(1)定期的に医師の診察を受ける
むちうちの治療について、開院時間の都合などにより、整骨院・接骨院での施術を受ける人もいます。
しかし、整骨院・接骨院で施術を行う柔道整復師は医師ではなく、怪我の診察を行うことはできません。
一方で交通事故によって怪我が生じたことが認められるには、医師の診察を受けることが必要となります。
そのため、交通事故によって怪我をした場合には速やかに整形外科等で専門医の診察を受け、その後も月に1回は通院を続ける必要があります。
また、整骨院・接骨院を併用する場合には、医師の同意を得ていなければなりません。
むちうちの怪我を負った場合に整形外科を受診すべき理由や治療のポイントについては、以下の記事もご覧ください。
(2)一括対応の打ち切りに対して治療終了するかどうかはしっかり検討する
先に触れたとおり、交通事故によって発生した怪我の治療費は、一括対応が行われることが一般的です。
むちうちの場合には、治療期間が3か月を経過した頃から一括対応の打ち切りを打診されることがあります。
一括対応の打ち切りは、あくまで保険会社がサービス的に行っている支払の終了に過ぎず、症状の程度によってはその後も治療を続けた方がよいこともあります。
特に、症状が強く、後遺障害等級の認定を受けられる可能性がある場合、そのためには6か月程度は治療を受ける必要があるといわれていますので、そこで治療をやめてしまうと認定の可能性をなくすことになってしまいます。
加害者側の保険会社から打ち切りの打診があった場合でも、そのまま治療をやめるべきではないこともあるのです。
まずは、一括対応の延長について交渉し、一括対応を打ち切られたとしても、健康保険または労災を利用しながら治療を続けることを検討する必要があります。
判断が難しい場合には、この時点で弁護士に相談するのもよいでしょう。
保険会社からの一括対応の打ち切りに応じてしまうリスクや打ち切りを打診されないための注意点については、以下の記事も参考になります。
(3)なるべく早期に弁護士に相談する
交通事故によってむちうちの怪我を負った場合に十分な金額の賠償を受けるためには、上記のように、通院先や一括対応の打ち切りに対する対応など、治療の段階からさまざまな点に注意する必要があります。
損害賠償の金額に影響する問題に適切に対処するためには、法的な専門知識や経験が必要であり、不慣れな被害者自身が対応すると本来であれば受け取ることができたはずの賠償を受けられないリスクが高まります。
そのため、どのような点に注意すべきか分からない、何か気になる点があるという場合には、なるべく早期に弁護士に相談することが重要です。
治療を開始した後の早い段階で弁護士に相談することで、傷害(入通院)慰謝料を減額されないための治療に関するアドバイスや今後の対応の流れについて説明を受けることができます。
また、弁護士に依頼することで後遺障害等級の認定申請や示談交渉を一任することもでき、手続に関する負担を軽減することにもつながります。
交通事故の対応を弁護士に相談・依頼するメリットや相談すべきタイミングなどについては、以下の記事で詳しく解説しています。
まとめ
本記事では、交通事故によってむちうち症状が生じた場合に請求できる保険金の項目について解説しました。
むちうちは完治することが多いものの、症状が重い場合には治りきらずに痛みや痺れなどの症状が残ってしまうこともあります。
そのような場合には、後遺障害等級の認定を受けることにより後遺障害についての保険金を請求することが可能です。
後遺障害等級の認定の場合のみならず、治療期間や通院頻度などが重要な意味を持つため、治療の段階から注意すべき点はいろいろあります。
交通事故によるむちうちの治療や加害者側の保険会社への対応に不安や悩みがある場合には、まずは弁護士に相談することがおすすめです。
弁護士法人みずきでは、交通事故に関する相談を無料で受け付けておりますので、むちうちの治療や保険金の請求などでお悩みの方はお気軽にご相談ください。
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執筆者 野沢 大樹 弁護士
所属 栃木県弁護士会
私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。















