交通事故で労災保険は使える?労災を使うメリット・デメリット

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

「通勤中に交通事故に巻き込まれたら労災を使えるの?」
「交通事故で労災を使うメリットはあるの?」

交通事故の被害に遭い、労災保険を使うことができるのか気になる方も多いのではないでしょうか。

通勤中や仕事中の交通事故なら労災保険を使えます。

また、加害者が加入している自賠責保険・任意保険との併用もできます。

この記事では、交通事故で労災保険を使うメリットや注意点、労災保険を使う際の手続方法についてご説明します。

1.交通事故で労災保険は使える?

1.交通事故で労災保険は使える?

交通事故でも「通勤災害」または「業務災害」に該当する場合は労災保険を使えます。

どのようなケースが「通勤災害」または「業務災害」に該当するのか、詳しく見ていきましょう。

(1)通勤災害に該当するケース

「通勤災害」の対象となるのは、合理的な経路と方法で通勤している時に起きた事故です。

合理的な経路・合理的な方法について、それぞれ具体的にご説明します。

#1:合理的な経路での通勤

まず、「合理的な経路」というのは、住居と就業場所を往復するにあたって一般に労働者が用いる経路です。

通勤のために通常利用する経路であれば、経路が複数あったとしても、それらはいずれも合理的な経路と言えます。

また、マイカー通勤などで交通事情により迂回した経路をとった場合など、通勤のために止むを得ずとる経路も合理的な経路といえます。

さらに、通勤中に日用品の購入のためにスーパーやコンビニに立ち寄ったり、病院で診察を受けたりするなどの日常生活上必要な行為をし、その後通勤経路に戻っていれば「通勤災害」と認められる場合があります。

#2:合理的な方法での通勤

次に、「合理的な方法」というのは、公共交通機関、自動車、自転車、徒歩など、一般に合理的な方法を指します。

注目すべき点は、勤務先に届け出ている方法でなくとも一般に合理的な方法であれば通勤災害に該当する点です。

普段と違う経路や普段と違う通勤手段を使ったときに交通事故に遭ってしまい、労災保険を使えるかどうかの判断を巡って勤務先と話がすれ違ってしまうというケースは少なくありません。

(2)業務災害に該当するケース

「業務災害」の対象となるのは、業務時間中に起きた事故です。

業務中だけでなく、業務時間内の休憩中も含まれますが、業務との間に因果関係がなければ対象となりません。

出張の場合は、出張過程全般が業務行為とされますが、積極的な私用・私的行為・恣意的行為で起きた事故は例外です。

たとえば、出張中の空き時間で出張経路を離れ観光地に行ったり、友人宅へ行ったりした際の事故は「業務災害」とはなりません。

2.労災保険の給付内容とは

2.労災保険の給付内容とは

交通事故の加害者の任意保険を使える場合、労災保険を使った方が良いのか、メリットはどういったものかと悩まれる方も少なくありません。

そもそも制度としては労災保険は被害を受けたことに対する補償を目的としている一方、任意保険は被害者や物損に対する賠償を目的としているため、事故態様によりそれぞれの保険に請求できる金額が異なります。

労災保険による保険給付は以下7種類の項目があります。

保険給付の種類 詳細
療養補償給付(療養給付) 怪我をして療養を必要とする場合、治療費や薬剤費などを支給。
休業補償給付(休業給付) 労働ができず、賃金が減額または賃金の支払いを受けられない場合に、休業4日目を起算点として給付基礎日額の60%を支給。
傷病補償年金(傷病年金) 療養開始から1年6か月経過しても怪我が治らない場合、休業補償から切り替わる形で傷病等級に応じた金額を支給。
障害補償給付(障害給付) 一定の障害が残った場合に、障害等級に応じた金額を支給。
介護補償給付(介護給付) 障害等級・傷害等級における第1級のすべて、または第2級のうち「精神神経・胸腹部臓器の障害」を負い、介護を要する場合に、限度額の範囲内で支給。
遺族補償給付(遺族給付) 被害者が死亡した場合、遺族に対して年金または一時金を支給。
葬祭料(葬祭給付) 被害者が死亡した場合、葬祭をおこなう者に対して「31万5000円+被害者の事故前の平均賃金30日分」または「被害者の事故前の平均賃金60日分」のいずれか高いほうを支給。

労災保険の給付内容は、自賠責保険・任意保険と重複する費目があります。

たとえば、労災保険の療養補償給付は、自賠責保険の治療関係費にあたります。

重複している項目については、二重取りができないことに注意しましょう。

3.交通事故で労災保険を使うメリット

3.交通事故で労災保険を使うメリット

前述のとおり、必ずしも労災保険の給付がメリットと言えるかは事故態様に左右されますが、メリットがある場合、労災保険を任意保険と併用して使うべきと言えます。

ここからは、交通事故で労災保険を使う3つのメリットについて詳しく見ていきましょう。

(1)特別支給金がある

労災保険を使うメリットの1つ目は、「特別給付金」が労災保険に上乗せされることです。

特別支給金には、大きく分けて以下4種類の項目があります。

4種類の特別支給金

  • 休業補償給付
  • 障害補償給付
  • 遺族補償給付
  • 傷病補償年金

たとえば、休業補償給付の場合、労災保険では休業4日目以降、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額の給付が受けられます。

さらに特別給付金として休業4日目以降、休業1日につき給付基礎日額の20%相当額の給付が加算されるのです。

労災保険と加害者の自賠責保険を併用する場合、双方で重複する補償事項については二重に受給できず、すでに支払われた補償事項は控除されます。

しかし、労災保険独自の補償である特別支給金は控除されることがないため、特別給付金の分だけ被害者が受け取れる金額が増えるというわけです。

(2)補償金額の上限がない

労災保険を使うメリットの2つ目は、補償金額に上限がないことです。

自賠責保険では治療費や慰謝料など、傷害に対する補償の限度額が120万円とされています。

120万円を超える場合は加害者の任意保険会社が負担しなければならないため、治療が長引くと治療費の打ち切りを打診してきて、被害者が不安を感じる場合があります。

しかし、労災保険には限度がなく、自由診療も含めて治療費全額を保険で賄えるので安心して治療に専念できます。

(3)過失相殺されない

労災保険を使うメリットの3つ目は、過失相殺がされないことです。

任意保険を使う場合、交通事故の被害者に過失が認められた際には、過失割合の分だけ加害者側から支払われる損害賠償金が減額されてしまいます(過失相殺)。

被害者に過失があった場合でも、労災保険を使うと過失部分について治療費を自己負担する必要がありません。

被害者に過失割合が付いたとしても、過失相殺されないのはとても有難いです。

4.交通事故で労災保険を使う注意点

4.交通事故で労災保険を使う注意点

交通事故で労災保険を使うと被害者には大きなメリットがありますが、3つの注意点もあることを把握しておきましょう。

労災保険を使うにあたって、これからご紹介する注意点をしっかり確認しておいてください。

(1)示談成立後は労災の給付が停止する

示談が成立すると労災保険の給付は停止するため、その時点で未請求のものがあっても給付を受けられません。

そのため、示談のタイミングに注意しなければなりません。

もし示談をする場合は、事前に示談する旨を労基署へ申告する必要があります。

(2)自賠責保険と重複する補償の二重取りはできない

労災保険と自賠責保険には重複する補償内容がありますが、そのような補償については二重取りで支給を受けることはできず、支給調整が行われます。

重複する補償内容がある場合、労災保険と自賠責保険のどちらから支給を受けるのがよいかを見極め、被害者本人が選択する必要があります。

もし二重取りをした場合、返還を求められる可能性があるので注意しましょう。

(3)労災保険と健康保険の併用はできない

交通事故の怪我の治療で健康保険を使うことはできますが、健康保険と労災保険との併用はできません。

労災保険が使える場合は、健康保険ではなく必ず労災保険を使う必要があります。

誤って健康保険を使ってしまった場合は、病院にその旨を伝え、健康保険から労災保険への切り替えをしましょう。

5.交通事故で労災保険を使う際の手続方法

5.交通事故で労災保険を使う際の手続方法

交通事故で労災保険を使う際の手続の流れは以下のとおりです。

労災保険を使う手続の流れ

  1. 勤務先に交通事故が発生した旨を報告
  2. 勤務先が労働基準監督署長宛に必要書類を提出
  3. 労働基準監督署による調査
  4. 保険金の給付

勤務先の担当者に交通事故の報告をして、病院でも労災保険を使用する旨を伝えておかなければなりません。

通院する病院が労災指定医療機関の場合は、給付請求書を提出すると労災保険から給付を受け取ることができます。

一方、労災非指定医療機関の場合は、労災保険から直接の給付を受けられないため、自身が窓口で一時的に全額を支払い、事後的に労災保険を請求することになります。

一般的に、労災保険の請求手続は勤務先の担当者が行ってくれるケースが多いです。

もし勤務先が労災保険の申請に応じない場合には、必ず弁護士に相談のうえ自身で労災申請手続を行いましょう。

まとめ

通勤中や仕事中の交通事故は、労災保険を使うことができます。

労災保険と任意保険は併用可能ですが、重複する補償事項については二重取りができないと把握しておきましょう。

交通事故で労災保険を使うメリットは、特別支給金が支給される、過失割合がついた際も治療費を負担せずに済むことなどが挙げられます。

一方、示談後は労災保険を使えない、健康保険との併用ができないなどの注意点もあることを把握しておくことが大切です。

自賠責保険と労災保険のどっちを優先して使うべきか悩んだり、示談を求められたりした場合は必ず弁護士に相談しましょう。

弁護士は最適な方法を提案し、労災保険の請求手続をサポートすることも可能ですので、安心して治療に専念できるようになります。

交通事故でこんなお悩みはありませんか?

交通事故に遭ってしまったけど、
保険会社・相手方とどんな風に対応
すればいいのかわからない・・・

後遺症があるためきちんと賠償を
受けたいけど、後遺障害認定申請や
示談交渉などさっぱりわからない・・・

  • ✓ 事故発生直後からのご相談・ご依頼に対応しています。どの段階の方でも安心してご相談いただけます。
  • ✓ 治療中のアドバイスから後遺障害認定申請、その後の示談交渉や訴訟対応までサポートいたします。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。