後遺障害等級は誰が決める?手続の流れや適切な等級に認定されるためのポイント
執筆者 野沢 大樹 弁護士
所属 栃木県弁護士会
私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。
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「後遺障害等級の認定は誰がするのか」
「後遺障害等級の認定はどんな流れで受けるのか」
交通事故によって負った怪我がなかなか治らないため、その症状が後遺障害となるのかどうかといった疑問をお持ちの方もいると思います。
後遺障害等級とは、交通事故後に残った後遺症を分類したもので、後遺症についての損害賠償請求を行う際に重要な意味を持つものです。
具体的には、後遺障害等級の認定を受けられると、後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益の2つの損害項目の請求が認められるようになります。
しかし、後遺障害として認定されるためには、審査機関への認定申請手続を行わなければなりません。
本記事では、後遺障害等級の認定を行う主体や手続の流れ、適切な等級に認定されるためのポイントなどについて解説します。
これから後遺障害等級の認定申請を行うことを検討されている方の参考となれば幸いです。
- 後遺障害等級は、損害保険料率算出機構という第三者機関が審査・認定を行う
- 認定申請の手続には事前認定と被害者請求の2つがあり、それぞれにメリット・デメリットがあることから、どちらの方法で申請を行うかは慎重に検討する必要がある
- 弁護士に後遺障害等級について相談することで、等級に認定される可能性の有無、後遺障害診断書のチェック、認定手続のサポートなどを受けることができる
1.後遺障害等級の認定を行う主体

後遺障害等級は、「損害保険料率算出機構」という第三者機関が認定機関となっています。
損害保険料率算出機構は非営利の民間団体であり、損害の認定に関する業務を行っている組織です。
その業務のうち、特に自賠責保険からの保険金支払のための調査は、交通事故の被害者が円滑に損害賠償を受ける支えとなっており、後遺障害等級認定手続もその一環です。
後遺障害等級の認定申請を受理した損害保険料率算出機構は、下部組織である自賠責損害調査事務所に書類や資料を送付し、調査させるのが一般的です。
そのため、実際のところは、ほとんどのケースで自賠責損害調査事務所が認定を行っています。
後遺障害等級認定の審査は、後遺障害の認定を受けようとする人が提出した資料をもとにして、治療の経過や残存している症状の内容・程度を調査することによって行われます。
この審査の際には、各事務所の顧問医の意見などももとにしながら、具体的な後遺障害等級が決められることとなります。
後遺障害等級は14の等級、35の系列に分かれており、その等級は後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益の金額に影響を及ぼします。
等級が1つ異なるだけで金額が数百万円変わることもあるため、症状に対応した等級の認定を受けることが重要になります。
また、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益請求が認められるには、ほとんどの場合、後遺障害等級認定があることが前提となります。
申請を行わなかったり、申請を行ったものの非該当となってしまったりすると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益の請求が認められなくなってしまいます。
後遺障害等級ごとの後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益の金額については、以下の記事が参考になります。
また、後遺障害等級に該当しないこととなった場合でも受け取ることができる損害項目については、以下の記事で詳しく解説しています。
2.後遺障害等級の認定申請の流れ

後遺障害等級の認定を受けるためには、申請手続が必要になります。
申請手続は、以下の流れで進めることになります。
- 医師から症状固定の診断を受ける
- 後遺障害診断書を作成してもらう
- 後遺障害等級の認定申請を行う
- 認定結果が通知される
- 認定結果をもとに示談交渉を行う
順にご説明します。
(1)医師から症状固定の診断を受ける
後遺障害等級の認定申請を行うためには、医師から症状固定の診断を受けることが必要です。
症状固定とは、一定期間にわたって治療を継続したものの、症状が一進一退となり、それ以上治療を続けても改善しない状態をいいます。
この時点で残存している症状を後遺症といい、この後遺症が後遺障害の認定の対象となります。
そのため、後遺症が残らずに完治した場合や改善の見込みがあって症状固定となっていない場合には、申請手続を行うことができません。
症状固定の概念や損害賠償における意義については、以下の記事で詳しく解説しています。
(2)後遺障害診断書を作成してもらう
症状固定となった後には、医師に後遺障害診断書という書類を作成してもらう必要があります。
後述のとおり、後遺障害等級の認定申請には2つの方式がありますが、いずれの方法でも後遺障害診断書が必要です。
後遺障害診断書は、残存している症状を記載する書類であり、医師のみが作成することができます。
具体的には以下のような項目が記載されることになります。
- 受傷日時
- 症状固定日
- 入通院期間
- 傷病名
- 既往症の有無
- 自覚症状
- 他覚所見および検査結果
- 各関節の可動域
- 緩解の見通し など
後遺障害等級は、後遺障害診断書をはじめとする書類審査が基本であるため、後遺障害診断書の記載内容は等級認定の結果を左右する重要なものです。
後遺障害診断書の記載項目や作成してもらう際の注意点については、以下の記事もあわせてご覧ください。
(3)後遺障害等級の認定申請を行う
医師に後遺障害診断書を作成してもらった後は、認定申請の手続に進みましょう。
申請手続には、以下の2つの方法があります。
- 事前認定
- 被害者請求
それぞれの申請方法にはメリット・デメリットの違いがあるため、どちらの方法で申請を行うかは慎重に検討しましょう。
#1:事前認定
事前認定は、被害者が加害者側の任意保険会社に対して後遺障害診断書を提出するのみで、そのほかの書類や資料の収集・提出は加害者側の任意保険会社が行う、という申請方法です。
被害者は後遺障害診断書を作成してもらい、これを提出するだけで申請できるため、手続に関する負担が小さいことがメリットです。
しかし、後遺障害診断書以外の書類については、すべて加害者側の保険会社が作成・提出を行うため、被害者があらかじめその書類の確認・訂正を求めることはできなくなっています。
内容に不足があっても訂正をすることができず、本来認定される可能性のある等級の認定がされなかったり、非該当となったりするリスクがあります。
この点は事前認定の大きなデメリットといえるでしょう。
事前認定の手続の流れや注意点などについては、以下の記事も参考になります。
#2:被害者請求
被害者請求は、窓口となる加害者側の自賠責保険会社に対し、後遺障害診断書を含む申請に必要なすべての書類を被害者自身で集めて提出する申請方法です。
この場合に、被害者が提出しなければならない書類は以下のようなものになります。
- 後遺障害診断書
- 交通事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 自賠責様式の診断書・診療報酬明細書
- レントゲン・CT・MRI検査画像 など
事前認定と比較して、このような書類収集の負担がある点がデメリットといえます。
しかしながら、一方で、書類被害者自身で集めるということは、その内容を確認できるということになります。
したがって、被害者側で書類の不備等に気が付くことができれば、その不備を修正し、本来認定されるべき等級認定を受ける確率を高めることができるようになります。
このように、被害者自身が主導して手続を行えることは一つのメリットといえます。
また、被害者請求によって後遺障害等級の認定を受けた場合には、自賠責保険から、保険金として、後遺障害等級ごとに決められた金額を、加害者側との示談交渉を行う前に受け取ることができる点もメリットです。
被害者請求の流れや必要書類などについては、以下の記事もあわせてご覧ください。
(4)認定結果が通知される
後遺障害等級の認定申請を行った後、結果が出るまでには2か月前後の時間がかかります。
この期間は、重い後遺症の場合には長期化することもあります。
事前認定によって申請を行った場合には、加害者側の任意保険会社から認定結果が通知されます。
一方、被害者請求による申請を行った場合には、加害者側の自賠責保険会社から通知が行われます。
認定に時間がかかる主な理由や対処法については、以下の記事も参考になります。
(5)認定結果をもとに示談交渉を行う
認定結果が通知されたら、その結果をもとに加害者側と示談交渉を行います。
加害者側、特に保険会社は、できるかぎり低い金額で示談しようとすることが多いです。
請求が認められる可能性のある金額よりも低い金額が提示されている可能性もあるため、気になる部分や疑問点があれば、弁護士に相談することがおすすめです。
3.適切な等級に認定されるためのポイント

後遺障害等級の認定を受けることで、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益の請求が認められるようになります。
そのため、後遺症に対する賠償を受けるためには、その症状に応じた等級に認定されることが最も重要です。
適切な等級に認定されるために重要なのは、以下のような点です。
- 症状固定に至るまで適切な期間・頻度で治療を行う
- 医師に自覚症状を正確に伝える
- 症状を客観的に証明・説明するための画像検査などを受ける
- 被害者請求による申請を行う
- 認定結果に不服がある場合には異議申立てを行う
順に解説します。
(1)症状固定に至るまで適切な期間・頻度で治療を行う
症状固定に至るまで適切な期間・頻度で治療を行うことが大切です。
等級の認定について審査が行われる際には、症状の内容や程度はもちろん、治療の経過についても重要視されています。
まず、治療期間については、ほとんどの場合、6か月以上の期間が必要とされています。
事故から6か月を経過せずに治療が終了した場合、後遺症としてその後も残存するものではないと判断されやすくなるためです。
また、治療の頻度や通院の回数について、例えばむちうちの場合に週1回程度でしか通院していない場合には、症状が軽いと判断されて、等級認定を受けられない確率が高まります。
むちうちの場合で後遺障害等級認定の確率を高めるには、週に3回程度は通院しておいた方がよいでしょう。
このように、通院の期間や頻度は後遺障害等級認定に影響を与えますので、気を付ける必要があります。
交通事故によるむちうちの治療や後遺障害等級の認定に関する注意点については、以下の記事で詳しく解説しています。
(2)医師に自覚症状を正確に伝える
医師に自覚症状を正確に伝えることも大切です。
すでに述べたように、後遺障害等級の認定に際しては、医師が作成する後遺障害診断書の記載内容が重要なものとなります。
自覚症状については、症状が常時現れていることが等級認定を受けるためには必要といわれています。
具体的には、痛みなどの症状が天候や気温などの条件に左右されずに現れていることが後遺障害の認定を受けるためには重要です。
実際の症状がそのようなものであるにもかかわらず、後遺障害診断書にそのことが記載されていないと、そのために非該当となってしまうこともあり得ます。
そのため、自覚症状の内容や現れ方は細かく医師に伝え、作成してもらった後遺障害診断書の書き方が適切であるかについてはしっかり確認すべきです。
後遺障害診断書に記載してもらう自覚症状の伝え方については、以下の記事で詳しく解説しています。
(3)症状を客観的に証明・説明するための画像検査などを受ける
後遺障害等級の認定を受けるためには、自覚症状があるということだけでなく、その症状の根拠となる所見があることにより、残存症状と怪我との関係が医学的に証明・説明されるものである必要があります。
特に、レントゲン検査やMRI検査などの画像検査によって明らかになる画像所見は重要です。
また、むちうちによる神経症状の場合は、神経学的検査の結果も等級認定の根拠となる場合があります。
症状が強く残っている場合には、画像検査等をしてもらうよう、医師に相談するようにしましょう。
(4)被害者請求による申請を行う
後遺障害等級の認定申請は、事前認定ではなく、被害者請求で行うことをおすすめします。
すでに触れたように、事前認定の手続は加害者側の保険会社が主導して行うものであり、被害者は書類の内容を確認したり訂正を求めたりすることができません。
そのため、低い等級に認定されたり非該当となったりするリスクがあります。
被害者請求であれば、手続の手間はかかるものの、書類の内容を確認して必要があれば修正を求めることにより、残存している症状に応じた等級の認定を受ける確率を高めることが可能です。
そのため、後遺障害等級の認定を目指すのであれば、被害者請求の方法で行うことをおすすめします。
もし、書類作成や資料収集に疑問や不安がある場合には、弁護士に相談し、手続を依頼することで、申請手続に関する専門的なアドバイスやサポートを受けることが可能です。
(5)認定結果に不服がある場合には異議申立てを行う
認定結果に不服がある場合は、異議申立てを行いましょう。
異議申立てとは、損害保険料率算出機構による再審査を求める手続のことです。
異議申立てが認められるためには、ただ不服を主張するだけでは足りず、当初の認定結果が誤っていると判断させるための根拠を示す必要があります。
提出した後遺障害診断書に不備があったら修正してもらったり、画像鑑定の結果を追加資料として提出したりするべきでしょう。
異議申立ての方法や具体的な手続の流れについては、以下の記事もご参照ください。
4.後遺障害等級について弁護士に相談・依頼するメリット

これまで説明してきたように、後遺障害等級の認定を受けるためには注意すべき点がいくつもあります。
しかし、実際にそれらの点に気を付けて手続を行うためには、専門知識が必要となることも多いです。
そこで、後遺障害等級の認定について不安や疑問がある場合には、まずは専門家である弁護士に相談することがおすすめです。
弁護士に相談し、手続や交渉を依頼することには、以下のようなメリットがあります。
- 後遺障害等級認定の可能性があるかどうか説明を受けられる
- 後遺障害診断書のチェックを依頼できる
- 申請手続を一任することができる
- 認定された等級をもとに示談交渉を一任できる
順にご説明します。
(1)後遺障害等級認定の可能性があるかどうか説明を受けられる
弁護士に相談することで、ご自身の症状に後遺障害等級認定の可能性があるかどうかについて説明を受けることができます。
症状固定の診断を受けた時点で残存している症状のすべてが後遺障害として認定されるわけではありません。
どのような症状であれば等級認定の可能性があるかについては、専門知識や申請手続の経験がなければ判断することが困難です。
経験のある弁護士に相談することで、後遺障害等級認定の可能性について説明を受けることができるでしょう。
(2)後遺障害診断書のチェックを依頼できる
医師が作成した後遺障害診断書について、等級認定を受けられるような表現になっているかチェックを受けることができる点もメリットです。
経験のある弁護士であれば、等級認定の確率を高めるための表現や書き方についての知識があります。
手続を進める前に弁護士に相談することで、後遺障害診断書の内容面についてチェックを受けることができ、書類の不備によって非該当とされてしまうことを回避することが可能です。
また、記載内容によっては訂正が必要となることもあり、そのような場合には医師に訂正などを依頼することになります。
しかし、どの箇所をどのように訂正する必要があるのかについて、医師に説明をすることが難しい場合もあります。
弁護士に依頼することで、後遺障害診断書の訂正箇所の説明や依頼についても一任することが可能です。
(3)申請手続を一任することができる
後遺障害等級の認定申請手続を一任することができます。
必要となる書類や資料の作成・収集には経験も求められるため、経験のある弁護士に手続を依頼することで、適切な等級に認定される確率を高めることが可能です。
また、非該当となった場合や望んでいた等級に認定されなかった場合にも、弁護士に相談・依頼することで異議申立ての検討・手続を進めることができます。
特に異議申立てを行い、適切な等級に認定されるためには、追加資料の収集・提出が必要となるため、高度な専門知識が求められることになります。
弁護士のサポートを受けながら準備を進めることで、異議申立てを成功させることにもつながります。
(4)認定された等級をもとに示談交渉を一任できる
認定結果をもとに示談交渉を一任することもできます。
すでに触れたように、認定結果が出たあとは加害者側と示談交渉をすることになります。
加害者側の保険会社は、受け取れる可能性のある金額よりも低い金額を提示してくることが多く、保険会社が提案してきた内容で合意してしまうと十分な賠償を受けることができない可能性があります。
弁護士であれば、加害者側の保険会社の提示額や主張の内容について反論の余地があるかどうか判断をすることができます。
弁護士に交渉を依頼することにより、示談金の増額も期待できます。
まとめ
後遺障害等級は、損害保険料率算出機構という第三者機関が審査・認定を行います。
認定手続を始めるには、申請を行う必要があります。
申請方法は2つありますが、等級認定の可能性を高めるためにも、被害者請求による申請を行うことを検討しましょう。
もっとも、申請の際にはいくつか注意しなければならない点があるため、症状固定の診断を受けた時点でまずは弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士法人みずきでは、交通事故に関する相談を無料で受け付けておりますので、後遺障害等級の認定申請に関して疑問や不安をお持ちの方はお気軽にご相談ください。
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執筆者 野沢 大樹 弁護士
所属 栃木県弁護士会
私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。














