逸失利益とは?概要や算定方法などを弁護士が解説
「逸失利益とは何?」
「具体的な計算方法について知りたい」
「適切な金額を請求して受け取るためにはどんなことに注意すればいい?」
交通事故に遭い、怪我を負った方の中には、逸失利益についてこのような疑問をお持ちの方もいるかと思います。
逸失利益は、交通事故を原因とする怪我などによって将来の収入が減少する場合にこれを補填するものです。
実際に発生している損害ではなく将来発生するであろう損害なので、適切な金額を受け取るためには押さえるべきポイントがいくつかあります。
本記事では、逸失利益の概要や算定方法、逸失利益が認められない場合と対処法などについて解説します。
また、弁護士に相談することのメリットについても解説しますので、交通事故の被害に遭われた方の参考となれば幸いです。
1.逸失利益の概要
逸失利益は、交通事故による賠償金の損害項目の1つです。
将来発生するであろう損害を計算する必要があるため、他の損害項目と比べると金額の争いになることも少なくありません。
以下では逸失利益の概要や種類、休業損害の違いについて解説します。
なお、逸失利益以外の主な損害項目については、以下の記事でも解説していますので、合わせてご参照ください。
(1)逸失利益とは
逸失利益とは、交通事故がなければ将来得ることができただろう収入を指します。
交通事故によって怪我が生じ、後遺障害が残った場合、交通事故に遭う前と比べると、労働能力に影響が生じてしまいます。
死亡した場合は、そもそも事故後に収入を得ることはできなくなります。
このように、本来得られたはずの将来の収入(利益)が事故によって無くなってしまった(逸失した)ものを、逸失利益といいます。
なお、被害者が亡くなってしまった場合には、被害者の相続人が加害者側に対して請求を行うことになります。
死亡事故の際に被害者家族ができることや法的対応の注意点については、以下の記事もご覧ください。
(2)逸失利益の種類
上記でも説明したように、逸失利益は将来得ることができたはずの収入を補填するものです。
収入は労働の対価として得られるものであることから、交通事故によって被害者が労働能力を喪失した場合にのみ認められます。
被害者が労働能力を喪失するのは、主に後遺障害が残ってしまった場合と亡くなってしまった場合が考えられます。
それぞれ原因によって「後遺障害逸失利益」と「死亡逸失利益」と呼ばれ、少し計算方法が異なります。
以下では、それぞれの内容について、具体的にご説明します。
また、以下の記事でも解説しておりますので、合わせてご参照ください。
#1:後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、交通事故によって後遺障害が生じた場合の逸失利益です。
交通事故によって後遺障害を負ってしまうと、その障害の内容や程度によって労働が制限されたり、できなくなったりすることがあります。
例えば、タクシーの運転手が交通事故に遭い、足や腰を骨折して後遺症が残ってしまった場合には、以前のように長時間の運転ができなくなってしまうかもしれません。
その結果、休憩時間が増えたり、長距離のお客さんを断ったりして、収入が減ってしまうかもしれません。
このように、後遺症が残ったことによって収入が減少した場合にその減少した収入について請求することができるのが後遺障害逸失利益です。
もっとも、どのような後遺症でもよいわけではなく、その後遺症について後遺障害等級の認定を受けることが前提となります。
後遺障害等級には1~14級までの等級があり、どの等級に認定されるかによって受け取ることができる後遺障害逸失利益の金額が変動します。
等級が1つ異なるだけで受け取ることができる金額に数百万円の差が生じることもあるため、後遺症の内容や程度に応じた適切な等級の認定を受けることが重要です。
後遺障害等級と逸失利益の関係については、以下の記事でも詳しく解説していますので、合わせてご参照ください。
#2:死亡逸失利益
死亡逸失利益は、交通事故によって被害者が亡くなられた場合の逸失利益です。
交通事故によって亡くなってしまうと、当然その後の収入が絶たれます。
その分についての補償が死亡逸失利益です。
後遺障害逸失利益の場合とは異なり、被害者が亡くなられているため、死亡逸失利益を受け取るのはその相続人ということになります。
そのため、被害者が亡くなられた場合には、誰が請求権を持っているのか、相続関係を明らかにする必要があることに注意が必要です。
なお、死亡事故の場合に示談交渉を弁護士に依頼すべき理由やメリットについては、こちらの記事も合わせてご覧ください。
(3)休業損害との違い
休業損害とは、交通事故によって仕事を休まなければならなくなったことによって生じる収入の減少を補償するものです。
いずれも収入の補填を目的とするものですから、似たような意味を持つ損害項目と言えます。
休業損害と逸失利益の違いは、主に補償される期間にあります。
具体的には、以下のとおりです。
休業損害 | 症状固定前に生じた収入の減少を補償する |
逸失利益 | 症状固定後に発生するだろう収入の減少を補償する |
症状固定とは、治療を一定期間継続した後に症状が一進一退となり、これ以上治療を継続してもよくならない状態を指します。
交通事故の損害賠償は、原則として治療期間に発生したものとされています。
症状固定となった場合、治療の効果が出ていない以上、それ以上治療する必要がないため、その時点で治療は終了となります。
そうすると、例え症状固定後にお仕事を休んだとしても、休業損害としては補償されません。
しかし、後遺障害が残存しているという認定が受けられれば、客観的に完治していない状況であると判断されることになるため、症状固定後に発生する損害について賠償の対象とすることができるのです。
症状固定の意義やその後の対応の流れなどについては、以下の記事もご参照ください。
また、逸失利益とほかの損害項目の違いについては、以下の記事も参考になります。
2.後遺障害逸失利益の計算方法
後遺障害逸失利益は、以下の算定式に基づいて計算します。
- 基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
それぞれの項目について、以下でご説明します。
(1)基礎収入
後遺障害逸失利益を算定する基礎となる収入は、基本的に交通事故の前の1年間の収入が基準です。
もっとも、事故前の収入を基礎とすることが相当でない場合もあります。
例えば、給与所得者(サラリーマン)であれば交通事故の前年の収入が分かりやすいです。
しかし、例えば被害者がまだ新入社員だった場合、これを基礎として将来の収入を計算していくのは、本当だったら順調に昇給していったかもしれないことを考えるとおかしい気がします。
また、未成年や就職活動中の人は、事故前年は無収入かもしれません。
しかしだからといって基礎収入をゼロとするのはおかしいことになります。
そのため、単純に事故前年の収入を参照すればいいというわけではなく、それぞれの状況に応じた見当が必要となります。
基礎収入の考え方については、以下の記事でも解説していますので、合わせてご参照ください。
(2)労働能力喪失率
労働能力喪失率とは、後遺障害によって労働能力がどの程度低下したかを数値化したものです。
具体的には、後遺障害等級に応じて労働能力喪失率の目安が決まっており、下表のようになります。
しかし、下表の労働能力喪失率はあくまで目安であり、それぞれの個別的事情によって変わることもあります。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35% |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
等級が重くなるほど労働能力喪失率も高くなるため、重篤な後遺障害を負った場合には逸失利益が数千万円となることも珍しくありません。
そのため、適正な後遺障害逸失利益を受け取るためには、後遺症の内容や程度に応じた適切な後遺障害等級に認定されることが重要です。
また、示談交渉では労働能力喪失率について争いになることがあり、等級に応じた喪失率がそのまま認められないこともありえます。
そのような場合には、症状の内容や程度によって、業務にどのような影響が生じているかを具体的に主張・立証していくことが重要です。
もっとも、加害者側の保険会社と交渉を行う際に、どのような主張の展開や証拠となる資料を提出すればよいのかは専門知識がなければ判断が難しい場合がほとんどです。
そのため、適正な労働能力喪失率を認めさせるためには、弁護士に相談・依頼するのが重要と言えるでしょう。
(3)労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
労働能力喪失期間とは、後遺障害によって労働能力に制限が生じる期間のことをいい、原則として、症状固定時の年齢から67歳までの期間をもとに算定されます。
例えば、症状固定時の年齢が30歳だった場合、労働能力喪失期間は、67−30=37年となります。
もっとも、傷害の内容・程度、職業等によっては変動することもあります。
例えば、むち打ちを原因とする神経症状の場合には、相当長期間ずっと症状が続くことは考えづらいことから、5年から10年ほどとされることが多いです。
また、以下のような例外もあります。
属性 | 労働能力喪失期間 |
18歳未満の者 | 18歳から67歳までの年数 |
大学生 | 大学を卒業する時点から67歳までの年数 |
67歳までの期間が短い者 | 67歳までの年数と平均余命の2分の1のうち長い期間 |
67歳以上の者 | 平均余命の2分の1 |
このようにして労働能力喪失期間を算出した後、その期間に対応するライプニッツ係数を乗じることで後遺障害逸失利益の具体的な金額が算出されます。
ライプニッツ係数とは、中間利息を控除するための数値です。
交通事故による賠償金は原則として一括で支払いを受けるため、将来生じるはずの利益を先にすべて受け取ることになり、すぐに運用を行うことができます。
そうすると、毎年収入を得るよりも被害者が多くの利息を得てしまうことになり、過剰な賠償となってしまいます。
そのため、もらいすぎた利息分を中間利息として控除することで金額の調整が行われます。
具体的な数値は、国土交通省のWebサイトで公開されている「就労可能年数に対応するライプニッツ係数」から確認することができます。
3.死亡逸失利益の計算方法
死亡逸失利益は、以下の算定式に基づいて算出されます。
- 基礎収入×(1−生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
それぞれについて、ご説明します。
(1)基礎収入
基礎収入の基本的な考え方は、後遺障害逸失利益の場合と同様です。
死亡逸失利益の場合の特殊性は、被害者の年金収入も基礎収入に含まれる場合があるということです。
後遺障害の場合には、仕事による収入に影響が生じるであり、年金収入が減るということは考えられません。
しかし、死亡の場合には当然年金の支給は停止されることとなりますので、本来であれば将来もらえたはずである年金がもらえなくなってしまいます。
過去の判例では、国民年金や老齢厚生年金について死亡逸失利益の基礎収入として認められたケースがあります。
もっとも、交通事故の被害者が事故当時に受け取っていた遺族年金については死亡逸失利益の基礎収入として認めない判決(最判平成12年11月14日判時1732号78頁)があり、年金の性質などによって取り扱いが異なることに注意が必要です。
このように、年金については基礎収入に含まれるかどうかが争いになる場合があるため、まずは弁護士に相談することがおすすめです。
(2)生活費控除率
生活費控除率とは、収入に対して支出される生活費の割合を指します。
後遺障害の場合と異なり、死亡の場合には今後の生活費が生じなくなります。
そのため、得られなくなった将来の収入の全額を死亡逸失利益とすると、被害者側が受け取る金額が実際の損害額を上回ってしまうため、公平の観点から生活費の分を控除する必要があるのです。
なお、生活費控除率は被害者の立場や属性に応じて、以下のような目安が定められています。
被害者の立場・属性 | 生活費控除率 |
一家の支柱(被扶養者が1人) | 40% |
一家の支柱(被扶養者が2人以上) | 30% |
女性(主婦、独身者、幼児の場合も含む) | 30% |
男性(独身、幼児の場合も含む) | 50% |
もっとも、控除率は個別具体的な事情によって変動するため、正確に評価して算定・請求をするためには弁護士に相談・依頼することが望ましいでしょう。
(3)年数に対応するライプニッツ係数
就労可能年数は、被害者の死亡時点の年齢から67歳になるまでの期間を指します。
基本的には、後遺障害逸失利益の労働能力喪失期間と同様に期間を算出し、それに対応するライプニッツ係数を乗じて死亡逸失利益の算定を行います。
もっとも、年金収入については、平均余命に対応するライプニッツ係数を用いて算定することになります。
4.逸失利益が認められない場合と対処法
交通事故に遭い、怪我などを負った場合にも逸失利益が認められない場合があります。
以下では、逸失利益が認められないケースと対処法について解説します。
また、以下の記事でも解説していますので、合わせてご覧ください。
(1)後遺障害等級の認定を受けていない
後遺障害逸失利益は後遺障害等級の認定を受けることで請求することができます。
そのため、後遺障害逸失利益を受け取るためには、後遺障害等級の認定を受けていることが前提となります。
また、後遺症の内容や程度に応じた適切な等級認定を獲得することが、適正な逸失利益を受け取ることにつながります。
後遺障害等級の認定申請には、事前認定と被害者請求の2つの方法があります。
それぞれの方法の概要やメリット・デメリットについては、以下の記事もご参照ください。
(2)減収が生じていない
後遺障害逸失利益は、後遺障害を負ったことによる収入の減少を補填するものです。
そのため、現実に収入の減少が生じない場合には、後遺障害逸失利益を請求することができません。
具体的には、不動産の賃料収入などの不労所得を得ていた場合や後遺障害を負っても給与に変動がないような場合がこれにあたります。
もっとも、以下のような事情によって収入の減少が生じていない場合には、逸失利益が認められる可能性があります。
- 後遺障害の内容や程度が将来の昇進や昇給に不利益を与える可能性がある
- 後遺障害を負ったことによって従前の業務を行うことに支障が生じている
- 同じ業務に従事しているものの、本人や周囲の努力・配慮によって業務が遂行できている
どのような場合に逸失利益が認められるかは、具体的な主張・立証次第です。
そのため、示談交渉において減収が生じていないという主張がなされても、適切に反論・論証を行うことが重要です。
(3)労働能力が低下していない
後遺障害等級の認定を受けていても、後遺障害の内容や程度が労働能力に影響を及ぼしていないことを理由に逸失利益が認められない場合もあります。
例えば、醜状障害(交通事故による傷跡が残ってしまうこと)が残った場合には、傷跡が残っただけであり、労働能力に影響はないと保険会社から主張される場合があります。
もっとも、モデルなど仕事の内容によっては直接影響が出る場合もあり、そうでなくとも就労の意欲低下や昇進への影響が生じる可能性もあり得ます。
そのため、保険会社からこのような主張をされても鵜呑みにせず、具体的な影響などを主張・立証することが大切です。
5.逸失利益に関して弁護士に相談するメリット
逸失利益は、計算方法や主張・立証の場面で様々な要素を考慮する必要があり、専門知識や実務経験を要することがほとんどです。
そのため、逸失利益の算定や請求に関しては、まずは弁護士に相談することがおすすめです。
弁護士に相談することで、以下のようなメリットがあります。
- 適切な後遺障害等級の認定を受けるためのサポートが受けられる
- 適正な金額の算定・請求ができる
順に見ていきましょう。
(1)適切な後遺障害等級の認定を受けるためのサポートが受けられる
後遺障害逸失利益を受け取るためには、後遺障害等級の認定を受けていることが必要となります。
そのため、症状の内容や程度に応じた適切な後遺障害等級の認定を受けることが重要です。
後遺障害等級は、症状固定の時点で医師が作成する後遺障害診断書の内容に基づいて審査・認定が行われるため、診断書に記載されている内容が非常に重要な意味を持ちます。
もっとも、どのような内容の記載を行うべきかは専門知識や実務経験がなければ判断ができない場合がほとんどです。
交通事故対応に精通している弁護士であれば、適切な後遺障害等級の認定を受けるためのポイントについても熟知しているため、適切な等級認定へ向けた具体的なアドバイスやサポートを受けることが可能です。
なお、後遺障害診断書の記載事項やポイントについては、以下の記事もご参照ください。
(2)適正な金額の算定・請求ができる
逸失利益の算定には様々な要素を考慮する必要があります。
また、保険会社との示談交渉では、労働能力の喪失率などについて争いとなることが多いです。
専門知識や実務経験がなければ、保険会社の主張に対して反論や立証が困難な場合がほとんどです。
弁護士に相談することで、適正な逸失利益の算定・主張を行うことができます。
適切な賠償を獲得するためにも、まずは弁護士に相談・依頼することが最も重要です。
まとめ
本記事では、逸失利益の概要や算定方法、逸失利益が認められない場合の対処法などについて解説しました。
逸失利益は様々な要素を考慮しながら計算する必要があります。そして、場合によっては数千万円にもなることから、示談交渉では争いになる場合が多いです。
また、後遺障害とも密接に関連しており、後遺障害に関する知識も必要になります。
そのため、適正な金額を算定し、請求するためには弁護士に相談することがおすすめです。
弁護士法人みずきでは、これまで多くの交通事故の法的手続に対応してきました。
経験豊富な弁護士が丁寧にお話を伺いますので、適正な逸失利益の請求や示談交渉にお悩みの方はお気軽にご相談ください。
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