従業員をいきなり解雇してはいけない?解雇予告の内容や手続上の注意点について解説

執筆者 金子 周平 弁護士

所属 栃木県弁護士会

法律は堅苦しいという印象はあるかと思います。しかし、そんなイメージに阻まれて、皆さんの問題や不安が解決されないのは残念でなりません。
私は、そんな法律の世界と皆さんを、柔和に橋渡ししたいと思っています。問題解決の第一歩は、相談から始まります。
皆様が勇気を振り絞ってご相談をしていただければ、後は私どもが皆様の緊張や不安を解消できるよう対応し、法的側面からのサポートができればと思います。敷居はバリアフリーです。あなたの不安を解消するために全力でサポート致します。

「従業員を解雇するのに必要な解雇予告ってなに?」
「解雇予告をする場合の手続、方法を知りたい」

事業をしていくにあたっては、何らかの理由で従業員を解雇しなければならないことがあるかと思います。

法律上、使用者は、一定の理由があれば労働者を解雇、つまり一方的に辞めさせることができます。

しかし、解雇ができる一定の理由があったとしても、それだけで直ちに解雇できるというわけではなく、解雇をするには解雇予告というものをする必要があります。

本記事では、解雇予告とはどのようなものか、手続きの際はどのような点に注意すべきかについて解説します。

この記事を読んで、解雇におけるトラブルを回避し、スムーズな解雇手続を行うための一助となれば幸いです。

1.解雇予告の概要

そもそも、解雇予告とはどのようなものなのでしょうか。

解雇予告の内容と、解雇予告が必要な場合、不要な場合について説明します。

(1)解雇予告とは

使用者は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合には、労働者を解雇することができます(労働契約法16条)。

他方、労働者は突然解雇されると収入が途絶え、生活に困窮するおそれがあります。

そこで、労働者が新たな収入源を得るための準備期間を確保できるように設けられたのが解雇予告という制度です。

使用者が労働者を解雇するには、少なくとも30日前までに解雇の予告をしなければならないとされています(労働基準法20条1項本文)。

(2)解雇予告手当の概要と計算方法

先ほど説明したとおり、解雇予告とは労働者が生計を維持するために解雇までの予告期間を設けようという制度です。

もっとも、解雇までの予告期間を設けるかわりに、予告期間分の賃金を支払うことでも労働者の生活は最低限守られるといえます。

そのため、労働基準法は、予告期間分の賃金を支払うことで労働者を解雇することも認めています。

#1:解雇予告手当

使用者は、解雇予告をせず直ちに労働者を解雇する場合、解雇予告手当というものを支払う必要があります(労働基準法20条1項本文)。

また、解雇予告をしたとしても、解雇予告の期間が30日よりも短い場合にも、なお解雇予告手当を支払わなければなりません。

#2:解雇予告手当の計算方法

解雇予告手当の金額は、解雇予告の有無、あるいは解雇予告のタイミングによって変わってきます。

➀解雇予告をしない場合

解雇予告をせず、直ちに解雇をする場合の解雇予告手当の額は、労働者の30日分の平均賃金となります。

②解雇予告期間が30日未満である場合

解雇予告に必要な日数は、1日あたりの平均賃金を支払った日数分だけ短縮することができます(労働基準法20条2項)。

つまり、解雇予告期間が30日よりも短い場合は、30日に満たない日数分の平均賃金を支払うこととなります。

例えば、解雇の20日前に解雇予告をした場合、本来解雇予告期間として必要な30日に対して10日足りませんので、支払うべき解雇予告手当の額は、10日分の平均賃金となるわけです。

#3:平均賃金の計算方法

上記の通り、解雇予告手当を計算する際には平均賃金の計算が必要となります。

平均賃金とは、平均賃金の算定事由が発生した日の直近3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割った金額を言います(労働基準法12条)。

以下、具体的な計算方法を説明していきます。

①「賃金の総額」を計算する

「賃金の総額」とは、解雇日(解雇予告があった場合はその日)の前日から遡って3か月間に支払われた賃金をいいます。

もっとも、賃金締切日がある場合は、解雇日(又は解雇予告の日)の直前の賃金締切日当日から遡って3か月を計算します(労働基準法12条2項)。

例えば、4月15日に即日解雇をしたい場合、給与の締め日が毎月末日締めであれば、直前の賃金締切日は3月31日となります。

そこから3か上って3か月分ということですから、1月から3月までの3か月間の賃金合計額を計算する必要があります。

また、上記3か月の間で、以下に該当する期間中の賃金がある場合は、平均賃金の計算から除外されます(労働基準法12条3項)。

平均賃金の計算から除外される期間

ア 労災のため休業した期間

イ 出産、育児、介護のため休業した期間

ウ 労働者が使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間

エ 試用期間

上記のような例外的な期間が含まれると、正しい賃金の計算ができなくなってしまうので、これらを除外した期間ということになります。

②「総日数」を計算する

「総日数」とは、上記で計算した3か月間の総歴日数をいいます。

勤務日数ではなく、当該期間の全ての日数を計算することとなります。

例えば、1月1日から3月31日までの3か月間の期間の場合、

1月 31日

2月 28日

3月 31日

となり、合計90日間となります。

これがもしもうるう年の場合には、

1月 31日

2月 28日

3月 31日

となり、合計は91日となりますので注意が必要です。

また、上記ア~エの控除期間がある場合には、この期間を差し引いて総日数を計算します。

③(①で計算した金額)÷(②で計算した日数)を計算する

3か月分の給与の合計を、その間の日数で割ることで、日額を算出します。

この計算の結果、割り切れずに1円未満の端数が出てしまう場合は、その端数を切り捨てて計算します。

④平均賃金の最低保障を下回っていないか確認する

原則として③で計算した金額が平均賃金となりますが、賃金が日給制、時間給制又は出来高払制その他の請負制によって支払われている労働者の場合は、平均賃金の最低保障の制度が定められています(労働基準法12条1項但書)。

つまり、通常の月給制の場合には、月ごとの勤務日数に変動があったとしても収入には大きな影響はありません。

しかし、例えば日給制や出来高制の場合、たまたま過去3か月間の勤務日数が少ないという場合には、日額が不当に下がってしまうことになります。

上記の例では、1月に年始休暇があり、その分1月の給与が低くなっている場合、当然平均も下がってしまいます。

そのような状況を避けるため、実際に勤務した日数も加味した計算を最低保証として行うことになります。

以下の計算によって算出された金額の方が高い場合には、その額が平均賃金となります。

(①で計算した金額)÷(解雇又は解雇予告の日の前日から遡って3か月の間に出勤した日数)×0.6

(3)解雇予告を行わなくても良いケース

上記のとおり、原則として解雇予告をする必要がありますが、一定の場合には、解雇予告を行わず直ちに労働者を解雇することができます。

#1:解雇予告手当を事前に支払った場合

上で説明した通り、解雇予告手当として30日分の平均賃金を支払えば、解雇予告を行う必要はありません。

#2:解雇予告除外認定を受けた場合

また、使用者に解雇予告を義務付けることが酷であると認められる場合については、所轄の労働基準監督署長から解雇予告除外認定を受けることができます。

この認定を受けることにより、解雇予告をする義務が免除されます(労働基準法20条1項但書)。

認定の対象となる場合は、大きく分けて2つあります。

1つ目は、天災事変その他のやむを得ない事情があった場合です。

具体的には、以下のような場合が「やむを得ない事由」に該当します。

「やむを得ない事由」に該当するケース

  1. 事業場が火災で焼失した場合(事業主の故意又は重大な過失に基づく場合は除く)
  2. 震災に伴う工事、事業場の倒壊、類焼等により事業の継続が不可能となった場合

また、これらの事由があることに加え、事業の全部又は大部分の継続が不可能であるといえる必要があります。

つまり、近々再開復旧の見込みが明らかな場合などには、解雇予告除外認定を受けられないこととなります。

2つ目は、労働者の責めに帰すべき場合、つまり、労働者側にルール違反などの問題行為があった場合です。

具体的には、以下の場合が認定の対象となります。

労働者の責めに帰すべき場合の具体例

  1. 事業場内における窃盗、横領、傷害等の犯罪行為があった場合
  2. 賭博、風紀の乱れ等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
  3. 経歴を詐称した場合
  4. 他の事業場に転職した場合
  5. 2週間以上の無断欠勤や出勤不良があり、指導を受けても改めない場合

これらに該当する場合には、解雇予告除外認定を受けることで、解雇予告を行わなくとも適法に解雇をすることができます。

#3:一定の期間内の労働契約である場合

さらに、一定の期間内で雇用されている労働者についても、解雇予告は不要とされています(労働基準法21条)。

具体的な期間は次の通りです。

一定の期間内の労働契約の具体例

  1. 日雇いの労働者(1か月を超えて継続雇用された者を除く)
  2. 契約期間が2か月以内の労働者(所定の期間を超えて継続雇用された者を除く)
  3. 4か月以内の季節的業務を行う労働者(所定の期間を超えて継続雇用された者を除く)
  4. 試用期間中の労働者(14日を超えて継続雇用された者を除く)

もっとも、契約時に上記の期間内で雇用されたとしても、結果的に括弧書きの期間に該当することとなった場合には、原則通り解雇予告をしなければならないので注意が必要です。

2.解雇予告を行うまでの流れ

では、具体的にはどのように解雇予告及び解雇予告手当の支給を行っていくべきでしょうか。

(1)解雇予告をする猶予がある場合

解雇までにある程度の時間がある場合には、解雇の30日前までに解雇予告をしましょう。

解雇予告をした当日は予告日数に算入されませんので、3月31日付けで解雇する場合には、遅くとも3月1日に解雇予告をする必要があります。

予告の方法については、法律上特に規定はありません。

しかし、口頭で解雇予告を行ってしまうと、言った言わないのトラブルになりかねません。

そこで、書面で解雇予告通知書を作成し、これを従業員に交付するという形で、解雇予告を行うのがよいでしょう。

(2)解雇予告期間を設けない又は短縮したい場合

解雇したい時期までに時間がない場合は、上記の計算方法に従い、適切な解雇予告手当を支払いましょう。

平均賃金の計算方法で説明した通り、対象となる期間は解雇日(又は解雇予告の日)を含めず、その前日を起算点とします。

前日を起算点とするのを忘れて日数を間違えやすいので注意が必要です。

また、解雇予告手当の支払時期について、解雇予告をしない場合は解雇と同時に、解雇予告をする場合は遅くとも解雇の日までに支払う必要があります。

支払時期が遅れると従業員とのトラブルに発展する可能性があるので、いつまでに支払うべきかを確認しましょう。

3.解雇予告を行わない場合のリスク

(1)解雇の有効性について法的に争われる可能性がある

使用者が解雇予告をせずに労働者を解雇した場合、労働者側は、解雇自体が無効だと主張してくる可能性があります。

解雇予告をせずに行った解雇の効力については、法律上規定がなく、見解が分かれているところです。

過去の最高裁判例では、解雇予告をせずに解雇をしたとしても、解雇の通知後30日を経過するか、通知後に解雇予告手当を支払えば、その時から解雇の効力が発生するとの考え方が示されています。

この判例に従えば、解雇予告をせずに解雇をしたとしても、その後の対応次第では有効に労働者を解雇することができます。

もっとも、使用者の事後対応にかかわらず、労働者が解雇の無効主張を選択できるとの考え方も有力で、実際にこの考え方を前提とした下級審裁判例も存在します。

解雇無効となる可能性が全くないとは言えない上に、仮に解雇が認められるとしても訴訟対応を強いられるのは会社としてはかなりの負担となりますので、できる限り後日の紛争が発生しないような対応をしていくべきです。

(2)罰則の対象となる可能性がある

解雇予告を行わない解雇については、法律上、罰則が課せられています(労働基準法119条1号)。

具体的には、6か月以下の懲役か、30万円以下の罰金を命じられることとなっており、厳しい規制が設けられています。

(3)付加金の支払いを命じられる可能性がある

解雇予告をせずに解雇を行った場合、罰則とは別に、付加金の支払いを迫られる可能性もあります(労働基準法114条)。

これは、裁判所が、労働基準法の規定に従わなかった使用者に対して、労働者の請求により支払いを命じるものです。

具体的には、本来支払うべき解雇予告手当とは別に、それと同額の支払いを命じられることとなります。

つまり、解雇予告を行わないと、実質的に倍額の解雇予告手当の支払いを迫られるリスクがあるのです。

4.解雇予告を行う際のポイント

(1)弁護士に相談する

先ほど説明したとおり、解雇予告を行わなくても良い場合もあります。

しかし、解雇予告が必要かどうか、判断に迷われる場合もあるのではないでしょうか。

仮に解雇予告が不要な可能性があったとしても、争いを避けるために解雇予告を行っておいた方が良いという場合もあります。

そこで、従業員を解雇する前に一度弁護士に相談されることをお勧めします。

(2)解雇予告通知を書面などで交付する

解雇予告は法律上決まった方法があるわけではなく、口頭であったとしても有効です。

しかし、口頭による解雇予告は日時や内容に争いが生じる可能性があります。

適正に解雇予告を行ったことを証明できるよう、口頭ではなく、解雇予告通知書などの書面を作成し、従業員に交付しましょう。

(3)必要な解雇予告手当を支払う

解雇予告を行わず直ちに解雇する場合や、解雇予告の期間が30日よりも短い場合は、必要な分の解雇予告手当を支払いましょう。

そうすることで、解雇自体が無効だとして争われることを防ぎ、罰金や付加金の支払も回避することができます。

まとめ

本記事では、解雇するために必要となる解雇予告の概要や手続の注意点などについて解説しました。

解雇をするには、30日以上前に解雇予告を行う必要があり、これを行わない場合は解雇予告手当を支払うなど、法律に定まった手続きが必要です。

また、適切な対応を行わないと、訴訟を起こされたり、罰金や付加金の支払いを命じられたりするリスクもあるため、まずは専門家である弁護士に一度相談されることをお勧めします。

執筆者 金子 周平 弁護士

所属 栃木県弁護士会

法律は堅苦しいという印象はあるかと思います。しかし、そんなイメージに阻まれて、皆さんの問題や不安が解決されないのは残念でなりません。
私は、そんな法律の世界と皆さんを、柔和に橋渡ししたいと思っています。問題解決の第一歩は、相談から始まります。
皆様が勇気を振り絞ってご相談をしていただければ、後は私どもが皆様の緊張や不安を解消できるよう対応し、法的側面からのサポートができればと思います。敷居はバリアフリーです。あなたの不安を解消するために全力でサポート致します。