従業員にパワハラと訴えられた際に会社が注意すべきポイントとは

執筆者 大塚 慎也 弁護士

所属 第二東京弁護士会

弁護士相談は敷居が高い、そういう風に思われている方も多いかと思います。
しかし、相談を躊躇されて皆様の不安を解消できないことは私にとっては残念でなりません。
私は、柔和に皆様との会話を重ね、解決への道筋を示させていただきます。
是非とも皆様の不安を解消するお手伝いをさせてください。

この記事の内容を動画で解説しております。

あわせてご視聴いただければと思います。

「会社が従業員からパワハラをされたと訴えられる前にできることはないか」
「パワハラをされたと訴えられたらどうなるのか」

パワー・ハラスメント(以下「パワハラ」といいます)を法的紛争の場面で考えた場合、民法上の不法行為や債務不履行(労働契約法上の職場環境配慮義務違反など)責任を負うことがあります。

もっとも、業務遂行上、上司が部下に対して必要な指導をするべきことは当然ですが、気づかずにパワハラを行っている可能性は否定できません。

本記事では、パワハラの概念や会社や上司の方がパワハラに関して注意すべきポイントをご紹介します。

本記事を読むことにより、どのような行為がパワハラに該当するか知り、いわれのないパワハラで訴えられないよう予防する助けになれば幸いです。

1.パワハラについて

そもそもパワハラとは何なのか、どういった場合にパワハラと認定されるのかを確認しましょう。

(1)パワハラとは

パワハラという語は、もともと2000年代初頭から使用された造語であり、そこから社会一般に浸透していった言葉です。

そして、令和2年に改正された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」第30条の2第3項に基づく指針(以下「パワハラ指針」といいます。)の中で、「職場におけるパワー・ハラスメント」は、職場における行為で以下の3つの要素を満たすものという定義が定められました。

<パワハラの要素>

①優越的な関係を背景とした言動
②業務上必要かつ相当な範囲超えたもの
③労働者の就業環境が害されるもの

これら①~③の要素を満たす場合、パワハラに該当する可能性があります。

次に、それぞれの要素について見ていきましょう。

(2)パワハラ指針による3つの定義

♯1:優越的な関係を背景とした言動

「優越的な関係を背景とした言動」とは、当該事業主の業務を遂行するにあたって、パワハラの行為者とされる者に対して抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われる言動を指します。

これには、職務上の地位だけでなく、人間関係・専門的知識などの優越性も含まれます。つまり、上司から部下に対するものに限られません。

先輩・後輩、同僚間、部下から上司に対するいじめ、嫌がらせも何らかの優越性を背景としていれば、これに該当する可能性があります。

♯2:業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」とは、社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上の必要性がない、またはその態様が相当でないものを指します。

この要件は、業務上の指導とパワハラの境目をつけるものです。

例えば、個人の受け取り方によっては、労働者が業務上必要な指示や注意、指導を不満に感じたりする場合はありますが、業務上適正な範囲で行われていれば、パワハラには当たらないと考えられます。

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動の例

・業務上明らかに必要性のない言動
・業務の目的を大きく逸脱した言動
・業務を遂行するための手段として不適切な言動
・当該行為の回数、行為者の数等、その態様は手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動。

この要素の判断にあたっては「当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性」などを考慮することとなります。

♯3:労働者の就業環境が害される

「労働者の就業環境が害される」とは、当該言動により、労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快になったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じることを指します。

この要素の判断にあたっては「平均的な労働者の感じ方」が基準とされ、具体的には、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とするのが適当とされています。

2.パワハラの6類型

パワハラの代表的な類型として以下の6つがあるとされています。

各類型の具体例をご紹介します。

(1)身体的な攻撃(暴行・傷害など)

① 殴打、足蹴りを行う。
② 相手に物を投げつける

(2)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言など)

① 人格を否定するような言動を行う。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む。
② 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う。
③ 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う。
④ 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信する。

(3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外れ・無視)

①自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修をさせたりする。
② 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる。

(4)過大な要求(職務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)

① 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる。
② 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する。
③ 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる。

(5)過少な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じられることや仕事を与えないこと)

① 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる。
② 気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない。

(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

① 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする。
② 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に曝露する。

3.パワハラと訴えられた時の会社の対応の流れ

パワハラなどハラスメントについての訴えが社内であった場合、企業は事実関係を調査する義務があります。

(1)会社が必要な対応

パワハラ被害の相談があった場合、会社に求められている基本的な対応は厚生労働省のパワハラ防止指針に定められています。

① 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること
② 職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を適正に行うこと。
③ 職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うこと。
④ 改めて職場におけるパワーハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること。なお、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講じること。

(2)会社の対応の流れ

パワハラのトラブルがあった場合に会社が行う基本的な対応の流れは以下のようになります。

♯1 会社が調査を開始する

会社は、パワハラの訴えの報告を受けた時には、パワハラが事実かどうかを確認するために、加害者及び被害者にヒアリングを行わなければなりません。

ヒアリングは以下の順序で進めることが必要です。
① 被害者からのヒアリングを行う。
② 被害者の承諾を得たうえで加害者からのヒアリングを行う。
③ 目撃者や関係者がいる場合は、そのヒアリングを行う。
④ 被害者、加害者に対し、双方の言い分が食い違う点について再度ヒアリングを行う。

まず、会社はパワハラを訴えた部下からヒアリングを行い、パワハラと主張する内容や経緯を確認することが通常です。

その後、加害者側の言い分を聴取し、食い違いがあればその部分について再度聴取する必要があります。

また、目撃者や関係者がいる場合、対象者に対するヒアリングを行えば、食い違いがある部分についてハラスメントの事実が認定できるか否かの判断に役立ちます。

♯2 会社がパワハラの有無についての判断する

パワハラの有無を確認する重要な手段の1つとして、部下とのメールのやり取りの調査があります。

パワハラは「言った、言わない」という証拠のない話になることが多いですが、メールはパワハラの事実を証明する客観的な証拠となります。

会社は上述のヒアリング調査やメールの調査なども踏まえて、パワハラの有無を判断することになります。

会社がパワハラを事実と判断した場合は、次に説明するとおり、戒告や減給あるいは降格などの処分をすることにつき検討を要します。

4.パワハラを訴えられたらどうなるのか

パワハラを行ったことが事実である場合、下記のような責任が生じます。

(1)加害者に対する懲戒処分

調査によってパワハラの事実が明らかになった場合、パワハラ行為は、懲戒処分の対象となり得ます。

もっとも、会社が従業員が行ったパワハラに対して懲戒処分を行う場合は、少なくとも就業規則で懲戒事由として定められていなければなりません。

そのため、就業規則に懲戒事由として定められているかの確認は必須です。

懲戒処分には、戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などがありますが、行ったパワハラの程度に応じた処分でなければなりません。

(2)損害賠償責任

♯1:使用者の損害賠償責任

事業主については、被害者と雇用契約を締結しており、この雇用契約に付随して、信義則上、労働者にとって快適な就業ができるように職場環境を整える義務(職場環境配慮義務)を負っています。

そのため、事業主が同義務に違反したため、被害者が職場の中でハラスメントの被害に遭い損害を受けた場合には、事業主は雇用契約上の債務不履行責任、あるいは職場環境配慮義務違反から生じる不法行為責任を負うと考えられますから、被害者に生じた損害を賠償する責任を負います。

また、パワハラの行為者は事業主の被用者ですから、行為者が事業の執行について被害者に不法行為を行い損害を与えた場合には、事業主は行為者と連帯して使用者責任(民法715条)を負うことにもなります。

このように、会社内でパワハラが行われると、会社自体も行為者同様の責任を負う可能性が高くなってしまいます。

♯2:加害者の損害賠償責任

部下への指導などが業務上必要かつ相当な範囲を超え、パワハラが被害者の権利を侵害する不法行為に該当し、損害が生じた場合、加害者には発生した損害を賠償する責任が生じます(民法709条、710条)。

なお、会社や上司が場の雰囲気を和ませ、コミュニケーションを円滑にする意思で行い、被害者がこれに対して明示の拒否をしていなくても、その場の状況から拒否することが困難な場合にも、不法行為として、精神的損害に対する損害賠償(慰謝料)が認められる可能性があります。

5.弁護士に依頼するメリット

(1)パワハラを訴えている従業員との交渉ができる

パワハラを受けた被害者は、訴訟に先立って、交渉により加害者に対してハラスメント行為をやめることや慰謝料等の損害賠償を求めることになるでしょう。

これに対し、会社は加害者と共に上記交渉に対応しなければなりません。

もっとも、交渉においては、加害者側が直接被害者に示談を申し入れても、謝罪を受け入れてもらえなかったり、面会すらしてもらえなかったりする可能性が非常に高いといえます。

仮に被害者と直接交渉ができたとしても、冷静に話し合いができないケースは多くみられます。

このような場合に、弁護士が加害者の代理人となって交渉を行うことにより、被害者側の感情を沈め、冷静に話合いができる可能性があります。

被害者側と一刻も早く示談交渉を行い、示談を成立させたい場合はすみやかに弁護士に依頼することをおすすめします。

(2)裁判や労働審判への対応方法をサポート

パワハラについては裁判や労働審判に発展するケースが急増しています。

裁判や労働審判に発展した場合、適切な証拠を早期に裁判所へ提出しなければならないなど、個人で対応することは非常に困難です。

このようにパワハラについて裁判や労働審判を起こされた場合も実績豊富な弁護士が全力で対応し、依頼者にとってもっとも有利な解決を導きます。

6.まとめ

本記事では、従業員にパワハラを訴えられたときの対処法やこれからどうなるのかについてご紹介しました。

また、専門家である弁護士に相談することで、パワハラを行ったとされる従業員のみならず、その雇用者である会社の利益を守ることができるように適切な対策を講じることができるでしょう。
パワハラと訴えられたがどういったことがパワハラになるのか、また訴えられた場合の対処法が分からない方は、一度弁護士に相談することをおすすめします。

執筆者 大塚 慎也 弁護士

所属 第二東京弁護士会

弁護士相談は敷居が高い、そういう風に思われている方も多いかと思います。
しかし、相談を躊躇されて皆様の不安を解消できないことは私にとっては残念でなりません。
私は、柔和に皆様との会話を重ね、解決への道筋を示させていただきます。
是非とも皆様の不安を解消するお手伝いをさせてください。