試用期間中の解雇は可能?試用期間が法律上どうなっているのか解説
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「試用期間中に仕事ができないことがわかった従業員がいるので本採用を拒否したい」
「試用期間中の解雇が認められるための注意点を知りたい」
従業員の仕事への適性、能力の見極めのために試用期間を設け、試用期間中に問題があるとわかった場合にその従業員を採用しないことにしたいというケースは少なくないと思います。
試用期間後の本採用の拒否は通常の解雇に比べれば広く認められるものですが、その解雇が社会通念上相当でない場合は無効とされることもあります。
本記事では、試用期間中の解雇の可否や要件、試用期間中の労働者を解雇する場合の注意点について詳しくご説明いたします。
この記事を読んで、試用期間中の従業員の解雇が不当解雇とされないようご対応いただくための参考としていただければ幸いです。
1.試用期間の意義と解雇の可否
試用期間の意義については明確な定めはありませんが、法的性質については解約権が留保された労働契約であると言われています。
会社側はこの解約権を行使することにより、社会通念上相当な場合に採用を拒否することができるとされています。
このことについて、詳しく見ていきましょう。
(1)試用期間とは
繰り返しになりますが、試用期間については法律上明確な定めはなく、一般的には本採用前に従業員の適正や能力などを判断するための期間とされ、通常は3か月~6か月程度の期間を定めることが多いです。
この試用期間中の契約関係の法的性質について、最高裁判所は、試用期間中の「本採用の拒否は、留保解約権の行使、すなわち雇入れ後における解雇にあたり、これを通常の雇入れの拒否の場合と同視することはできない。」として「解約権留保付労働契約」であると判断しました(最高裁判所昭和48年12月12日判決民集27・11・1536)。
つまり、試用期間中の契約関係は、会社側に解約する権利がとどめられている労働契約となっているため、試用期間中に従業員としての適性が否定された場合には会社側がその権利を行使して本採用を拒否できる可能性がある契約とされています。
このような試用期間の性質から、通常の契約期間中の解雇に比べて、本採用の拒否は広く認められる余地があるとされています。
(2)試用期間中に労働者を解雇できるか
以上のように、試用期間後の本採用の拒否は、解約権の行使によるものですので、試用期間後の解雇の場合と比べて認められやすいものとされています。
他方で、試用期間中の解雇については、本採用の拒否と比べて解雇の認められやすさに差が生じており、過去の裁判例においては、その解雇が社会通念上相当であるかどうか、つまりその解雇の合理性や相当性について厳しく判断される傾向にあります。
以下、それぞれの場合についてご説明いたします。
#1:試用期間中の解雇
試用期間は、従業員の適性や能力を判断するために設けられた期間です。
そのため、従業員は、その期間中は新しい環境と業務に慣れて必要な指導を受けた上で自身の適性が判断されるものと期待しますし、会社側も試用期間を定めたかぎりはその全期間を適性判断のために利用することが期待されます。
したがって、試用期間が満了する前に解約権を行使して解雇するというケースでは、その解雇が社会通念上相当であるかどうかについてかなり厳しく判断されることになり、解雇が無効とされるケースも多くなる傾向にあります。
#2:試用期間満了時の本採用拒否
試用期間満了時に本採用を拒否する場合は、試用期間を定めた本来の趣旨に合った状況ということになります。
そのため、試用期間満了時の本採用の拒否は、試用期間中の解雇に比べて認められやすい傾向にあります。
ただし、この場合も、単に気に入らないというだけで本採用の拒否が認められるものではなく、客観的かつ合理的な理由があり、社会通念上相当といえなければ、本採用の拒否が認められない可能性もあります。
そこで、どのような場合に本採用の拒否が認められるかどうかについては、十分な検討が必要ということになります。
2.試用期間満了後に本採用拒否が認められやすいケースと注意点
ここまでにご説明したとおり、試用期間満了後の本採用拒否は、試用期間後の解雇などに比べて認められやすい傾向にあります。
しかし、この場合も客観的かつ合理的な理由があり、社会通念上相当といえなければ、本採用の拒否は認められません。
本採用の拒否が社会通念上相当と認められやすいケースとしては以下のようなものが考えられます。
- 従業員の能力不足
- 経歴詐称
- 勤務態度不良
以下では、具体的に、これらのケース、それぞれの場合の注意点について見ていくこととします。
(1)本人の能力不足
試用期間中に、従業員に求める能力が不足していることが明らかになり、改善の見込みもないような場合には、試用期間中の解雇が認められることがあります。
たとえば、十分な能力を有するとして中途で採用した従業員が、試用期間中に能力があることをまったく示せないようなケースでは、本採用の拒否が認められやすいと考えられます。
他方で、新卒採用の場合、試用期間中に十分な能力を示すことは困難であると考えられます。
このような従業員について何年も勤務しているほかの従業員と同等の水準に達していないからといって本採用を拒否することは社会通念上相当といえない可能性が高くなります。
また、会社側には試用期間中、従業員に対し、必要な指導を行い、能力不足の点について改善の機会を十分に与えることが必要とされており、このような対応をせずに能力不足を理由として本採用を拒否することは、やはり社会通念上相当といえないものとされてしまいます。
このような理由から、能力不足を理由として試用期間中に解雇するケースにおいては有効と認められるためのハードルはかなり高くなっています。
(2)経歴詐称
試用期間中に、学歴、職歴、資格取得歴などの経歴について虚偽であったことが判明した場合も、本採用の拒否が認められる可能性があります。
たとえば、業務を行うにために必要な資格があって採用時にその資格を取得していると言っていたのに、実はそのような事実がなかったという場合、経歴詐称が業務遂行に支障をきたすおそれが強くなるため、本採用の拒否もやむを得ないと認められやすいでしょう。
他方で、試用期間は、業務への適性があるかどうかを判断するためのものですから、経歴の詐称があったとしてもそれが求められる能力に影響がないのであれば、本採用の拒否が認められないこともあり得ます。
(3)勤務態度不良
遅刻や欠勤が多い、上司からの業務命令に従わないといった勤務態度の不良がある場合にも、本採用の拒否が認められることがあります。
もちろん、1回や2回の遅刻、欠勤を理由に認められることは困難です。
能力不足の場合と同様、改善のための指導を行ったにもかかわらず、遅刻や欠勤が多数回繰り返されてしまう、上司からの業務命令に反発し続けるというような場合には本採用の拒否は認められやすくなるでしょう。
3.試用期間満了後の本採用拒否が不当解雇となりうるケース
試用期間満了後の本採用拒否が不当解雇となりやすいケースについて、前の章でも注意事項として触れていますが、詳しくみていきましょう。
(1)新卒採用者・未経験者を能力不足を理由に解雇する
新卒採用者・未経験者が、試用期間中に経験者同様の専門的な能力を身に着けることは困難です。
そのため、そのような水準の能力に達していないことを理由に本採用を拒否することは社会通念上相当とはいえなくなってしまいます。
反対に考えると、試用期間満了の時点で一般的な社会人として求められる能力すら身に着いていないという場合には、本採用の拒否もやむを得ないとされるケースもあるでしょう。
(2)指導や注意などの必要な対応をせずに解雇する
試用期間中に会社側が従業員に対する指導等を行わなかった場合に、従業員の能力不足、勤務態度不良等があるときには、そのことについて会社側にも原因があるといえます。
したがって、このような場合に能力不足や勤務態度不良を理由として本採用を拒否することは、相当といえない場合が多くなります。
また、一、二週間程度の極めて短い試用期間を定めていた場合も、その間に必要な指導等を行うことは困難であり、従業員が能力を身に着けることはできません。
このような場合の本採用の拒否も違法とされる可能性が高いものとなります。
(3)試用期間開始から14日が経過した後に解雇予告、解雇予告手当の支払なしで解雇する
試用期間開始から14日を経過した場合、通常の(試用期間後の)解雇と同様の手続を行うことが必要となります(労働基準法12条4号)。
この場合、解雇(本採用の拒否=試用期間の満了)の30日以上前から解雇する旨を伝える(解雇予告)必要があります。
解雇予告を行わないまま、本採用を拒否する場合には、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う必要があります。
試用期間経過後に本採用を拒否する場合は、ほぼ確実に試用期間開始から14日を経過していると思われます。
そのため解雇予告または解雇予告手当の支払のいずれもなく、本採用を拒否してしまうと不当解雇となりますので、注意が必要です。
まとめ
本記事では、試用期間中の解雇の可否や注意点などについて解説しました。
試用期間中の解雇と本採用の拒否では、本採用の拒否の方が認められやすい傾向にありますが、拒否の理由や、試用期間中の会社側の対応などによって、本採用の拒否が不当解雇として扱われてしまうことも想定しなければなりません。
本採用の拒否に限らず、従業員の解雇に関しては様々な考慮や法的判断が必要となるため、専門家である弁護士に一度相談することをお勧めします。
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