警察で作成された供述調書に食い違いがある場合は?対処法について弁護士が解説!

執筆者 野沢 大樹 弁護士

所属 栃木県弁護士会

私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。

「交通事故に遭って警察で取り調べを受けたものの、作成された供述調書にいろいろな食い違いが発生してしまっている。」
「供述調書に食い違いがあるとどんな影響がある?」

交通事故が発生したあと、警察に人身事故の届け出をすると事情聴取が行われ、供述調書が作成されます。

この供述調書の内容は、のちに過失割合などの争いが生じた際に、加害者側との交渉や裁判などの場面において、事故態様についての証拠となることがあります。

しかし、警察で供述調書を作成した段階ではその内容と供述をした人の認識との間に食い違いが生じてしまうこともあります。

供述調書は事故態様についての証拠となるものですから、この食い違いを放置してよいことはありません。

この記事では、供述調書の内容に食い違いが起こっているとどのような問題があるか、その際にどのように対処すればよいかなどについてご説明します。

1.交通事故の供述調書とは

交通事故が発生すると、供述調書や実況見分調書などが作成されます。

以下では、これらの違いや交通事故における意義などについてご説明します。

(1)供述調書とは

「供述調書」とは、警察官や検察官が、刑事事件の当事者や目撃者のその事件に関する供述を聴き取り、その内容をまとめた書面のことです。

まず、警察官や検察官が供述者に質問をしていく形で供述させ、供述の内容を書面の形にまとめていきます。

書面の形にまとめたあと、供述調書を読み上げて内容を供述者に確認させます(「読み聞け」といいます。)。

これによって供述者が内容を確認し、必要に応じて訂正等を行った後、供述者が署名、押印をすることにより、供述調書は完成します。

交通事故が発生した場合も当事者が刑事処分を受ける可能性がありますので、警察官、検察官によって、その事故について供述調書が作成されることになります。

(2)実況見分調書と供述調書の違い

交通事故において作成される書面といえば、供述調書のほかに実況見分調書があります。

実況見分調書は、警察官による実況見分の内容をまとめた書面です。

「実況見分」とは、事件の現場において、当事者や目撃者の立会いのもと、その現場の状況を確認して保全する作業のことをいいます。

実況見分調書は、あくまで作成した警察官の確認した現場の状況をまとめたものですので、当事者の署名や押印はされません。

交通事故の場合も、事故の当事者が立ち会った上で事故現場の状況や、車両がどの方向からどのように走行してきたのかなどを警察官が確認して実況見分調書にまとめることになります。

供述調書は当事者の供述をまとめたもの、実況見分調書は当事者の指示説明等を参考にして警察官が現場状況をまとめたものであるところに違いがあります。

(3)供述調書の意義

供述調書は、警察官や検察官が内容を聴き取って作成し、さらに供述者本人が署名、押印しているものです。

したがって、その中に事故の状況に関する供述がある場合、その部分は供述者本人の事故に関する認識についての証拠ということになります。

刑事裁判のみならず、加害者との交渉や民事裁判の場面でも同様に証拠になるのです。

供述調書に誤りがあるとそのまま証拠になってしまいますし、なにか曖昧なことを供述してしまい矛盾が出ると信用性がなくなったりするので、注意が必要になります。

また、交通事故の場合、事故の加害者と被害者とで供述の内容に食い違いが生じることもあります。

このような場合、それぞれの供述調書の内容自体や客観的状況との整合性を確認し、どちらの方が矛盾がなく、信用できるものであるかを判断した上で事実を認定していくことになります。

もし、ご自身の供述調書の方が信用できないと判断されてしまうと、事故態様についての主張が通らなくなってしまいます。

(4)供述調書の食い違いはなぜ起こるのか

供述調書の内容がご自身の認識や実際の事故状況と食い違ってしまうことがあります。

このようなことはなぜ起こるのでしょうか。

まず、事故から時間が開いてしまってから供述調書が作成された場合が考えられます。

事故による怪我が重く、救急搬送されてそのまま入院してしまった場合など、供述調書の作成までに時間がかかってしまい、記憶があいまいになってしまうことが考えられます。

また、供述調書を作成する警察官、検察官がそれぞれの組み立てたストーリーに沿った供述調書を作成しようとしたために、供述者の供述が正確に反映されていないということもあります。

このように食い違いが生じた供述調書が作成されてしまうと、のちに矛盾が見つかるなどして信用できないとされ、不利な影響を及ぼすことがあります。

2.供述調書の作成時の注意点

以上のとおり、供述調書の内容と客観的証拠、ご自身の認識などとの間に食い違いが生じていると、信用性がないと判断され、不利に扱われてしまうことがあります。

したがって、供述調書の作成の際には、そのような食い違いが生じないようにする必要があります。

ここからは、食い違いが生じないようにするための手段、食い違いが生じてしまった際にとるべき手段についてご説明します。

(1)記憶のとおりに真実を話す

まずは、記憶のとおりに、虚偽を述べず、真実を話すことです。

覚えていないことや、認識があいまいな点についても正直にそのことをはっきり伝えましょう。

はっきりとはわからないのに断定的に答え、それが供述調書に残ってしまった場合、のちに矛盾する箇所が出てきて供述調書の信用性が失われることになりかねません。

警察官や検察官の誘導に沿って、よくわからないが多分こうだろうと思う、というような言い方をしてしまうことなく、わからないことははっきりわからないと言い切っておくことが重要です。

(2)ドライブレコーダー等の証拠を提出する

自身の記憶がはっきりしていないが、ドライブレコーダー等の客観的な証拠があるという場合には、これを提出しましょう。

客観的な証拠があれば、調書の作成中もその内容を確認しながら進めることができる可能性があります。

証拠を確認しながら供述調書を作成することにより、客観的な状況と矛盾する供述をしてしまうことを防ぐことができます。

(3)落ち着いて対応する

被害者の事情聴取であっても、加害者に対するものと同じく、警察官又は検察官と事務官しかいない密閉空間で行われることがほとんどです。

このような雰囲気で聴取が行われると、雰囲気にのまれてしまい、つい、警察官や検察官の言うことにそのまま答えてしまいがちです。

しかし、被害者であるならば、処罰を受ける立場にあるわけではありませんし、警察官や検察官に責められることもありません。

対等な立場であることを念頭に置いて話をするようにして、誘導に乗らないように気を付けるとよいでしょう。

3.食い違いが生じてしまった場合の対処法

上記の点に気を付けていたにもかかわらず、書面化され、読み上げられた供述調書の内容とご自身の認識とに食い違いがある場合、それをそのまま証拠とされると矛盾がある供述調書になる可能性があり、のちにその信用性が問題となるおそれがあります。

このときにどうすればよいか、ご説明します。

(1)署名、押印を行わない

供述調書が証拠として有効なものになるためには、供述者の署名、押印が必要になります。

そこで、供述調書の読み聞かせの際、内容を確認し、食い違いがあることがわかったら、署名、押印を拒否することによって、供述調書を完成させないようにすることができます。

その上で、誤りのある箇所を指摘し、訂正されたら署名、押印をするとよいでしょう。

いくら指摘しても訂正してもらえない場合は、署名、押印をせず、帰宅してしまってかまいません。

時間を置いてあらためて供述調書の作成をしてもらいましょう。

(2)ドライブレコーダー等の証拠を提出する

食い違いが生じないようにする手段と同じですが、ドライブレコーダー等の客観的な証拠があれば、これを提示するようにしましょう。

いったん署名、押印をせずに終わった供述調書がある場合には、そのような証拠をそろえた上で、再度供述調書の作成をしてもらうようにしましょう。

ご自身の認識に沿う客観的証拠があれば、供述調書の内容もそれに沿ったものにせざるを得なくなります。

(3)弁護士に相談する

ご自身で何とか対応してみたものの、どのように訂正したらよいかわからない、何度訂正を申し入れても認識している事実と異なる内容のまま署名、押印することを要求されているというような状況の場合は弁護士に相談することをおすすめします。

作成中の供述調書の内容はそのままでよいかどうかや、訂正を求めるためにどうしたらよいか、などについて、具体的なアドバイスを受けることができる可能性があります。

まとめ

供述調書の内容に食い違いが起こってしまっている際の対処法や供述調書が重要な理由についてお伝えしました。

供述調書は、刑事処分のために作成されるものですが、加害者側との交渉や民事裁判の証拠としても用いられるものであり、内容に誤りや矛盾点があってもそのまま用いられてしまいます。

そのため、誤りや矛盾が生じないように気を付ける必要があります。

ご自身の認識と異なる内容の供述調書には、安易に署名、押印をしないように気をつけなければなりません。

ご自身の言ったとおりに供述調書が作成されない、という場合には、署名、押印をせず、弁護士に相談するのがよいでしょう。

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