視覚障害後遺障害の認定事例を解説!

「目」の後遺障害については、眼球の障害として視力障害(視力の低下に伴う障害)、調節機能障害(調節機能の低下に伴う障害)、運動障害(まぶたの開閉の運動機能に関する傷害)及び視野障害(視野が狭くなったことによる障害)について、また、まぶたの障害として欠損障害及び運動障害について等級が定められています。

ここでは、眼球の障害のうち、「運動障害」についてご説明いたします。

1.視力障害で認められる後遺障害等級

人間の眼球は水平・垂直方向への移動に加え、回旋という3つの運動を行うことができ、これによって正常な視野を作り上げています。

交通事故により眼球運動を支配する神経を損傷したり、眼球を動かす筋肉を損傷すると、視野が狭くなるといった障害が生じることがあります。

また、ものが二重に見えてしまう「複視」や、無意識のうちに片方の眼球が内側や外側、あるいは上や下に向いてしまう「斜視」が起こることがあります。

これが「運動障害」として後遺障害等級の認定がなされる可能性があります。

眼球の運動障害は以下のように決まっています。

「第10級の2」:正面視で複視を残すもの
「第11級の1」:両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの
「第12級の1」:1眼の眼球に著しい運動障害を残すもの
「第13級の2」:正面視以外で複視を残すもの

複視とは、右眼と左眼の網膜の対応点に外界の像が結像せずにずれているために、ものが二重に見える状態をいいます。

交通事故により麻痺した眼筋によって複視が生じる方向が異なります。

眼球の運動障害が認定された場合、裁判例ではどのように慰謝料や逸失利益が判断されるのか、いくつか裁判例を紹介していきます。

2.眼球の運動障害が後遺障害等級に認定された事例

(1)後遺障害等級10級相当:東京地方裁判所平成18年12月25日判決

【事案の概要】

被害者X(原告)が自転車を運転して交差点に進入したところ、左方より同交差点に進入してきた加害者Y(被告)が運転する普通乗用自動車がXの自転車に衝突し、Xが転倒した事案。

Xの主張
Xの眼神経にかかる後遺障害は、両眼の滑車神経麻痺であり、両眼の滑車神経に麻痺が生じることは、まれなことである。

麻痺が単眼であれば、健眼によって真像を得ることができるが、両眼に麻痺が生じれば、両眼とも取得する像は仮像である。

このため、Xは、看護師として業務を遂行できないのはもとより、終身にわたり極めて軽易な労務にしか従事できない。

したがって、本件事故による両眼の後遺障害は、後遺障害等級7級4号に該当する。

Yの主張
Xは後遺障害等級併合12級の認定を受けていることから、 Xの後遺障害の程度は12級相当であり、譲歩したとしても10級相当である。

裁判所の判断

Xは、下方を見るとき、足元が二重に見えるといった支障が生じており、階段を踏み外したこともあった。

また、二重に見える状態が続くと、めまいを起こすことがある。

パート外務員として、パソコンを操作する必要があるときは、上目遣いで操作しており、そのため、パソコンを使用したときは眼に疲労感があり、道路の小さな段差を見逃すことがある。

Xが本件事故によって、両眼の滑車神経麻痺の後遺障害を負ったことについては当事者間に争いがないところ、滑車神経は外眼筋である上斜筋を支配する神経であり、複視は眼筋麻痺等によって生じると解されているところ、医師らの診断結果、前記のようなXの状態にかんがみると、 Xには正面視において複視が生じているものと認められる。

そして、自賠責保険の労働能力喪失率表は、従事する職種等を考慮しない一般的なものであるから、被害者の職種等により労働能力喪失率が増減する場合もあるとし、看護師という職業に眼の異常が及ぼす影響は多大で退職を余儀なくされたこと、現在は生命保険のパート、コンビニでのアルバイトで収入を得るにとどまっていること等から、 17年間40%の労働能力喪失率を認めた。

コメント

本件は、医師の作成した診断書の内容やXの状態から、後遺障害等級10級相当の「正面視で複視を残すもの」が認められています。

そして、自賠責保険の後遺障害等級表によれば、後遺障害等級10級の場合、労働能力喪失率は27%とされています。

しかし本件では、眼の異常がXの業務遂行に及ぼす影響が大きいとして、40%の労働能力喪失率が認められています。

Xの具体的状態から後遺障害等級を認定し、その後遺障害がXの業務遂行にどの程度の影響を及ぼすかを具体的に判断されており妥当な裁判例といえます。

(2)後遺障害等級13級2号:さいたま地方裁判所平成24年5月11日判決

【事案の概要】

自転車で丁字路の交差点を横断しようとした被害者X(原告)が、右側からきた自動二輪車を運転する加害者Y(被告)に衝突され、後遺障害(眼球運動障害に伴う複視により13級2号)を伴う傷害を負ったXがYに対し、損害賠償を求めた事案

Xの主張
本件事故前の平成19年におけるXの年収は674万円であり、この年収額及び後遺障害等級13級の労働能力喪失率9%並びに労働能力喪失期間17年間 のライプニッツ係数11.2741を用いて算定すると、逸失利益は以下のとおり683万8869円となる。

674万円×0.09×11.2741=683万8869円

Yの主張
本件事故によるXの後遺障害は、右方視時の複視であるところ、その労働能力に対する影響は軽微であり、平成23年4月9日の検査では後遺障害の認定基準を下回っていることからすると、労働能力喪失期間は症状固定後3年程度と見るべきである。

裁判所の判断

Xは、平成23年4月9日のHessスクリーンテストにおいて後遺障害認定基準を満たさないが、現に複視の症状を有していること、 Xの仕事は、打ち合わせや受注のための営業活動のほか、パソコンを使った企画書や映像シナリオの作成、各種出版物やパンフレットの構成・映像編集、各種契約関係書類の作成等であるところ、Xは複視のため、パソコンの画面を30分以上集中して見ることができず、作業効率は大幅に低下していること。

また、視神経に過度な負担をかけるために、重度の肩凝りに悩まされていることが認められることから、労働能力喪失率を9%、労働能力喪失期間を17年間 として、逸失利益を算定するのが相当というべきである。

コメント

本件は、Hessスクリーンテスト(物が二重に見える複視の程度を測定するテストをいいます)の結果が、後遺障害認定基準を下回っていたため、後遺障害等級13級2号の認定結果や逸失利益等に争いが生じていました。

裁判所は、上記テストの結果が後遺障害認定基準を下回っていたことを認めたうえ、Xの現実に生じている労働に対する支障の程度を判断し、後遺障害等級13級に相当する労働能力喪失率及び労働能力喪失期間を認定して、Xの主張のとおりの逸失利益を認めました。

(3)後遺障害等級非該当:横浜地方裁判所平成19年1月18日判決

※ただし後遺障害慰謝料及び逸失利益を認容

【事案の概要】

被害者X(原告)は、渋滞のため停止していたところ、ラジオ操作をして前方注視を欠いた普通貨物自動車を運転していた加害者Y(被告)から追突され、頚椎捻挫等の傷害を負ったXがYに対して賠償を求めた事案です。

Xの主張
Xは、本件事故により、頚椎捻挫、眼部打撲等の傷害を負い、眼部について、両眼調節機能、外斜視、複視等の後遺障害を残した。

Xの後遺障害のうち、両眼調節障害は後遺障害等級11級に相当し、正面複視は後遺障害等級12級に相当する。

したがって、労働能力喪失期間を30年間 として逸失利益を算定すると、1216万6018円となる。

後遺障害慰謝料は420万円である。

Yの主張
後遺障害慰謝料及び後遺障害逸失利益は、 Xに後遺障害が存在しないので認められない。また、本件事故前年と比較して Xに減収がないことからも逸失利益は認められない。

裁判所の判断

裁判所は、Xの乗車する車両が加害車両に追突された後さらに前車にも衝突していることにかんがみるならば、その際のXの身体に生じた衝撃は相当に大きなものであったことが推認できるとして、頚椎捻挫、眼の調整力障害、外斜視、複視につき本件事故と因果関係があると認めました。

そのうえで、本件事故前のXの収入は395万7098円であったところ、本件事故後のXの収入は約500万円となっており、現状においては、Xにおいて後遺障害による減収が生じているとは認めがたいが、 Xは、種々の苦痛を覚え、また実際上の不便が生じていることが認められ、今後、減収や転職を余儀なくされることも予想されるとして、後遺障害慰謝料及び逸失利益を認めました。

後遺障害慰謝料は300万円 、逸失利益は、労働能力喪失率を5%、労働能力喪失期間を29年間 として 738万3281円と認定しました。

コメント

本件は、自賠責保険における後遺障害等級認定は非該当でしたが、検査結果やXに生じている現実の支障を勘案し、後遺障害慰謝料や逸失利益を認めています。

Xは本件事故後、収入がむしろ事故前より増えているにもかかわらず、今後の減収や転職を余儀なくされることが予想されるという理由で逸失利益が認められていることが注目すべき点といえます。

まとめ

今回紹介した裁判例は、いずれも自賠責保険で認定された後遺障害等級の労働能力喪失率と同等もしくはそれ以上のものが認定されています。

眼球の後遺障害は、仕事への支障に直結するものであるため、逸失利益がきちんと認定されるかが重要となります。

保険会社は何かしら理由をつけて、労働能力喪失率を小さく判断したり、そもそも労働に支障は生じないなどと主張をしてくることがあります。

しかし、本件の各裁判例のように、現実の仕事に支障が生じていることを具体的な資料によって、もしくは本人尋問によって裁判所に説明することができれば、しっかりと逸失利益が認められ、適切な賠償金を請求することができます。

眼球に障害が残ってしまい、後遺障害申請を考えている方、等級認定は受けたけれども保険会社からの提示に納得がいかない方は、是非当事務所にご相談いただければと思います。

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