交通事故による後遺症が心配な方が知っておくべき「後遺障害等級認定」とは

通院期間90日の交通事故の慰謝料の相場

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

「交通事故による怪我が後遺症になってしまった」
「まだ症状が残っているのに保険会社から治療費を打ち切られてしまった」
「提示されている示談金の金額に怪我による影響が反映されていないように思う」
「後遺障害申請の結果非該当だった」

交通事故による怪我でこのような「納得いかない」という場面に直面されている方は多いのではないでしょうか。

本記事では、交通事故による受傷でお悩みの方にむけて、後遺障害等級とは何なのか、後遺障害等級を獲得しておくとどのようなメリットがあるのか、そして後遺障害等級を獲得するまでの流れについて説明します。

まだ症状が残っているにも関わらず、相手方保険会社から「治療の打ち切り」や「症状固定」、「後遺障害申請」といった言葉が出てくるようになった方は、後遺障害等級認定が必要な状況かもしれません。

後遺障害等級認定は交通事故の賠償問題の中で抑えておくべきポイントのひとつです。

交通事故でお怪我をされた方はみなさん「自分には関係ない」と思わず知っておいていただきたいです。

1.交通事故の後遺障害等級認定とは

1.交通事故の相手が不明な場合でも警察に届け出るべき?

後遺障害等級は、交通事故を原因として何らかの後遺症を負った場合に認定申請を行うことができます。

以下では、後遺障害等級における後遺障害の意義と等級別の後遺障害についてご説明します。

(1)後遺障害の意義

「後遺症」と「後遺障害」は、字面こそ似ているものの、その意味は異なります。

「後遺症」は怪我や病気などの治療の末に残った症状全般を指します。

これに対し、交通事故賠償における「後遺障害」とは、後遺症のうち以下の要件を満たしているもののことをいいます。

後遺障害の条件

  1. 将来においても回復が見込めない状態(症状固定)
  2. 交通事故とのその障害の間に因果関係がある(相当因果関係)
  3. その障害が医学的に認められる
  4. 労働能力の喪失(低下)を伴う
  5. その程度が自賠法施行令の等級に該当する

それでは各要件についてみていきましょう。

#1:将来においても回復が見込めない状態(症状固定)

まず1つ目は、「症状固定」を迎えているかです。

症状固定とは、治療や投薬を行うと一時的に良くなるけれども少し経つとまた元に戻ってしまうというように症状が一進一退を繰り返す状態のことです。

そのため、後遺障害といえるためには一定の期間治療を行う必要があります。

#2:交通事故とその障害との間に因果関係がある(相当因果関係)

2つ目は、交通事故と生じた障害が原因と結果の関係にあるかどうかです。

もっとも、交通事故と残った障害が原因と結果の関係にあればただちに因果関係があるといえるわけではなく、社会通念上、交通事故によって生じることが相当といえる障害に限られます。

これを「相当因果関係」といいます。

#3:その障害が医学的に認められる

3つ目は、その障害が医学的に認められるかです。

この要件を満たすためには、医師の画像や検査等の各所見を通して証明(説明)できる必要があります。

#4:労働能力の喪失(低下)を伴う

4つ目は、その障害が労働能力の喪失(低下)を伴うかです。

障害によっては、交通事故に遭う前と同じような働き方ができなくなる、もしくは同じ成果を出すために無理をしないといけなくなってしまう等があります。

#5:その程度が自賠法施行令の等級に該当する

自賠法施行令とは略称で、正式には「自動車損害賠償保障法施行令」といいます。

自賠法施行令には、後遺障害が、症状・部位別に「後遺障害等級」という14の等級に分けて定められています。

具体的には以下の内容です。

(2)等級別の後遺障害

介護を要する後遺障害金額
等級 介護を要する後遺障害
第1級
  1. 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの
  2. 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
第2級
  1. 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
  2. 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
自賠責基準の後遺障害金額
等級 後遺障害
第1級
  1. 両眼が失明したもの
  2. 咀嚼及び言語の機能を廃したもの
  3. 両上肢をひじ関節以上で失ったもの
  4. 両上肢の用を廃したもの
  5. 両下肢をひざ関節以上で失ったもの
  6. 両下肢の用を廃したもの
第2級
  1. 1眼が失明し,他眼の資力が0.02以下になったもの
  2. 両眼の資力が0.02以下になったもの
  3. 両上肢を手関節以上で失ったもの
  4. 両下肢を足関節以上で失ったもの
第3級
  1. 1眼が失明し,他眼の資力が0.06以下になったもの
  2. 咀嚼又は言語の機能を廃したもの
  3. 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの
  4. 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの
  5. 両手の手指の全部を失ったもの
第4級
  1. 両眼の視力が0.06以下になったもの
  2. 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの
  3. 両耳の聴力を全く失ったもの
  4. 1上肢をひじ関節以上で失ったもの
  5. 1下肢をひざ関節以上で失ったもの
  6. 両手の手指の全部の用を廃したもの
  7. 両足をリスフラン関節以上で失ったもの
第5級
  1. 1眼が失明し,他眼の視力が0.1以下になったもの
  2. 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
  3. 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
  4. 1上肢を手関節以上で失ったもの
  5. 1下肢を足関節以上で失ったもの
  6. 1上肢の用を全廃したもの
  7. 1下肢の用を全廃したもの
  8. 両足の足指を全部失ったもの
第6級
  1. 両眼の視力が0.1以下になったもの
  2. 咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの
  3. 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
  4. 1耳の聴力を全く失い,他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
  5. 脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの
  6. 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
  7. 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
  8. 1手の5の手指又はおや指を含み4の手指を失ったもの
第7級
  1. 1眼が失明し,他眼の視力が0.6以下になったもの
  2. 両耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
  3. 1耳の聴力を全く失い,他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
  4. 神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの
  5. 胸腹部臓器の機能に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの
  6. 1手のおや指を含み3の手指を失ったもの又はおや指以外の4の手指を失ったもの
  7. 1手の5の手指又はおや指を含み4の手指の用を廃したもの
  8. 1足をリスフラン関節以上で失ったもの
  9. 1上肢に偽関節を残し,著しい運動障害を残すもの
  10. 1下肢に偽関節を残し,著しい運動障害を残すもの
  11. 両足の足指の全部の用を廃したもの
  12. 外貌に著しい醜状を残すもの
  13. 両側の睾丸を失ったもの
第8級
  1. 1眼が失明し,又は1眼の視力が0.02以下になったもの
  2. 脊柱に運動障害を残すもの
  3. 1手のおや指を含み2の手指を失ったもの又はおや指以外の3の手指を失ったもの
  4. 1手のおや指を含み3の手指の用を廃したもの又はおや指以外の4の手指の用を廃したもの
  5. 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの
  6. 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
  7. 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
  8. 1上肢に偽関節を残すもの
  9. 1下肢に偽関節を残すもの
  10. 1足の足指の全部を失ったもの
第9級
  1. 両眼の視力が0.6以下になったもの
  2. 1眼の視力が0.06以下になったもの
  3. 両眼に半盲症,視野狭窄又は視野変状を残すもの
  4. 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
  5. 鼻を欠損し,その機能に著しい障害を残すもの
  6. 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
  7. 両耳の聴力が1メートル以上の距離
  8. 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり,他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
  9. 1耳の聴力を全く失ったもの
  10. 神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
  11. 胸腹部臓器の機能に障害を残し,服することのできる労務が相当な程度に制限されるもの
  12. 1手のおや指又はおや指以外の2の手指を失ったもの
  13. 1手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又はおや指以外の3の手指の用を廃したもの
  14. 1足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの
  15. 1足の足指の全部の用を廃したもの
  16. 外貌に相当程度の醜状を残すもの
  17. 生殖器に著しい障害を残すもの
第10級
  1. 1眼の視力が0.1以下になったもの
  2. 正面を見た場合に複視の症状を残すもの
  3. 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの
  4. 14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
  5. 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
  6. 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
  7. 1手のおや指又はおや指以外の2の手指の用を廃したもの
  8. 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの
  9. 1足の第1の足指又は他の4の足指を失ったもの
  10. 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
  11. 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
第11級
  1. 両眼の眼球に著しい調整機能障害又は運動障害を残すもの
  2. 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
  3. 1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
  4. 10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
  5. 両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
  6. 1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
  7. 脊柱に変形を残すもの
  8. 1手のひとさし指,なか指又はくすり指を失ったもの
  9. 1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの
  10. 胸腹部臓器の機能に障害を残し,労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
第12級
  1. 1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
  2. 1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
  3. 7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
  4. 1耳の耳殻の大部分を欠損したもの
  5. 鎖骨,胸骨,ろく骨,けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの
  6. 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
  7. 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
  8. 長管骨に変形を残すもの
  9. 一手のこ指を失ったもの
  10. 1手のひとさし指,なか指又はくすり指の用を廃したもの
  11. 1足の第2の足指を失ったもの,第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの
  12. 1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの
  13. 局部に頑固な神経症状を残すもの
  14. 外貌に醜状を残すもの
第13級
  1. 1眼の視力が0.6以下になったもの
  2. 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの
  3. 1眼に半盲症,視野狭窄又は視野変状を残すもの
  4. 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
  5. 5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
  6. 1手のこ指の用を廃したもの
  7. 1手のおや指の指骨の一部を失ったもの
  8. 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの
  9. 1足の第3の足指以下の1又は2の足指を失ったもの
  10. 1足の第2の足指の用を廃したもの,第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの
  11. 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの
第14級
  1. 1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
  2. 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
  3. 1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
  4. 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
  5. 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
  6. 1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
  7. 1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
  8. 1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの
  9. 局部に神経症状を残すもの

したがって、後遺障害等級を獲得するためには、自賠責保険に対して後遺障害等級認定申請を行い、残っている症状が自賠法施行令に定められている後遺障害に該当しているかの審査を経る必要があります。

2.後遺障害等級認定申請をするメリット

後遺障害に該当する症状が生じてしまった場合には、後遺障害等級認定申請を行うことをお勧めします。

後遺障害等級を獲得すると、次のようなメリットがあります。

(1)後遺障害慰謝料を請求できる

まず、加害者に対し、後遺障害慰謝料を請求できます。

後遺障害慰謝料とは後遺障害を負ったことに対する慰謝料です。

基準は、自賠責保険の基準と裁判所基準(弁護士基準)との2つがあり、金額は以下のとおりです。

・自賠責保険基準の場合

第1級 第2級 第3級 第4級 第5級 第6級 第7級
1150万円 998万円 861万円 737万円 618万円 512万円 419万円
第8級 第9級 第10級 第11級 第12級 第13級 第14級
331万円 249万円 190万円 136万円 94万円 57万円 32万円

・裁判所基準(弁護士基準)の場合

第1級 第2級 第3級 第4級 第5級 第6級 第7級
2800万円 2370万円 1990万円 1670万円 1400万円 1180万円 1000万円
第8級 第9級 第10級 第11級 第12級 第13級 第14級
830万円 690万円 550万円 420万円 290万円 180万円 110万円

(2)逸失利益を請求できる

ふたつ目は、逸失利益が請求することができるようになります。

逸失利益とは、後遺障害が生じたことによって将来にわたって生じる減収に対する賠償です。

逸失利益は、次の計算式によって算出することができます。

基礎収入 × 労働能力喪失率(※1) ×労働能力喪失期間(※2)に対応するライプニッツ係数(※3)

(※1) 労働能力喪失率

後遺障害が労働能力へ影響を及ぼす割合です。後遺障害等級ごとに以下のとおりです。

第1級 第2級 第3級 第4級 第5級 第6級 第7級
100% 100% 100% 92% 79% 67% 56%
第8級 第9級 第10級 第11級 第12級 第13級 第14級
45% 35% 27% 20% 14% 9% 5%

(※2) 労働能力喪失期間

後遺障害を負ったことによって労働能力を失うことになった年数のことをいいます。

労働能力喪失期間の終期は、原則67歳までです。

ただし、高齢者の場合には、67歳までの年数と、厚生労働省が公表している簡易生命表上の平均余命までの年数の3分の1の内、どちらか長い方が労働能力喪失期間となります。

(※3) ライプニッツ係数

ライプニッツ係数とは、実態に即した賠償額に近づけるために、一度に受け取ったことによって生じた利益を控除する指数です。

(3)後遺障害等級の有無による影響はどの程度か

後遺障害慰謝料と逸失利益を請求できるとできないとではどの程度差があるのでしょうか。

むちうちで実通院日数80日、総通院期間6か月治療した方のケースで比較してみましょう。

#1:後遺障害等級なし

自賠責保険の慰謝料は、4300円×2×80日で68.8万円です。

しかし、自賠責保険は治療費等すべて含めて120万円の上限があります。

交通事故で整形外科に通っている方はだいたい1か月10万円程です。

治療費を60万円と仮定すると、慰謝料はだいたい60万円ということになります。

また、総治療期間3か月に対応する裁判所基準の慰謝料は89万円です。

#2:後遺障害等級あり

自賠責保険基準の場合、上記慰謝料60万円に加えて、後遺障害慰謝料と逸失利益のトータル75万円が加算されるため、135万円になります。

また、裁判所基準の場合、上述の慰謝料89万円に加えて後遺障害慰謝料と逸失利益が加算されます。

裁判所基準の後遺障害慰謝料は110万円です。

さらに逸失利益です。

逸失利益はその方の基礎収入によって異なります。

たとえば年収300万円だとすると、以下の計算式から約65万円です。

300万円×5%(労働能力喪失率)×4.3295(5年ライプニッツ係数)=649,425円

したがって、後遺障害がない方だと60万円のところ、後遺障害14級があると135万円、さらに裁判所基準だと264万円が請求できることとなります。

2.後遺障害等級認定の手続の流れ

「後遺障害慰謝料」とは

後遺障害等級を獲得することで何倍もの違いが出てくることがわかりました。

では、後遺障害等級認定はどのように受けるのでしょうか。

以下で認定までの手続についてご紹介します。

(1)症状固定まで治療を継続する

上述したように、まず後遺障害等級の認定を受けるためには、症状固定まで治療を継続する必要があります。

治療開始から症状固定に至るまでの期間は、受傷の程度や内容によって異なります。

たとえば頸椎捻挫や腰椎捻挫等のむちうちの場合は、治療開始からだいたい半年程度です。

また、ここで注意するべきは、症状固定のタイミングを判断するのは医師だということです。

相手方保険からそろそろ症状固定ではないかという連絡が入ることがありますが、医師が症状固定だと判断していないのであれば、治療を継続することをお勧めします。

(2)医師に後遺障害診断書の作成を依頼する

症状固定を迎えたら、医師に後遺障害診断書を作成してもらいます。

上述したとおり、後遺障害であるためには障害が医学的に認められる必要があります。

そのため、医師が作成する後遺障害診断書の内容は認定結果を左右する最も大事な書類です。

適切な後遺障害等級の認定を受けるためには、検査の数値等が該当する後遺障害等級の基準を満たしている必要があります。

たとえば、自覚症状は正確に伝える、MRIやXP画像上で所見が得られる場合や神経学的検査による陽性所見がある場合はその内容を盛り込むといったことが大切になってきます。

ここで注意しなければならないのは、ほとんどの医師は後遺障害認定診断書の書き方をあまり詳しく把握していないということです。

必要なポイントをおさえることができるよう、後遺障害診断書を作成する前に弁護士に相談することをお勧めします。

(3)後遺障害等級認定申請の方法を選択する

後遺障害診断書が完成したら、後遺障害等級認定申請を行います。

後遺障害等級認定申請の方法は、「事前認定」と「被害者請求」の2通りがあります。

#1:事前認定

加害者側の任意保険会社が自賠責保険に対して後遺障害等級認定申請を行う方法です。

事前認定には被害者本人の手続的な負担がかからないというメリットがあります。

反面、デメリットとしては自賠責保険に何を提出するかを加害者側の任意保険会社に委ねることになる点です。

もし、加害者側の保険会社が等級認定に影響を及ぼすような医師の意見書を添付していたとしても被害者はそのことを関知することができません。

なお、以下の記事も参考となります。

後遺障害の事前認定とは?メリット・デメリットと主な流れについて解説

#2:被害者請求

被害者が自賠責保険に対して後遺障害等級認定申請を行う方法です。

被害者請求は、被害者が直接自賠責保険に申請するため、事前認定のようなデメリットは生じません。

これが被害者請求のメリットです。

しかし、後遺障害等級認定申請に必要なのは、後遺障害診断書だけではありません。

他にも事故初期から症状固定までの経過の診断書や診療報酬明細書等、多数の資料が必要です。

被害者請求で後遺障害申請を行う場合、被害者は、これら申請のための書類を全て自身で収集する必要があります。

被害者請求の手続については、以下もご参照ください。

後遺障害等級認定の被害者請求とは?メリット・デメリットと主な流れを解説

#3:交通事故被害者にお勧めなのは被害者請求

事前認定と被害者請求とではそれぞれメリットとデメリットがありますが、適切な等級の認定を受けるためにお勧めなのは被害者請求です。

なぜならば、事前認定を対応する加害者側の任意保険会社は、加害者側の味方だからです。

もし事前認定を用いる場合、被害者の後遺障害診断書に不備があったとしても、修正を提案してくれるような寄り添った対応を受けることはできません。

被害者請求は被害者自身が行うには複雑だというデメリットはありますが、このデメリットは、後遺障害等級認定申請に精通した弁護士に依頼することによって回避することができます。

(4)認定結果を受領する

自賠責保険へ提出された申請書類は、損保料率機構(損害保険料率算出機構)という公正かつ中立的な立場の機関で調査されます。

調査がすべて完了すると、損保料率機構は調査結果を自賠責保険へ報告します。

損保料率機構での調査結果は自賠責保険を通じて被害者へ通知されます(事前認定を用いた場合は、加害者側任意保険会社へ通知されます。)。

3.認定結果に納得がいかない場合

交通事故で入院になった場合の慰謝料

認定結果に納得がいかない場合、受傷が適切に評価されていないのであれば、諦める必要はありません。

後遺障害等級認定の認定結果に納得がいかない場合は、以下のような手続を踏むことができます。

(1)異議申立を行う

後遺障害等級認定申請には、「異議申立」という制度があります。

異議申立とは、後遺障害認定申請の結果に異議があると申請することです。

異議申立は後遺障害等級認定申請のときと同じく自賠責保険へ提出し、損保料率機構へ回されます。

損保料率機構の中でも「自賠責保険審査会」という上部審査機関で調査されることになるため、前回申請時とは認定結果が覆ることがあります。

(2)自賠責紛争処理機構に申立をする

異議申立による認定結果に納得がいかない場合、自賠責紛争処理機構へ申請をします。

この申請は、自賠責保険への異議申立を経て申請を行うのが原則となります。

何度でも行うことができる自賠責保険への異議申立と異なり、1度しか申請は認められません。

申請時に使う書類は、これまでの自賠責保険への後遺障害等級認定申請や異議申立で用いたものを使用します。

そのため、機構の認定結果も異議申立と同様であることがほとんどです。

しかし、稀に結果が覆ることがあります。

当事務所で手がけた事件の中には、2度異議申立をしても非該当だったけれども、自賠責紛争処理機構へ申立てたところ後遺障害3級が認定されたという事件がありました。

(3)裁判をする

最終的な解決手段は裁判です。

裁判所は自賠責の認定等級に拘束されず、双方から主張立証される豊富な材料に基づいて判断します。

もちろん、裁判所も自賠責で認定された後遺障害等級を参考にはするため、裁判でも同様の認定がなされることも少なくありません。

加えて、裁判所は自賠責の等級認定に拘束されない判断をするため、自賠責より高い等級だと判断することもあれば、低い等級だと判断することもあります。

そのため、裁判を解決手段として用いることが適切か否かは専門家である弁護士による慎重な検討が必要だといえます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

本ページでは、後遺障害等級認定申請について説明しました。

交通事故の賠償問題のうえで怪我に関する賠償はすべて客観的な材料を元に請求していくことになります。

そのため、客観的証拠が何も残らない事故後の過ごし方をしていると適切な賠償を受けられないことになってしまいかねません。

予期せぬ交通事故に遭い辛い思いをした方が、後遺障害等級認定を受けるほどの症状が残っているにも関わらず、所与の原因から上手く準備ができず、結果として後遺障害等級認定を受けることができなかったというケースはあります。

そのような被害者の方を目の当たりにすると、我々弁護士としても大変悔しいです。

交通事故被害者の方がこのような賠償に関する情報を目にし、ご自身の事故後の過ごし方に反映していただくことで、将来的にも辛い思いをしなければならなくなってしまうようなことが少しでも減ることを願っています。

交通事故でこんなお悩みはありませんか?

交通事故に遭ってしまったけど、
保険会社・相手方とどんな風に対応
すればいいのかわからない・・・

後遺症があるためきちんと賠償を
受けたいけど、後遺障害認定申請や
示談交渉などさっぱりわからない・・・

  • ✓ 事故発生直後からのご相談・ご依頼に対応しています。どの段階の方でも安心してご相談いただけます。
  • ✓ 治療中のアドバイスから後遺障害認定申請、その後の示談交渉や訴訟対応までサポートいたします。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。