製造業の会社破産手続の特殊性とは?注意すべきポイントや破産手続の流れについて解説

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

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本記事では、製造業の会社破産手続で注意すべきポイントや会社破産手続の主な流れについてご説明します。

ものづくりはわが国の主要な産業のうちのひとつです。

製造業といっても食品加工や繊維工業、プラスチック製品製造業、金属製品製造業、業務用機器製造業、印刷など様々なものがあります。

多くの製造業者にみられる傾向としては、製造設備を保有していること、原材料や製品、仕掛品などの在庫を有することなどがあげられます。

製造業者の破産手続申立を準備するにあたっては、会社の資産状況を確認したうえで、申立にかかる費用を確保し、会社資産価値を劣化させることなく申立へと進める必要があります。

会社が所有する設備や在庫は、そのまま管財人へ引き継ぐこともありますが、維持費が嵩む場合や季節商品や品質劣化を招く物については売却して現金で管財人へ引き継ぐこともあります。

在庫等の売却にあたっては、廉価処分にあたらないように気をつけなければなりません。

さらに、OEM契約を用いている製造業者の場合は、商標など知的財産の問題も生じることから、より慎重な対応が必要となります。

事案に応じて適切な方法を選択する必要があるため、弁護士に相談しながら進めることをおすすめします。

会社の破産を考えているけれども先のことが不安で踏み出せないという製造業者の経営者の方は、本記事を第一歩としていただければと思います。

1.製造業の会社破産手続で注意すべきポイント

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製造業の会社破産手続で注意すべきポイントは主に以下の点です。

申立準備段階では、これらを適切に対応して会社財産の流出、劣化を止め、申立に必要な費用や将来の破産財団を確保することが重要になります。

  • 製造設備の取扱い
  • 在庫の取扱い
  • 売掛金の回収
  • 行政への届出

(1)製造設備の取扱い

製造設備の取扱いについては、まず製造設備がどこに何があって誰のものなのかを確認します。

そのうえで、会社所有の設備がある場合は、売却処分するのか、そのまま申立てるのかを決めます。

#1:設置場所と契約関係の確認する

製造設備の設置場所と契約関係を把握する必要があります。

設備は会社の社屋内にあるとは限りません。

下請会社へレンタルしている場合もあります。

契約書や決算書等を見返すことが大切です。

設備がどこに何があるのかがはっきりしたら、それぞれの設備の所有者を確認します。

設備は、リースやレンタルで会社に所有権がない場合と、購入していて所有権が会社にある場合があります。

リースやレンタルである場合はそのリース業者やレンタル業者へ返却します。

#2:会社所有の設備は売却するかそのまま管財人へ引き継ぐかを決める

会社所有である場合は、買取業者に査定を依頼し、申立前に売却処分するかそのまま破産管財人へ引き継ぐかを検討します。

破産管財人とは、破産手続開始時に裁判所が選任する弁護士です。

申立準備を代理する弁護士とは別の弁護士で、中立の立場で破産財団の管理や債権調査などを行う役割を担います。

申立費用の確保が出来ておらず設備に価値がつきそうな場合は、売却処分して申立費用へと充てることも検討する必要があります。

このとき廉価処分にならないように気をつける必要があります。

反対に、設備に価値がつかず処分費が生じることもあります。

処分をしない場合は、所在を明確にして破産管財人へ引き継ぐことになります。

製造業の場合、古いコンデンサーなど有害物質を含むために廃棄の方法が法律によって規制されていて、特殊な処理や費用を要する設備があるケースも少なくありません。

誤った保管方法をとったり不法投棄をしてしまうと、かえって会社の負債を増大させることに繋がるため注意しなければなりません。

(2)在庫の取扱い

製造業者には、製品のほかにも原材料や仕掛品などがあります。

まず各在庫の場所・数量・所有権を確認します。

そのうえで、会社に処分する権利がある場合は、売却処分するのか、管財人に引き継ぐのか状況に応じて検討する必要があります。

#1:契約関係に注意する

製造業においては、委託者が原材料を提供し受託者がそれを製造するという「委託製造契約」、受託者が原材料を調達して製造する「製造物供給契約」、受託者が製造した商品に委託者の商標などを表示して供給する「OEM契約」など、様々な契約が用いられています。

契約内容を精査し、各在庫を処分する権利は誰にあるのか、処分する先に制限はないかなどを整理していく必要があります。

中には債権者が原材料などの引渡しを求めてくることがあります。

どのように対応すべきかは申立代理人弁護士に契約関係を確認してもらい、弁護士の指示のもと進めると良いでしょう。

#2:会社所有の在庫は売却するかそのまま管財人へ引き継ぐかを決める

在庫を処分する権利が会社にある場合は、売却するかそのまま管財人へ引き継ぐかを状況に応じて決めることになります。

保管費用が嵩む場合、季節商品など時間とともに資産価値が劣化する場合、破産に必要な費用が確保できていない場合などは、売却して現金にすることを考える必要があります。

在庫を売却処分する場合は、裁判所に廉価処分とみなされると破産手続に大きな影響を与えてしまうため、申立代理人と相談しながら慎重に行う必要があります。

基本的には、買取業者に査定を出してもらい、高く値がついたところに販売することになります。

同業者に大量に一括処分するといった手法が有益な場合もあります。

OEM契約を用いている場合など、商標の観点から特定の業者にしか売却できないこともあります。

各内容に留意しながら換価の算段をしていく必要があります。

(3)売掛金の回収

未回収の売掛金がある場合、それは会社の資産として、回収する必要があります。

仕掛品は、完成したところまでで価値を評価し金額をつけることになります。

また、売掛金を請求したときに、委託者から修理や交換などのアフターサービスを受けられないことによる損害賠償請求権との相殺を主張されるケースがあります。

申立準備段階での回収が適わない場合は、これまで行っていたアフターサービスの内容や交渉経過などを整理し破産管財人へ引き継ぐ必要があります。

(4)行政への届出

酒類、食品製造、医薬品、医薬部外品、化粧品など、製造業には法律によって行政に免許や許可を得て営業している業種も少なくありません。

破産手続をするにあたっては、免許の取消しや廃止の許可を申請が必要かどうかを確認しましょう。

法律によっては届出を怠ると罰則が規定されているものもあるため注意が必要です。

いかがでしたでしょうか。

ここまでは製造業の会社破産特有の注意すべきポイントについてご紹介しました。

製造設備や在庫、売掛金など、どれも会社の資産であるため取り扱いを間違うと破産手続きに大きな影響を与えてしまいかねません。

処分してしまう前に弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

では、会社の破産手続はどのように進んでいくのでしょうか。

ここからは、会社破産の流れについてご説明します。

2.会社破産の主な流れ

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法人破産の流れについてご紹介します。

主な流れは以下のとおりです。

(1)弁護士への相談・依頼

会社破産は、事業停止や解雇の話など、どのようなスケジュールで進めるのかを最初に入念に調整する必要があります。

そのため、事業継続か停止かを悩み始めたら早いうちに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

(2)破産手続開始申立ての準備

弁護士との契約が済むと、申立の準備が始まります。

破産申立は弁護士が代理して行うことになります。

そのため、会社の実印や銀行印、通帳、決算報告書、賃金台帳、事業所の鍵など、会社の資産状況に関する資料や換価手続に必要となる物は弁護士が会社から引き継ぐことになります。

申立準備段階で行うのは主に以下のような作業があります。

  • 受任通知(介入通知)の送付
  • 破産手続開始申立書の作成、書類の収集
  • 財産の保全、引継の準備
  • 従業員への対応
  • 事業所、店舗などの明渡し
  • 取締役会、理事会の承認決議
  • 必要に応じて裁判所との事前相談

(3)破産手続開始の申立・破産管財人の選任・破産手続開始決定

申立準備が整ったら、管轄の申立に破産手続開始の申立をします。

申立をすると、破産管財人を選任し、裁判所は破産手続の開始決定を出します。

(4)破産管財人による管財業務の遂行

破産管財人は選任されると申立書類を精査し管財業務を開始します。

会社代表者や申立代理人弁護士に対しては、破産管財人から以下のような要請がくることもあります。

  • 破産管財人との打合せ
  • 書類、資料の収集、作成への協力
  • 現地調査等への同行、立会

(5)債権者集会・配当手続・破産手続の終結

破産手続の開始決定から約3か月後に債権者集会という期日が設けられます。

申立人は債権者集会に出廷する必要があり、申立代理人は申立人に同行します。

債権者集会は、破産管財人が破産管財業務に関わる重要事項について意思決定をして、債権者に対して破産手続の進行について報告をする場です。

事案に応じて、1回のみで終了する場合、何度か期日を重ねる場合があります。

債権者集会は、債権者も出席することができます。

しかし、金融機関や消費者金融などの債権者が債権者集会に出席してくることはほとんどありません。

そのため、多くのケースで債権者側の出席はないまま進行する傾向にあります。

その後、破産財団が形成される場合は配当手続が行われ、破産手続は終結します。

破産手続申立から破産手続の終了までにかかる期間は最短3か月程度ですが、管財業務の進行に応じて、半年から1年程度を要することもあります。

まとめ

本記事では製造業の破産手続の特殊な点と注意すべきポイント、そして会社破産の主な流れについてご紹介しました。

製造業の破産手続の注意すべきポイントには、製造設備、在庫、売掛金の回収、行政への届出などがあります。

本記事で取り上げた以外にも、工場における土壌汚染や原状回復費の問題など、製造業の破産手続では気をつけるべきポイントが多数あります。

この他、取引先や従業員など、今まで良好な関係を築いてきた相手なだけに対応に悩む経営者の方も少なくありません。

当事務所の弁護士が皆さまの悩みにお答えしつつ、どのような対応をするのかが最適なのかをご提案します。

破産するか否かを迷っているという方も含め、まずは当事務所の弁護士にご相談いただければと思います。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。