建設会社が法人破産をする場合の特殊性とは?
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「建設会社が破産すると、どのような影響が生じるのか」
「建設会社が破産したときに、どのような処理をすればよいのか」
建設会社の経営者が破産を考えたとき、仕掛中の工事がどうなるのかが気がかりだという方は多いです。
建設会社が請負う業務は、請負代金が高額となりやすい、工程が複雑である、専門的な知識や技術が必要となるなど、途中で止めることが難しいことが少なくありません。
さらに、建設工事は多数の人々が関わって進めるため、建設会社が営業を止めた場合、その建設を依頼した注文者はもちろん、各工事を請負っている下請業者など、多数の関係者が破産手続の影響を受けます。
仕掛中の工事は可能な限り完成させることがが望ましいことはいうまでもありませんが、止むを得ず仕掛中で破産手続をとらなければならないことは当然あります。
どのタイミングで破産を決断するのが良いのか、代表者や申立代理人弁護士はどういう調整を行って破産手続を申立てるのが良いのか、そして破産管財人としてどのような処理をしていくのが良いのか、あらゆるシーンで調整が必要となるのが建設会社の破産手続の特徴です。
本記事では、建設会社の特殊性についてとりあげつつ、会社の破産がどのように進んでいくのかをご紹介します。
破産を視野にいれている建設会社の経営者の方は、是非ご一読ください。
1.建設会社でよく用いられる契約の種類「請負契約」
建設会社は、注文者から建設工事を請け負って施工を完了させ、その対価として注文者から代金を得ます。
法律のうえでこの契約の種類を「請負契約」といいます。
請負契約は、受注者は仕事を完成させ成果物を提供し、発注者は報酬を提供するという双方に義務が発生することが特色で「双務契約」の一種にあたります。
双務契約で代表的なものは、請負のほかに、売買・賃貸借・雇用といったものがあります。
破産手続きにおいて請負契約であるか否かは、契約書の名前で判断されるのではなく、その契約の実質に基づいて判断されます。
請負契約という名目だったとしても実態として雇用契約であるケースもあり、その場合は雇用契約であるとみなして相手方のもつ債権は労働債権として処理するということもあります。
2.会社破産手続における請負契約の処理
では、破産を申立てした後、請負契約は手続の中でどのような処理がなされるのでしょうか。
請負契約がある場合、それを遂行するか解約するかは破産管財人が選択することができます。
しかし、すべてのケースにおいて破産管財人が選択できるというわけではありません。
一体どういう枠組みになっているのかについて、以下にご紹介します。
(1)途中の請負契約を遂行するか解除するかは破産管財人が選択できる
破産管財人とは、破産手続を公平に進めるために裁判所が選任する弁護士です。
破産管財人は、破産財団の管理、会社資産の換価、各種調査、そして裁判所に対して意見を述べるなどの業務を行います。
破産管財人は、仕掛物件の請負契約がある場合、その契約を遂行するか解除するかを選択することができます。
その根拠は破産法にあります。
- 双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
- 前項の場合には、相手方は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなす。
- 前項の規定は、相手方又は破産管財人が民法第六百三十一条前段の規定により解約の申入れをすることができる場合又は同法第六百四十二条第一項前段の規定により契約の解除をすることができる場合について準用する。
簡単にいうと、建設会社の破産で仕掛物件がある場合に破産管財人が選択するのは、
- 請負契約を解除する
- 請負契約を遂行し仕事を完成させ、注文者に対し報酬を請求する
この2択ということです。
#1:破産管財人が工事中の建物の請負契約を解約する場合
通常選択されることが多いのは契約の解除です。
破産管財人は契約を解除するとともに工事の出来高を査定します。
査定は、工事の明細、施工図面、工程表、現場写真、実際の現場の状況などに基づいて行われます。
そのため、仕掛物件に関する資料は申立前から大切に保管しておく必要があります。
査定した結果、出来高が既に受領した前受金や中間金を超えている場合、管財人はその差額分を注文者へと請求します。
支払われた金額は破産財団へと組入れられます。
出来高が前受金を下回る場合は、その差額は注文者から債権として請求されることになります。
このとき注文者がもつ債権は、財団債権という破産債権よりも優先度の高い債権に割振られます。
ただし、その契約が破産手続き開始前に注文者により解除されていた場合は、注文者の返還請求権は財団債権ではなく通常の破産債権として扱われるため注意が必要です。
#2:破産管財人が工事中の建物の請負契約を遂行する場合
破産管財人は、破産財団に資金的・設備的な余裕があって仕掛物件を完成させることで債権者への配当を増加できる見通しがある場合、従前の従業員を雇用することや従前の下請業者に依頼したりすることで、仕事を完成させることがあります。
大規模工事の場合、破産管財人は、裁判所の許可を得て破産会社そのものの事業を存続させることもあります(破産法36条)。
しかし、建設途中の工事を継続できる体制を確保できたとしても、建設途中に労災事故が発生するリスクや、完成後の契約不適合責任(瑕疵担保責任)が破産債権となることから、この選択肢がとられることはあまり多くはないでしょう。
(2)請負契約の解除を破産管財人が選択できない場合とは?
施工内容によっては、注文者は代わりの請負業者を確保することができず、請負契約が解除される以上の不利益を被る可能性があります。
そのため、破産法53条にもとづいて破産管財人が請負契約を解除できる場面には、一定の制限が課されています。
裁判所のスタンスとしては、「当該請負契約の目的である仕事が破産者以外の者において完成することのできない性質のものであるため、破産管財人において破産者の債務の履行を選択する余地のないときでない限り」、請負契約の解除か工事の遂行を選択することができるとしています。
参考:最高裁判所第一小法廷 昭和62年11月26日 判決(民集第41巻8号1585頁)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55201
(3)注文者から契約を解除する場合
民法上、注文者は、請負人が仕事を完成させるまでの間は、いつでも損害を賠償して契約を解除することができます。
そのため、注文者側から契約を解除することも可能です。
契約の解除が行なわれた場合には、(1)①と同様に出来高の査定とそれに応じた債権債務関係の整理が行われます。
いかがでしたでしょうか。
ここまで建設会社の破産手続の特殊性についてご紹介しました。
建設会社が破産する場合、通常必要となる破産申立準備に加え、工事の明細、施工図面、工程表、現場写真などの仕掛物件に関する資料の保管、そして仕掛物件の保全が必要となります。これらは申立代理人となる弁護士と共に行っていく必要があります。
次に、会社の破産手続自体がどのような流れで進んでいくのかについてご紹介します。
3.法人破産の主な流れ
法人破産の流れについてご紹介します。
主な流れは以下のとおりです。
- 弁護士への相談・依頼
- 破産手続開始申立ての準備
・受任通知(介入通知)の送付
・破産手続開始申立書の作成、書類の収集
・財産の保全、引継の準備
・従業員への対応
・事業所、店舗などの明渡し
・取締役会、理事会の承認決議
・必要に応じて裁判所との事前相談 - 破産手続開始の申立て
- 裁判所による破産手続開始要件の審査
・書面審査
・破産審尋 - 破産手続開始決定、破産管財人の選任
- 破産管財人への引継ぎ
- 破産管財人による管財業務の遂行
・破産管財人との打合せ
・書類、資料の収集、作成への協力
・現地調査等への同行、立会 - 債権者集会
- 配当手続
- 破産手続の終結
まずは、弁護士に法人破産の相談をして、依頼をした場合には手続に必要な準備を行います。
準備が整い次第、破産手続の申立てを行うことになります。
破産手続が開始されると裁判所による要件の審査や破産管財人の選任が行われ、破産管財人に必要な資料を引き継ぎます。
破産管財人と打合せ等を済ませたあとは、債権者集会や配当手続が行われ、破産手続が終結したら手続の終了です。
長期にわたって破産手続が進められるので、スケジュールの確認はしておきましょう。
まとめ
建設会社の法人破産は利害関係者が多く、仕掛工事がある場合は、その請負契約をどうするのか整理していかなければなりません。
ケースに応じて、申立代理人の弁護士、破産管財人や注文者が方針を決めることがありますが、破産申立を考えている会社の方も請負契約の処理方法は一通り確認しておくべきでしょう。
弁護士法人みずきでは、法人破産に関する相談は無料で承っております。
法人破産を検討している方は、お気軽にご相談ください。
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