破産手続を行なった時点で資産から固定資産税、所得税の租税債権が支払われることについて

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破産手続を行なった時点での破産者の資産(これを「破産財団」といいます。)から所得税、住民税、固定資産税などの税金は支払われるのでしょうか。

それとも、破産手続とは別に自力で返済をしなければならないのでしょうか。

破産手続をしたとしても、資産がほとんどない場合には、破産手続は廃止され、破産手続内で破産者の税金や借金について支払が行なわれることはありません。

この場合、個人の自己破産手続をしたとしても、税金は借金の帳消しの対象とはなりませんので、破産手続開始後に自力で稼いだお金などで税金の支払をしなければなりません。

他方で、不動産などの資産が十分にある場合には、その不動産を売却し、その売却代金のうちから破産手続内で支払がされることがあります。

今回は、破産手続を行なった時点での資産から固定資産税、所得税などの租税債権が支払われる場合について簡単に説明をしていきます。

1.租税債権とは

租税債権とは、「国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権」とされています。

租税債権は、税金という性質から法律上優先的に取り扱われることになっています。

具体的には、所得税、法人税、消費税、住民税、固定資産税、自動車税などがあります。 租税債権といっても、全てが同じに扱われるのではなく、①破産手続開始前の原因によって生じたものに該当するかどうか、② ①のうち破産手続開始決定時に具体的納期限が未到来か具体的納期限から1年を経過していない債権に該当するかどうか、③破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権に該当するかどうかどうかによって異なります。

おおまかにいうと、①かつ②に該当する場合又は③に該当する場合には、破産手続上は、租税債権が破産手続内で最も優先的に支払がされる債権(「財団債権」といいます。)として取り扱われます。

この財団債権に対しては、破産財団から配当によることなく裁判所から選任された破産者の財産の管理、調査、換価を行なう破産管財人と呼ばれるものによって配当という手続によらずに優先的に支払が行なわれます。

①には該当するものの②には該当しない場合には、財団債権よりも優先順位が落ちる債権(「破産債権」といいます。)として取り扱われます。

この破産債権に対しては、破産財団に十分にお金がある場合に、破産管財人によって配当が行なわれます。

①にも③にも該当しない場合には、財団債権でも破産債権にも該当しません。

この場合、破産手続外の債権として取り扱われ、破産手続開始後に自力で稼いだお金によって支払うことになります。

以下では、固定資産税と所得税が発生する場合に、具体的にどのように取り扱われるかについて説明をしていくことにします。

2.固定資産税の場合

固定資産税とは、不動産の所有者に課税される地方税のことで、毎年1月1日を賦課期日とし、1月1日現在の所有者に普通徴収により、毎月4月、7月、12月、翌2月中のうち条例で定める日を具体的な納期限として課税されます。

この具体的な納期限については、納税通知書に記載されます。

ここでは、平成29年9月15日に破産手続の開始決定がされた場合をみていくことにしましょう。

(1)平成29年度の固定資産税

平成29年度の固定資産税は、平成29年1月1日現在の不動産所有者に課税されることになります。

破産手続開始決定当時、具体的納期限が未到来又は具体的納期限から1年経過していないものは、配当が行なわれる際に最も優遇される債権(これを「財団債権」といいます。)となります。

そうすると、平成29年4月及び同年7月に具体的納期限の到来する平成29年度の固定資産税は、平成29年1月1日が賦課期日であることから、①破産手続開始決定前の原因に基づき生じたものであり、②破産手続開始時に具体的納期限から1年を経過していないので財団債権として取り扱われることになります。

また、平成29年12月と翌年2月に具体的納期限の到来する平成29年度の固定資産税も、平成29年1月1日が賦課期日であることから、①破産手続開始決定前の原因に基づき生じたものであり、かつ、②破産手続開始時に具体的納期限が未到来の債権であることから、財団債権として取り扱われることとなります。

このように、今回のケースの場合には、配当によらずに、優先的に破産管財人より固定資産税の支払がされることになります。

(2)平成28年度の固定資産税

それでは、平成28年度の固定資産税が滞納になっている場合はどうでしょうか。平成29年9月15日の破産手続開始決定があった場合ですので、ちょうど1年前の平成28年9月15日以前に具体的納期限があるものは、財団債権として取り扱われず、優先的破産債権として取り扱われることになります。

すなわち、平成28年度の固定資産税のうち、同年4月及び8月に具体的納期限が到来するものについては、①破産手続開始決定前の原因に基づき生じたものではありますが、②破産手続開始決定日までに具体的納期限から1年以上経過していることになるので、財団債権ではなく破産債権として取り扱われることになります。

なお、この場合破産債権として取り扱われるとはいっても、税金のため他の債権よりも優遇される優先的破産債権として取り扱われることになり、財団債権の弁済された後に、なお破産財団に余剰がある場合に、他の一般的な破産債権として取り扱われる債権よりも優先的に配当がされることになります。

他方で、同年12月及び翌年2月に具体的納期限が到来する平成28年度の固定資産税については、また破産手続開始決定日である平成29年9月15日から1年を経過していないため、財団債権として取り扱われることになります。

すなわち、配当によらずに、優先的に破産管財人より固定資産税の支払がされることになります。

(3)平成30年度の固定資産税

平成30年度の固定資産税は、平成30年1月1日に課税されるので、破産手続開始後の原因に基づいて生じた租税債権ではありますが、任意売却ができず破産管財人が管理している場合には、破産財団の管理、換価に関する費用に該当するので財団債権として取り扱われることになります。

他方で、平成29年12月末日までに破産管財人が管理をせず、放棄をした不動産については財団債権にも破産債権にも該当しません。

そのため、破産者が破産手続後に得た財産などから自力で固定資産税の支払をすることになります。

3.所得税の場合

所得税とは、個人の所得に対する国税で、毎年1月1日から12月31日までの1年間の所得につき、その年の終了時(12月31日午後12時)に成立するとされ、期限内に申告した場合は、翌年3月15日が具体的期限となります。

破産手続開始決定の年の所得に対する所得税は、破産手続開始決定の年の終了時に成立することになるので、破産手続開始後の原因となり、非財団債権、非破産債権となります。

具体的に、固定資産税のところで検討したように、平成29年9月15日に破産手続開始決定があった場合でみていきましょう。

たとえば、平成29年8月15日に不動産の売却をして多額の所得が生じた場合の所得税は、破産手続開始決定の年の終了時に成立することになるので、破産手続開始後の原因となり、非財団債権、非破産債権となるため、破産者が破産手続開始後に得た財産などから自力で所得税の支払をすることになります。

他方で、破産手続開始決定が平成29年1月15日にあった場合は、上記の所得税は破産手続開始決定前の原因となり、かつ、具体的納期限が未到来であるため、財団債権として取り扱われることになります。すなわち、配当によらずに、優先的に破産管財人より所得税の支払がされることになります。

まとめ

今回は、破産手続を行なった時点での資産から固定資産税、所得税などの税金が支払われる場合について簡単に説明を行ないました。

具体的な場合に、どのように取り扱われるかについては個別のケース、税金の種類によって異なります。破産の申立を検討しているが、税金の支払いについてどうなるのかお悩みの方は、早めに弁護士に相談されることをおすすめします。