会社の倒産で従業員の退職金はどうなるのか。退職金の取り扱いや未払賃金立替払制度について解説

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

「会社の倒産を考えているが従業員に退職金を支払っていいのか」
「従業員に退職金を支払えない」

会社が倒産状態に陥り破産手続きを視野にいれたとき、従業員の退職金の問題は気になる点のうちのひとつです。

本記事では、会社が倒産状態にある方や会社の破産手続きを検討中の経営者の方に向けて、従業員への退職金は払ってもいいのか、従業員の退職金を支払う際の注意点、そして、退職金を支払えない場合に使える制度についてご説明します。

会社を破産させることは大きな決断でなかなか踏み切りづらいものです。

破産手続きを行う際は従業員を解雇する必要があります。

解雇せずに申立てた場合は裁判所が選任する破産管財人が解雇を行うため、どのみち解雇は避けられません。

今まで一緒に会社を支えてくれた従業員に不義理なことをしたくないというお気持ちはよくわかります。

しかし、倒産状態にある会社の無理な延命は、関係者の再起を遅らせてしまうため、かえってよくないことです。

どのように進めていくのが互いにとって一番良いのか。本記事を読んで模索していただければと思います。

1.会社が倒産処理する場合は退職金は支払われるのか?

破産手続きは、裁判所のもと破産法にしたがって、会社財産を債権者に対して平等に分配し、その後に会社を消滅させる手続です。

未払いの退職金等がある場合、従業員は会社の債権者ということになります。

破産手続きにおいて、債権はその内容に応じて分類があり、それぞれ優劣が決まっています。

そのため、その債権が会社財産から支払われるのかどうかは、債権の優劣と会社財産がどの程度形成されるかによります。

もしこの優劣を無視して会社財産を処分してしまうと、その行為が破産手続上問題視されます。

場合によっては、裁判所がその処分したお金を取り戻しに動いたり、その処分をした人へ弁償を求めたり、破産手続きが進まなくなってしまう可能性もあります。

そのため、基本的に退職金の処理は破産管財人が行うことになります。

では、破産管財人の管理のもとで退職金は支払われるのでしょうか。

以下に、破産手続きにおける退職金の取り扱いについてご説明します。

(1)退職金は財団債権と優先的破産債権にあたる

結論からいうと、破産手続きにおける退職金の位置づけは優先度の高いところにあるため、会社財産が十分に形成されるのであれば、支払いを受けられる可能性は比較的高いということができます。

破産法において退職金は「財団債権」と「優先的破産債権」にあたります。

財団債権は、破産手続きのうえでもっとも優先度が高い債権です。

優先的破産債権は、財団債権には劣るものの破産債権の中では優先度が高いものです。

では、財団債権にあたる退職金とはどういうものなのでしょうか。

(2)退職金のうち給料3か月分に相当する金額は財団債権

冒頭でも述べましたが、財団債権は破産手続きのうえでもっとも優先度が高い債権です。

その根拠は、破産法にあります。

(財団債権の取扱い)
第百五十一条 財団債権は、破産債権に先立って、弁済する。

そして、破産法において、退職金は次のように定められています。

(使用人の給料等)
第百四十九条 破産手続開始前三月間の破産者の使用人の給料の請求権は、財団債権とする。

2 破産手続の終了前に退職した破産者の使用人の退職手当の請求権(当該請求権の全額が破産債権であるとした場合に劣後的破産債権となるべき部分を除く。)は、退職前三月間の給料の総額(その総額が破産手続開始前三月間の給料の総額より少ない場合にあっては、破産手続開始前三月間の給料の総額)に相当する額を財団債権とする。

簡単にいうと、退職金規程に基づいて計算した退職金の金額のうち、次の2点のいずれか高い方が財団債権ということになります。

  1. 退職前3か月間の給料の総額
  2. 破産手続開始前3か月の給料の総額

財団債権は破産手続きの中でもっとも優先的に支払われるもので、破産管財人によって配当に先立って支払われます。

つまり、退職金が破産手続きの中で支払われる優先度は比較的高いといえます。

ここで注意しなければならないのは、財団債権には破産申立費用、破産管財人報酬、一部の租税などがあり、退職金だけではないという点です。

財団債権が複数あり、そのすべてを支払うだけの会社財産がない場合、財団債権は破産管財人の処理のもと債権額に応じて按分して支払われることになります。

破産手続きを円滑に進めるためには、財団債権の中でも優先的に会社財産から捻出すべきものがあります。

これについては後述します。

(3)その他は優先的破産債権

退職金のうち財団債権ではない部分は優先的破産債権となります。

優先的破産債権は、破産債権の中では優先度が高いですが、財団債権には劣ります。

退職金のうち優先的破産債権にあたる部分については、財団債権支払い後になおも会社財産が残っている場合に限り、配当を受けることができます。

2.退職金について注意すべき点

ここまで、退職金は債権であること、破産手続きの中では債権に優劣があること、そして退職金は財団債権の範囲においては優先的に支払いを受けられる性質の債権であることについてご説明しました。

ここでは、従業員に退職金が支払われるか否かを考えるにあたって注意すべき事項についてご説明します。

(1)破産手続申立てに必要な費用を確保できているか

退職金等を支払うよりも先に破産手続申立てにかかる費用を確保する必要があります。

破産はお金がない場合にとる手続きなのにと思われるかもしれません。

しかし、破産手続きにおいては破産申立代理人弁護士、裁判所や破産管財人など複数の人が必要となるため、その手数料や報酬は不可欠なものとなります。

そのため、まず破産手続申立てにかかる費用を確保したうえで会社財産がほとんど残っていない場合は、退職金が支払われる可能性は低いということになります。

破産手続きにかかる費用は、申立代理人弁護士に支払う費用、裁判所に支払う費用の2種類があります。

金額は、債権者の数や債務の総額、換価や調査の作業量などに応じて異なってきます。

破産手続きにかかる費用は、破産法において財団債権と定められているため、優先的に会社財産から捻出することが可能です。

詳しくは、下記のページで解説していますのでご一読ください。

会社破産にかかる費用や払えない場合の対処法について弁護士が解説

(2)退職金規程等がなければ支払えない

破産手続きにおいて、優先的に会社財産から支払って良い退職金は、社内の退職金規程や就業規則に根拠をもつ退職金である必要があります。

退職金規程等がないところ経営者の判断により支払う慰労金の場合は、優先的に会社財産から支払って良い退職金とは性質が異なります。

(3)会社財産を超えて支払う必要はない

退職金規程等に根拠のある退職金だったとしても、会社財産をもって支払うことができない場合は、それ以上支払う必要はありません。

時折、経営者の財産から支払う必要があると思っている方がいらっしゃいますが、経営者の財産をもって支払う必要もありません。

むしろ、経営者の財産から支払うことは、破産手続きへ影響が出る可能性があるため避けなくてはいけません。

というのは、会社の破産手続きを行う場合、経営者は会社の債務の保証人となっているケースが多く、その場合は会社と共に破産手続きを進めなくてはいけない可能性があります。

経営者も破産手続きをしている場合、経営者の財産を従業員へ渡すことは経営者の債権者にマイナスの影響を与えることになってしまいます。

この場合も破産管財人によって否認されることが考えられるため注意しなければなりません。

(4)中小企業退職金共済の場合は手続きを進めてしまってよい

会社が中小企業退職金共済制度(中退共)に加入しており、退職金が共済から従業員へ直接支払われるものである場合は、破産手続きとは関係ない手続きとなります。

退職した従業員は破産手続きとは関係なく退職金の支払いを受けることができます。

3.会社財産から退職金を支払えない場合は未払賃金立替払制度を利用する

では、会社財産が十分に形成されない場合、退職金を受け取る手立てはないのでしょうか。

会社財産以外から支払いを受ける方法として「未払賃金立替払制度」という制度があります。

未払賃金立替払制度とは、会社が賃金未払いのまま破産した場合に政府が事業主に代わって支払う制度です。

全国の労働基準監督署及び独立行政法人労働者健康安全機構が運営しています。

どういう場合に使えるのかについて以下にご説明します。

(1)未払賃金立替払制度の利用条件

未払賃金立替払制度の対象者となるためには以下のとおり、会社としての条件と労働者としての条件があり、その両方を満たす必要があります。

#1:使用者について

使用者については次の2つの条件があります。

  • 労災保険の適用事業において1年以上事業活動を行っていたこと
  • 法律上または事実上の倒産に該当すること

「法律上の倒産」とは、破産、特別清算、民事再生、会社更生のうちいずれかを行っていることを指します。

この場合、破産管財人などに倒産の事実等を証明してもらう必要があります。

「事実上の倒産」は労働基準監督署長の認定が必要となるため、労働基準監督署に認定の申請を行うこととなります。

#2:労働者について

労働者については次の2つの条件があります。

  • 倒産について裁判所への破産申立等または労働基準監督署長への認定申請(事実上の倒産の場合)が行われた日の6か月前から2年の間に退職し
  • 未払賃金が2万円以上あること

(2)未払賃金立替払制度で対象となる支払いや金額

立替払の対象となる未払賃金は、労働者が退職した日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している給与と退職金のうち未払いとなっているものです。

ここで気をつけなければならないのは、賞与は対象外となる点です。

立替払いの金額は、未払賃金の額の8割です。

さらに、退職時の年齢に応じて88万円~296万円の範囲で上限が設けられています。

(3)未払賃金立替払制度を利用する場合の注意点

未払賃金立替払制度の利用を予定している場合に会社として対応して注意しておく必要があるのは、

  • 破産の申立ては、従業員を解雇してから6か月以内に行うこと
  • 未払賃金の金額と根拠がわかる資料を破産管財人に引き継いでおくこと
  • 期限内に請求できるよう、破産申立完了後に従業員に対して制度の案内をしておくこと

この3点です。

未払賃金立替払制度は倒産状態にある中小企業にとっては心強い制度です。

同時に、破産申立ての時期によって対象者が変わるため、従業員の解雇から破産申立てまで、あらかじめスケジュールを定めて臨む必要があります。

申立費用の工面や社内外への公表も含め、弁護士に相談のうえ進めていくことをおすすめします。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

本記事では、会社破産においては債権に優劣があり、会社財産からの支払いは優劣にしたがって行わなければならないこと、

その中で、退職金規程等で定められた退職金は、財団債権と優先的破産債権という優先度の高い債権にあたるものの、会社財産が形成されない場合は払われないこと、そして、未払賃金立替払制度という制度があるということについてご紹介しました。

会社が倒産状態に陥ってしまったとき、会社の経営者ができることは、破産を決断することです。決断には色々な不安が付きまといます。

我々弁護士は、破産を決断された経営者の不安を少しでも軽減しつつ破産手続きが進むよう各方面でのサポートをしています。

このままでいいのかなと迷われた方は、是非当事務所にご相談いただくことをおすすめします。弁護士に相談することで、そもそも破産すべきかどうかという点からアドバイスを受けることができます。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。