会社破産手続で優先的に配当を受けられる債権とは?債権の種類について弁護士が解説!

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

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会社を破産させる場合に各債権者がどのように扱われるか、特に、弁済や配当を受けられるのかを気にされる経営者、役員の方は少なくありません。

破産手続において債権者は平等に扱われます。

しかしそれは、弁済・配当の場面においては、法律に定められた優先順位にしたがった平等という意味です。

特定の債権者がもっている債権の種類が優先順位の高いものであれば、会社破産手続において支払いを受けることができる可能性が高いです。

反対に、優先順位が低いものであれば、支払いを受けられる可能性は低くなります。

本記事では、債権がどのような種類に区分されているかやそれら債権が支払われる優先順位、そしてどの債権まで配当される可能性があるのかについて解説します。

会社を破産させた場合に各債権者がどうなるのかを把握しておきたいという方は、本記事を参考にしていただければと思います。

1.債権の種類とその優先順位

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破産財団から支払いを受けることができる債権は、財団債権と破産債権に大きくわけられます。

財団債権と破産債権とでは、財団債権が破産債権に優先します。

「優先する」が具体的にどういうことかというと、破産手続で会社が持っていた財産の換金などによって等債権者に支払う原資である破産財団が形成された場合、まず財団債権に対する弁済が行われ、それでもなお財産が残った場合は、破産債権に対する配当が行われるということになります。

つまり、あくまで破産申立をした会社に財産がある場合に限られますが、財団債権に該当する債権をもっている債権者の方が弁済を受けられる可能性が高く、破産債権の方が低いといえます。

2.財団債権について

上記のように財団債権は、破産債権に優先することになります。

この財団債権には、法律上財団債権だと明記されているもの(148条・149条)と、裁判所の許可により財団債権とすることができるもの(150条)とがあります。

財団債権で代表的なものは、破産管財人の報酬債権、一部の租税債権、そして一部の労働債権です。

また、財団債権の中でもさらに優劣があります。

もし債権者への支払いの原資になる破産財団が財団債権全額を支払えるほどに形成されない場合は、各財団債権の債権額の割合に応じて按分した金額が弁済されることになります。

(1)財団債権とは

財団債権は、破産法上、破産手続によらずに随時・優先して支払われる債権のことをいいます(2条7号)。

第2条(定義)

7 この法律において「財団債権」とは、破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権をいう。

財団債権には、破産債権者全体の利益のために必要な費用と、政策的判断により財団債権に振り分けられているものがあります。

前者は、破産管財人の報酬や、破産財団の管理、換価、配当に関する費用などがあります。

後者は、一部の労働債権、一部の公租公課などがあります。

ここでは、労働債権と公租公課について解説します。

#1:破産手続開始前の労働債権

破産法では、破産手続開始決定前の原因に基づく労働債権(賃金・給与など)のうち破産手続開始前3か月間の給与と、退職手当請求権のうち退職前3か月の給料の総額に相当する額は財団債権だと定められています。

第149条(使用人の給料等)

破産手続開始前三月間の破産者の使用人の給料の請求権は、財団債権とする。

2 破産手続の終了前に退職した破産者の使用人の退職手当の請求権(当該請求権の全額が破産債権であるとした場合に劣後的破産債権となるべき部分を除く。)は、退職前三月間の給料の総額(その総額が破産手続開始前三月間の給料の総額より少ない場合にあっては、破産手続開始前三月間の給料の総額)に相当する額を財団債権とする。

さらに、上記以外の労働債権は、後述しますが、「優先的破産債権」となります。

この優先的破産債権は、一般の破産債権より優先します。

このように、従業員の給与は、関係者の生活に直結するため、政策的に債権の中では優先度が高いものとされています。

#2:破産手続開始前の租税債権

破産手続開始決定前の原因に基づく租税債権(税金)は、手続開始決定当時まだ納期限が到来していないもの、または納期限から1年を経過していないものに限り財団債権とされています。

租税債権は、かつて、すべて財団債権とされていましたが、過度に優遇していると批判されていました。

そこで、現在の破産法は、租税債権のうち、1年間滞納処分等による措置をとらなかった租税債権を優先的破産債権に格下げをしました。

(2)財団債権の中にも優劣がある

財団債権の中にも優劣があります。

財団債権内での優劣が問題となるのは、破産財団が財団債権全額を賄えない場合です。

財団が不足する場合の弁済方法は、破産法152条1項に規定されています。

第152条(破産財団不足の場合の弁済方法等)

破産財団が財団債権の総額を弁済するのに足りないことが明らかになった場合における財団債権は、法令に定める優先権にかかわらず、債権額の割合により弁済する。ただし、財団債権を被担保債権とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権の効力を妨げない。

この条文によると、破産財団が財団債権の総額を下回る場合は、各財団債権の金額に応じて按分するとしています。

しかし、これには例外があります。

財団債権のうち152条2項に該当するものは、財団債権の中でも優先的に弁済を受けられます。

2 前項の規定にかかわらず、同項本文に規定する場合における第百四十八条第一項第一号及び第二号に掲げる財団債権(債務者の財産の管理及び換価に関する費用の請求権であって、同条第四項に規定するものを含む。)は、他の財団債権に先立って、弁済する。

152条2項にあてはまるのは具体的には以下の3点で、その中でも上から順番に優先順位があります。

①破産管財人報酬(立替事務費含む)
②債権者申立てまたは第三者予納の場合の予納金補填分
③148条1項「破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権」と2項「破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権」のうち上述①②を除くもの

これらは、破産という債権者全員にとってメリットがある手続を進めるにあたって必要な費用なので、その他の財団債権よりも優先的に弁済を受けられるよう便宜がはかられています。

3.破産債権について

次に、破産債権です。

破産債権は、財団債権の全額が弁済できたうえで、なおも破産財団に余剰がある場合に配当を受けることができます。

破産債権の中でも優先順位が決まっていて、優先順位が高いものから順に配当されます。

(1)破産債権とは

破産債権とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権のことをいいます(2条5号)。

第2条(定義)

5 この法律において「破産債権」とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(第九十七条各号に掲げる債権を含む。)であって、財団債権に該当しないものをいう。

破産法は、破産手続開始時点を基準にして、それまでに原因が生じた債権を破産手続に取り込んでいます。

破産債権の額については、手続開始時点で弁済期が到来していなくても到来したものとみなされます。

また、非金銭債権では、金銭債権に評価されることになります。

(2)破産債権の中での優先順位

破産債権は以下の4種類があり、上から順に配当されます。

  • 優先的破産債権
  • 一般の破産債権
  • 劣後的破産債権
  • 約定劣後破産債権

それでは各債権について以下に解説します。

#1:優先的破産債権

一般の先取特権その他の一般の優先権がある破産債権をいいます。

優先的破産債権の中でも優劣があり、①国税と地方税、②公課、③私債権の順番です。

労働債権のうち財団債権以外の部分は、優先的破産債権の③私債権にあたります。

#2:一般の破産債権

優先的でも劣後的でもない破産債権のことをいいます。

#3:劣後的破産債権

政策的に劣後的に扱われる破産債権をいいます。

たとえば、手続開始後の利息・損害金が劣後的破産債権に該当します。

#4:約定劣後破産債権

約定で劣後性が定められるいわゆる劣後ローン債権をいます。

破産債権のうち破産手続で配当される可能性は上記の優先順位に高くなり、会社資産がどの程度形成されるかにもよることになりますが、配当がなされる傾向としては、優先的破産債権の全額または一部までで、一般の破産債権は配当が回るにしても一部配当という程度にとどまります。

一般の破産債権まで全額配当されるということはほとんどないといってよく、劣後的破産債権と約定劣後破産債権にまで配当が回ることは事実上ないといえるでしょう。

債権の種類と弁済・配当の優先順位をまとめると、次のような図になります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は破産手続において債権がどのような種類に区分されるのかとそれらの優先順位について解説しました。

破産手続においては、財団債権と破産債権という2種類の債権に大きくわかれ、財団債権は破産債権より優先的に弁済を受けることができます。

破産債権は、優先的破産債権、一般の破産債権、劣後的破産債権、約定劣後破産債権の4種類があり、財団債権の全額を弁済してもなお財団に余剰がある場合にのみ、優先順位に応じて配当されます。

破産手続には依頼をする弁護士の費用や裁判所に納める予納金など一定の費用もかかりますので、従業員などその他の債権者へも分配することを考えると、ある程度会社資産が残っているうちに考えなければなりません。

会社の財産が全く無くなってしまってからでは破産手続をとること自体が難しくなってしまうことがあります。

会社の破産に踏み切るか、事業継続の道を探るか、会社代表者の中には判断に迷っている方は、一度、当事務所の弁護士にご相談ください。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。