法人破産の概要とその管轄の考え方を弁護士が解説

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

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あわせてご視聴いただければと思います。

「会社を経営しているが、資金繰りが悪化して倒産を検討している」
「破産手続を利用するとき、どの裁判所に申し立てればよいのか分からない」
「法人破産を選択したときのメリット・デメリットが知りたい」

会社を経営する方の中には、会社の負債を整理するために会社の破産手続を考えて、このようなお悩みをお持ちの方もいらっしゃると思います。

本記事では、法人破産手続の申立てと密接に関わる管轄の意義、法人破産手続を選択した際のメリット・デメリットなどについてご説明します。

1.破産事件における管轄の意義と申立先

まず、管轄の意義について確認したうえで、破産事件についての管轄を法人破産、代表者破産、同時申立ての可否の各場合について見ていきましょう。

(1)管轄とは

裁判手続を利用する際は、どこかの裁判所に申立て書類を提出しなければなりません。

裁判所は全国各地にありますが、どこの裁判所でも受け付けてくれるというわけではなく、申立てるべき裁判所は法律によって決まっています。

これを裁判管轄といいます。

今回は、破産法に定められている、破産手続における裁判管轄についてご紹介します。

(2)破産事件の管轄

破産手続の申立て先の管轄裁判所は、破産法5条に定められています。

#1:法人破産の場合

法人が破産を申立てる場合には、原則として主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所に対して行います。

通常は登記簿上に記載された本店所在地が基準となります。

なお、本店所在地と実質上の本店所在地が一致していない場合には、実質上の本店所在地が基準となります。

第5条1項 破産事件は、債務者が、営業者であるときはその主たる営業所の所在地、営業者で外国に主たる営業所を有するものであるときは日本におけるその主たる営業所の所在地、営業者でないとき又は営業者であっても営業所を有しないときはその普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。

#2:代表者破産の場合

個人の破産を申立てる場合、通常は住民票上に記載された住所を管轄する裁判所に申立てします。

しかし、法人の代表者が破産を申立てる場合は、法人の本店所在地を管轄する裁判所に申立てることができます。

例えば、法人の本店所在地が東京にあり、代表者の住所が神奈川県にある場合、東京地方裁判所にも神奈川地方裁判所にもどちらに対しても申し立てることが可能です。

なお、法人の代表者は、法人の債務の連帯保証をしている場合が多く、法人と法人の代表者の事件は、関連事件として一緒に進める必要があるため、同時に申立てることが多いです。

第5条6項 第一項及び第二項の規定にかかわらず、法人について破産事件等が係属している場合における当該法人の代表者についての破産手続開始の申立ては、当該法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ、法人の代表者について破産事件又は再生事件が係属している場合における当該法人についての破産手続開始の申立ては、当該法人の代表者の破産事件又は再生事件が係属している地方裁判所にもすることができる。

#3:大規模事件管轄

この他、債権者の数に応じて次の裁判所にも管轄が生じます。

① 債権者が500人以上の場合

債権者が500人を超える場合は、高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも申立てることができます。

例えば、債務者の住所が栃木県宇都宮市で債権者が500人を超えている事件の場合は、宇都宮市を管轄する高等裁判所は東京高等裁判所ですから、東京地方裁判所にも申立てることができるということになります。

第5条8項 第一項及び第二項の規定にかかわらず、破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権となるべき債権を有する債権者の数が五百人以上であるときは、これらの規定による管轄裁判所の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも、破産手続開始の申立てをすることができる。

② 債権者が1000人以上の場合

債権者が1000人を超える場合は、東京地方裁判所または大阪地方裁判所にも申立てることができます。

第5条9項 第一項及び第二項の規定にかかわらず、前項に規定する債権者の数が千人以上であるときは、東京地方裁判所又は大阪地方裁判所にも、破産手続開始の申立てをすることができる。

2.法人破産の概要とメリット・デメリット

債務整理と自己破産の違い

次に、法人破産手続の概要と手続きを利用するメリット・デメリットについてポイントを押さえましょう。

(1)法人破産手続の概要

法人破産は、資金繰りなどの事情によって会社の負債への返済が困難となり、これ以上事業を継続できない場合に、裁判所に申立てを行い、会社を清算する(消滅させる)手続です。

法人破産を裁判所に申し立てると、裁判所によって破産管財人が選任され、会社の財産がその管財人によって債権者に公平に配当されます。

この法人破産は次のようなメリットとデメリットがあります。

(2)法人破産のメリット

#1:負債の返済に関する督促・取立てが停止すること

弁護士に依頼した後、弁護士から債権者に対して弁護士が依頼を受けた旨の通知がなされます。

以降は弁護士がすべてのやりとりを行うため、法人や代表者に対する直接の督促や取立ては停止します。

#2:資金繰りに悩むことがなくなりること

破産手続が終了すると、会社の法人格は消滅します。

そのため、会社に対するすべての負債も消滅するため、それ以降、資金繰りに悩むことがなくなります。

原則として税金や社会保険料、損害賠償義務も消滅します。

そのため、経営、役員が再出発を図るためにも必要かつ有益な手続といえます。

(3)法人破産のデメリット

#1:会社を再建できないこと

会社の破産手続を行う場合、最終的に会社の法人格が消滅することになります。

そのため、破産を行った会社を再建することはできなくなります。

会社の再建を前提として考えるならば、法人破産手続ではなく民事再生手続などの再建を前提とした手続きを利用することを考えることになります。

民事再生手続の利用に関しては、弁護士に相談・確認してみることをおすすめします。

#2:従業員を解雇しなければならないこと

法人破産手続では、会社の法人格が消滅するため、従業員を全員解雇する必要があります。

従業員には破産しなければならない事情を丁寧に説明し、誠意ある対応をしなければなりません。

また、従業員の社会保険や年金の切替手続についても協力する必要があります。

#3:費用が高額になること

法人破産では行うことが多岐にわたり、手続きも個人の破産と比べて複雑になるため、弁護士費用や裁判所へ納める予納金が高額となります。

とくに、負債額が高額であったり、会社の規模が大きく利害関係者が多い場合にはそれに比例してかかる費用も高額となります。

#4:会社の財産がすべて処分されること

法人破産では、会社の財産はすべて処分され、それが債権者へ配当されることになります。

これは、会社を清算するために会社の財産できるだけ換価して債権者に配当するという手続の目的から必要なことです。

まとめ

本記事では法人破産に関する管轄の意義、法人破産手続の概要やメリット・デメリットについてご説明しました。

法人破産は裁判所への申立てや手続きについて初めて経験する方が多く、分からない事が多くあると思います。

破産手続についてはまだ行うことが決まっていないとしても一度弁護士へ相談してみることをおすすめします。

弁護士法人みずきでは、これまでに数多くの法人破産の事案に対応してきました。

経験豊富な弁護士が丁寧にお話を伺いますので、法人破産手続の利用をご検討の方はお気軽にご相談ください。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。