法人破産を行う際に株主への通知や株主総会は必要?弁護士が解説

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

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「法人破産を行うことを検討しているが、株主への通知や承認は必要なのか」
「法人破産を行うことで、株主から損害賠償請求がされるのか知りたい」

会社、法人の破産を行うことを検討している経営者や役員の方の中には、このような疑問をお持ちの方もいると思います。

特に株式会社が法人破産を行う場合、株主は投下資本の回収ができなくなるなどの不利益を被るため、事前に株主への通知や株主総会の招集が必要と思われる方もいるでしょう。

しかし、法人破産を行う際には原則として株主への通知や株主総会の招集は不要です。

本記事では、法人破産において株主への事前通知や株主総会の招集が不要な理由、法人破産が株主に与える影響などについてご説明します。

1.法人破産と株主総会

法人破産を行う際には、事前に株主へ通知を行うことや株主総会の招集は法律上不要とされています。

法人の資金繰りが悪化し、法人破産を申し立てなければならない状況では、迅速に破産の申立てを決定し、法人の資産が目減りや流出をしないようにする必要があります。

もし破産手続を進めることが遅れ、法人の資産が減少した場合には、その分債権者に対する配当も減少することになってしまいます。

このように、法人破産の申立ては緊急性を要するため、時間のかかる株主の招集や株主総会決議が不要とされています。

また、株主に事前に法人破産を行うことを通知すれば、株主は破産に先だって株式を売却することが考えられます。

株式市場の公平性という観点からは、法人破産のような重大な情報が株主のみに通知されることは不公平を招きますので、金融商品取引法が禁止する「インサイダー取引」に該当します。

そのため、インサイダー取引を防止するという観点からも、株主への事前通知や株主総会決議を要件とすることには問題があります。

2.法人破産を行う際に必要な決議

すでに述べたように、法人破産を行う際には株主総会の決議は不要です。

もっとも、会社が法人破産を行う際には取締役全員の同意や決議を要します。

具体的には、取締役会を設置している会社と設置していない会社で必要な方法が異なります。

それぞれについて以下でご説明します。

(1)取締役会設置会社

取締役会は、3人以上の取締役で構成されます。

取締役会を設置している会社は、法人破産を行うにあたり、取締役会の決議が必要です。

具体的には、取締役の過半数が出席し、その過半数で法人破産を承認し、取締役全員の署名と押印をした議事録を作成し、法人破産を申し立てる際に裁判所に提出する必要があります。

なお、取締役の同意が得られず、取締役会の決議が行えない場合には、個々の取締役が会社の準自己破産を申し立てることが可能です(破産法19条1項)。

そのため、取締役全員の同意を得ることができない場合であっても、個々の取締役が破産手続の開始原因についての疎明を行うことで、法人破産を行うことができます。

なお、疎明は証明とは異なり、種々の資料などから開始原因である支払不能や債務超過の事実が一応確からしいことを示すことができれば足りるとされています。

(2)取締役会を設置していない会社

取締役が複数人いるものの、取締役会が設置されていない会社である場合には、個々の取締役の同意が必要です。

破産手続への同意書をそれぞれ作成し、法人破産を申し立てる際に裁判所へ提出する必要があります。

なお、取締役全員の同意が得られない場合は、取締役会設置会社と同様に個々の取締役が法人の準自己破産を申し立てることによって、法人破産を行うことができます。

なお、その他に必要な提出書類については、以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご参照ください。

法人破産の申立てに必要な提出書類について弁護士が解説

3.法人破産が株主に与える影響

法人破産を行うことについて株主の承認が要件ではないことを説明しましたが、法人の破産がその株主に与える影響もあります。

具体的には、以下のとおりです。

法人破産が株主に与える影響

  1. 出資した株式が無価値になる
  2. 株主は会社の債務を負担することはない

順にご説明します。

(1)出資した株式が無価値になる

株主が会社の株式を取得する際には、その会社に対して出資を行うか、あるいは元々株式を持っていた株主に対価を支払って株式を購入しています。

株式を取得する場合には、会社の価値が向上して持ち分である株価の値上がりや配当を期待している場合がほとんどだと思いますが、法人破産を行うことによって会社の株式は無価値になってしまいます。

そのため、株主が株式に対する投下資本を回収できるのは、会社の残余財産が債権者に配当されたあと、なお分配すべき財産が残っているという非常に例外的な場合に限られます。

法人破産が申し立てられる状況では、会社、法人は債務超過の状態に陥っていることがほとんどであり、債権者への債務を配当で完済できることが考えられないためです。

そのため、株主は法人破産によって株式への投下資本を回収することができず、株式が無価値になるという不利益を被ることになります。

なお、法人破産における配当のルールについては、以下の記事も参考になります。

法人破産における債権者への配当の順番は?配当があるケースを弁護士が徹底解説

(2)株主は会社の債務を負担することはない

法人破産を行っても、株主には会社の債務を支払う義務はありません。

株主は、会社に対して間接有限責任を負うため、出資した株式の限度のみで責任を負います。

そのため、出資した株式が無価値になる以上の責任を会社に対して負うことはありません。

もっとも、中小企業などでは、一人株主が代表取締役となっており、会社の債務を代表取締役が連帯保証しているケースも多くあります。

そのような場合には、法人破産によって、会社の債務を一人株主である代表取締役が負うことになってしまいます。

そのため、会社の債務を代表取締役が連帯保証している場合には、法人破産と合わせて代表者個人の自己破産を申し立てることも検討が必要です。

4.取締役に対する損害賠償請求の可否

法人破産を行うと、株式が無価値になり、株主は投下資本の回収ができないという損害を被ります。

そのため、法人破産によって生じた損害について、株主が取締役を相手に損害賠償請求を行う可能性が考えられます。

もっとも、株主が取締役や役員の責任追及を行えるのは、取締役に職務を行うについて悪意又は重大な過失があった場合に限定されます(会社法429条1項)。

具体的には、取締役が会社の財産を横領した場合や粉飾決算を行った場合など、極めて重大な背任行為があった場合です。

極めて重大な背任行為があった場合以外の、単なる経営判断の失敗を原因として取締役の株主に対する責任が認められることは難しいでしょう。

法人破産を進めるうえで債権者や株主の対応に心配がある場合には、弁護士に相談のうえ、代理人として破産手続の処理を依頼することができます。

法人破産を行う場合には、予め債権者や従業員の対応、売掛金など資産を劣化させないための段取り等も必要になるため、なるべく早期に弁護士に相談することがおすすめです。

まとめ

本記事では、法人破産を行う際に株主への通知や株主総会決議が不要であることやその理由、そのほか法人破産が株主に与える影響などについて解説しました。

法人破産を行うことについて、法律上株主に対しての通知や株主総会の開催が要件とはなっておりません。

もっとも、株主から取締役へ責任追及をされる可能性はあるため、状況に応じて適切に株主に対応を行うことも大切です。

前もってサポートを受けるためにも、法人破産を検討される場合には、なるべく早期に弁護士へ相談することをおすすめします。

弁護士法人みずきでは、これまでに数多くの法人破産の手続に対応してきました。

経験豊富な弁護士が丁寧にお話を伺いますので、法人破産における債権者や株主の対応にお悩みの方はお気軽にご相談ください。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。