破産手続を行なうと、すでになされていた破産者の給与等の債権の差押に影響はあるのか

破産手続前に破産者の債権が差押えられていることがあります。

この場合、破産手続が行なわれると、すでに行なわれている差押に対して影響はないのでしょうか。

具体的には、裁判所が破産手続の開始を決定する時点で、既に破産者に対する債権に基づいて破産者の給与に対して差押がなされている場合、その差押は、破産をした後もずっと続けることは可能なのでしょうか。

以下では、同時廃止事件と管財事件とに分けて、説明していくことにしましょう。

1.同時廃止事件とは

ここで、同時廃止事件とは、破産手続と同時に破産手続が廃止される事件をいいます。

これは、手続を開始する時点で、裁判所が管財人と呼ばれるものに報酬を支払ってまで、破産者の財産を調べるまでもないほどに配当すべき財産がないことが明らかである場合に、破産者の財産調査を省略する手続です。

2.開始決定と同時に「中止」し、免責許可の決定とともに「効力を失う」

この同時廃止事件の場合、破産手続開始決定と同時に破産手続は終了になるとされています。

そのため、後で説明する管財事件と異なり、すぐに債権執行手続失効の効力は生じません。

しかし、破産の申立と同時に免責許可の申立をしているのが通常なのでこの場合、通常の優先しない債権(「破産債権」といいます。)に基づく強制執行で破産者の財産に対して既にされている強制執行は「中止」するとされています。

中止がされると、手続は現状のまま凍結され、それ以上進行しないことになるが、効力はそのままであると考えられています。

そのため、破産者の給与は差押がされたままになり、管財事件とは異なり、破産者が全額の給料をすぐに取得できるようになることはありません。

その後、裁判所が破産者の負債を帳消しにしますよという免責許可決定というものが、確定したときにようやく、「中止」した強制執行は「効力を失う」ことになります。

3.申立人代理人がすること

以上みてきたとおり、同時廃止事件の場合は、管財事件と異なり、既になされていた債権差押は直ちに失効することはなく、「中止」となるに過ぎず、差押の効力は免責許可決定が確定するまで続くことになります。

そのため、給与に対して差押がなされた場合でいうと、破産者はすぐに差押えられた給与を取得することはできません。

第三債務者である勤務先が免責許可決定までの間、その給与相当額をプールするなどして、免責許可決定の確定後に、破産者はようやく、給与相当額の支払を受けることができるのです。

そのため、免責許可決定の確定までの間に、現実に給与相当額の支給を受けなければ、生活がままならないといった事情がある場合には、同時廃止事件にするのでなく、予納金を準備しなければなりませんが、あえて管財手続によることも場合によっては検討してみてもよいかも知れません。

具体的に実務上、差押えられた給与を受け取るためにどのようなことがされているかというと、同時廃止事件の場合、破産管財人は選任されませんので、管財人ではなく申立人代理人が同時廃止決定と同時に、裁判所の執行部に強制執行中止の上申というものをし、更に免責許可決定の確定後に執行取消の上申というものをして、執行の取消しを得た上で第三債務者である勤務先から給与を受けとることになります。

上申書を提出する際に、添付する書類としては、中止の上申の際には、「破産手続開始決定の正本」を添付し、取消の上申の際には、「免責許可決定の確定証明」を添付するのが通常です。

4.管財事件とは

まず、管財事件とは、裁判所から選任された弁護士である破産管財人と呼ばれるものが、破産者の財産を管理、調査等する事件のことをいいます。

5.「効力を失う」

この管財事件の場合、法律は破産が開始された場合(「破産手続開始決定」といいます。)、給与の差押などの強制的に財産を取得する行為(「強制執行」といいます。)をすることが禁止されるだけでなく、すでになされている破産者の財産(これを「破産財団」といいます。)に対する強制執行も、「効力を失う」とされています。

これは、破産手続が全ての債権者を平等に扱って、配当ができる場合には平等に配当することを目的とする制度だからです。

ここで、「効力を失う」とは、特別に何らの手続をしないでも、手続の効力が遡って失うということとされています。

そのため、管財事件ですと、破産手続開始決定時点において、既に破産者に対する債権に基づいて破産者の給料に対して差押がされている場合には、給料に対する債権差押は効力を失うことになります。

6.破産管財人がすること

上記のとおり、既になされている債権執行は、破産財団に対して効力を失うことになります。

しかし、形式的には債権の執行がなされているので、現実に手続を停める必要があります。

それでは破産管財人は、具体的にはどういったことを行なう必要があるのでしょうか。

具体的に何をするかというと、破産管財人は、給料の差押を行なった裁判所(「執行裁判所」といいます。)に対し、債権執行取消の上申という書面を出した場合、執行裁判所が職権で執行命令の取消をするのが一般的です。

この債権執行取消の上申の際には、「債権差押命令事件において、債務者が破産手続開始決定を受け上申者が破産管財人に選任されたこと」「執行手続の続行をしないので執行手続を取消すこと」を上申することが必要です。

なお、上申書に添付する書類として、「破産管財人の証明書」「破産手続開始決定の正本の原本」が通常必要とされています。

なお、第三者債務者(給与差押の場合は会社など)が、供託をしている場合には、破産管財人が供託金の交付を受けることになります。

具体的にいうと、東京地裁では、破産管財人が、執行裁判所宛に供託金交付の上申書を提出し、執行裁判所から払渡額証明書の交付を受け、これに、破産管財人の印鑑証明書を添付して、供託金の交付を受けるという流れです。

まとめ

以上、破産者の有する給与等の債権に対して既に執行がなされている場合に破産手続を行なうと、どうなるのかについて説明してきました。

具体的にどのように債権に対する執行手続が取り扱われるのか、また、どのように執行された債権を取り戻すのかは各事案によって異なります。

そのため、給与等の差押を受けており破産手続のご利用をお考えの方は、お早目に弁護士にご相談されることをおすすめします。