ホテル・旅館の破産手続の特殊性とは?注意すべきポイントや破産手続の流れについて解説

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

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「ホテルの経営が厳しくて今後の見通しが立たない」
「破産を視野にいれるべきなのか迷っている」

本記事では、ホテル・旅館の破産手続をお考えの方へ向けて、破産手続で注意すべきポイントや会社破産手続の主な流れについてご説明します。

ホテル・旅館の特殊性は、宿泊予約状況などを踏まえ計画的に事業停止を進める必要があること、提供しているサービスに応じて多数の契約先があるためそれぞれと解約の手続きを進めていくことが必要なこと、会員権、従業員への対応、行政への届出などがあげられます。

事案に応じて適切な方法を選択する必要があるため、運転資金が完全に尽きてしまう前に、弁護士に相談しながら進めることをおすすめします。

ホテル・旅館の破産を考えているけれども先のことが不安で踏み出せないという経営者の方は、本記事を破産についての第一歩としていただければと思います。

1. ホテル・旅館の破産手続で注意すべきポイント

遺族が請求する際の注意点
ホテル・旅館を営む会社が破産手続で注意すべきポイントは主に以下の点です。

申立準備段階では、これらを適切に対応して会社財産の流出、劣化を止め、申立に必要な費用や将来の破産財団を確保することが重要になります。

・事前にスケジュールをたてる
・業務委託先やリースなどの各種契約を解約する
・宿泊予約客への対応
・従業員の解雇
・行政への届出

(1)ホテル・旅館の事業停止から破産手続申立までの計画をたてる

ホテル・旅館の破産手続は、事前にスケジュールを立てたうえで、計画的に申立準備をしていく必要があります。

まず、事業停止日を決めます。日程は、宿泊予約の状況やサービス提供に必要な取引先との契約期間などを踏まえて定めます。

(2)業務委託先やリースなどの各種契約を解約する

破産手続申立の準備では、その会社が契約している取引先等を洗い出し、各契約の終了に向けて算段をする必要があります。

設備や機器のリースやレンタルを受けている場合は、契約の解約と共に、設備等の返却も必要となります。

ホテル・旅館の破産手続ならではの契約先は主に以下のようなものがあります。

#1: 業務委託契約

ホテル・旅館は、レストラン、宴会、婚礼、売店、清掃、ケータリングなど、様々なサービスを提供していることが多く、沢山の業務委託契約先があることが少なくありません。

これらそれぞれの契約について終了に向けて算段をする必要があります。

特に、レストランなどの建物の一部を使用しているサービスについては、実質的に賃貸借契約とみなされる可能性があります。契約の終了にあたっては、賃貸借契約に関する法規制も踏まえて算段しなければなりません。

#2: 宿泊予約サービス等

ほとんどのホテルや旅館は、宿泊予約客を旅行代理店やインターネット上の宿泊予約サービスを通して旅行客を招いています。
これらは、宿泊予約サービス業者等に宿泊客をあっ旋してもらい、その実績に応じて手数料を支払うというあっ旋契約にあたります。

事業停止日以降の日程で予約が入ることを避けるためには、適切な時期に解約手続を踏む必要があります。

#3: クレジットカード会社

ホテルや旅館では、クレジットカード決済が利用できるよう、クレジットカード会社と加盟店契約を締結しているところが多いです。
契約を解除し、クレジットカード会社から保証金の返金を受ける必要があります。

また、機器のレンタルを受けている場合は返却も必要です。

(3)宿泊予約客への対応

宿泊予約については、事業停止以降の日程で予約が入らないように調整をしていく必要があります。

既に入っている事業停止日以降の予約については、予約客への説明が必要です。

説明が必要な予約客が多数いる場合は、インターネット上での掲示、メール、書面などでまとめて通知することになります。

また、事前に宿泊代金をいただいている場合、その予約客は宿泊代金の返還を請求する権利をもっている債権者にあたるため、破産手続申立時は債権者として扱う必要があり、債権者一覧表に記載することが必要です。

なお、実際に返金に応じられるかどうかは、破産手続申立後に破産管財人が手続の中で対応することとなるため、申立準備段階では応じる必要はありません。

(4)従業員の解雇

会社破産においては、従業員の解雇は申立準備段階で行っておく必要があります。

解雇せずに申立てた場合、破産管財人が破産手続の中で解雇することになります。

労働基準法上、従業員を解雇する場合は30日前までに解雇予告をする必要があり、それまでに解雇予告をしなかった場合は解雇予告手当を支払わなければならないことになっています。

宿泊予約状況やサービス提供可能期間を踏まえ、従業員に対して解雇予告をしておく必要があります。

特に、ホテル・旅館の従業員の場合は住み込みで働いているケースも多くあるため、ある程度余裕をもった予告が望ましいでしょう。

なお、従業員に対する解雇予告手当等は、労働債権として破産手続申立後に破産手続の中で処理することとなるため、ただちに支払う必要はありません。

(5)行政への届出

旅館業、衛生管理、酒類販売、温泉利用、風俗営業など、ホテル・旅館は法律によって行政に免許や許可を得て営業しています。

破産手続をするにあたっては、免許の取消しや廃止の許可を申請が必要かどうかを確認しましょう。

法律によっては届出を怠ると罰則が規定されているものもあるため注意が必要です。

いかがでしたでしょうか。

ここまではホテル・旅館を営む会社の破産手続において特有の注意すべきポイントについてご紹介しました。

ホテル・旅館の破産手続においては、宿泊予約客、取引先など多数の債権者がいるケースも少なくありません。

事前にスケジュールを立てたうえで、計画的に申立準備をしていく必要があるため、まずは弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

では、会社の破産手続はどのように進んでいくのでしょうか。

ここからは、会社破産の流れについてご説明します。

2. 会社破産の主な流れ

法人破産の流れについてご紹介します。

主な流れは以下のとおりです。

(1)弁護士への相談・依頼

会社破産は、事業停止や解雇の話など、どのようなスケジュールで進めるのかを最初に入念に調整する必要があります。

そのため、事業継続か停止かを悩み始めたら早いうちに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

(2)破産手続開始申立ての準備

弁護士との契約が済むと、破産申立の準備が始まります。

破産申立は弁護士が代理して行うことになります。

そのため、会社の実印や銀行印、通帳、決算報告書、賃金台帳、事業所の鍵など、会社の資産状況に関する資料や換価手続に必要となる物は弁護士が会社から引き継ぐことになります。

申立準備段階で行うのは主に以下のような作業があります。

・受任通知(介入通知)の送付
・破産手続開始申立書の作成、書類の収集
・財産の保全、引継の準備
・従業員への対応
・事業所、店舗などの明渡し
・取締役会、理事会の承認決議
・必要に応じて裁判所との事前相談

(3)破産手続開始の申立・破産管財人の選任・破産手続開始決定

申立準備が整ったら、管轄の申立に破産手続開始の申立をします。

申立をすると、破産管財人を選任し、裁判所は破産手続の開始決定を出します。

(4)破産管財人による管財業務の遂行

破産管財人は選任されると申立書類を精査し管財業務を開始します。

会社代表者や申立代理人弁護士に対しては、破産管財人から以下のような要請がくることもあります。

・破産管財人との打合せ
・書類、資料の収集、作成への協力
・現地調査等への同行、立会

(5)債権者集会・配当手続・破産手続の終結

破産手続の開始決定から約3か月後に債権者集会という期日が設けられます。

申立人は債権者集会に出廷する必要があり、申立代理人は申立人に同行します。

債権者集会は、破産管財人が破産管財業務に関わる重要事項について意思決定をして、債権者に対して破産手続の進行について報告をする場です。

事案に応じて、1回のみで終了する場合、何度か期日を重ねる場合があります。

債権者集会は、債権者も出席することができます。

しかし、金融機関や消費者金融などの債権者が債権者集会に出席してくることはほとんどありません。

そのため、多くのケースで債権者側の出席はないまま進行する傾向にあります。

その後、破産財団が形成される場合は配当手続が行われ、破産手続は終結します。

破産手続申立から破産手続の終了までにかかる期間は最短3か月程度ですが、管財業務の進行に応じて、半年から1年程度を要することもあります。

まとめ

本記事ではホテル・旅館を営む会社の破産手続の特殊な点と注意すべきポイント、そして会社破産の主な流れについてご紹介しました。

ホテル・旅館の破産手続では、宿泊予約客、取引先、従業員など、多数の関係者との調整に注意し、計画を立てて事業停止をし、申立準備へと移る必要があります。

事業をたたむことは、事業を起こすことと同程度の算段が必要です。

そのため、会社をたたみたいと思っているけれども何から手を付けたらいいのかわからないという経営者の方は少なくありません。

当事務所の弁護士が皆さまの悩みにお答えしつつ、どのような対応をするのかが最適なのかをご提案します。

まずは当事務所の弁護士にご相談いただければと思います。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

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