旅行会社の破産手続を進める場合に注意すべきポイントとは?弁護士が解説
本記事は旅行会社の破産手続をお考えの方へ向けて、破産手続の主な流れや注意すべきポイントについてご紹介します。
旅行会社の破産といえば、2017年3月に破産手続開始決定を受けた「てるみくらぶ」のことが記憶に残っている方もいるのではないでしょうか。
同事件は大規模な破産であったため大々的に報道されました。
旅行会社の経営者の方の中には、その批判的な報道の印象が強いがために破産手続を進めて大丈夫なのかと心配される方も少なくありません。
確かに、旅行会社の破産手続では、手続によって申込んでいた旅行にいけなくなる旅行者が生じてしまう可能性が高いです。
しかし、事前に綿密に計画を立てて破産申立を進めることで、債権者への影響を最小限に抑えることができます。
さらに、旅行者を保護する制度として、弁済業務保証金制度や営業保証金制度などの制度があります。
不安な点が多い旅行会社の破産手続において、申立代理人となる弁護士は会社代表者の心強い味方となり得ます。
大切なのは、手続を知って不安を払拭すること、そして常に先を見据えた最善の選択をしていくことです。
破産手続を進めようかお悩みの方は、まずは本記事を第一歩としていただければと思います。
1.旅行会社の破産手続の特殊性
旅行会社の破産手続特有のポイントは大きくわけて3つあります。
- 広範囲に多数の債権者が存在する
- 旅行申込者への対応体制を整える必要がある
- 保全管理人が必要なケースもある
(1)広範囲に多数の債権者が存在する
旅行会社はそのサービスの性質上、商圏が広く、個人の顧客を多く抱えています。
海外旅行や国内旅行を多数企画している、集客にテレビ・新聞・雑誌・インターネット等の様々なメディアを用いているなどの場合は、旅行申込者は全国に存在し、その数も事業規模に応じて数千人にものぼることも少なくありません。
こういった会社が破産手続をする場合は、広範囲に多数の債権者がいるということになります。
(2)旅行申込者への対応体制を整える必要がある
旅行会社が事業停止をすると、航空会社やホテルなどへの代金の支払いも停止することになります。
代金が支払われない場合、予約が取り消されて旅行に行けない旅行者が生じる可能性があります。
そのため、事業停止前はそのこと旅行者に向けて告知する必要があります。
事業停止を告知すると、旅行を控えた旅行申込者から、「私の航空券は有効なのか」「予約を確認したら解約されていた」「支払った代金を返してくれ」といった連絡が殺到します。
工程に支障をきたさずに申立準備を進めるためには、可能な限り事業停止に向けて集客を制限する、対象の旅行者に向けて案内先を明記した情報をインターネットやメールなどで発信する、旅行申込者からの問い合わせへの対応体制を用意するなどの工夫が必要となります。
(3)保全管理人が必要なこともある
債権者が非常に多い場合は、大きな混乱が予想されます。
場合によっては、保全管理命令申立を行い、保全管理人を選任してもらう必要があります。
保全管理人とは、裁判所から保全管理命令が出されたときに選任される弁護士です。
保全管理人の職務内容には、会社財産の管理、処分、企業の経営など様々なものがあります。
旅行会社の破産手続においては、保全管理人は選任されると、主に登録行政庁や旅行業協会の保証金の還付(弁済)の進行などを管理します。
2.旅行会社の破産手続の注意すべきポイント
旅行会社の破産手続で注意すべきポイントは旅行者への対応です。
主に、事業停止時に旅行前や旅行中の旅行者に対して確認を周知すること、事業停止後に旅行者から返金を求められた場合は応じないこと、そして旅行者が破産手続で債権者として平等に扱われるよう債権者一覧表から漏れないようにすることなどがあげられます。
(1)旅行前の旅行者に確認を周知する
旅行会社が事業停止をすると、状況によっては予約が取り消されてしまう旅行者が生じます。
さらに、旅行会社のシステムも停止させるため、旅行会社から航空券等を発券することができなくなります。
混乱を防ぐためには、旅行者の状況にあわせた案内ができるよう準備しておく必要があります。
旅行会社が破産した場合、旅行者はどうすべきなのかについて以下にご説明します。
#1:航空券等を受け取っている旅行者
航空券等が手元にあったとしても、そのまま利用できるとは限りません。
旅行者には、航空会社へ問い合わせてもらい、予約と支払いが正常に完了しているかを確認してもらう必要があります。
旅行会社が航空会社等への代金を支払っていない場合は、そのままだと航空会社側で予約を取り消してしまいますので、旅行者の方で再度支払いをするか、新たに予約を取り直すかの対応が必要となります。
#2:航空券等を受け取っていない旅行者
チケットを発券していない旅行者も航空会社等へ問い合わせる必要があります。
航空会社等で予約と支払いの確認ができる場合は、チケットの発券前だったとしても航空会社側で発券を受けることができます。
予約はあるけれども支払いがなされていない場合は、①の場合と同様に再度支払いをするか、新たに予約を取り直す必要があります。
さらに、予約そのものがなされていない場合もあります。その場合は、新たに予約を取り直す必要があります。
(2)旅行者から旅行代金の返金を求められた場合は支払わない
旅行者は申込み時に旅行会社に対して代金を支払っています。
この代金が旅行会社の事業停止により予約先へ支払われない場合、旅行者は旅行会社に対して返金を求めてきます。
旅行者から返金を求められたとしても、申立準備段階では返金に応じる必要はありません。
その旅行者は、破産手続において、債権者として他の債権者と平等に取り扱われることになります。
実際に返金が生じるのかどうかは、破産手続の中で管財人が判断することとなるため、申立準備段階での回答は避けましょう。
なお、これらの旅行者は、登録行政庁または旅行業協会の保証金制度によって該当する保証金制度によって代金の一部の支払いを受けることができます。
そのため、債権者となり得る旅行者に対して、該当する保証金制度を案内する必要があります。制度については、「3 旅行者を保護する制度」でご説明します。
(3)旅行者が債権者から漏れないように注意する
破産申立の際は、債権者の名前、住所、債権額などを記載した債権者一覧表を裁判所に提出します。
旅行会社の破産手続の場合、多数の債権者がいるため、把握している債権者は債権者一覧表から漏れないように注意しなければなりません。
旅行出発日が事業停止後で旅行ができなくなった旅行者はもちろん、すでに旅行に出発している旅行者でも宿泊先等への費用の支払いに未払いがあり現地で負担しなければならなくなるケースもあるため、注意が必要です。
3.旅行者を保護する制度
旅行会社の破産で旅行に行けなくなった旅行者や二重払いをしなければならなくなった旅行者に対する制度として、「営業保証金制度」と「弁済業務保証金制度」という2つの制度があります。
どちらの制度が利用できるかは、その旅行会社が旅行業協会の正会員かそれ以外かで分かれます。
破産手続をする旅行会社が、旅行業協会に加入していない場合は営業保証金制度、旅行業協会に加入している場合は弁済業務保証金制度を利用することになります。
(1)営業保証金制度
旅行業協会の正会員以外の旅行会社と取引をした旅行者の債権を保証する制度です。
旅行会社が旅行業登録時に供託した営業保証金から一定の範囲で旅行者に対して返金がなされます。
営業保証金の金額は、旅行会社の取引額に応じて決められています。
旅行者からの請求額が営業保証金を超える場合には、営業保証金額の範囲内で各旅行者の請求額に応じて按分弁済されます。
旅行者は、その旅行会社が旅行業を登録した行政庁(官公庁もしくは各都道府県担当課)に申出をする必要があります。
(2)弁済業務保証制度
旅行業協会(一般社団法人日本旅行業協会(JATA)、社団法人全国旅行業協会(ANTA))の正会員である旅行会社と取引をした旅行者の債権を保証する制度です。
その旅行会社が加入している旅行業協会へ申出をすることになります。
営業保証金制度と同様に被害総額が保証金額を超える場合は、請求額に応じて按分弁済されます。
4.会社の破産手続の流れ
ここまでは旅行会社特有のポイントについてご説明しました。
ここからは会社破産手続の流れについてご説明します。
主な流れは以下のとおりです。
(1)弁護士への相談・依頼
会社破産は、事業停止や解雇の話など、どのようなスケジュールで進めるのかを最初に入念に調整する必要があります。
そのため、事業継続か停止かを悩み始めたら早いうちに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
(2)破産手続開始申立ての準備
弁護士との契約が済むと、破産申立の準備が始まります。
破産申立は弁護士が代理して行うことになります。
そのため、会社の実印や銀行印、通帳、決算報告書、賃金台帳、事業所の鍵など、会社の資産状況に関する資料や換価手続に必要となる物は弁護士が会社から引き継ぐことになります。
申立準備段階で行うのは主に以下のような作業があります。
- 受任通知(介入通知)の送付
- 破産手続開始申立書の作成、書類の収集
- 財産の保全、引継の準備
- 従業員への対応
- 事業所、店舗などの明渡し
- 取締役会、理事会の承認決議
- 必要に応じて裁判所との事前相談
(3)破産手続開始の申立・破産管財人の選任・破産手続開始決定
申立準備が整ったら、管轄の申立に破産手続開始の申立をします。
申立をすると、破産管財人を選任し、裁判所は破産手続の開始決定を出します。
(4)破産管財人による管財業務の遂行
破産管財人は選任されると申立書類を精査し管財業務を開始します。
会社代表者や申立代理人弁護士に対しては、破産管財人から以下のような要請がくることもあります。
- 破産管財人との打合せ
- 書類、資料の収集、作成への協力
- 現地調査等への同行、立会
(5)債権者集会・配当手続・破産手続の終結
破産手続の開始決定から約3か月後に債権者集会という期日が設けられます。
申立人は債権者集会に出廷する必要があり、申立代理人は申立人に同行します。
債権者集会は、破産管財人が破産管財業務に関わる重要事項について意思決定をして、債権者に対して破産手続の進行について報告をする場です。
事案に応じて、1回のみで終了する場合、何度か期日を重ねる場合があります。
債権者集会は、債権者も出席することができます。
しかし、金融機関や消費者金融などの債権者が債権者集会に出席してくることはほとんどありません。
そのため、多くのケースで債権者側の出席はないまま進行する傾向にあります。
その後、破産財団が形成される場合は配当手続が行われ、破産手続は終結します。
破産手続申立から破産手続の終了までにかかる期間は最短3か月程度ですが、管財業務の進行に応じて、半年から1年程度を要することもあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、旅行会社の破産手続について解説しました。
旅行者は旅行を楽しみにしています。
会社の破産によってその機会が失われる、旅先で支払いをめぐるトラブルに見舞われる、その可能性を考えると手続を躊躇してしまう代表者は少なくありません。
しかし、倒産状態にあるにも関わらず完全に会社資産が枯渇するまで事業停止できずにいると、突然破産手続をとることになり、さらに大きな被害を生むことになりかねません。
適切なタイミングで破産手続をとり、旅行者に対して注意喚起と保証金制度の案内をし、債権者となる方々が手続の中で公平に待遇されるよう準備をすることは、その会社がこれまで関わってくれた人々に対してできる最後で最大の誠意です。
大変な手続ですが、我々弁護士は会社代表者の味方です。
一人で悩まずに是非一度ご相談ください。
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