法人破産の受任通知とは?その効力や注意点について弁護士が解説します

「法人破産を弁護士に依頼すると受任通知が債権者に送付されるのか」
「受任通知に関して注意しなければいけない点はどのようなことがある?」
会社、法人の経営者や代表者の中には、資金繰りの悪化などによって法人破産の手続を行うことを検討されている方もいると思います。
受任通知とは、弁護士が法人破産の依頼を受けたことを債権者に対して通知するものです。
個人の債務整理の場合には、受任通知を債権者に対して送付することが通常です。
受任通知には、金融機関などの債権者が債務者に対して督促や取立てを行うことを停止させる法的な効力があります。
もっとも、法人破産手続においては、受任通知を送付することについて、慎重にならなければならないこともあります。
本記事では、法人破産手続における受任通知の効力やメリット・デメリット、注意点などについて解説します。
1.法人破産における受任通知とは
受任通知は、法人破産などの手続について、弁護士が依頼を受けて代理人となった場合に債権者へ送付される文書です。
受任通知には法的効力があるため、債権者は弁護士から通知を受け取った後、債務者に対して直接督促や取立てを行うことが禁止されます。
これによって、受任通知が債権者に送付されることで、債務者は返済を停止できるのです。
また、受任通知には、その時点で返済を止めて債権額を確定させて、債権者から債権の存否や債権の内容を確認するという役割もあります。
個人の債務整理の手続では、弁護士に手続を依頼すると受任通知が送付されることが一般的です。
受任通知の送付により債権者からの個別の取立てや債権回収を止めて、債権額を確定させることができるのです。
また、債務者が特定の債権者にのみ返済をしたり担保を提供したりする偏頗弁済を防止するという側面もあります。
法人破産においても受任通知を送付することには、一定のメリットがある一方で、デメリットもあります。
(1)受任通知を送付するメリット
受任通知を送付することによって債権者からの個別の取立てや返済を停止させ、債権調査や法人の財産が散逸するのを防ぐことができます。
ただし、弁護士が債権者との間で債権の存否や債権額を確定できなかったとしても、破産手続を申し立てた後に、手続きの中で、債権額の確定や債権者の追加をすることもできます。
(2)受任通知を送付するデメリット
受任通知を送付することで、債権者からの取立てや督促を停止することができるのが大きなメリットです。
もっとも、法人破産では、受任通知を送付することで、金融機関だけでなく、取引業者などの債権者も法人破産を行うことについて知ることになります。
そのため、受任通知を送付することによって、かえって混乱を招く可能性があるのです。
受任通知を送付することによるデメリットには、以下のようなものがあります。
- 強引な債権回収を誘発するリスクがある
- 従業員の未払い給与の回収に影響が出てしまう可能性がある
- 租税債権に対しては受任通知の効力がない
順にご説明します。
#1:強引な債権回収を誘発するリスクがある
受任通知によって督促や取立てを行うことが法律的に禁止されるのは、銀行や債権回収会社などの金融機関などに限定されます。
取引業者や個人の債権者には法律的に禁止する効力がないことから、それら債権者から督促や強引な取り立てが行われてしまうリスクがあります。
例えば、倉庫にある納品を受けていた在庫が引き上げられてしまうなどの行為が行われるなどによって、法人の財産が散逸してしまう事態が生じかねません。
強引な債権回収が行われることで混乱が生じ、法人破産の申立て自体が遅延すれば、後述するように、従業員に影響が及ぶことにも注意が必要です。
#2:従業員の未払い給与の回収に影響が出てしまう可能性がある
従業員に対して未払賃金がある場合、法人破産の手続において財団債権や優先的破産債権として扱われて法人の資産から優先的に支払われることになりますが、財団債権として優先される未払賃金は破産手続開始決定前の3か月分の給料に限定されます。
また、未払いの給料がある場合、法人破産が申し立てられることで、未払賃金立替払制度という制度を利用して労働者福祉機構から一定の未払いの給与を受けることができます。
ただし、従業員がこの制度を利用するためには、法人破産の申立日前6か月以内に退職していることが条件です。
そのため、受任通知の送付によって混乱が生じ、申立てが遅延すれば、従業員が退職してから6か月以内に法人破産の申立てを行うことができず、これら従業員が優遇される制度が適用できず、未払いの給与を回収することができなくなってしまう可能性があるのです。
法人破産における従業員への対応のポイントや注意点などについては、以下の記事で詳しく解説しています。
#3:租税債権に対しては受任通知の効力がない
滞納している税金や社会保険料などの租税債権は、公租公課庁に受任通知を送付しても督促を止められないうえ、滞納処分がとられます。
滞納処分とは税務署が財産を差し押さえて税金の滞納分を回収する手続のことです。
通常、個人が差押えや強制執行の手続を行うためには、裁判で勝訴した確定判決などの債務名義が必要となり、取得に時間がかかります。
他方で、公租公課庁が行う滞納処分は、公的機関が行う手続として、確定判決などの債務名義を取得する必要はなく、直ちに差押えを行うことが可能です。
そのため、受任通知を送付することによって滞納処分が行われて、口座の預金差押えなどがされた結果、法人破産を行うための費用を捻出できなくなってしまうなどの事態が生じかねません。
このようなリスクを避けるために、滞納している租税債権がある場合でも公租公課庁に対しては受任通知を送付しないなどの対応が必要となるケースもあります。
なお、法人破産における租税債権の取り扱いや注意点については、以下の記事も合わせてご覧ください。
2.法人破産の流れと受任通知のタイミング
法人破産は、裁判所に申立を行い、裁判所の定める手続を進行した後、終了します。
具体的には、以下のような流れで手続が進行します。
- 弁護士への相談・依頼
- 受任通知の送付
- 破産申立て
- 破産手続開始決定
- 破産管財人の選任
- 財産調査・換価処分
- 債権者集会・配当
なお、この法人破産の手続の流れや弁護士に相談するメリットについては、以下の記事で詳しく解説していますので、合わせて参照ください。
(1)弁護士への相談・依頼
法人破産の手続は、裁判所へ提出することが必要な申立書類や資料が多岐にわたるため、ご自身で手続を行うことには困難が伴います。
また、法人破産では財産が散逸してしまうことを防止するため、支払い停止から申立てまでスムーズに進めることが大切です。
このように法人破産手続では法律や実務の知識経験が必要であるため、弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
なお、弁護士に法人破産について相談するタイミングや業種ごとに注意すべきポイントについては、以下の記事も合わせてご参照ください。
(2)受任通知の送付
弁護士は法人破産の手続の依頼を受けると、債権者に対して受任通知を送付し、手続の代理人となったことを知らせます。
受任通知を出すかどうかや、出すタイミングについては、法人の営業状況や費用確保の状況などを考慮しながら検討していくことになります。
なお、受任通知の送付後は、弁護士が債務者の代理人として窓口となり、債権者とやり取りを行います。
(3)破産申立て
法人破産は、裁判所へ申立書類を提出することによって申し立てます。
弁護士に依頼している場合、法人破産の申立ては代理人である弁護士が行います。
法人破産を申し立てることができる者については、以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご参照ください。
なお、法人破産を申し立てる際に必要となる書類や資料については、以下の記事もご参照ください。
(4)破産手続開始決定
裁判所は、提出された申立書類について審査を行い、破産手続を開始する要件を満たしていると判断すると、破産手続開始決定を出します。
なお、東京地裁では破産手続の申立をした後、破産手続開始決定の前に、即日面接という申立を代理する弁護士と裁判官が面接を行う期日を設けています。
この即日面接の中で、内容や注意点の確認や、今後の手続きの進め方について話し合われます。
なお、法人の代表者はこの即日面接に参加する必要はありません。
(5)破産管財人の選任
破産手続開始決定が出されると、裁判所によって破産管財人が選任されます。
破産管財人は、弁護士の中から選任されることが一般的で、法人が所有する財産を管理して財産が散逸することを防ぎ、その財産を換価処分して、最終的に債権者への配当する原資を維持・増加させる役割を持っています。
(6)財産調査・換価処分
破産管財人は、法人が所有する財産を調査したのち、配当の原資を確保するために換価処分を行います。
換価処分とは、財産を金銭に換えることです。
もし法人の財産を破産管財人に対して不当に隠す行為があった場合、破産詐欺罪に問われることもありますので、虚偽なく全ての法人の財産を申告しましょう。
(7)債権者集会・配当
債権者集会では、破産管財人から債権者に対して、法人の財産の換価処分の現状や今後の流れなどについて説明をします。
換価処分をしたのち、債権者へ配当できる程度の財産が残った場合は配当を行います。
なお、債権者集会では、法人の代表者には参加する義務がありますので注意が必要です。
また、債権者集会において債権者から質疑があった場合には、これに回答する義務も負っています。
もっとも、債権者集会に債権者が出席することはそれほど多くなく、10分程度で終了することも珍しくありません。
債権者へ配当すべき財産がない場合や配当が終了した後は、破産管財人がその旨を裁判所へ報告して手続きが廃止または終結し、法人の清算結了登記がなされます。
これによって、法人格は消滅し、法人破産の手続は終了します。
法人破産における債権者集会の意義や代表者が出席する際の注意点などについては、以下の記事もご参照ください。
なお、法人破産における配当の順位については、以下の記事で詳しく解説しています。
3.受任通知に関する注意点
弁護士から債権者に受任通知を送付するにあたって注意点があります。
具体的には、以下のとおりです。
- 受任通知の送付後は債権者と直接連絡をとらない
- 受任通知に訴訟手続を止める効果はない
その後の手続に影響を及ぼす可能性もありますので、あらかじめ注意しておきましょう。
(1)受任通知の送付後は債権者と直接連絡をとらない
受任通知の送付後、債権者と直接やり取りした場合、債権者に弁護士の方針と異なった誤解を与えてしまうなどして、その後の手続に混乱を及ぼす可能性があります。
債権者から連絡があった場合は、債務者自身で対応せず、必ず弁護士を通じてやり取りするようにしましょう。
(2)受任通知に訴訟手続を止める効果はない
債権者よりすでに訴訟や差押えなどの法的手続が開始されている場合には、受任通知を送付したとしても、これらの手続を止めることはできません。
訴訟で判決が出ると強制執行を受ける可能性が高まります。
強制執行が進められ、銀行口座の差押えがなされてしまうと、口座の預金を動かせなくなってしまいます。
法人破産を行うためには、裁判所へ予納金と呼ばれる費用を納付する必要があり、予納金を捻出することができなければ法人破産を行うことが困難となってしまいます。
そのため、訴訟が起こされていたり、差押えがなされている場合には、速やかに弁護士に相談し、対応についてアドバイスやサポートを受けることが重要です。
まとめ
本記事では、法人破産において受任通知を送付する意味や、受任通知を送付するメリットやデメリット、注意点などについて解説しました。
受任通知には督促や取り立てが止まるというメリットがありますが、法人破産においてはデメリットや注意点もあるため、慎重に受任通知を送付するかどうか、そのタイミングを検討する必要があります。
弁護士法人みずきでは、これまでに数多くの法人破産の手続に対応してきました。
経験豊富な弁護士が丁寧にお話を伺いますので、法人破産の申立てをご検討の方はお気軽にご相談ください。
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