再生手続開始決定後、再生計画案提出までの財産変動による清算価値への影響

1.清算価値とは

個人再生手続は、債務を通常5分の1に圧縮(債務が500万円の場合は100万円に圧縮します。なお、最大で100万円にしか圧縮できないので、債務が300万円の場合は100万円に圧縮します。)して、それを3年から5年間の間に分割返済する手続です。

もっとも、個人再生を考えるほどに債務があったとしても、個人再生を利用する人(以下、「再生債務者」といいます。)に、解約返戻金、土地建物、預貯金などの財産がある場合もあります。

この場合、個人再生で債務を5分の1に圧縮した金額よりも、破産をして保険を解約した場合の返戻金額、土地建物を売却することにより回収できる金額、預貯金や現金額の合計金額(これを「清算価値」といいます。)が大きいのであれば、その清算価値までしか債務を圧縮できません。これは、個人再生をする場合には、最低限破産をする場合よりも、多くの利益を与えましょうと考えられているからです。

たとえば、破産をした場合に、500万円の債務があるのであれば100万円に圧縮できる可能性がありますが、財産を売り払って200万円を債権者に配ることができるのであれば、個人再生の場合も200万円までしか圧縮できませんということです。

2.清算価値把握の基準時

清算価値の把握の基準時としては、個人再生では再生計画認可時とされています。

そのため、再生手続を申立し、それに対し裁判所が手続の開始を決定し、その後、再生計画の認可時までに財産の増減が発生するのであれば、清算価値もそれに伴い増減することになります。

破産が手続開始決定時以降の財産の増減が、破産手続に影響を及ぼすことがないのとは大きな違いです。

3.具体的ケースの検討

(1)ケース1

再生手続開始決定後に家族が入院することになり、再生計画の認可前に、入院費用を支払うために生命保険の契約者貸付を受けて入院費用を支払った場合、清算価値にはどのように反映されるのでしょうか。

(1)ケース1では、認可決定前に解約返戻金額が減少していることになるので、減少後の解約返戻金額を考慮して、清算価値に反映すべきことになります。

(2)契約者貸付を受けた金銭の入院費用としての支出は、破産をした場合には、債務者の財産として返還を求めなければならない、いわゆる否認対象行為なのでしょうか。

もし、否認対象行為となれば、個人再生手続であれば、その金額を清算価値に上乗せしなければならないと考えられています。

(3)この点について、家族に関する入院費用の支出というものは、有用の資にあたるものといえますから、破産をしたとしても詐害性がなく、否認の対象とはならないでしょう。

そのため、入院費として支出した行為は清算価値に上乗せする必要はないということになります。

もっとも、契約者貸付金をどのように利用したかについて、裁判所は分かりません。

そのため、上記の契約者貸付金額を入院費用として支出したことを裁判所に説明しなければなりません。

具体的には、保険会社からの通知書、通帳の写し、領収書等を添付の上、解約返戻金減少後の金額を記載した財産目録を作成し、減少した清算価値に基づいた再生計画案を作成すべきでしょう。

(2)ケース2

再生手続の開始決定後、住宅ローンの連帯債務者であった父が亡くなった結果、再生計画の認可決定前に、保険金が支給されて住宅ローンを完済できた場合、清算価値にはどのように反映されるのでしょうか。

(1)住宅ローンの抵当権等が設定されている不動産については、不動産の時価額から抵当権等の被担保債権残額を控除した金額をもって清算価値を把握するのが通常です。

(2)認可決定前に、住宅ローンが完済された場合は、不動産の時価額から控除すべき被担保債権額が0円となりますので、その結果として、不動産の時価額をそのまま清算価値に反映させるということになり、清算価値が急激に上昇することになります。

たとえば、もともとローン残額が1500万円と住宅の時価額である1000万円よりも高額であったため、住宅の価値を清算価値に反映しなくてもよかったのに、父が亡くなった結果、保険金が支給されローンを完済した場合には、清算価値に時価額1000万円をそのまま加算することになるということです。

(3)このように清算価値が上昇した結果、再生計画の中で返済しなければならない金額が非常に高額となった場合には、継続的に返済することができなくなることもあるでしょう。

その場合には、裁判所にその旨を上申して、手続を廃止してもらい、個人再生以外の破産や任意整理などの方法をとることを検討されたほうがよいでしょう。

(3)ケース3

父が亡くなり、遺産分割協議の結果、200万円を取得することになりました。

同時に長男であったため喪主となり、葬儀費用150万円を支出することになりました。

遺産分割協議の結果取得する200万円から、葬儀費用150万円を支出した場合、清算価値にはどのように反映されるのでしょうか。

(1)本ケースでは、認可決定前に遺産を取得したことで財産が増加しているのですから、取得した財産額を清算価値に加える必要が生じることになります。

(2)それでは、葬儀費用として支出した金額を遺産の清算価値から差し引くことは可能でしょうか。

この点について、再生開始決定後に発生した葬儀費用は、「再生手続開始後の再生債務者の生活に関する費用の請求権」として、再生手続とは無関係に優先的に弁済することが可能な種類の債権(「共益債権」といいます。)として取り扱われています。

そのため、再生手続開始決定後に取得した遺産の中から葬儀費用を支出することは可能であり、同支出額について清算価値から差し引くことはできるといって良いでしょう。

(3)以上より、原則として、遺産の価額である200万円から葬儀費用として支出した150万円を控除した残額である50万円を清算価値として計上し、財産目録及び再生計画案を作成すればよいでしょう。

裁判所は、遺産を何に利用したのかわからないため、裁判所に葬儀費用として使用したことを示す必要があります。

そのため、領収書等を裁判所に提出する必要がありますので、領収書は処分せずにとっておいてください。

もっとも、取得した財産の額が少額で再生計画案の額が少額である場合には、財産目録の再提出までは必要ではないこともあるでしょう。

まとめ

以上、簡単なケースを例に、再生手続開始決定後、再生計画案提出までの財産変動による清算価値への影響を説明してきましたが、具体的な場合にどう清算価値へ反映されるかは事案によって異なります。

今後、大幅な財産変動が予測される方で、個人再生手続の利用を考えられている方は、お早目に弁護士に相談されることをおすすめいたします。