ペアローンを組んでいる場合でも住宅を手放さずに済むのか

個人再生手続における住宅資金特別条項とは、住宅ローンを抱えて、経済的にやっていけなくなった債務者が生活の基盤である住宅を手放さずに、経済的な生活の再生を可能にするために特別に法律に定められたルールです。

この住宅資金特別条項を利用すると、住宅ローンだけを特別に支払い続けることができ、その結果、住宅を手放さなくてよくなるのです。

破産の場合には、住宅を手放さなくてはならないので、住宅を手放さなくて良いところに、個人再生手続の大きなメリットがあるといえます。

今回は、住宅ローンのうち、ペアローンというものが組まれている場合に、どのようにすれば、住宅資金特別条項を利用して、住宅を手放さずに済むのかについて、説明をしていくことにします。

1.ペアローンを組んでいる場合の問題

同居する夫婦や親子が、共有する住宅の持分に、互いに住宅ローンを組み、共有不動産の全体にそれぞれを債務者とする抵当権を設定するローンのことをペアローンといいます。

例えば、住宅について夫Aが3分の2、妻Bが2分の1の持分を持っている場合において、第1順位抵当権者が債務者夫の住宅ローン債権者、第2順位抵当権者が債務者妻の住宅ローン債権者である場合が典型的です。

ペアローンを組むメリットには、夫1人で融資の審査を受けるよりもローン可能額が植えること、夫婦がそれぞれ住宅ローン控除を利用することができ所得税を抑えられることなどがあるため、最近では、ペアローンを組んでいるご夫婦も増えているようです。

夫からみると、第2順位の抵当権は、再生債務者以外の者である妻の債務を担保するために、再生債務者である夫が共有持分を有する住宅に抵当権を設定していることになりますので、法律で住宅資金特別条項を利用できない場合と定められている「住宅の上に第53条1項に規定する担保権(ここでは抵当権)が存するとき」に該当します。

すなわち、ペアローンを組んでいる場合には、夫は住宅資金特別条項を利用することができないのではないかという問題がでてきます。

なお、ペアローンのように2つの住宅ローンがるのではなく、夫婦2人で収入を合算して1つの住宅ローンを返済する場合(連帯債務や連帯保証などで夫婦の収入合算で借りる場合)には、夫だけの個人再生の申立の場合も問題ないと考えられています。

(1)夫婦同時申立の場合

法律が上記のような場合に、住宅資金特別条項を利用できないとしているのはなぜなのでしょうか。

これは、住宅を担保に入れて住宅以外の借金をした場合に、抵当権が実行されて、住宅を手放すことになってしまうと、住宅に住み続けるための住宅資金特別条項が無意味になってしまうからです。

そうすると、担保権の実行をされる可能性がなく、住宅を利用し続けることができるようであれば、住宅資金特別条項を利用してもよいはずです。

同一世帯の夫婦の場合に、一方が支払をせずに、抵当権が実行されてしまうということはあまり想定できません。

また、妻も個人再生申立をし、妻も住宅資金特別条項の利用をする場合は、形式的にみると夫妻それぞれの2つの申立ではありますが、実質的には、1つの申立の中で、住宅ローンを取り扱うことになり、それぞれの担保権の実行が阻止され、住宅を手放さなくてよいことになります。

そのため、東京地方裁判所においては、基本的に夫婦双方の同時申立がある場合には、住宅資金特別条項の利用を認める方向での運用がされ、住宅を手放さずにすみます。

(2)夫の単独申立の場合

上記(1)のように担保権の実行をされる可能性がなく、住宅を利用し続けることができるようであれば、住宅資金特別条項を利用してもよいはずという考えからすると、問題となる担保権が実行され住宅を手放す可能性がなければ、妻が住宅ローン以外に債務を負っておらず、個人再生手続により債務を整理する必要がない場合には、妻の個人再生申立自体も不要という考え方もあり得ることになります。

ここで、東京地方裁判所では、住宅について夫が5分の4、妻Bが5分の1の持分を持っている場合において、第1順位抵当権者が夫婦の連帯債務の住宅ローン債権者、第2順位抵当権者が債務者妻の住宅ローン債権者である場合に、妻が住宅ローンを支払い続けることが可能かどうかを検討した上で、個人再生委員(東京地裁では必ず裁判所から選任される再生債務者の財産調査や再生計画案を適正に行なうための勧告をする者)の意見を踏まえて、住宅資金特別条項の利用を認めた例があるようです。

住宅資金特別条項を利用できるかどうかは、夫婦の住宅ローンの債務の仕方、返済状況、夫婦の収入状況、住宅ローン債権者の意向などの諸事情を考慮した上で認められる例外的な取り扱いであり、全ての個人再生手続において個人再生委員を選任して手続を進めるという東京地裁の運用を前提にした個別具体的な例外的判断ではありますので注意が必要です。

まとめ

今回は、ペアローンを組んでいる場合に、どのようにすれば住宅を手放さずに済むのかについて、簡単にご説明いたしました。

具体的な場合に、個人再生手続を利用することで、住宅を手放さずに済むかどうかについては、専門家でないと判断が難しいこともあります。

そのため、個人再生手続の利用を考えられている方は、お早目に弁護士に相談することをおすすめします。