エステサロンの会社においての破産手続の特殊性|破産の流れについて

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

エステサロンを経営している方の中には、事業継続が厳しいと思っているが、いつ閉鎖にむけた行動すべきかわからない、何から始めたらいいのかわからない、そういう経営者の方は少なくありません。

美容関係のサービス業は、エステティック、リラクゼーション、ネイルサービスなど複数あります。

エステティック業は、その中でも比較的複雑な債権債務関係が形成されやすい傾向にあります。

そのため、申立準備にあたっては、債権債務関係を把握したうえで事業停止に向けた算段をしていく必要があります。

また、エステ会社は、一定期間をかけて継続的に施術を行うというサービスのため、多くの顧客を抱えているという特性があります。

店舗が多数あるようなエステサロンでは顧客が数千人から数万いることもあります。

事業停止に向けて新規契約や契約更新を抑制して、債権者となる顧客を減らしていく努力が必要になります。

また、顧客が多く事業停止後の混乱が予想される場合は、事業譲渡等の承継先を用意し、店舗閉鎖を相当前に告知して顧客を承継先へ誘導することもあり、事案によって様々な手法やそれに伴う調整期間が必要となります。

エステサロンを経営していて破産手続をお考えの方は、本記事を読んでエステ会社の破産手続がどのようなものなのかを知っていただければ幸いです。

1 エステサロンの破産手続の特殊性

エステ会社は、顧客に対して設備を用いて施術を提供する傍ら、店販品を販売していることもあります。

サービス内容は、複数回施術を受けられるコースが設定されていることが多いです。

また、料金の決済方法は現金だけでなく、クレジットカード会社のエステローンが組めることも珍しくありません。

これらはすべて契約に基づいています。

たとえば、従業員との関係は「雇用契約」、顧客との関係は「役務提供契約」というように該当する契約があります。

そして、契約の数だけ債権債務関係が存在することになります。

破産手続にあたっては、それらひとつひとつの契約を終わりに向けて債権債務関係を整理していく必要があります。

エステサロンの破産手続において、申立準備段階で対応する必要があることは多数あります。

主にあげるとすると以下のような事項があります。

  • 従業員の解雇
  • 店販品の処分
  • クレジットカード会社との加盟契約の解約
  • エステ設備などリース契約の解約
  • 店舗の賃貸借契約の解約
  • フランチャイズ契約の解約
  • 顧客のチケットや会員資格の処理

これらのうちエステ会社特有だといえるのは顧客への対応です。

エステ会社が破産手続を行う場合、債権者となる顧客はどのように対応すべきかについてご説明します。

2 エステ会社の破産手続で注意すべき3つのポイント


エステ会社の破産手続の特徴は、複数回分の施術代金を既に支払ったけれども未施術の回数が残っている顧客に適切に対応しなければならない点です。

このような顧客には未施術分の代金の返還を受ける権利がありますので、破産手続では債権者として取り扱うことになります。

しかし、これらの債権者が破産手続の末に満足のいく配当を受けられるケースはほとんどありません。

なおかつ、エステ会社の破産手続では、このような債権者の数が多く存在します。

混乱を招くことなく破産手続を進めるためには、早期に事業停止に向けた算段を行うこと、そして、破産手続の影響を受ける顧客に対して適切な対応をしていくことが不可欠です。

(1)エステ会社の破産手続で顧客の債権はどのように扱われるのか

破産手続の中で、顧客は破産する会社から未施術分の代金の返還を受ける権利を持っています。

しかし、これらの債権者が満足のいく配当を受けられることはほとんどありません。

破産手続は、会社の資産を整理、処分して債権者に対して配当して会社を清算する手続です。

破産手続の中では、法律上で、優先的に支払いを受けることができる債権が決まっています。

たとえば、税金や従業員の賃金などは優先される債権になります。

他方で、顧客の代金の返還を受ける権利は、その他の一般的な債権と同様に扱われます。

一般的な債権は、破産する会社に資産があり、なおかつ優先的な債権に対する支払いの後に、債権額に応じて配当されることになります。

そのため、顧客が満足のいく配当を受けられるということはほとんどないといえます。

(2)破産手続の申立前にすべきこと

エステ会社の破産手続申立前にすべきことは、申立費用を確保しつつ顧客とのトラブルが拡大しないタイミングで事業停止させること、事業停止までの間に破産手続をすることが外部に漏れて騒ぎが生じないように注意することです。

エステ会社の顧客のほとんどは個人の方です。

決して安くはないサービスを受ける権利が無効になってしまうということで感情的になる方も少なくないため、適切な情報提供をしなければ混乱を招きます。

さらに、債権者の数が多く対応が難しいという点で、破産手続にかかる費用もそれに応じて高額になる傾向にあります。

そのため、破産申立準備段階では、申立にかかる費用を確保しつつ、顧客とのトラブル拡大を予防しながら事業停止日を決める必要があります。

また、新規の契約や契約の更新をやめることで、破産をすることがスタッフや顧客に伝わる可能性があります。

事業停止前にエステ会社が破産を行なうという情報が外部に漏れてしまうと、特定の債権者による強引な債権回収を招きかねません。

そのため、エステ会社の破産手続を行なう場合には、新たな契約を行なうこと等によるトラブルの拡大の予防と、破産手続を円滑に行なうために密行性を保つことをどのように調整するかという判断を慎重に行う必要があります。

(3)債権者である顧客を保護する手段

エステサロンの店舗が事業停止を告知すると、未施術の回数券等が残っている顧客から、「支払済の代金が返金されるのか」や「クレジットカード会社のローンを支払っている途中だがどのように対応したらいいのか」などの問合せが相次ぎます。

工程に支障をきたさずに申立準備を進めるためには、可能な限り事業停止に向けて新規契約を制限する、対象者に向けて対応方法を明記した情報をインターネットやメールなどで発信する、顧客からの問合せへの対応体制を用意するなどの工夫が必要となります。

以下に、どのようなご案内をすることになるのかを簡単にご説明します。

#1:エステ会社が前受け金の保全措置を行なっている場合

エステ会社が、倒産時に顧客に対して前受金の返還を担保するために、金融機関や保険会社との間で保証委託契約を締結している場合があります。

これを「前受金保全措置」といいます。

エステ会社が前受金保全措置をとっている場合、顧客はこれを利用して金融機関等から前受金の全部または一部の返還を受けることが可能です。

そのため、前受金保全措置がある場合は、顧客に対してそのことを告知し、手続を進めるための情報提供をすることで、混乱を抑えることができます。

#2:クレジットカード払いの場合

クレジットカードを利用してエステ利用料金を支払う場合、以前は、顧客(消費者)が役務提供事業者であるエステ会社との契約を解除できても、信販会社からの支払請求を拒むことができま

せんでした。

しかし、現在では割賦販売法の法改正により、特定の要件を満たす契約については、役務提供事業者であるエステ会社との間で生じている事由(倒産等により役務の提供が受けられないなど)

をもって、信販会社からの請求も拒絶できるようになっています(割賦販売法30条の4)。

簡単にいうと、エステ会社が破産したなどの事情によりサービス提供を受けられなくなった場合には、引き落としをストップしてもらえるということです。

そのため、クレジットカード払いの顧客に対しては、引き落としを止めることを信販会社に連絡するように告知し対応してもらうことで、債権額が増大することを防ぐことができます。

#3:一般社団法人日本エステティック経営者会(JEM)における救済措置

エステ会社がJEMの会員の場合には、JEM主導で、加盟しているほかの会社の協力による救済措置がとられることがあります。

そのため、エステ会社がJEMの会員の場合には、JEMに優遇措置を採ってもらえるかの確認をしておくことも大切です。

(一般社団法人日本エステティック経営者会 http://www.je-management.or.jp/)

いかがでしたでしょうか。

エステ会社の破産手続で注意すべきポイントについて解説しました。

次に、会社の破産手続の主な流れについてご紹介します。

3 会社破産の主な流れ

会社破産手続の主な流れについて解説します。

(1)弁護士への相談・依頼

会社破産は、事業停止や解雇の話など、どのようなスケジュールで進めるのかを最初に入念に調整する必要があります。

そのため、事業継続か停止かを悩み始めたら早いうちに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

(2)破産手続開始申立ての準備

弁護士との契約が済むと、破産申立の準備が始まります。

破産申立は弁護士が代理して行うことになります。

そのため、会社の実印や銀行印、通帳、決算報告書、賃金台帳、事業所の鍵など、会社の資産状況に関する資料や換価手続に必要となる物は弁護士が会社から引き継ぐことになります。

申立準備段階で行うのは主に以下のような作業があります。

・受任通知(介入通知)の送付
・破産手続開始申立書の作成、書類の収集
・財産の保全、引継の準備
・従業員への対応
・事業所、店舗などの明渡し
・取締役会、理事会の承認決議
・必要に応じて裁判所との事前相談

(3)破産手続開始の申立・破産管財人の選任・破産手続開始決定

申立準備が整ったら、管轄の申立に破産手続開始の申立をします。

申立をすると、破産管財人を選任し、裁判所は破産手続の開始決定を出します。

(4)破産管財人による管財業務の遂行

破産管財人は選任されると申立書類を精査し管財業務を開始します。

会社代表者や申立代理人弁護士に対しては、破産管財人から以下のような要請がくることもあります。

・破産管財人との打合せ
・書類、資料の収集、作成への協力
・現地調査等への同行、立会

(5)債権者集会・配当手続・破産手続の終結

破産手続の開始決定から約3か月後に債権者集会という期日が設けられます。

申立人は債権者集会に出廷する必要があり、申立代理人は申立人に同行します。

債権者集会は、破産管財人が破産管財業務に関わる重要事項について意思決定をして、債権者に対して破産手続の進行について報告をする場です。事案に応じて、1回のみで終了する場合、何度

か期日を重ねる場合があります。

債権者集会は、債権者も出席することができます。

しかし、金融機関や消費者金融などの債権者が債権者集会に出席してくることはほとんどありません。そのため、多くのケースで債権者側の出席はないまま進行する傾向にあります。

その後、破産財団が形成される場合は配当手続が行われ、破産手続は終結します。

破産手続申立から破産手続の終了までにかかる期間は最短3か月程度ですが、管財業務の進行に応じて、半年から1年程度を要することもあります。

まとめ

今回は、エステサロンの店舗や運営会社が破産をする場合の特殊性について説明をしました。

エステ会社の破産手続においては、多数の顧客が債権者となりますが破産手続によって配当を得られる見込みは低いこと、そのため破産手続にあたって顧客への対応で混乱が生じやすいこと、

混乱を防ぐためには事業停止までの算段を早期に着手する必要があること、そして、前受金保全措置をはじめとする顧客を保護する制度を利用することで混乱を抑制できる場合もあることにつ

いて解説しました。

エステ会社の破産手続は一定程度の準備期間が必要となるため、完全に事業資金が尽きてしまう前にご相談いただいた方が選択肢が増え、手続をスムーズに進めることができます。

弁護士法人みずきでは、会社破産のご相談を多数手がけております。事業を存続させるかを迷っている方もまずはご相談ください。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。