病院・診療所の破産手続の特殊性とは?注意すべきポイントや破産手続の流れについて解説

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

病院や診療所は、私たちの健康と生活に欠かせない存在です。

しかし、時には病院や診療所自体が経済的な困難に直面し、代表者や医療法人が破産をしなければいけないこともあります。

病院・診療所の破産には、一般企業の破産とは異なる特殊な要素があります。

本記事では、病院・診療所の破産の特殊性について解説します。

1. 病院・診療所の破産手続の対象となるのは開設者

病院や診療所などの医療機関が破産する場合、病院自体が破産手続をとるわけではありません。

その医療機関の開設者が破産手続を行うことになります。

個人が開設した病院の場合はその開設者である個人が、医療法人が開設した病院の場合はその医療法人が破産手続をとるべき対象となります。

2. 病院・診療所の破産手続で注意すべきポイント

病院や診療所の破産手続において注意すべきポイントには、患者の生命や身体の保護やそれに関連する事項と、破産手続そのものに関する事項とがあります。

患者の生命身体の保護に関するものとしては、患者の受け入れ先の確保、それに関連していつまで診療を継続するかの計画、そして受け入れ先の病床を確保するための行政の手続、保有している診療録等の管理などがあげられます。

破産手続そのものに関連するものとしては、医療機器の換価処分や行政への手続、申立後の補助者の確保などがあげられます。

今回は、患者の生命身体の保護に関する事項を中心に解説します。

(1)患者の受け入れ先の確保

病院・診療所の破産申立の場合に第一に注意しなければならないのは、入院患者や通院患者の生命、身体の保護です。

病院経営者や申立代理人弁護士が、裁判所、行政機関及び地域の医師会等と協議しながら、患者に対する影響がないように対応をしていく必要があります。

具体的に検討すべき点としては、入院患者、通院患者、転院・転医の状況、受け入れ先が確保されているか、転院に要する期間や費用、転院・転移までの間診療を継続するだけの医療体制が整っているかどうかです。

入院患者がいながら、医療体制に不備がある場合や患者の生命身体に危険が生じる可能性のある場合には、都道府県の環境保健部等の行政機関、所轄の保健所及び地域の医師会と協議し、患者に対する影響がないようにする必要があります。

入院患者が存在しない場合であっても、継続的な治療をする通院患者が存在する場合には、緊急治療の必要性の有無など、患者の状況について調査し、行政機関等の協力を求める必要があります。

(2)事業停止日の算段

既に多数の空きベッドがある場合、診療報酬債権が債権譲渡されている場合、滞納処分や差押がされているような場合は、適切な医療を行なうことが困難な状況になっています。

このような場合に診療を継続すると、医療体制に不備等から患者に被害をもたらすおそれがあります。

そのため、無理に診療を継続するのではなく、入通院患者の転院、転医をさせて事業を廃止することが望ましいです。

やむを得ず事業を継続する場合でも、患者及び治療内容を特定した上で、事業継続の期間を短期間に限定する必要があります。

(3)行政への届出

病院は事業停止後10日以内に保健所へ病院廃止届を提出しなければならないことになっています。

しかし、医療施設を譲渡することが予定されている場合は、廃止届ではなく休止届を提出する必要があります。

通常、廃止届が提出されると、その病院のある地域の基準病床数に空枠が生じ、新たに申請があった医療機関に対して病院開設許可や病床数増加許可がなされます。

もし、病院施設の買受人に対する病院開設許可や病院数増加許可がされる前に、破産をする病院の廃止届を提出してしまうと、買受人とは別の新たな病院開設許可や病床数増加許可がなされてしまい、買受人に対する病院開設許可や病床数増加許可がおりず、医療施設としての譲渡ができなくなるおそれが出てきてしまいます。

休止届の場合には、基準病床数に空枠が生じることにはならないため、事業停止時は、病院廃止届ではなく休止届を提出するなどの工夫をする必要があります。

(4)保有する診療録の管理方法

カルテ及びその他診療に関する諸記録については、保存期間が定められています。

カルテは、医師法で、診療終了の日から5年間保存義務があります。

また、カルテ以外の病院日誌、各科診療日誌、処方せん、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、患者数を明らかにする帳簿、入院診療計画書は、3年間保存しなければなりません。

これらは、破産手続をとる場合も同様です。

病院・診療所は、破産をしたとしても、診療録等の保存をしなければなりません。

病院施設の買受人が施設をそのまま病院施設として利用する場合には、その買受人が診療録等を引き継ぎます。

買受人がいない場合は、破産財団の中から費用を負担して診療録等を保管する必要があります。

いかがでしたでしょうか。

病院・診療所の破産手続で注意すべきポイントについて解説しました。

この他、事案に応じて治療そのものを担当する医療従事者、病院施設の保守管理者、診療報酬の計算、雇用保険や給与の計算をする事務職員を確保する必要があるケースもあります。

3. 会社破産の主な流れ

会社破産手続の主な流れについて解説します。

(1)弁護士への相談・依頼

会社破産は、事業停止や解雇の話など、どのようなスケジュールで進めるのかを最初に入念に調整する必要があります。

そのため、事業継続か停止かを悩み始めたら早いうちに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

(2)破産手続開始申立ての準備

弁護士との契約が済むと、破産申立の準備が始まります。

破産申立は弁護士が代理して行うことになります。

そのため、会社の実印や銀行印、通帳、決算報告書、賃金台帳、事業所の鍵など、会社の資産状況に関する資料や換価手続に必要となる物は弁護士が会社から引き継ぐことになります。

申立準備段階で行うのは主に以下のような作業があります。

・受任通知(介入通知)の送付
・破産手続開始申立書の作成、書類の収集
・財産の保全、引継の準備
・従業員への対応
・事業所、店舗などの明渡し
・取締役会、理事会の承認決議
・必要に応じて裁判所との事前相談

(3)破産手続開始の申立・破産管財人の選任・破産手続開始決定

申立準備が整ったら、管轄の申立に破産手続開始の申立をします。

申立をすると、破産管財人を選任し、裁判所は破産手続の開始決定を出します。

(4)破産管財人による管財業務の遂行

破産管財人は選任されると申立書類を精査し管財業務を開始します。

会社代表者や申立代理人弁護士に対しては、破産管財人から以下のような要請がくることもあります。

・破産管財人との打合せ
・書類、資料の収集、作成への協力
・現地調査等への同行、立会

(5)債権者集会・配当手続・破産手続の終結

破産手続の開始決定から約3か月後に債権者集会という期日が設けられます。

申立人は債権者集会に出廷する必要があり、申立代理人は申立人に同行します。

債権者集会は、破産管財人が破産管財業務に関わる重要事項について意思決定をして、債権者に対して破産手続の進行について報告をする場です。事案に応じて、1回のみで終了する場合、何度か期日を重ねる場合があります。

債権者集会は、債権者も出席することができます。しかし、金融機関や消費者金融などの債権者が債権者集会に出席してくることはほとんどありません。そのため、多くのケースで債権者側の出席はないまま進行する傾向にあります。

その後、破産財団が形成される場合は配当手続が行われ、破産手続は終結します。

破産手続申立から破産手続の終了までにかかる期間は最短3か月程度ですが、管財業務の進行に応じて、半年から1年程度を要することもあります。

まとめ

病院や診療所の破産は、一般企業の破産とは異なる特殊な要素が存在します。

患者との信頼関係や医療提供の維持困難性、患者データの取り扱いとプライバシー保護、地域医療への影響などがその特殊性の一部です。

特に、受け入れ先の確保や転院、事業譲渡には一定の期間がかかります。そのため、先を見据えて計画をしていくことが大変重要です。

もしかしたら事業継続が厳しいかもしれないと思われた病院や診療所の方はなるべくお早めに弁護士までご相談ください。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。