交通事故でてんかんと診断された場合の後遺障害認定基準と賠償金の相場について解説

「交通事故に遭い、てんかんと診断された」
「てんかんが後遺障害に認定されるための基準は?」

交通事故に遭って、頭部を強くぶつけるなどの外傷を負った場合に「てんかん」と診断されることがあります。

「てんかん」を発症すると、けいれんなどの「てんかん発作」が起きるなど日常生活に支障を来す場合があり、事故後も後遺障害として残ってしまうこともあります。

この記事では、「てんかん」の概要について解説した上で、後遺障害等級に認定される基準や、後遺障害等級に認定された場合に受け取ることができる賠償金について解説します。

この記事を読んで、交通事故によるてんかんの症状がある場合に適正な賠償金を獲得するための参考となれば幸いです。

1.交通事故によるてんかんの概要

そもそも「てんかん」とはどのような病気なのでしょうか。

ここでは、てんかんの意義や症状、治療法の基本的なことについて解説します。

(1)てんかんとは

てんかんとは、脳の神経細胞が突発的に興奮することで、“てんかん発作”と呼ばれる慢性的な意識の消失やけいれんなどの症状を繰り返す病気です。

てんかんのうち、交通事故などの外部的な衝撃を原因として生ずるてんかんを、外傷性てんかんといいます。

外傷性てんかんは、発症時期によって3つに分類されます。

① 直後けいれん

発症:外傷直後〜数分以内(外傷後24時間以内)

特徴:意識障害やけいれんを伴うが、一過性であり慢性化しないことが多い

② 早期けいれん

発症:外傷後24時間以内〜1週間以内

特徴:炎症・浮腫・出血などの急性期病態が関与

③ 晩期てんかん

発症:外傷後1週間以降(数か月~数年後もあり得る)

特徴:慢性のてんかんとみなされる

一般に、「外傷性てんかん」は「晩期てんかん」を指すことが多い

外傷性てんかんの診断基準としては、Walkerの診断基準が著名であり、裁判例でも採用されています。

Walkerの診断基準

  1. 発作がてんかん発作である
  2. 受傷前に発作を起こしたことがない
  3. 発作を起こす可能性のある他の疾患がない
  4. 外傷の程度が脳損傷を起こすほど強い
  5. 最初の発作まで受傷後あまり時間が経過していない
  6. 発作の型と脳波所見が脳損傷部位と一致している

なお、これらの6項目の全てを満たす必要はありません。

(2)てんかんの主な症状

外傷性てんかんの症状は、脳の一部が興奮する「部分発作」と、脳の大部分又は全体が興奮する「全般発作」があり、これらの症状の特徴は、意識障害やけいれんなどの発作を繰り返すことにあります。

「部分発作」は外傷性てんかんでは最も多い症状といえます。

症状例としては、意識が保たれた状態での片側の手足のけいれん、幻臭・幻聴、めまい感や、意識がぼやけた状態での意味のない動作(口をもぐもぐ、手をいじるなど)があります。

「全般発作」の症状例は、意識消失、全身の激しいけいれん、転倒・失禁などのけいれん発作だけでなく、数秒間意識が途切れる、周囲の呼びかけに反応しないなどの欠神発作があります。

発作が軽度であっても、転倒等により重大な別途の傷害を負うなど二次的外傷の原因となるため、てんかんと疑わしい症状が起きた場合はすぐに脳神経外科を受診することが望ましいです。

また、家族や周囲の人が発作を観察し、記録することが診断の手がかりにもなります。

(3)てんかんの治療法

てんかんの治療は、抗てんかん薬(AEDs)を用いた薬物療法が一般的です。

発作が一回のみの場合でも、脳の損傷が明らかな場合は治療の対象となりますし、発作が繰り返される(2回以上)なら継続的な薬物治療が必要になるケースが多いです。

抗てんかん薬には様々な種類があり、それぞれ症状への効果や副作用が異なっています。

抗てんかん薬を選択する際には、発作のタイプ(部分発作か全般発作か)だけでなく、被害者の方の年齢、性別、合併症の有無、薬物の相互作用、副作用の種類と生活への影響などを考慮することが重要です。

2.てんかんで認定されうる後遺障害等級と認定基準

交通事故で頭を強く打つなどして、外傷性てんかんを発症した場合、後遺障害が認定されると、後遺障害慰謝料や逸失利益の賠償を請求できます。

後遺障害等級とは、後遺症の障害の程度に応じて1級から14級までの14段階に分類する基準のことをいいます。

てんかんの後遺障害については、どのような発作か、発作の頻度や回数はどの程度なのかによって認定される等級が異なります。

等級 症状
5級2号 1か月に1回以上の発作があり、かつ、その発作が意識障害の有無を問わず転倒する発作、または意識障害を呈し状況にそぐわない行為を示す発作(以下『転倒する発作等』という)であるもの
7級4号 転倒する発作等が数か月に1回以上あるもの、または転倒する発作等以外の発作が1か月に1回以上あるもの
9級10号 数か月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの、または服薬の継続により、てんかん発作がほぼ完全に抑制されているもの
12級13号 発作の発現はないが、脳波上明らかにてんかん性棘波を認めるもの

3.てんかんが後遺障害として認定された場合に受け取ることができる賠償金

交通事故によって発症した外傷性てんかんが後遺障害として認定されれば、①後遺障害慰謝料と②後遺障害逸失利益を加害者に請求し、賠償を受けることができます。

(1)後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、後遺障害が残ったことによる被害者の精神的損害を賠償するものです。

後遺障害慰謝料の金額は、認定された後遺障害等級に加えて、3種類の基準のうちどの基準に基づいて算出するかによって異なります。

①自賠責基準

自賠責保険が独自に定めた基準を「自賠責基準」といいます。

自賠責保険は、損害賠償によって被害者が受け取れる最低限の金額を確保することを目的としているため、3つの基準の中では最も低い金額となります。

②任意保険基準

加害者側の任意保険会社が慰謝料を計算するときに用いる基準を「任意保険基準」といいます。

任意保険会社はあくまでも営利を目的としているため、③裁判所基準よりも低い金額に設定されています。

③裁判所基準

弁護士や裁判所が慰謝料を計算する際に用いる基準を「裁判所基準」といいます。

この基準は、過去の裁判例をもとに設定されていて、裁判になった場合に得られる相場を示すものといえます。

加害者側との示談交渉においても、交渉を弁護士に依頼することで、この裁判所基準によって算出した金額を慰謝料として請求することができます。

裁判所基準は、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称『赤い本』)」という書籍に記載されています。

外傷性てんかんが後遺障害と認定された場合の後遺障害慰謝料の金額について、自賠責基準と裁判所基準の相場を比較すると以下のとおりとなります。

自賠責基準 裁判所基準
第5級 618万円 1400万円
第7級 419万円 1000万円
第9級 249万円 690万円
第12級 94万円 290万円

このように、いずれの等級においても、裁判所基準によって算出した金額の方が高額となる傾向にあります。

(2)後遺障害逸失利益

後遺障害による逸失利益とは、被害者に後遺障害が残り、労働能力が減少したことによって将来減少するであろう収入の減少のことをいいます。

逸失利益の金額は、被害者がどのように収入を得ていたのか(会社員や個人事業主、学生など)、認定された後遺障害の等級などをもとに計算されます。

具体的な計算式は以下のとおりです。

後遺障害逸失利益の算定式

  • 基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

もっとも、具体的な数値についてはなかなかイメージがしづらいかと思います。

逸失利益として請求できる金額について知りたい方は、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

なお、逸失利益の詳細については、以下の記事でも詳しく解説しています。

2024.10.01

逸失利益とは?概要や算定方法などを弁護士が解説

4.適切な等級に認定されるためのポイント

交通事故に遭ったことによって「てんかん」と診断される場合であっても、事故後の対応を間違えてしまうと適切な等級が認定されない可能性があります。

ここでは、適切な等級に認定されるために気を付けるべきポイントについて解説します。

(1)事故直後に適切な医療機関を受診する

医療機関に受診をして「てんかん」との診断を受けたとしても、事故からしばらく経ってから受診した場合には、事故との因果関係がないとして、適切な賠償を受けられない可能性があります。

事故によって頭部に衝撃を受けた場合には、なるべく事故直後に医療機関を受診しましょう。

(2)発作の状態や回数などについて記録をつけておく

交通事故による外傷性てんかんが後遺障害と認定されるためには、どのような発作が起きているのか、発作の頻度はどのくらいなのか、などが重要となります。

もっとも、被害者自身がこれらを正確に記録することが困難な場合もあるので、家族など身近な人に観察してもらい、発作の状態について正確に記録して、医療機関を受診する際には記録した内容を伝えるようにしましょう。

(3)弁護士に相談する

後遺障害等級認定の申請にあたって、弁護士に依頼した場合には、適切な等級の認定を受けるために必要な書類を用意できるうえに、申請書類を揃えるにあたって弁護士のサポートを受けられるというメリットがあります。

また、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益の計算においても、弁護士に任せることによって適切な金額での賠償を受けることができます。

なお、交通事故の対応について弁護士に相談・依頼することのメリットや相談すべきタイミングについては、以下の記事も参考になります。

2024.11.01

交通事故の対応は弁護士に依頼した方がよい?メリットや相談すべきタイミングなども解説

まとめ

本記事では、交通事故によるてんかんが後遺障害に認定されるための基準やポイントなどについて解説しました。

てんかんが後遺障害として認定されれば、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益なども受け取ることが可能です。

もっとも、適正な賠償金を獲得するためには、適切な等級に認定されることが最も重要です。

交通事故の法的対応に不安や疑問がある場合には、専門家である弁護士に一度相談することをおすすめします。

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執筆者 泉野 暁哉 弁護士

所属 第二東京弁護士会

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