自己破産を行うと制限される職業・資格とは?制限が生じる期間や注意点などについても解説

「自己破産をすると働けなくなるのか」
「自己破産で制限を受ける職業は何なのか」

借金の返済ができなくなり、自己破産を行うことを検討されている方の中には、このような疑問や不安をお持ちの方もいると思います。

自己破産は、借金の返済が不可能であることを裁判所に申し立て、裁判所から免責許可決定を受けた上で、税金の支払義務などの一部を除く債務の返済義務を免除してもらう手続です。

免責許可決定を受けることができれば、ほとんどの債務について返済義務を免れるため、メリットの大きい手続といえます。

一方で、免責許可決定を受けるまでの間は、財産の管理や社会的信用に疑義がある状態に置かれるため、他人の財産を管理する職業や資格については制限が加わることに注意が必要です。

本記事では、自己破産を行うことで、手続中に制限が加わる職業や資格について解説します。

自己破産の概要や手続の流れについては、以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。

2023.06.30

自己破産を行うときの流れとは?手続の期間の目安や注意点を弁護士が解説

1.自己破産によって制限を受ける職業・資格

自己破産を行うことで、ほとんどの職業や資格は制限を受けることはありません。

例えば、会社員やパートタイム労働者、医師や看護師、薬剤師などは制限を受けることなく手続中も問題なく業務に従事することができます。

一方で、以下のような職業・資格については、自己破産の手続中に制限を受けることになるため、注意が必要です。

自己破産によって制限を受ける職業・資格

  1. 士業
  2. 公務員
  3. 金融関連業
  4. 団体・企業の役員
  5. その他の職業・資格

これらの職業や資格の制限については、破産法に定めがあるわけではなく、それぞれの資格などに関する法令に規定が置かれています。

そのため、ご自身の職業や資格が自己破産を行うことによって制限を受けるかどうかの判断が難しい場合には、まずは弁護士に相談・確認することがおすすめです。

(1)士業

士業と呼ばれる資格の中には、破産手続開始決定によって、法律上、当然に資格が制限されるものがあります。

具体的には、以下のような資格を有する場合がこれにあたるので、該当する方は注意が必要です。

制限が加わる士業の例

  • 弁護士
  • 税理士
  • 公認会計士
  • 司法書士
  • 行政書士
  • 社会保険労務士
  • 宅地建物取引士
  • 土地家屋調査士
  • 不動産鑑定士 など

これらの資格は、自己破産の手続が開始されると、その旨を届け出る必要があり、届出によって登録自体が取り消されます。

なお、社会福祉士や保育士については他人の財産を管理するわけではないので、資格に制限が加わることはなく、自己破産の手続中も仕事を続けることができます。

このように、士業の中でも一部の資格のみが制限の対象となることを把握しておきましょう。

(2)公務員

公務員の中でも、特定の業務に従事している人は、自己破産を行うことによって業務につくことができなくなります。

具体的には、以下のようなものです。

制限が加わる公務員の例

  • 公正取引委員会の委員
  • 国家公安委員会の委員
  • 地方公共団体の金融機構の委員
  • 地方公共団体の情報システム機構の委員
  • 教育委員会の委員 など

これらの職業は、破産手続開始決定が出された時点で罷免や解任となることに注意が必要です。

なお、上記以外の公務員であれば、自己破産の手続中であっても制限を受けることはなく、基本的には解雇になることはないでしょう。

(3)金融関連業

金融関連の業務では、必然的に他人の財産を預かったり管理したりすることになるため、自己破産の手続中は業務を行うことができなくなります。

具体的には、以下のような業務です。

制限が加わる金融関連業の例

  • 貸金業の登録
  • 質屋・古物商の許可
  • 生命保険募集人の登録
  • 警備員 など

このうち、警備員については、自己破産の手続中には警備業務に従事することができなくなります。

また、貸金業や質屋・古物商、生命保険募集人は登録や許可が制限される点にも注意が必要です。

もっとも、これらの資格については、任意取消しのため、資格が取り消されない可能性もあります。

なお、自己破産の手続中に新たに登録や許可を得ることもできません。

(4)団体・企業の役員

団体や企業などの役員についても、職業制限を受けることになります。

具体的には、以下のとおりです。

制限が加わる役員の例

  • 日本銀行の役員
  • 銀行の取締役・執行役・監査役
  • 会社の取締役 など

これらの役職についている方は、破産手続開始決定とともに罷免や解任がされてしまうため、注意が必要です。

なお、会社の取締役については、再任の決議がなされて破産手続中に取締役に戻ることもあります。

これは、破産手続開始決定は、会社と取締役との委任契約の終了事由ではあるものの、自己破産手続中に取締役となること自体を制限する規定がないからです。

したがって、破産手続開始決定により一度罷免や解任がされても、取締役に関しては、再任の決議によって自己破産の手続中に業務を引き続き行うことができるケースがあることを押さえておきましょう。

(5)その他の職業・資格

上記のようなもののほかにも、制限が生じる職業や資格、法的地位があります。

例えば、以下のようなものにも制限が加わるため、注意が必要です。

制限が加わるその他の職業・資格の例

  • 旅行業の登録
  • 建設業(一般建設業、特定建設業)
  • 廃棄物処理業者
  • 後見人・保佐人・補助人
  • 遺言執行者
  • 中央競馬の調教師・騎手 など

このように、一部の職業や資格については、自己破産を行うことによって業務を行うことができなくなります。

ただし、制限が生涯にわたって続くわけではなく、手続終了後に制限が解除される点を押さえておきましょう。

詳細については、次項で解説します。

2.自己破産による職業・資格の制限に関する注意点

自己破産によって特定の職業や資格の制限を受けることについて、押さえておくべきポイントがいくつかあります。

主な注意点は以下のとおりです。

自己破産による職業・資格の制限に関する注意点

  1. 復権を受けることができれば制限は解除される
  2. 手続中は一時的に休職や転職が必要となるケースもある
  3. 資格を取得すること自体は制限されない

順にご説明します。

なお、自己破産の手続では、職業・資格の制限以外にもさまざまな注意点があります。

詳細については、以下の記事でも詳しく解説しているので、あわせてご参照ください。

2022.11.30

自己破産の手続中にしてはいけないことは?手続後の影響についても解説

(1)復権を受けることができれば制限は解除される

自己破産を行ったとしても、復権を受けることができれば、職業や資格の制限が解除されます。

そのため、先ほど述べた職業や資格で業務を営むことが今後一切できなくなるわけではありません。

復権には以下の2つのパターンがあります。

復権の種類

  1. 当然復権
  2. 申立てによる復権

どのようなケースが該当するか順にご紹介します。

#1:当然復権

当然復権は、自己破産の手続を行った後に、申立人が何らかの手続を行わずに当然に職業や資格の制限が解除されるものをいいます。

当然復権となる理由はいくつかありますが、そのほとんどは、裁判所による免責許可決定です。

そのため、実質的には、破産手続開始決定から免責許可決定を受けるまでの間のみ職業や資格の制限が生じることになります。

なお、自己破産を申し立ててから、免責許可決定を受けて復権を得るまでの期間は、自己破産の手続が管財事件と同時廃止事件のいずれに振り分けられるかによって異なりますが、概ね3~6か月程度です。

管財事件と同時廃止事件の目安期間の違いについては、以下の記事もご参照ください。

2021.11.30

自己破産の手続に要する期間は?手続ごとの目安や長引いてしまう原因についても弁護士が解説

また、免責許可決定を受けるためには、免責不許可事由と呼ばれる一定の事由が存在しないことなどが求められます。

詳細については、以下の記事も参考になるので、あわせてご覧ください。

2021.10.30

自己破産の免責とは?免責が許可されない六つのケースを紹介

#2:申立てによる復権

申立てによる復権は、当然復権に該当しないケースのときに、自己の判断で裁判所に復権を申込むことで、制限が解除されるものです。

当然復権は、免責許可決定を受けた場合になることが多いですが、申立てによる復権は、免責許可決定を受けられなかった場合に、自力で債務の全額を弁済して責任を免れた後に例外的に適用されます。

例えば、親族からの援助や相続によって得た財産を返済に回すことで完済できた場合です。

もっとも、このような場合はあまり多くはなく、実務上は当然復権によって職業・資格の制限が解除されるケースがほとんどといえるでしょう。

(2)手続中は一時的に休職や転職が必要となるケースもある

破産手続開始決定によって、手続中に職業や資格の制限を受けた場合、一時的に休職や転職が必要となります。

復権を得られるまで、3か月程度はかかるので、その間従来の職に就くことができなくなります。

そのため、自己破産によって制限を受ける可能性がある方は、あらかじめ手続中に収入を得るための対策を立てておく必要があるでしょう。

なお、一部の職業や資格については、配置転換などによって休職や転職を行わずに仕事を続けることが可能なケースも考えられます。

もっとも、そのような対応を期待するためには、勤務先に自己破産を行っていることを申告することが前提となる点に注意が必要です。

このような場合には、勤務先に自己破産の手続を行っていることが知られてしまう可能性が高いことも想定しておきましょう。

(3)資格を取得すること自体は制限されない

上記の1で述べたような職業・資格には、資格を取得し、登録を行うことで業務に従事できるものがあります。

このような職業・資格については、自己破産の手続中に登録が取り消されたり新たに登録することができなかったりするものの、資格の取得自体が制限されるわけではありません。

そのため、自己破産の手続中に上記のような資格試験の受験や資格の取得をすることは可能です。

もっとも、資格を取得できたとしても、復権を得るまでは登録ができず、その資格を用いた業務を行うことができないことに注意しましょう。

3.職業・資格制限を受けずに債務整理を行う方法

これまで述べたように、自己破産を行うことで、一部の職業や資格に制限が加わることになります。

この制限は復権を得るまで続くため、手続が長期化して免責許可決定までの期間がかかってしまうと、仕事にも大きな影響が生じる点に注意が必要です。

そのような場合には、自己破産以外の手続を行うことを検討してみましょう。

具体的には、以下のどちらかを選択することになります。

職業・資格の制限を受けずに債務整理を行う方法

  1. 任意整理
  2. 個人再生

順にご説明します。

(1)任意整理

任意整理は、将来的に発生する利息のカットと長期の返済スケジュール(概ね3年から5年程度)の設定を債権者と直接交渉し、合意に基づいて返済を行う手続です。

自己破産とは異なり、手続中に職業や資格に制限が加わることはありません。

そのため、1で述べた職業・資格で業務を行っている人でも、任意整理を選択することで、手続中も問題なく仕事を続けることが可能です。

ただし、借金の返済義務自体がなくなるわけではないため、債権者との合意に基づいて継続的に返済を行わなければなりません。

そのため、定期的に収入を得ている場合でなければ任意整理を行うことは難しい点に注意が必要です。

また、長期分割返済によっても完済することが難しいほど借金総額が膨らんでいる場合には、任意整理による解決が適していない可能性もあります。

任意整理を行う条件やメリット・デメリット、注意点などについては以下の記事で詳しく解説しています。

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任意整理とはどのような手続?メリット・デメリット、手続の流れを弁護士が解説

(2)個人再生

個人再生は、借金の返済が困難であることを裁判所に申し立て、借金総額に応じて減額された金額を原則3年(事情に応じて最長5年)にわたって返済する再生計画の認可を受け、それに基づいて返済を行う手続です。

任意整理と同じく返済義務の免除を受けられるわけではないものの、減額の対象には元本部分も含まれるため、任意整理と比較すると返済負担を大幅に軽減させることにつながります。

個人再生でも職業・資格の制限が生じないため、手続中でも問題なく仕事を行うことが可能です。

しかし、任意整理と同じく返済を行うことが前提となるため、安定した収入があることが手続を行う要件となるほか、裁判所を通して行う手続きであるため、任意整理に比べて手続きが複雑であり、さまざまな注意点もあります。

個人再生の概要やメリット・デメリットなどについては、以下の記事もご覧ください。

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個人再生とは?弁護士が手続の概要やメリット・デメリットなどを解説

4.自己破産をはじめとする債務整理について弁護士に相談するメリット

自己破産を行い、免責許可決定を受けることができれば、借金の返済義務は免除されます。

しかし、手続中は一部の職業・資格の制限を受けるなど、さまざまな注意点もあります。

もっとも、自己破産以外の手続を選択することで、そのような制限を受けることなく借金問題を解決することが可能です。

どのような手続を行うことが適しているかは借入総額や借入れの理由、収支状況などによっても異なり、専門知識や実務経験がなければ判断が難しいです。

そのため、自己破産をはじめとする債務整理の手続を行うことを検討されている場合には、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士に相談するメリットは以下のとおりです。

自己破産をはじめとする債務整理について弁護士に相談するメリット

  1. 借入額や収支状況に応じた解決方法のアドバイスを受けられる
  2. 手続を依頼することで債権者からの督促や取立てが停止する
  3. 手続の準備に関するサポートを受けられる
  4. 債権者や裁判所とのやりとりを一任できる

順にご説明します。

(1)借入額や収支状況に応じた解決方法のアドバイスを受けられる

借入額や収支状況に応じて最適な解決方法のアドバイスを受けることができます。

自己破産をはじめとする債務整理は、債務者の借入総額や収支、財産状況などの具体的な事情によって、どの手続を選択するべきかが異なります。

例えば、継続的な収入があっても、将来利息のカットや元本の圧縮によっても完済が難しいほど借金総額が膨れ上がっている場合には、任意整理や個人再生が適していないケースといえます。

また、現在および将来的に収入を得る見込みがない場合など、借金総額が少額であっても、自己破産が適しているケースもあるのです。

しかし、専門的な知識や経験がなければ、どの手段を選ぶべきか判断することが難しいといえます。

債務整理の経験が豊富な弁護士であれば、相談時に借入額や収入状況をヒアリングして、その内容をもとに適切な解決方法を提案することが可能です。

(2)手続を依頼することで債権者からの督促や取立てが停止する

弁護士に債務整理手続を依頼することで、債権者からの督促や取立てが停止します。

債務整理手続の依頼を受けた弁護士は、債権者に対して受任通知といって、借入れをしている人の代理人になった旨の書面を送付します。

債権者は、受任通知を受け取ると債務者に督促や取立てができなくなります。

そのため、一時的に返済をストップすることができ、金銭的負担や債権者からの連絡などによる精神的負担を軽減することができます。

また、弁護士に手続を依頼すると弁護士費用が発生するほか、個人再生と自己破産の場合には裁判所費用も必要です。

受任通知が送付され、返済がストップしている間に今まで返済にあてていたお金を積み立てて手続の準備を進めることができる点も大きなメリットといえるでしょう。

(3)手続の準備に関するサポートを受けられる

弁護士から手続の準備に関するサポートを受けることができます。

債務整理の手続の中には、あらかじめ書類や資料を作成・収集しなければならないものもあります。

例えば、自己破産を行う場合には、以下のような書類・資料が必要です。

自己破産の際に必要となる主な書類・資料

  • 申立書
  • 財産目録
  • 陳述書(報告書)
  • 家計収支表
  • 債権者一覧表
  • 収入を証明する書類
  • 財産に関する証明書 など

どのような書類や資料が必要となるかは、就労状況や財産状況などによっても変動します。

書類や資料に不備がある場合には、修正や追加での提出を求められることもあり、手続がスムーズに進まない事態にもなりかねません。

弁護士からサポートを受けることで、必要な書類や資料を効率よく揃えることができ、記入漏れ等の不備も防ぐことができます。

(4)債権者や裁判所とのやりとりを一任できる

弁護士に債権者や裁判所とのやりとりを一任することもできます。

任意整理の場合は、債権者と直接交渉しなければならず、個人再生や自己破産の場合は、債権者に加えて裁判所や管財人とのやりとりが必要となる場面もあります。

しかし、債務者本人がすべてを対応することは極めて困難です。

例えば、任意整理の場合には、債務者本人が交渉を行っても、債権者が応じないこともあります。

また、個人再生と自己破産の場合には、禁止事項や注意点が多く、手続が途中で終了したり免責許可を受けることができなかったりするリスクがあります。

弁護士に手続を依頼することで、禁止事項や注意点を教えてもらうことができ、上記のようなリスクを回避しながら手続を進めていくことが可能です。

まとめ

自己破産を行うことで、一時的に制限を受ける職業や資格があります。

制限を受けている間は、その業務を行うことができなくなるため、一時的に休職や転職などの対応を行うことが必要となります。

もっとも、免責許可決定を受けることができれば、それ以降は今までと同じように業務を行うことが可能です。

職業や資格の制限を受けずに借金問題を解決したい方は、自己破産ではなく、任意整理または個人再生を行うことを検討してみましょう。

もっとも、どの手続を行うことが適しているかを判断することは難しいです。

どのような手続によって借金問題を解決することがふさわしいのかはもちろん、どのような解決方法の選択肢があるのかについて疑問がある方は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士法人みずきでは、債務整理に関する相談を無料で受け付けておりますので、自己破産を行うことを検討されている方は、お気軽にご相談ください。

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執筆者 潮崎 雅士 弁護士

所属 第二東京弁護士会

初動が大事。様々なことに当てはまりますが、法律問題もそうです。しかし、今まで法律問題に関わったことがなく、どうすればよいかわからない方が多いと思います。そうして初動が遅れると、最良の解決は難しくなってしまいます。
逆に相談が早ければ早いほど、より良い解決がしやすくなります。ですので、何かお困りのことがあれば、お早めにご相談ください。皆様の法律問題の最良の解決に向けて全力でサポートさせていただきます。