法人破産でしてはいけないこととは?手続を適切に行うためのポイントも解説

「法人破産の手続を行う上で、してはいけないことにはどんなことがある?」
「手続を適切に行うための注意点やポイントを押さえておきたい」

会社・法人の代表者の中には、資金繰りの悪化などによって法人破産の手続を行うことを検討されている方もいると思います。

法人破産は、法律の定めに従って行われる手続きであり、裁判所の関与の元で進められるため、透明性の高い手続です。

そのため、法律の定めに従って進める手続きである以上、手続を行う前や手続中には注意しておかなければいけない点もあります。

注意点を押さえた上で手続を行わなければ、手続自体が行えなかったり、手続の期間が延びてしまったり、場合によっては刑事責任を問われる可能性もあるため、注意が必要です。

この記事では、法人破産を行う上でやってはいけないことや、手続を適切に行うためのポイントについて解説します。

1.法人破産の手続中にしてはいけないこと

法人破産の手続をする際、やってはいけないことがあります。

具体的には、以下のような行為です。

法人破産の手続中にしてはいけないこと

  1. 一部の債権者に対してのみ弁済する
  2. 財産を処分する
  3. 法人破産を行うことを周囲に知らせる
  4. 返済するつもりなく新たに借入れや融資を受ける

中には刑事責任を問われるケースもありますので、リスクを把握した上で、これらの行為を行わないようにしましょう。

(1)一部の債権者に対してのみ弁済する

一部の債権者に対してのみ返済する行為は、偏波弁済と言って破産法において禁止されている行為になります。

法人破産では、すべての債権者を平等に扱うべきとする「債権者平等の原則」という考え方に基づいて手続を進行します。

そのため、一部の債権者のみに弁済を行う行為は、ほかの弁済を受けられなかった債権者との平等を保つことができなくなるため、禁止されているのです。

なお、このような行為を行ってしまうと、裁判所によって選任された破産管財人によって、否認権が行使されます。

破産管財人が否認権を行使すると、その対象となった一部への返済の効果は否定され、弁済によって流出した財産を戻し、改めてすべての債権者に対して平等に配当されます。

裁判所から選ばれた破産管財人は、法人が所有するすべての財産を管理・処分する権限を持ち、不当に流出した財産があれば取り戻すことまで行うのです。

(2)財産を処分する

法人が所有する財産を売却したり、無償であげてしまう行為も、否認権行使の対象になります。

法人の財産を無償で第三者に贈与すれば、本来であれば債権者に分配する金額となるはずの財産を失うことになるため、破産法においては否認権行使の対象に定められています。

ただし、破産者に支払の停止等があった後、またはその前6か月以内にした無償行為に限定されます。

また、財産を売却するなど、相当の対価を得て処分したような場合も否認権が行使されることがあります。

特に債権者を害する目的で、所有する財産を第三者に取得させた場合には、詐欺破産罪が成立し、刑事罰を受けるリスクがあるため、注意が必要です。

(3) 法人破産を行うことを周囲に知らせる

破産申立ての手続が進められる場合、債権者は、弁護士からの通知や裁判所から破産手続開始決定を受け取ったタイミングで、法人破産の事実を知ることになります。

もし裁判所に破産申立てを行う前に周囲に破産をすることが知られてしまうと、それを知った一部の債権者によって強引な債権回収が行われる危険があります。

そうなった場合、債権者間の公平性を保つことができなくなってしまうため、法人破産を行う場合は、周りに知られないように準備を進めることになります。

なお、弁護士から債権者に対して受任通知を送付する場合、財産の散逸を防止するため、受任通知を送付するタイミングについては慎重な考慮が必要となります。

法人破産の手続と受任通知の関係については、以下の記事も参考になります。

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法人破産の受任通知とは?その効力や注意点について弁護士が解説します

(4)返済するつもりなく新たに借入れや融資を受ける

返済するつもりがないにもかかわらず、新たに借入れや融資を受けると、詐欺罪や破産詐欺罪などの刑事責任を問われる可能性があります。

詐欺罪は、相手をだまして不正に利益を得た場合に成立します。

法人破産との関係では、返済能力が無いにも関わらず新たな借入れなどをすると、詐欺罪になる可能性が生じます。

また、破産詐欺罪は、法人破産の手続を行う過程において、債権者の権利を損害した場合に成立します。

さらに、このような行為を行った後で法人破産を申し立てた場合には、「計画倒産」と評価されて破産手続が進められない可能性があることに注意が必要です。

計画倒産の概要やリスクについては、以下の記事で詳しく解説しています。

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計画倒産とはなにか?その概要と違法にあたるケースについて弁護士が解説

2.法人破産を行う上での注意点

法人破産を行うことで、法人の財産はすべてが換価処分され、債権者に平等に配当が行われます。

もっとも、これによって法人が清算されるため、残債の返済義務を免れることができます。

このように、法人破産を行うことは、資金繰りが悪化し、負債の返済目途が立たない法人・会社にとっては必要かつ有益な手続です。

しかし、法人破産を行うことには、以下のような注意点も知っておく必要があります。

法人破産を行う上での注意点

  1. 手続を行うためには要件を満たす必要がある
  2. 会社の法人格が消滅し活動ができなくなる
  3. 従業員を全員解雇しなければならない

順にご説明します。

(1)手続を行うためには要件を満たす必要がある

法人破産の手続を行うためには、法人が支払不能または債務超過の状態にあることが要件です。

支払不能とは、弁済しなければならない債務について、継続して支払うことができない状態を指します。

注意するべき点は、一時的に支払えない状態に陥ってるだけでは、支払不能と扱われない可能性があることです。

また、債務超過とは、法人が所有する資産よりも負債が上回っている状態のことです。

資産をすべて返済に充てたとしても、負債を完済できなければ、債務超過と判断されます。

なお、法人破産を申し立てるための要件については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので合わせてご覧ください。

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法人破産を申し立てるための要件とは?破産手続の流れやメリット・デメリットを解説

(2)会社の法人格が消滅し活動ができなくなる

法人破産は、会社・法人が所有するすべての財産を換価処分して金銭に換え、それを債権者に平等に配当する手続です。

換価処分と債権者への配当が完了すると、法人格は消滅します。

そのため、法人破産した会社・法人は活動、事業を行うことができなくなってしまうため、注意が必要です。

(3)従業員を全員解雇しなければならない

法人破産は、法人を清算する手続であるため、従業員を解雇する必要があります。

従業員へ給与や解雇予告手当については、支払えるのかどうか、支払えるとしたらどのタイミングで払うのかなどを計画的に考えておかなければなりません。

従業員への解雇を伝える解雇予告は、解雇日の30日前までに行う必要があり、もし予告日から30日に満たない場合は、足りなかった分の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。

なお、従業員への未払賃金がある場合は、破産手続上、破産手続開始前3か月間の未払賃金については、財団債権として最優先で弁済が受けられるのです。

開始前3か月間に当たらない未払賃金も、優先的破産債権として扱われ、金融機関や取引先に対する債務の返済よりも優先的に弁済が受けられる債権になります。

従業員へ行うべき対応や解雇までの流れについては、以下の記事も参考になります。

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3.法人破産を適切に行うためのポイント

法人破産を適切に行うためには、なるべく早期に準備を行うことが望ましいです。

特に徐々に資金繰りが悪化する中で、その場しのぎの資金調達などを行ってしまいがちですが、先ほども述べたように、法人破産を行う際にしてはいけない行為に該当する可能性もあります。

そのような行為を行ってしまった場合、法人破産を行うことができないだけでなく、刑事責任を問われるリスクもあります。

適切に法人破産の手続を進めるためにも、以下のポイントを押さえておきましょう。

法人破産を適切に行うためのポイント

  1. 弁護士に相談する
  2. 資産がある程度手元にある状態で行う
  3. 所有する財産についてすべて申告する

順にご説明します。

(1)弁護士に相談する

上記でもご説明したように、法人破産の手続を行う上で、債権者や従業員への対応など、やるべきことは多岐にわたります。

さらに、法人破産を行うことを検討する際にやってはいけないことにも注意しながら慎重に進めなければなりません。

そこで、法律の専門家である弁護士に相談することで、見通しや流れ、注意点などについてアドバイスを受けられます。

また、相談の結果、破産手続を依頼することになれば、弁護士に代理人として準備や手続の進行を任せることができるのです。

弁護士への相談は、なるべく早期に行うことが重要と言えます。

弁護士に相談すべきタイミングについては、以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。

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(2)資産がある程度手元にある状態で行う

法人破産の手続を行うためには、弁護士費用や裁判所へ納付する予納金を準備する必要があります。

そのため、予納金を捻出することが困難なほど資金繰りが悪化している場合には、法人破産の手続を行うことすら困難になってしまうため、注意が必要です。

なお、裁判所に納める予納金の金額は、法人の債務総額などの状況に応じて異なりますが、債務総額が少なく少額管財事件として扱われる場合、予納金の金額は20万円程度です。

そのため、少額管財事件として事案が処理されることで、予納金の負担を抑えて手続を行うことができます。

もっとも、少額管財事件として処理されるためには、弁護士が手続を代理していることが前提となります。

費用負担を抑えて手続を行うためには、まずは弁護士に相談することがおすすめです。

法人破産を行う際の予納金の相場については、以下の記事でも詳しく解説しています。

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また、費用を捻出できない場合の対処法については、以下の記事も合わせてご覧ください。

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(3)所有する財産についてすべて申告する

破産手続を行うためには、法人が所有する財産を裁判所に正確に申告する必要があります。

法人破産は、法人を清算する手続であるため、破産後も生活がある個人の破産とは異なり、手元に財産を残すことはできません。

そこで、法人の財産を隠したり、裁判所などに虚偽の説明を行ったりすると手続を進めることができなくなってしまいます。

もし財産を隠すような行為があれば、破産詐欺罪に問われる可能性もあります。

また、申告していない財産が後から判明した場合、換価処分に時間がかかり、手続全体が長期化する可能性もあるのです。

確実に手続を進めるためにも、財産を漏れなく申告することがとても重要です。

まとめ

本記事では、法人破産の手続前や手続中に行ってはいけないことについて解説しました。

資金繰りの悪化によって事業継続が困難になった場合、その場しのぎの資金調達などを行ってしまいがちです。

しかし、そのような状態に至った後、法人の財産を不当に流出させてしまうと、法人破産の手続を行えないだけでなく、刑事罰を科される可能性もあるため、注意が必要です。

法人破産を行うことを検討している方は、なるべく早期に弁護士に相談しましょう。

弁護士法人みずきには、法人破産の手続に精通した弁護士が在籍しています。

各法人の財産状況なども踏まえ、どのように進めていけばよいかアドバイスいたしますので、お悩みの方はお気軽に当事務所にご相談ください。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

依頼者の方の問題をより望ましい状況に進むようにサポートできれば、それを拡充できればというやりがいで弁護士として仕事をしています。