個人再生と敷金

賃貸住宅で暮らしていて、敷金が30万円でした。賃貸住宅にはこれからも住み続ける予定です。

敷金は、実際に賃貸住宅から退去した時に返還を受けるものだと思うのですが、この敷金について、個人再生手続では財産として評価されてしまい、その分を上乗せして支払わなければならない可能性があるのでしょうか。

1.清算価値保障原則とは

個人再生手続には、清算価値保障原則というものがあります。

この清算価値保障原則とは、再生手続を利用した場合には、仮に破産をした場合に債権者に配ることのできる金額(清算価値)と比べて多くの返済を債権者に保障することを目的とした原則です。

具体的にいうと、たとえば、ある債務者に債務が600万円あったとします。

個人再生手続をすると600万円の5分の1の120万円まで圧縮できる可能性があります。

しかし、破産をした場合に仮に200万円を債権者に配れるのであれば、個人再生手続をして債務を圧縮する限度を200万円までに制限するというものです。

それでは、敷金についても清算価値に加算することになるのでしょうか。

2.敷金とは

敷金とは、借主の債務(滞納家賃や原状回復)を担保するために、借主から貸主に交付されるお金のことを言います。

この敷金を返還請求する権利について、最高裁判所は、契約終了後目的物件が明渡しされたときに発生し、そのときまでに生じていた賃料等を控除してなお残額がある場合に、その残額の返還を求めることができると判断しています。

すなわち、敷金返還請求権は、将来発生する可能性のある明渡しを条件とするいわゆる条件付債権といえます。

このように、敷金返還請求権は通常の権利と異なり条件付のもののため、再生手続をするにあたって、清算価値に加算するべきなのかが問題となるのです。

3.評価方法

清算価値保障原則との関係でいえば、破産した場合に配当されないような財産を、個人再生で清算価値に加算することは破産とのバランスとの関係で妥当ではないと考えられています。

破産実務においては、破産者の居住用家屋を確保する必要性が高いこと、居住用家屋であれば敷金はそれほど高額ではないこと、明渡し時に敷金が全額返還されることが稀であることから、居住用家屋の敷金については、配当にまわす必要はないと判断している裁判所が多いです。

これと同じように、個人再生においても考えるべきでしょう。ある裁判所では、居住用賃貸借における敷金返還請求権は財産目録に財産としての記載を要求するけれども、清算価値としてはゼロと評価しているようです。

また、大阪地裁では、敷金の額面金額から滞納家賃を控除し、さらに60万円を控除した金額を清算価値に加算するという運用のため、居住用賃貸借における敷金は、ほとんどの場合清算価値に加算する必要はないと考えられています。

このように、居住用賃貸借の場合には、よほど高額の敷金を差し入れているなどの例外的な場合を除いて、敷金返還請求権を再生債務者の財産として、清算価値に加算する必要はないことが多いでしょう。

よほど高額の敷金を差し入れている場合には、実際に明渡しをした際に予想される控除額を評価し、これを敷金額から控除してもなお残額ある場合に、その金額を清算価値に加算することになるでしょう。

(1)退去を予定していない場合

本件のように、敷金が30万円であっても今後も居住を続けるというケースであれば、敷金返還請求権を再生債務者の財産と評価して、清算価値に加算する必要はありません。

(2)退去を予定している場

それでは、退去を予定している場合はどうでしょうか。

この場合には、居住の確保という要請がありません。

また、近々条件が成就し、現実的に敷金返還請求権が発生すると考えられることから、破産実務においては未払賃料や原状回復費用等を控除した敷金を財産として把握すべきと考えられています。

したがって、破産手続と同様に、個人再生手続でも裁判所から再生計画について問題無しとして再生計画認可決定がなされるころまでに退去が予定される場合には、現実的に発生した敷金を清算価値に加算するべきということになるでしょう。

(3)事業用不動産の場合

個人事業主として、事業用不動産を借りている場合はどうでしょうか。

結論からいうと、この場合には、実際に明け渡したと仮定した場合に予想される控除額(未払い賃料や原状回復費用など)を概算で評価し、これを敷金額から控除してもなお残額がある場合に、その金額を清算価値として把握すべきと考えらます。

確かに、個人事業主が個人再生を行うにあたって、事業の継続が必要と考えられ、事業用不動産の賃貸借契約を清算することは再生手続の障害になる可能性はあります。

しかし、清算価値保障原則との関係でいえば、破産手続では事業用不動産に関する賃貸借契約は清算されます。

その場合は、敷金返還請求権は換価され、債権者に対する配当にまわされるはずです。

また、事業用賃貸借における敷金額は居住用賃貸借における敷金額と比べて、高額であることが通常です。

このように、事業用不動産の賃貸借については、居住用の賃貸借で清算価値に加算するべきではないと考えられた理由があてはまらないため、敷金返還請求権を、実際に明け渡したと仮定した場合に予想される控除額(未払い賃料や原状回復費用など)を概算で評価し、これを敷金額から控除してもなお残額がある場合に、その残額を清算価値に加算するべきということになります。

以上、簡単に個人再生における敷金の取り扱いについて説明してきました。

具体的な場合に敷金が個人再生手続で具体的にどのように取り扱われるかはケースバイケースです。

そのため、引っ越しを考えている方や個人事業主の方で個人再生手続の利用を考えている方は、お早めにご相談されることをおすすめします。