住宅の所有者を変えた場合でも、個人再生手続を利用すると住宅を手放さずに済むのか?

個人再生に失敗しないために手続の流れやメリット・デメリットを知ろう
住宅の所有者を変えた場合でも、個人再生手続を利用すると住宅を手放さずに済むのか?
<ケース1>
親であるA名義の自宅についてその子aが住宅ローンを組んでいる場合、相続で子aが自宅を取得した場合でも、その子aは個人再生手続を利用して住宅を手放さずに済むのでしょうか。
また、他の相続人bが相続により自宅の所有権を全部取得した後に、再生申立をするまでの間に子aが所有権を一部譲り受けた共有しているといえる場合でも、個人再生手続を利用すると住宅を手放さずに済むのでしょうか。
<ケース2>
夫B名義の自宅に夫が住宅ローンを組んでいたが、離婚による財産分与で、その妻bが夫B名義の自宅を取得した場合、その妻bは、個人再生手続を利用して住宅を手放さずに済むのでしょうか。
妻bが夫Bの住宅ローンを保証していた場合は、どうでしょうか。

1.住宅資金特別条項(住宅ローン特則)とは

個人再生手続のメリットは、他の借金とは異なり、特別に住宅ローンだけを支払い続けることができ、その結果、住宅を手放さずに済むというところにあることについては御存知の方も多いことでしょう。

これは、住宅ローンを抱えて、経済的にやっていけなくなった債務者が生活の基盤である住宅を手放さずに、経済的な生活の再生を可能にするために特別に民事再生法という法律に定められた特別のルールです。

この住宅ローンだけ特別に取り扱うルールを住宅資金特別条項(住宅ローン特則)といいます。

このように、個人再生手続では、この住宅資金特別条項を利用することで、住宅ローンだけを特別に支払い続けることができ、その結果、住宅を手放さなくてよいということなのです。

2.再生手続を利用する時点で住宅を所有している必要がある

この住宅資金特別条項の対象となるのは「住宅資金貸付債権」というものです。

この「住宅資金貸付債権」とは、「住宅」の建設や購入に必要な資金などのことを言います。

簡単にいうと、住宅ローンです。

そして、「住宅」については、個人である債務者が所有していることが必要とされています。

そのため、自宅の建設、購入に必要な資金のローンによって生じた債権があったとしても、個人再生手続を利用する時点(申立の時点)で、債務者が自宅を所有していないと、この住宅資金特別条項を利用することはできなくなるとされています。

3.建設、購入の時点で住宅を所有している必要があるのか

それでは、再生手続を利用する申立の時点で、債務者が自宅を所有していたとしても、建設や購入をする時点で、債務者が自宅を所有していない場合、住宅資金特別条項を利用することで、住宅を手放さずに済むのでしょうか。

住宅資金特別条項は、「住宅資金貸付債権」にあてはまるかどうかについて、建設や購入のときから「住宅」が再生債務者の所有にあることまで明確に必要であるとまではしていません。

また、住宅資金特別条項が、住宅ローンを抱えて、経済的にやっていけなくなった債務者が生活の基盤である住宅を手放さずに、経済的な生活の再生を可能にするために特別に設けられたルールということも考えると、建設や建物購入時に所有者でなくたって、住宅資金特別条項を利用することを認めるべきでしょう。

このように、建設・購入の時点では住宅の所有していなかったとしても、再生申立の時点で、自宅が債務者の所有であれば、「住宅資金貸付債権」のにあてはまり、住宅資金特別条項の利用して、住宅を手放さずに済むと考えられます。

4.ケースの検討

以上の検討を踏まえて、それぞれのケースについて見て行くことにしましょう。

(1)ケース1について

ケース1の前段の場合には、子aが再生申立をするまでに相続によって自宅の所有権を取得しているのであれば、再生申立の時点で自宅が債務者の所有といえるのですから、住宅資金特別条項の利用は可能であり、ローンを払い続けることによって住宅を手放さなくても良いということになります。

ケース1の後段の場合には、他の相続人が相続により自宅の所有権を全部取得した後に、再生申立をするまでの間に子が所有権を一部譲り受けた共有しているといえる場合はどうでしょうか?

この点について、再生申立の時点での所有には「共有」も含まれていると考えられているので、住宅資金特別条項の利用は可能である、この場合もローンを払い続けることによって住宅を手放さなくても良いと考えられるでしょう。

(2)ケース2について

ケース2の前段の場合には、そもそも妻は住宅ローンを負担していないため、住宅資金特別条項の対象となる「住宅資金貸付債権」がありません。

そのため、妻が離婚に伴う財産分与によって夫から自宅の所有権を取得しても、個人再生手続で住宅資金特別条項を利用することはできないことから、住宅ローンだけを特別に払うことはできず、住宅を手放さなくてはいないということになります。

それでは、ケース2の後段の場合はどうでしょうか。

この場合、妻bが住宅ローンを保証していたとしても、住宅ローン会社から保証人に対する債権は、「住宅資金貸付債権」とは考えられていません。

そのため、妻bは、やはり個人再生手続で住宅資金特別条項の利用はできないことから、住宅ローンだけを特別に払うことはできず、住宅を手放さなくてはいけないということになります。

まとめ

今回は、住宅の所有者を変えた場合に、個人再生手続を利用することで住宅を手放さずに済むのかについて、簡単にご説明いたしました。

具体的な場合に、個人再生手続を利用することで、住宅を手放さずに済むかどうかについては、専門家でないと判断が難しいこともあります。

そのため、個人再生手続の利用を考えられている方は、お早目に弁護士に相談することをおすすめします。