勤務先からの借金と個人再生

1.勤務先からの借金と個人再生

勤務先から借金がある場合に、個人再生を申し立てると勤務先に個人再生手続をすることがばれてしまわないか。ばれないように先に勤務先に返済をすることができないかといった相談が寄せられることがあります。

今回は、勤務先から借金がある場合、勤務先からの借金を申告しないことや、勤務先からの借金を返済することが個人再生の申立や手続にどのような影響を及ぼすのか説明していきたいと思います。

Q.勤務先から借金をしているのですが、勤務先に知られずに個人再生の申立をすることは可能でしょうか?

個人再生を申立する場合、債権者一覧表という債権者名、債権額、取引の期間等を記載したものを提出する義務があります。

債権者一覧表に記載された債権者には、裁判所から連絡がいきます。

勤務先から借金をしている場合、勤務先も債権者であるため、債権者一覧表に記載する必要があり、結果として勤務先は個人再生の申立をしたことを知るようになるのです。

もし仮に、勤務先からの借金に対する返済を継続していたりした場合には、返済自体が無効になったり、裁判所から再生計画の認可を受けられなくなる可能性があります。

場合によっては手続自体が廃止されることにもなりかねません。

このように、個人再生の申立をしていることを勤務先に知られたくないとしても、結果的には債務者の不利益となるため、債権者一覧表には記載しなければなりません。

Q.勤務先からの借金がありますが、個人再生の申立をすることを考えています。勤務先からの借金を返済してしまっても良いでしょうか?

勤務先からの借金は、上記のとおり、債権者一覧表に記載する必要があります。

以下では、再生手続の開始前と開始後に分けて、勤務先からの借金に対する返済が再生手続に与える影響について説明します。

2.再生手続開始前の返済

再生手続が開始される前に、勤務先からの借金の返済をすること自体を禁止する法律はありません。

しかし、借金が返せなくなった状態、例えば弁護士に依頼して各債権者からの取立てがストップしている段階で勤務先からの借金に対してのみ返済をすることは、偏頗(へんぱ)弁済と呼ばれていて、通常の再生手続の場合否認権というものが行使され、結局、勤務先に返済した金額の返還を求めることになります。

個人再生手続を利用している場合は、否認権というものを使うことはできませんが、破産で否認権を使われるのを回避することを目的とした場合には、申立自体が認められなくなる(申立棄却)ことや、返済スケジュールを定める際に、会社に返済した借金額を上乗せして返済しなければならないことになります。

3,再生手続が開始された後の返済

再生手続が開始された後は、返済スケジュール(再生計画)によらずに返済をすることはできません。

もし仮に、返済をした場合には、その返済は効力がなかったものとされ、結局勤務先に返済した金額の返還を求めることになります。

また、その返済額が大きくて、返済スケジュールに重大な影響を及ぼす場合には、再生手続が途中で終わる(手続の廃止)ことにもなりかねません。