破産の直前に現金化した財産の取り扱い~現金99万円までは破産者のもの?~

1.通常、99万円までの現金は所持して良いの?

自己破産をしたとしても、破産者は現金を99万円までは所持してよく、債権者の配当等の処分をする必要はないとされています。

破産者が裁判所に文句を言われることなく自由に処分できる財産ということで「本来的自由財産」と呼ばれています。

これは、破産者の破産手続開始決定後の生活確保のために認められています。

他方で、現金以外の財産(例えば車、保険の解約返戻金)については、価値が20万円を以上のものは通常処分対象となり債権者への配当等に当てることになります。

そうすると、破産者の生活を維持していくためにも、自己破産の前には、なるべく現金で多く持っておくという対策をすることが考えられます。

2.直前現金化した場合の破産手続き上の取り扱いは?

それでは、財産の処分を回避することを目的に、自己破産の直前(たとえば、債権者への受任通知後)に車を売却することや、保険を解約してその返戻金を受け取ることなどにより現金に換えた財産についても同様に現金として扱われるのでしょうか。

自己破産の直前に、財産を現金に換える行為を「直前現金化」といいますが、この直前現金化されたものについては、破産者の手持ちを増やすことなる一方、債権者への配当は減ることになってしまいます。

そのため、現金として考えるのは妥当でないということで、多くの裁判所で現金として扱っていません。

すなわち、直前現金化された場合には、現金であっても、現金に換える前の状態で判断されることになります。

例をあげると、自己破産の直前に30万円相当の車を売却して、30万円の現金にしたとしても、あくまでも破産手続き上は「30万円の現金」としてではなく、「30万円の価値のある車」として扱われることになるのです。

もっとも、車や保険の解約返戻金などの財産は、20万円以上のものでも「自由財産の拡張」が認められれば、手元に残すことが可能な場合があります。

3.直前現金化した財産を必要な支出に当てた場合は?

自己破産の直前に財産を現金化した場合でも、それを、どうしても必要な支出(「有用の資」といいます)にあてた場合については、裁判所からもともとの財産の価値からその必要な支出に利用した金額を差し引いたものとして扱われることになります。

少し分かりにくいので例をあげましょう。

自己破産をするためには必要となってくる破産申立費用として弁護士費用と裁判所に納める予納金というものが必要です。

これは、破産をするために必要な支出として有用の資と考えられています。

仮に、裁判所への予納金と弁護士費用をあわせて50万円が必要なのに、現金で50万円は持っていないとすると、毎月のお給料で地道に50万円を積み立てて破産をするということも考えられますが、他方で保険を解約すれば100万円得られる場合、この保険を解約して現金化し、そこから破産費用の50万円を出しても良いのです。

この場合、破産手続上、「100万円の価値の保険」としてではなく、100万円から破産申立費用の50万円を差し引いた「50万円の価値の保険」として扱われることになります。

4.「有用の資」の具体例は?

「有用の資」として認められる具体例としては、以下のものがあります。

有用の資

(1)破産申立費用(弁護士費用、裁判所への予納金)
(2)生活費
(3)医療費
(4)任意売却(自宅処分)等に伴う転居費用
(5)葬儀費用
(6)学費
(7)税金等の公租公課の支払

なお、有用の資にあてた金額分を控除した結果、財産の価値が20万円未満の場合には、破産管財人が選ばれて破産者の財産を調査、管理、処分等する管財事件ではなく、破産管財人が選ばれない同時廃止事件として処理される可能性もあります。

例をあげると、60万円の解約返戻金のある保険を解約せずに破産の申立をするとなると、大体どの裁判所でも20万円以上の価値があるため管財事件になります。

しかし実際に手持ちの現金がなく、保険を解約して50万円の破産費用を捻出した場合には、破産手続き上は「10万円相当の保険」という扱いになります。

東京地裁を含む多くの裁判所では、「保険の解約返戻金額が20万円以下の場合」は、他に財産があるなどの問題がなければ、同時廃止になるということです。

同時廃止となると、管財人による財産の調査、管理、処分を受ける必要がなくなり、予納金(破産管財人支払う報酬分)を裁判所に納める必要がなくなるため、その分手続も簡単に費用も20万円以上少なくて済むようになります。

以上、破産直前に現金化した財産の取り扱いを説明させていただきましたが、具体的な場合に、車の売却や保険を解約する必要があるのか、またそれを何にあてるべきかどうかについてケースバイケースで判断が難しいこともあります。

詳しくは、弁護士などの専門家にご相談することをおすすめします。