脊柱の変形及び運動障害について解説!脊柱が後遺障害等級として認定された裁判例

1.脊柱の変形障害と運動障害について

「脊柱」とは、いわゆる背骨のことをいいます。

具体的には、7つの頚椎、12の胸椎、5つの腰椎、仙骨、尾骨の合計26の椎骨の集合体で構成されたものをいいます。

もっとも、後遺障害等級表上の「脊柱の障害」とは、頚部及び大幹の支持機能ないし保持機能及び運動機能に着目したものであることから、これらの機能を有していない仙骨及び尾骨については、「脊柱の障害」における「脊柱」には含まれません。

また、脊柱のうち、頚椎と胸腰椎では主たる機能が異なっているため、原則として頚椎と胸腰椎は異なる部位として扱い、それぞれの部位ごとに等級が認定されることになります。

そして、脊柱の障害は、「変形障害」と「運動障害」と2つに分けられます。

(1)脊柱の変形障害

脊椎の変形は、椎骨の圧迫骨折、破裂骨折、脱臼などによって生じます。

骨折により脊椎がどの程度潰れてしまったかにより、以下のとおり後遺障害等級が定められています。

「第6級5号」:脊柱に著しい変形を残すもの
「第8級2号」:脊柱に中程度の変形を残すもの
「第11級7号」:脊柱に変形を残すもの

圧迫骨折が診断されている場合、どの程度脊椎が潰れているかにもよりますが、画像所見上明らかであれば少なくとも後遺障害等級第11級は認められます。

(2)脊柱の運動障害

脊椎の運動障害は、椎骨の圧迫骨折などや脊椎の固定術や軟部組織の器質的変化によって生じます。

運動障害の程度によって、以下のとおり後遺障害等級が定められています。

「第6級5号」:脊柱に著しい運動障害を残すもの
「第8級2号」:脊柱に運動障害を残すもの

運動障害は、圧迫骨折など器質的変化によって生じるものであるため、単なる疼痛による運動制限は、神経症状として後遺障害等級12級もしくは14級が認定されるにとどまります。

脊柱に関する後遺障害が認定された場合、裁判例ではどのように慰謝料や逸失利益が判断されるのか、いくつか裁判例を紹介していきます。

2.背骨に関して後遺障害等級が認定した事例

(1)後遺障害等級11級7号(変形障害):東京地方裁判所平成26年1月29日判決

【事例の概要】

被害者X(原告)が自動二輪車を運転して直進進行中、道路反対側を対向進行してきた加害者Y(被告)が、道路右側の駐車場に入ろうとして右折進行しようとしてXと衝突し、Xが腰椎圧迫骨折等の傷害を負った事案。

Xの主張
本件事故時の平成22年1月のXの月収は20万3000円であるから、これに12を乗じると、243万6000円となる。

また、Xの腰椎圧迫骨折に伴う背部疲労感等は後遺障害別表等級表併合11級と認定されていること、Xの後遺障害は、繊維筋痛症による全身痛を含め、肉体労働、事務系の仕事などあらゆる仕事に影響を及ぼすことが明らかであるから、その労働能力喪失率は20%を下らない。

Xは、症状固定時に39歳であり、Xの後遺障害が器質的損傷によるものである以上、労働能力喪失期間は、67歳までの28年間(ライプニッツ係数14.8981)である。

したがって、Xの逸失利益は725万8354円となる。

Yの主張
Xが主張する基礎収入額を認めるが、Xの後遺障害の内容からすると、労働能力喪失率は14%、労働能力喪失期間は最大で10年とするのが相当である。

裁判所の判断

Xは、平成23年6月30日をもって症状固定を診断されたが、第1腰椎前方には後方38mmに対して26mmという状況の圧潰が生じていると認められ、その圧潰の程度は必ずしも軽度のものとすることはできず、Xに残存する背部の疲労感、両質部のしびれについては、同症状によるものと認めることができる。

Xは、運送トラックの運転手として、運転や荷物の積み下ろしの業務に従事していたが、後遺障害の内容及び程度に照らすと、同業務にそのまま従事し続けることは困難なものと考えられる。

加えて、Xは、症状固定時に既に39歳に至っており、後遺障害を抱える中、新たな就業先を確保することが必ずしも容易とはいえないこと、今後、加齢に伴い、脊柱変形に伴う症状が悪化又は新たに出現する蓋然性があることをも考慮すると、Xについては、本件事故により負った後遺障害により、今後、就労可能年数の28年間にわたり、基礎収入額の20%に相当する程度の収入の減少を生じる蓋然性を認めることができる。

したがって、Xの後遺障害逸失利益は725万8354円となる。

コメント

本件では、圧迫骨折が認められ、腰椎が潰れていることが確認できるため、自賠責において認定された後遺障害等級11級7号が裁判においてもそのまま認められています。

また、Yからは、後遺障害等級12級相当の労働能力喪失率や労働能力喪失期間で逸失利益を算定するべきとの反論がなされていますが、裁判所は、Xの業務内容と年齢などの具体的事情から、Xの請求どおりの金額を認めています。

いわゆる「赤い本」(民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準)の基準どおりの算定となっており妥当な結論かと思います。

(2)後遺障害等級8級相当(変形障害):さいたま地方裁判所平成27年4月7日判決

【事案の概要】

被害者X(原告)が同乗していた車両が高速道路を走行中、前方の車両数台が順次急ブレーキをかけて停止したため、X同乗車両も急ブレーキにより停止したところ、加害者Y(被告)が運転する車両に追突され、Xが胸椎圧迫骨折等の傷害を負った事案。

Xの主張
Xは、脊柱の変形障害により後遺障害等級第8級と認定されていることから、基礎収入を平成23年賃セ男女学歴計470万9300円とし、労働能力喪失率を45%、労働能力喪失期間を45年間として、逸失利益は3766万6606円となる。

Yの主張
Xに、45%の労働能力喪失率があるとは認められない。

Xは、若年者であり、今後、その症状が改善され、あるいは消失する可能性がある。

加齢による生理的な変形についても考慮すべきである。

労働能力喪失期間は、期間ごとに逓減させるのが相当である。

また、原告の就労可能年数は24歳から67歳までの43年間である。

基礎収入は、平成23年賃セ女性大学・大学院卒の448万2400円とするのが相当である。

裁判所の判断

Xは、胸椎部画像上、1個以上の椎体の前方椎体高画減少し、後彎が生じているものと認められることから、「脊柱に中程度の変形を残すもの」として別表第二第8級相当と判断されたことが認められる。

Xは、アルバイト及び大学での授業に支障を生じているのであり、胸椎圧迫骨折後の脊柱の変形が器質的異常により脊柱の支持性と運動性の機能を減少させ、局所等に疼痛を生じさせ得るものであることを考慮すると、Xの労働能力喪失率は、後遺障害第8級に相当する45%と認めるのが相当である。

また、Xの労働能力喪失率が年齢とともに逓減していくことを的確に認めるに足る証拠はない。

コメント

裁判所は、Xの労働能力喪失率について、Xの具体的な労働及び生活状況から判断しており、被告の主張を退けました。

もっとも、基礎収入についてはYの主張どおり、賃金センサス平成23年女子大学・大学院卒全年齢平均年収448万2400円を認定しました。

また、労働能力喪失期間についても、4年制の大学に入学予定であったことが認められるとして、平成28年(X24歳)からXが67歳となるまでの43年間と認定しています。

逸失利益の金額としては、2911万6550円が認められました。

一部Yの主張が認められていますが、労働能力喪失率について適切な判断がなされています。労働能力が喪失していることを、具体的事情から詳細に主張立証することが重要といえます。

(3)後遺障害等級併合7級(運動障害では8級2号):仙台地方裁判所平成21年7月21日判決

【事案の概要】

加害者Y(被告)が運転する車両が、進路前方を同一方向にジョギングしていた被害者X(原告)に衝突し、Xが脳挫傷等の傷害を負った事案。

Xの主張
Xは、本来平成20年3月31日の退職予定日まで勤務可能であったが、本件事故により、平成17年3月31日をもって、退職を余儀なくされた。

そのため、症状固定日である平成18年9月22日から平成20年3月31日まで、労働能力喪失率は100%、労働能力喪失期間は2年間となる。

この期間の逸失利益は1780万7232円となる。

また、Xは、平成20年4月1日時点で65歳であったところ、以後の就労の蓋然性は十分に認められる。

したがって、平成16年簡易生命表によれば65歳男性の平均余命は18.21年なので、就労可能年数を平均余命の2分の1である9年とし、平成16年賃金センサス男性大卒65歳以上の平均賃金を基礎とし、後遺障害併合第7級による労働能力喪失率を56%とする。

この期間の逸失利益は2819万6926円となる。

Yの主張
平成18年9月22日から平成20年3月31日までの労働能力喪失率が100%になるはずはない。

また、Xには再就職の蓋然性はなく、万一、蓋然性があったとしても、退職共済年金の一部支給停止制度によって、収入はかなり低い額となった。

また、仮にX主張のとおり症状固定日を64歳時の平成18年9月22日とした場合でも、労働能力喪失率は、64歳の平均余命である18.99年の2分の1である9年、すなわち73歳までとなる。

そして、Xの頚椎部の後遺障害を第8級2号とした自賠責の認定は認定基準に反するもので誤りであり、労働能力喪失率を45%とするのは実態にそぐわない。

Xの頚椎の後遺障害による労働能力喪失率は11級相当の20%とするのが妥当であり、頭部外傷の後遺障害と総合した全体の労働能力喪失率も10級相当の27%が相当である。

裁判所の判断

自賠責保険の認定どおり、Xの後遺障害は、Xの頚椎部の運動障害が第8級2号に該当し、頭部外傷による障害が第12級13号に該当し、これらにより併合第7級が適用されるのであって、Xの後遺障害による労働能力喪失率は56%とするのが相当である。

Yは、環軸椎固定術によって第1頚椎(環椎)と第2頚椎(軸椎)が固定された後も、脊柱の屈曲・伸展は、他の脊柱等により代償されるケースが多く、頚部の回旋運動についても、胸腰部の回旋運動によりある程度代償されると主張する。

しかし、頚椎の可動域は椎間板及び椎間関節の動きにより決まるところ、一般に中高年以上では椎間板及び椎間関節は柔軟性を失い、運動によって動きが以前より増大することはほとんど望めないなどの理由から、第2頚椎と第3頚椎以下の部分に代償性可動域の増大は生じない。

そして、平成18年9月22日から平成20年3月31日までの期間については、労働能力喪失率は56%、労働能力喪失期間は1年間として計算するのが相当であるとして、逸失利益を510万7766円とした。

平成20年3月31日以降については、基礎収入を賃金センサス平成18年男性大学大学院卒・65歳以上の平均賃金644万0100円とし、定年時の65歳から73歳までを再就職に係る労働能力喪失期間とするのが相当であるとして、逸失利益を2219万9179円とした。

コメント

本件では、後遺障害診断書の内容や、訴訟における鑑定結果などにより、自賠責が認定したとおりの後遺障害等級が認められました。

また、固定術が施された後の回旋運動に関するYの主張も排斥されています。

そして、労働能力喪失率について後遺障害等級併合7級に相当する56%を認定しました。

Xが退職した後の期間についても労働能力喪失率は100%ではなく56%の判断となりましたが、裁判基準どおりの判断がなされたといえます。

まとめ

脊柱の変形障害や運動障害については、圧迫骨折や脊椎の固定術などにより生じます。

そして、後遺障害等級も11級以上となるため、後遺障害慰謝料や逸失利益の金額も大きくなり、労働能力喪失率や労働能力喪失期間の判断が、賠償金の金額に大きく影響してきます。

特に、11級の変形障害では、労働能力に及ぼす影響が少ないとして労働能力喪失率が基準より低めに判断されることがあります。

変形障害でも、上記の裁判例のように疼痛が伴って労働に支障が生じている場合には、その旨を詳細に説明して、適切な賠償金を請求することはできます。

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