物損事故で請求できる賠償金とは?示談交渉の主な流れと注意点

「物損事故で請求できる賠償金はどんなものなのか」
「物損事故の示談交渉はどのように行われるのか」
交通事故に遭われた方の中には、物損事故の賠償金や対応の流れについて調べている方もいるのではないでしょうか。
物損事故は、当事者に怪我などの人的損害が生じていない事故のことを指すため、物損事故で受け取ることができる賠償金は、基本的に物的損害に関するもののみとなります。
本記事では、物損事故において受け取ることができる賠償金や示談交渉の流れなどについて解説します。
1.物損事故で請求できる賠償金
物損事故とは、人的損害がなく、車両や壁といった物だけに損害が発生した事故のことです。
そのため、物損事故では原則として物の損害に関する賠償金のみを受け取ることができます。
これに対して、人的損害が発生している場合は、人身事故として処理され、加害者側に請求できる賠償金が異なります。
物損事故で請求できる賠償金は以下のとおりです。
- 車両の修理費
- 買替差額
- 評価損
- 代車使用料
- 休車損害
- その他
順にご説明します。
なお、物損事故と人身事故の違いなどについては、以下の記事で解説しています。
(1)車両の修理費
車両が損傷している場合、その修理費を請求することができます。
もっとも、必ずしも修理にかかった費用全額について賠償を受けることができるわけではありません。
具体的には、必要かつ相当な範囲でのみ修理費を受け取ることができます。
例えば、損傷した一部分の塗装で修理を行うことができた場合に、車体全体の塗装を行ったとしても、受け取ることができる修理費はその一部分のみの塗装費となることに注意が必要です。
なお、修理費用が事故前の車両の時価額を上回ってしまうような場合には、修理費に代えて後述する買替差額費を受け取ることができる場合があります。
(2)買替差額
車両の損傷がひどく修理ができない場合(物理的全損)や修理費が事故前の車両時価額と買替に関する費用(買替諸費用)の合計を上回る場合(経済的全損)には、修理費に代えて、買替差額を請求できる場合があります。
具体的には、車両の時価額が賠償の対象となりますが、例えば損傷した車両を下取りに出して戻りがある場合には同額が控除されます。
車両の時価額をどのように算定するかが争いになることが多いです。
(3)評価損
評価損は、修理をしても事故前と比べて車両の価値が下がった場合の損失金額のことです。
修理後に機能や外観に何らかの欠陥が残った場合のみならず、修理によって車両の見た目や機能が直った場合でも、修理をした車両という事実によって査定額が下がることがあります。
この価値の下落分も評価損として扱われることもある点も押さえておきましょう。
もっとも、判例上評価損が認められるためにはいくつかの要件を充たす必要があるため、示談交渉においても難航することがほとんどです。
(4)代車使用料
事故のため代車を使用した場合で、一時的に代車を使用する必要性が認められるときは、代車を借りるのに支出した使用料も請求することができます。
例えば、通勤に自家用車を使用していた場合は、代車の必要性が認められ、使用料を請求できる可能性が高いです。
なお、代車使用料が認められない場合は、代車使用料は被害者が負担しなければなりませんが、公共交通機関を利用した場合の交通費相当の賠償金を受け取ることができる可能性はあります。
(5)休車損害
仕事に必要な車両が事故に遭い、代車なども利用できなかったために本来得られるはずだった利益を得られなくなった場合は、休車損害を請求することができます。
主に、事故にあった車両で得られていた一日当たりの営業収入から変動経費を差し引いたものに、事故車の修理または買い替えを行うまでの日数を掛け合わせた額を請求することが可能です。
なお、車両の損害によって被害者自身に営業損害が生じていない場合は、休車損害は認められません。
(6)その他
上記で紹介した費用以外の費用について請求できることがあります。
例えば、以下のとおりです。
- レッカー代
- 車両の保管料
- 査定料・見積もり費用
- 廃車料・車両処分費
- 車両以外の修理費、評価損
- 積荷や衣服などの損害
- ペットに関する損害
車両だけでなく、他にも損害が生じている場合には、その修理費等も請求することが可能です。
事故によって損失が発生したものに関しては、請求できる可能性があります。
2.物損事故で慰謝料は請求できるのか
結論から述べると、慰謝料は人体に生じた精神的苦痛を補償するものであるため、物損事故においては請求することができません。
その理由は、物的損害のみが生じる物損事故では、修理費などの賠償を受けることによって損害の補填がなされることにより、精神的苦痛も慰謝されると評価されるためです。
しかし、事故後に痛みや痺れなどの何らかの症状が出た場合は、直ちに医療機関を受診し、必要な治療を受けることで慰謝料などを請求することができます。
また、医師に作成してもらった診断書などを警察に提出することで、物損事故から人身事故に切り替えを申請することも可能です。
人身事故として処理がなされると、実況見分が行われ、その内容が実況見分調書に記載されます。
実況見分調書には事故態様や路面状況などについて詳細な記載がされるため、示談交渉で過失割合などを主張・立証する際に重要な書類です。
そのため、事故当時の状況を客観的に証明できる資料が乏しい場合には、人身事故への切り替えを検討した方がよいケースもあります。
人身事故に切り替えを行うことによるメリットについては、以下の記事をご参照ください。
また、人身事故への切り替えを行う手続の流れについては、以下の記事で詳しく解説しています。
3.示談交渉の主な流れ
物損事故の場合は、人身事故に比べると示談交渉までのステップは少ないことが多いです。
主に以下のような流れで示談交渉を行います。
- 警察に通報する
- 損害の見積もりをとる
- 加害者側に見積書を提出する
順にご説明します。
(1)警察に通報する
事故が発生したらまずは警察に通報しましょう。
そもそも事故に遭ったら、警察に通報することが道路交通法によって義務付けられています。
警察への通報を怠ると、道路交通法上の義務違反となるほか、交通事故証明書という書類の交付を受けることができなくなってしまいます。
交通事故証明書は、交通事故が発生したことを証明するために重要な書類であり、これがなければ自分の加入している保険会社から保険金の支払いを受けることもできなくなります。
そのため、怪我などがない場合や軽微な事故であったとしても、必ず警察へ通報しましょう。
なお、警察に通報するタイミングで、ご自身が加入している保険があれば、あわせて事故に巻き込まれたことを連絡しておくことをおすすめします。
保険の内容によっては、事故による損害の補償を受けることが可能な場合もあります。
物損事故の場合に利用することができる保険については、以下の記事も参考になります。
(2)損害の見積もりをとる
警察の対応が済んだら、業者に車両の修理費用の見積もりを依頼しましょう。
ここで気をつけなければならないことは、修理費用の見積もりをとったら、修理をする前に必ず加害者側の保険会社などに連絡をすることです。
見積書を確認してもらう前に勝手に修理を始めてしまうと、修理箇所の必要性や修理内容の相当性に争いが生じて、加害者側から修理費用の支払いを拒否される可能性があります。
(3)加害者側に見積書を提出する
業者から修理費用等の見積書を受け取ったら、加害者側の保険会社に提出します。
加害者側から了承の対応を得たら、修理を始めましょう。
また、修理費や評価損など全体の損害金額が明らかになり加害者側の確認をとれたら、加害者側から示談案が送られてきます。
示談案には示談金額や過失割合などが記されており、それをもとに示談交渉を行うのが一般的です。
納得がいかない場合は、事故の物的証拠等を提示し、適切な損害額や過失割合を主張しましょう。
4.物損事故の示談交渉の注意点
物損事故の示談交渉を行う上で、注意しなければならないことがあります。
主な注意点は以下のとおりです。
- 交渉の準備を早めにしておく
- 損害の内容を具体的に証明する必要がある
- 人的損害も発生している場合には先に物損について示談を進める
順にご説明します。
(1)交渉の準備を早めにしておく
物損事故の場合は、示談交渉の準備を早めにしておくことが大切です。
人身事故であれば、長期間にわたる治療を経て示談交渉が始まるので、ある程度の猶予がありますが、物損事故の場合は、修理等の見積もりが終わり次第始まります。
人身事故に比べると示談交渉の始まるタイミングが早いので、なるべく事故後すぐに弁護士に相談したり、交渉に必要な資料を準備したりしておきましょう。
(2)損害の内容を具体的に証明する必要がある
物損事故では、生じた損害の内容を具体的に証明する必要があります。
示談交渉では当事者間で賠償額や過失割合について話し合いを行い、その結果に基づいて具体的な示談金額を決めるのが一般的です。
加害者側は、負担する金額を減らすために、被害者側の損害が軽微であることや、被害者側に過失があることなどを主張してきます。
それに対して、説得力のある証拠を提示し、損害の程度を立証しなければなりません。
損害の内容を証明できなければ、加害者側に損害の金額を納得させることができないので、事故の証拠を揃えて的確に損害の程度を証明できるように準備しておきましょう。
(3)人的損害も発生している場合には先に物損について示談を進める
人的損害が発生している場合は、先に物的損害について示談を進めましょう。
物損事故は人身事故に比べて時効期間が短く、事故翌日から3年経過すると示談金を請求できなくなります。
一般的に、事故の損害の見積もりをとるのにそこまで時間がかからないので、通常であれば時効期間は気にする必要はありません。
しかし、人的損害も発生している場合には、注意が必要です。
人身事故に切り替える場合、人的損害に関する示談交渉が始まるのは症状の完治または症状固定の診断を受けるタイミングなので、治療が長引けば事故翌日から3年以上経過することがありえます。
人身事故の示談交渉が始まるまで物損事故の示談交渉を待つと、物損事故の時効期間が過ぎてしまい、加害者側に対して物的損害を請求できないという事態に陥る可能性があるのです。
そのため、人的損害も発生している場合には、先に物的損害の示談交渉を進めておきましょう。
まとめ
物損事故の場合、車両の修理費や買替差額、評価損など、物的損害に関する賠償金を請求することができます。
また、物的損害だけでなく人的損害も生じている場合には、医療機関を受診して適切な治療を受けた上で、人身事故に切り替えることも検討しましょう。
どのような損害について賠償金を受け取ることができるかなど、示談交渉について悩みや不安がある場合には、まずは弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に相談することで、示談交渉に向けて必要な準備や交渉についてアドバイスやサポートを受けることが可能です。
弁護士法人みずきでは、交通事故に関する相談を無料で受け付けておりますので、交通事故の示談交渉でお困りの方はお気軽にご相談ください。
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