自己破産の条件とは?

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

自己破産とは、裁判所での手続きを踏むことにより、裁判所に借金を免除してもらう方法です。

裁判所に借金を免除してもらうことを「免責」といいます。

裁判所に破産手続きを申立て、裁判所から免責許可の決定を受けるためには、いくつかの条件をクリアしなければなりません。

この記事では、自己破産の手続きを行える方の条件や、自己破産をしても免責されない借金にはどういうものがあるのかについて説明していきます。

自己破産をご検討されている場合には、この記事の内容を踏まえて、ご自身が自己破産を行うことが可能か確認されてみてください。

1.自己破産を行うための条件とは

自己破産を個人が行えるかは条件があります。

条件について大きく2つのタイミングで分けて述べると、①破産手続開始決定時②免責許可決定時のタイミングが挙げられます。

(1)破産手続開始決定時の条件

破産手続開始決定とは、破産手続開始の申立を受けた裁判所が、申立人の破産手続を開始することを裁判所が決定することです。

申立書を裁判所で提出しただけでは、破産手続は始まっていません。

裁判所が申立書を確認し、「破産手続開始原因があること」、「破産障害事由がないこと」、「破産手続の申立が適法であること」を判断した上で、破産手続開始決定が出されます。

#1:破産手続開始原因があること

破産手続き開始原因とは、「支払不能」であることです。

この支払不能とは、支払能力が不足しているため返済を継続することが困難な状況を指します。

支払不能であるかは債務者の家計の収支や資産の状況に応じて判断します。

たとえば、主だった資産がなく、借入総額を36回分割(期間3年間)した金額を毎月の家計から返済金として捻出することが難しい方は、支払不能に当てはまる可能性があるため、破産、債務整理を検討された方がいいでしょう。

#2:破産障害事由がないこと

破産障害事由とは、破産手続を進めることが出来なくなる事由のことです。

自己破産手続きにあたって裁判所に納める必要がある予納金をきちんと納付しない場合、破産障害事由に該当します。

予納金の金額は破産手続きの種類によって異なり、同時廃止事件という簡易な手続きの場合には約2万円、管財事件という複雑な手続きの場合は同時廃止事件の約2万円に加えて約20万円の納付が必要です。

また、自己破産とは別の倒産手続(個人再生手続)をとっており、既に開始されている場合にも、破産障害事由へ該当します。

#3:破産手続の申立が適法であること

破産申立を行った人に、申立権が認められるか、破産者に破産能力があるか等を要素として判断されます。

破産の申立権は、債務者と債権者、法人の場合にはその代表者や理事等に認められています。

破産能力とは、破産手続開始の決定を受けることができる資格のことを指し、一個人や法人には問題なく認められています。

(2)免責許可決定時の条件

免責許可決定とは、申立人の債務について、裁判所が免責を認める決定のことを指します。

免責許可決定時の条件としては、免責不許可事由がないことが挙げられます。

免責不許可事由は以下の通りです。

#1:免責不許可事由

①本人の財産を不当に減少させる行為
債権者へ損害を与える目的で、本来債権者の配当に回されるはずの財産を、隠したり、壊したり、不当に安い価格で売却したり、無料で他の人に譲ったりした行為がある場合、免責不許可事由に当たります。

②不当な債務負担行為
違法な高金利(いわゆるヤミ金)でお金を借り入れた場合や、クレジットカード等のショッピング枠で、新幹線のチケットやゲーム機等を購入し、購入価格よりもかなり安い価格で現金化した場合(換金行為)、免責不許可事由に当たります。

③特定の債権者に利益がある様に返済をする行為
債権者への返済をストップしている中で、特定の債権者だけに返済をする行為を「偏波弁済(へんぱべんさい)」と言います。

自己破産をする場合には、債権者は平等に扱う必要があり、特定の債権者のみを優遇してはいけません。

よくあるケースとして、貸金業者への返済をストップしているにも関わらず、勤務先・友人・親族への返済を行っている事が挙げられます。

もちろん、これも偏波弁済となりますので、注意が必要です。

まら、勤務先への返済を給与天引きにしている場合には、早急に給与天引きを止めてもらう必要があります。

④浪費やギャンブルによる借金
申立人の収入に見合わない支出をした結果や、ギャンブルや投資により多額の借入を行っている場合、免責不許可事由にあたり、破産手続がスムーズに進まない場合があります。

⑤詐術により信用取引き
破産申立を行う1年前~破産手続開始決定を受ける日までの間に、自身が支払不能の状態であることを分かった上で、他の借金の存在を隠したり、収入状況等について虚偽の報告を行ったりして、新たに借金やクレジットカードを使った場合に該当します。

返済できない状態でありながら借り入れをした人や、予め返済する気が無いのに借金をした人には、免責の許可が下りないこととなっています。

➅業務及び財産に関する帳簿、書類その他物件を隠滅・偽造・変造している
各種帳簿や書類その他の資料になるものを隠す・偽造する・変造している場合、免責してもらえなくなります。

⑦虚偽の債権者名簿を提出している
申立の際、裁判所へは「債権者一覧表」を提出します。債権者一覧表へ記載した債務を免責してもらう形となります。

本来は無い債権を記載したり、自己破産することを知られたくない等の理由から債権者一覧表へ記載しなかったりする行為があると、免責不許可事由に該当します。

⑧裁判所への説明拒絶・虚偽説明
裁判所が調査を行う際、申立人へ説明を求めた事項に対し、その説明をすることを拒絶したり、あるいは嘘の説明をしたりする行為があると、免責不許可事由に該当します。

⑨管財業務妨害行為
管財事件の場合に、破産管財人等が何らかの職務を行おうとした際に、法令に反する方法や、正当ではない方法で、その職務を妨害した場合には、免責不許可事由に該当します。

また、破産管財人等の指示・指導に従わない場合に、程度によってはこの事由に該当する可能性があります。

⑩過去7年以内に免責取得をしている
破産手続を行う7年以内に、1度免責を受けてことがある場合、原則として2度目の免責を認めないという内容です。

⑪破産法上の義務違行為
破産者が手続の際に非協力的な場合、「破産法上の義務違反行為」に該当します。

具体的には、財産を隠したり、調査する中で虚偽の発言・報告をする事が該当します。

裁判所や管財人等の指示にきちんと従わないと、免責が認められないということです。

2.自己破産を行える条件を満たさなかった場合

(1)免責不許可事由があっても「裁量免責」が適用される場合がある

これまで説明した免責不許可事由に該当する場合でも、事案全体の事情を考慮して、裁判所が免責を認める「裁量免責」をうけることによって免責を受けることができます。

免責不許可事由があっても、多くの場合「裁量免責」が認められているのです。

裁量免責を認めてもらうためには、自身が該当している免責不許可事由について、性質や程度を正直に申告し、自身の反省の度合いや、破産手続への協力姿勢、破産者に経済的に更生する可能性が十分あることを示すことが重要なポイントとなります。

(2)個人再生や任意整理を検討する

免責不許可事由があり、かつ裁量免責を受けることも難しいような場合、他の債務整理手続きをとることが考えられます。

方法としては個人再生手続任意整理が挙げられます。

個人再生手続は、負債総額を圧縮し、圧縮した金額を基本的には3年間(36回分割)で返済をして行く方法となります。

個人再生も裁判所を介して行う手続きとなりますが、借り入れの理由等は手続上影響しないため、ギャンブル等で作った借金も手続の対象となります。

任意整理は、裁判所を介す必要が無く、債権者と直接交渉して今後の返済に関する内容を決めていきます。

メリットとしては、破産や個人再生の様に債権者平等の原則が無いため、介入する債権者を選ぶことができます。

また、裁判所を介さない手続きのため、破産や個人再生の様に本人の所有できる財産等に制限がありません。

自己破産をとることが難しい場合には、弁護士へ相談し、自身に合った最良の方法をアドバイスをもらうことが得策と言えるでしょう。

3.自己破産の条件で混同される「非免責債権」

任意整理は誰でもできるわけではない?任意整理の条件とメリット・デメリット

自己破産が行える条件として混同されがちなものに非免責債権があります。

非免責債権とは、免責決定の効力が及ばない債権を言います。

つまり、自己破産手続きを行い免責が許可されても、支払いを続けなければならない債務です。

免責決定の効力が及ばない=破産手続が行えないと誤解されがちですが、非免責債権がある場合でも、自己破産の手続きは可能です。

非免責債権以外の債権が、免責される形となります。

非免責債権としては、以下の事項が挙げられます。

#1:租税等の請求権

税金の支払は、国民義務であるため、免責されません。

国税だけでなく、市町村の税金も含まれます。

また、国民年金等の社会保険料も該当します。長期間支払が滞ると、財産が差押されることになります。

#2:破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権

悪意の不法行為とは、「故意の犯罪行為によって相手方被害者に損害を与えた場合」です。

窃盗や詐欺を働いたことによる損害賠償請求権や、勤務先の現金を横領したことによる損害賠償請求権などが、これに該当します。

#3:故意または重過失による生命、身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権

例えば、飲酒運転や居眠り運点等で交通事故を起こし、被害者に傷害を負わせたことによる損害賠償請求権は、これに該当します。

#4:生活費や養育費などの家族関係から生じる請求権

破産者が扶養義務者となる場合に負担義務を負う費用は、これに該当します。

養育費や婚姻費用(別居中の配偶者の生活費)等が例として挙げられます。

#5:雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権

雇用主が従業員へ支払う給与のことを指します。

労働者の給与は、労働者保護の観点からも手厚く保護されるべきと考えられています。

申立人が個人事業主で破産した場合でも、その従業員に対する賃金の支払を免れることはできません。

#6:破産者が知りながら債権者名後に記載しなかった請求権

破産者名簿とは、申立の際に提出する債権者一覧表を指します。

破産者が債務があることを知りながら、意図的に債権者一覧表へ記載しなかった債権については、免責の効力は及ばないものとされています。

ただし、一覧表へ記載されなかった債権者が、破産者の破産開始決定を知っていた場合には、その債権は免責されることになります。

#7:罰金等の請求権

罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金、過料の請求権のことを言います。

罰金は法令違反に対する制裁、ペナルティーです。

自己破産によって免責を認めてしまうと、法令違反を事実上容認することになってしまうため、免責されません。

まとめ

自己破産が行える条件はどのような場合か、自己破産が行える条件と混同されがちな非免責債権とはどういったものかについてご説明しました。

自己破産は返済の負担を免除してもらえますが、債権者保護の観点から条件が定められています。

自身が破産の条件に該当するかどうかご不安な場合には、是非一度弁護士へのご相談をご検討ください。

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執筆者 花吉 直幸 弁護士

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