破産の管財事件とは?基準や手続きの流れ、注意点を弁護士が解説

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

「破産の管財事件って具体的にどのような手続きなのか」
「管財事件は破産の中でどのような基準で振り分けられるのか」

自己破産を行うことを検討している方の中には、破産の手続きの一種である管財事件について詳しく調べている方もいると思います。

自己破産の手続きは、同時廃止事件と管財事件の2つの手続に振り分けられます。

どちらの手続によって行われるかは、裁判所が一定の基準に基づいて判断するものであり、申立てを行う者が自由に選択できるものではないことに注意が必要です。

本記事では、管財事件の概要や手続きの流れ、注意点等について詳しく解説します。

管財事件に振り分けられる基準や手続きの留意点についても合わせて解説していますので、自己破産を行うことを検討されている方の参考となれば幸いです。

1.管財事件とは

管財事件とは、自己破産手続きの1つで、裁判所が選任した破産管財人によって手続きが進行していく手続きです。

自己破産には、大きく分けると同時廃止事件と管財事件の2つの手続きがあります。

同時廃止事件とは、自己破産の手続が開始されたタイミングで破産手続を終了させるものです。

つまり、破産管財人が選任されない手続きです。

これは、債権者に換価・配当するほどの財産が破産者にない場合にとられます。

他方で、管財事件は、破産者に一定以上の財産があり、これを換価処分して債権者に配当することが予定されている手続きです。

それらの換価処分や配当を行うために破産管財人が選任されます。

たとえば、土地や住宅などの不動産、車などの資産価値の高い財産を所有していれば、破産管財人によって換価され、債権者に配当が行われます。

なお、管財事件には、通常管財事件のほかに少額管財事件という運用を行う裁判所もあります。

以下では、通常管財事件と少額管財事件の手続概要や手続きに要する期間について解説します。

なお、同時廃止事件の概要や手続きの流れについては、以下の記事で解説しているので、合わせてご覧ください。

2023.04.30

自己破産で同時廃止事件になる要件とは?同時廃止事件の主なメリット

2023.04.30

自己破産で同時廃止事件になるケースとは?メリットと主な手続き

(1)通常管財事件

通常管財事件は、自己破産の基本となる手続きです。

そもそも自己破産は、破産者が所有する財産を換価処分し、それを債権者に配当する手続きです。

具体的には、裁判所が破産管財人を弁護士の中から選任し、その破産管財人が破産者の財産の管理・換価処分を行い、債権者への配当を行います。

財産の換価および債権者への配当という複雑な作業を要することから、同時廃止事件に振り分けられた場合と比較すると、裁判所へ納付する引継予納金が高額化する傾向にあります。

なお、弁護士に手続きを依頼せずに自分で自己破産を申し立てた場合には、原則として通常管財事件として処理されます。

自分で破産を申し立てた場合には、手続きに必要な書類や資料の作成・収集だけでなく、裁判所への出廷などもすべて自分で行わなければならないため、手続きをスムーズに進めるために弁護士への相談、依頼をお勧めします。

自己破産の手続きを自らが行うリスクと弁護士に依頼するメリットについては、以下の記事でも解説しているので、合わせてご参照ください。

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自己破産は自分でもできるのか?弁護士に依頼すべき理由と依頼するメリット

(2)少額管財事件

少額管財事件は、一部の裁判所で運用がなされている管財事件の一種です。

破産者に一定の財産があるものの、比較的定型的な処理ができる場合は、手続きを簡素化して運用を行うことを目的とした少額管財事件として扱われることができます。

通常管財事件と比較すると、手続きが簡素化されるため、裁判所に納付が必要な引継予納金の金額も低額に抑えられることも特徴の1つです。

もっとも、少額管財事件として処理されるためには、弁護士が代理人となっていることが必要です。

少額管財事件の概要や手続きの注意点については、以下の記事も参考になります。

2023.04.30

少額管財事件の特徴を解説!費用や注意点について

(3)管財事件に要する期間の目安

管財事件に要する期間として、申立てから3か月~1年程度が目安です。

破産者に一定の財産があり、換価処分と債権者への配当が行われるため、手続全体に要する時間が同時廃止事件と比較して長くなる傾向があります。

なお、破産者が所有する財産が多い場合や換価処分に時間を要する場合には、手続きの期間がさらに長期化することもあるため、注意が必要です。

2.管財事件となる基準

先ほども述べたように、管財事件として処理されると、破産管財人が破産者の財産を換価し、債権者へ配当することが予定されます。

そのため、破産者が一定以上の財産を所有している場合には同時廃止事件とはならず、管財事件として処理されます。

また、破産者が所有する財産が少ない場合であっても、管財事件に振り分けられるケースがあるため、注意が必要です。

おおまかに、管財事件として処理されるのは、以下のようなケースです。

管財事件として処理される主なケース

  1. 債務者に一定以上の財産がある
  2. 免責不許可事由に該当する可能性がある
  3. 個人事業主・法人代表者である

順にご説明します。

(1)債務者に一定以上の財産がある

債務者が不動産や車、一定額以上の預貯金などの財産を所有している場合には、管財事件として処理されます。

現金については、99万円を超えない場合は自由財産として自己破産を行っても手元に残すことができるものの、33万円を超える現金がある場合には管財事件に振り分けられる運用を行っている裁判所もあります。

裁判所によっても、同時廃止事件にするか破産管財事件にするかは若干の異なる基準があります。

どのような運用となっているかは、あらかじめ弁護士に確認することが大切です。

(2)免責不許可事由に該当する可能性がある

裁判所から免責不許可事由(借金の免除が認められない事情)に該当したり、該当する可能性があると判断されたりした場合も管財事件になる場合があります。

自己破産の手続きでは、裁判所から借金の返済義務の免除を許可する決定(免責許可決定)を受けて、初めて借金の返済義務を免れることができます。

ただし、法律で定められている免責不許可事由に該当する場合には、免責許可を受けることができず、自己破産を行っても返済義務が残ることに注意が必要です。

なお、免責不許可事由の例は以下のような事由です。

主な免責不許可事由

  • 特定の債権者に優先して弁済をした(偏頗弁済)
  • 財産を隠匿・処分した
  • ギャンブルや浪費が借金の主な原因である
  • 債権者一覧表に虚偽の記載をした など

免責不許可事由の有無については、裁判所によって選任された破産管財人が調査を行う必要があります。

免責不許可事由の概要や具体例については、以下の記事で詳しく解説しているので、合わせてご参照ください。

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免責不許可事由とは?自己破産で免責されないケース

(3)個人事業主・法人代表者である

破産者が個人事業主や法人(会社)の代表者である場合も、原則として管財事件となります。

これは、以下のような理由から破産管財人による財産調査が必要であると考えられているからです。

管財事件として処理される主な理由

  • 商品の在庫や売掛金債権がある
  • 事務所や店舗、什器備品がある
  • 従業員や債権者などの利害関係人が多い

なお、法人破産と同時に代表者が自己破産を申し立てる場合にも、一緒に管財事件として処理されることになります。

法人破産と代表者個人の破産については、以下の記事も合わせてご覧ください。

2024.11.25

法人破産における代表者の責任とは?代表者の役割や弁護士に相談するメリットを解説

3.管財事件の手続の流れ

管財事件の手続きの流れは、以下のとおりです。

管財事件の流れ

  1. 弁護士に相談・依頼
  2. 破産手続開始の申立て
  3. 破産審尋
  4. 破産手続開始決定・破産管財人の選任
  5. 財産調査・換価処分
  6. 債権者集会・配当
  7. 免責許可決定

順にご説明します。

なお、管財事件の流れや注意点については、以下の記事も参考になります。

2023.04.30

管財事件の主な流れとは?管財事件になった時の注意点や主なケース

(1)弁護士に相談・依頼

破産手続を進めるためには、裁判所に申し立てることが必要です。

まずは弁護士に相談、依頼をしましょう。

申立ての際には書類作成や資料収集も必要となるため、弁護士に相談、依頼をすることで、どのような書類や資料が必要となるかの説明を受けることができます。

なお、借金問題については、相談料を無料としている法律事務所が多く、弁護士から無料で専門的なアドバイスを受けることができるのが大きなメリットです。

また、弁護士に手続きを依頼することで、書類作成や資料収集についてのサポートを受けることができ、手続きの負担軽減にもつながります。

自己破産の申立てに必要な書類や資料については、以下の記事もご参照ください。

2021.10.31

自己破産で必要な書類について

(2)破産手続開始の申立て

申立書類や添付資料が揃い、申立書の作成が終了したら、裁判所に提出して破産手続の申立てを行います。

申立てに当たっては、入印紙や郵券の費用を納付するほか、引継予納金も納付しなければなりません。

引継予納金を支払うことができない場合には手続きが停止してしまい、棄却されるか取下げを求められてしまいます。

そのため、申立ての時点で引継予納金を捻出することができない場合には、自己破産を行うことができなくなってしまうため、注意が必要です。

弁護士に自己破産の手続きを依頼すると、弁護士から債権者に対して受任通知が送付されます。

債権者は受任通知を受け取った後には、債務者に直接督促や取立てを行うことができなくなります。

つまり、受任通知が送付された時点で一旦返済がストップするため、今まで返済に充てていた金額を積み立てて引継予納金や弁護士費用を捻出するようにしましょう。

(3)破産審尋

破産手続開始の申立てがなされると、裁判所から申立書の内容に関して質問や面接が行われる場合があります。

この面接の内容によって、同時廃止事件か管財事件への振り分けが決まります。

東京地裁では、弁護士に手続きを依頼している場合には即日面接と呼ばれる期日が設けられ、裁判官と代理人弁護士の間で申し立てた破産の内容について確認が行われます。

(4)破産手続開始決定・破産管財人の選任

破産手続開始の申立てから1週間程度で破産手続開始の決定が出されます。

破産審尋を経て、管財事件に振り分けられると、裁判所によって破産管財人が選任されます。

この時点で破産者の財産の管理は破産管財人が引き継ぐことになる点を押さえておきましょう。

破産管財人が自己破産手続で果たす役割については、以下の記事でも詳しく解説しているので、合わせてご確認ください。

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自己破産で破産管財人が選任されるケースは?手元に財産の範囲を解説

(5)財産調査・換価処分

破産者の生活に必要な一定の財産(自由財産)以外の財産については、破産管財人が管理・処分を行います。

破産管財人は、破産者が所有している財産を調査し、適正な価格で売却・処分を行います。

また、破産管財人は、破産者の財産を適正価格で売却することで、債権者への配当原資を維持・増加させる責務も負っています。

そのため、不当に破産者が流出させてしまった財産を破産者の手元に回復させ、債権者への配当原資を維持・増加させる否認権と呼ばれる権利を有します。

否認権の概要や行使されるケースなどについては、以下の記事で詳しく解説しています。

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否認権の行使とは?その効果や具体的なケースについて弁護士が解説します

(6)債権者集会・配当

破産管財人によって債務者の財産の換価処分が完了すると、その旨の報告や配当が債権者集会で行われます。

債務者も債権者集会に出席する義務があり、債権者から質疑があった場合には回答しなければなりません。

もっとも、手続きを弁護士に依頼している場合には債権者対応を任せたり、フォローを受けたりすることができます。

また、実際には、債権者集会に債権者が出席することはほとんどなく、10分程度で終わることも少なくありません。

管財事件では、債権者集会に続いてそのまま免責審尋が行われる裁判所もあります。

免責審尋とは、借金の返済義務の免除(免責)を認めてよいかを裁判所が判断する手続きのことで、弁護士に手続きを依頼していても、免責審尋には債務者本人が出席する必要がある点に注意しましょう。

(7)免責許可決定

免責審尋を経て、裁判所が免責許可を出してよいと判断すると、免責許可決定が下されます。

具体的には、以下のような場合に免責許可決定が出されます。

免責許可決定が出されるケース

  • 免責不許可事由に該当しないと判断した場合
  • 免責不許可事由に該当しても、裁判所が裁量によって免責を許可してよいと判断した場合

免責不許可事由に該当する場合であっても、裁判所が裁量によって免責を許可する裁量免責という制度もあります。

つまり、免責不許可事由に該当していても、債務者が強く反省しているなどの姿勢を裁判所が評価すれば、免責が許可されるのです。

破産に至った原因や経緯について、真摯に反省し、更生の余地があると裁判所が判断すると、裁量免責を受けることができるので、免責不許可事由に該当する場合であっても、弁護士のサポートを受けながら裁量免責へ向けた対策を行いましょう。

4.管財事件となった場合の注意点

管財事件となった場合には、同時廃止事件と比較するといくつか注意しなければならないことがあります。

主な注意点は以下のとおりです。

管財事件となった場合の注意点

  1. 引継予納金が高額化する傾向がある
  2. 破産管財人の調査に協力する義務がある
  3. 郵送物が破産管財人に転送される
  4. 転居や旅行の際には破産管財人の許可が必要

順に解説します。

(1)引継予納金が高額化する傾向がある

管財事件は、同時廃止事件と比較すると引継予納金が高額である点に注意しましょう。

具体的には、通常管財事件では引継予納金として50万円以上、少額管財事件でも20万円程度を裁判所に納める必要があります。

引継予納金をすぐに用意することが難しいことも多いため、自己破産の準備期間を利用して分割して少しずつ貯めておくようにしましょう。

なお、通常管財事件の場合には、債権者の数や財産の状況によっては、予納金の相場が変動する可能性があります。

どのくらいの費用がかかるのか、事前に弁護士に相談してみましょう。

予納金の相場については、以下の記事も参考になるので、合わせてご参照ください。

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自己破産手続で支払う予納金とは?いくら必要?

(2)破産管財人の調査に協力する義務がある

自己破産を申し立て、管財事件に振り分けられると、選任された破産管財人の調査に協力する義務があります。

管財事件では破産管財人が選任されると、破産管財人は、債務者の財産の調査・管理などを行う必要があるため、債務者も調査の協力を求められたら応じなければなりません。

破産管財人の調査に応じない場合や虚偽の説明をした場合などには、免責不許可事由に該当し、免責許可を受けられないリスクが生じます。

破産管財人の調査にしっかりと応じ、誠実な対応を行うことが何よりも大切です。

(3)郵送物が破産管財人に転送される

破産管財人が選任されると、破産者宛の郵便物は破産管財人へ郵便局から直接転送されます。

財産の隠匿などを防止するために、一旦破産管財人に郵便物の内容を確認される点に注意しましょう。

破産管財人が内容を確認した後に破産者本人に渡されることになるため、郵便物の受け取り自体は可能です。

破産手続が終了した後には破産管財人への転送は行われなくなります。

(4)転居や旅行の際には破産管財人の許可が必要

自己破産の手続中は、破産管財人の許可を得なければ、転居や旅行ができません。

手続中に破産者が逃亡し、連絡が取れなくなってしまったり、手続きの進行が滞るのを防止するためです。

そのため、手続中は移動を伴う出張なども破産管財人からの許可をもらって行うように注意しましょう。

破産管財人の許可を得ることさえできれば、転居や出張などを行うことができます。

逃亡や財産の隠匿などを疑われないためにも、転居や出張などを行う場合には必ず事前に破産管財人に伝えたうえで、許可を得ることが重要です。

まとめ

自己破産を申し立てた際に、一定以上の財産を所有している場合や免責不許可事由があることが疑われる場合には、管財事件として処理される可能性があります。

管財事件になれば、裁判所から選任された破産管財人が財産を調査・管理するので、破産者は自由に財産を処分することはできません。

また、管財事件になれば、引継予納金を納める必要が生じるため、自己破産の手続きの準備期間を利用して貯めておきましょう。

自己破産の手続きは専門的な知識が多く求められるので、自己破産を検討している方はまずは弁護士に相談するのがおすすめです。

弁護士に相談すれば、管財事件になるのか同時廃止事件になるのかの見通しについての説明や、手続きに必要な書類作成や資料収集についてアドバイスを受けることができ、見通しを持ってスムーズに申立ての準備を行うことができます。

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執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。