交通事故に遭った際は判例も関係する?過去の判例を調べるメリット

執筆者 中越 琢人 弁護士

所属 第二東京弁護士会

弁護士は、スーパーマンではありませんが、他人が抱える紛争の解決のため、お手伝いをすることができます。私は、一件一件丁寧で誠実な対応を心がけ、問題解決のためにできることはやり尽くすという姿勢でおります。皆様の不安が解消され、平穏な生活を送ることができるようになるまで、紛争解決のお手伝いを致します。

「交通事故の被害に遭ったのに、加害者側から私にも過失があると言われて納得がいかない。」
「過失割合を決めるにあたって、過去に似たような判例があるのかわからない。」
「交通事故の判例の調べ方がわからない。」

交通事故の被害に遭ったとき、加害者側から自身の過失を指摘され、困惑してしまうこともあると思います。

交通事故の状況によっては、被害者側にも一定の過失割合が認められ、慰謝料などの損害賠償額が減額されたり、加害者側の損害の一部を負担したりする必要が生じます。

たとえ5~10%でも全体の損害額から差し引くことになるため、損害賠償額が高額になるほど、金額に大きな違いが出てきます。

過失割合を決める要素を知っていれば、交渉によって有利な割合になる可能性があります。

本記事では交通事故で加害者側との示談交渉の際に、過去の裁判所の判断が、過失割合のみならず、慰謝料や休業損害、逸失利益などの各損害額の判断にも影響を及ぼすことを解説して、特に被害者の方が事故初期から関心を寄せる過失割合について、10:0あるいは9:1になった判例の紹介や判例の調べ方を説明します。

この記事を読んで、過失割合の決め方などについて知っていただき、加害者側との示談交渉の際に参考にしていただけると幸いです。

1.交通事故と過去の判例の関係性

交通事故が発生すると、車両の修理費や、怪我があると治療費、慰謝料など、少なからず損害が発生します。

このような損害は、保険会社が支払いをするか、加害者が支払いをするかにかかわらず、金額に争いが生じると民事裁判によって解決していくことになります。

そのため、裁判所の判決である「判例」は、交通事故によって発生した損害を取り決めるにあたって、重要な役割を果たしています。

以下では、過去の判例が必要な理由や、具体的に活用されるケースを解説します。

(1)交通事故が生じた際、過去の判例が必要な理由

裁判所の判決は、交通事故に限らずあらゆる事件で下されるものです。

裁判所は、同じような事案が発生した場合に、それぞれで正反対の異なる判断を下すことには消極的なことが多く、過去の判断を参考に判決が下されることが一般的です。

判決文を読むと、過去の判例が引用されていることも多く、このことからも過去の判断が参考にされていることがわかります。

ちなみに、簡易裁判所、地方裁判所及び高等裁判所(下級審といいます。)での判断を「裁判例」、最高裁判所での判断を「判例」と呼び区別されますが、この記事では、便宜上、下級審の判断も含めて、「過去の判例」と記載します。

判決を下す裁判所が判例を参考にしているのですから、裁判所に対して、自身の正当性を訴える当事者も、過去の判例や裁判例を知っておいて損はないといえます。

(2)過去の判例が活用されるケース

過去の判例が活用される具体的な場面について、それぞれ見ていきましょう。

#1:過失割合

過失割合とは、交通事故が発生した場合に、損害の公平な分担を実現するために、どの程度過失相殺されるべきかを割合で示したものです。

過失相殺の程度(過失割合、具体的に何パーセント過失相殺されるのか)は、法律上明文で定められているわけではなく、過去の判例を参考にしながら、最終的には裁判官が判断することになります。

被害者側にも過失がある場合、その過失分が損害賠償額の全体から差し引かれてしまいます。

過失割合がどのくらいになるかを決めるのは、以下のような事情が考慮されます。

  • 道交法上の優先関係の有無(例:優先道路かどうか、信号の表示はどうか)
  • 車両等の種別(例:四輪車、二輪車、自転車、歩行者)
  • 事故の場所(例:高速道路上、駐車場内)
  • 運転者の状況(例:速度違反、酒気帯び運転等の重い義務違反の有無)
  • 事故当時の状況(例:昼か夜か、見通しが利くかどうか)
  • 事故発生を予期することができたか、回避することが可能であったか

もっとも、すべての交通事故で上記の要素を個別に考えていくわけではなく、過去の判例から、裁判所は、事故状況を類型化して、それぞれの事故状況に応じて、基本過失割合を定めて、酒気帯び運転などの重い過失の有無や、速度違反の有無、昼夜の別などの例外的な事情を、基本過失割合を修正する要素として、整理しています。

現在では、交通事故における当事者の過失割合については、この裁判所が定めた基準を参照して決めることがほとんどです。

この蓄積された過去の判例は、「別冊判例タイムズ38号」や「自保ジャーナル」等によって類型化されており、裁判に限らず、裁判外の示談交渉や各種仲裁・あっせん手続きにおいても参考にされています。

#2:慰謝料

過失割合に限らず、交通事故によって生じた各損害についても、過去の判例は参考にされています。

特に、怪我が生じた場合の慰謝料については、過去に問題になることが多く、ほとんどの裁判所で、過去の判例を類型化した、日弁連交通事故相談センターの発行する「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(いわゆる「赤い本」)が参考にされています。

「赤い本」では、慰謝料は、重症のケースと比較的軽傷のケースに分かれ、入通院期間に応じて算定できるように「別表Ⅰ」、「別表Ⅱ」と、表で整理されています。

「別表Ⅰ」、「別表Ⅱ」の慰謝料算定基準は、「弁護士基準」、「裁判基準」などと呼ばれています。

このように慰謝料についても、過去の判例の類型化が進んでいますが、ギプス固定中など安静を要する自宅療養期間や、生死が危ぶまれる状態が継続したり、麻酔無しでの手術を余儀なくされたりといった例外的事情は、さらに過去の判例を調査しながら、増額事由として主張していくことになります。

#3:休業損害

休業損害については、被害者の業種や業務内容、交通事故によって生じた傷病が業務に及ぼす影響など、多種多様であることから、過去の判例の類型化は、慰謝料ほどは進んでいません。

もっとも、「赤い本」では、給与所得者、事業所得者、会社役員、家事従事者などの区別をしながら、過去の判例の認定例が整理されています。

交通事故がなければ、昇給の機会があった、無職であったが就職活動中であったなどの例外的な事情は、さらに過去の判例を調査しながら、増額事由として主張していくことになります。

#4:逸失利益

後遺障害が残ってしまった場合の逸失利益についても、被害者の業種や業務内容、交通事故によって残ってしまった後遺障害が業務に及ぼす影響など、多種多様であることから、過去の判例の類型化は、慰謝料ほどは進んでいません。

もっとも、「赤い本」では、逸失利益の算定のもとになる、基礎収入、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率、労働能力喪失期間に分けて、過去の判例の認定例が整理されています。

交通事故がなければ、平均賃金を得られていた可能性や、会社役員でも報酬に労務対価性があったり、高齢者でも就労意欲や能力があったりといった例外的な事情は、さらに過去の判例を調査しながら、増額事由として主張していくことになります。

2.過失割合が10:0あるいは9:1になった交通事故の判例の紹介

次に、特に過去の判例が参考になる、過失割合について、10:0の一方的な過失割合の事例、9:1の被害者に一部過失割合が生じてしまう交通事故の判例を紹介いたします。

(1)過失割合10:0の事例

以下では、交通事故での基本過失割合が、10:0の事例をご紹介します。

ケース1:自動車対歩行者

信号機により交通整理の行われている道路において、赤信号無視の自動車と青信号で横断歩道を渡る歩行者が衝突した場合は、基本過失割合が10:0になります(別冊判例タイムズ38号1図)。

また、直線道路で、右側を通行している歩行者が、直進する自動車に衝突された場合も、基本過失割合は10:0となります(別冊判例タイムズ38号43図)。

ケース2:自動車対自転車

信号機により交通整理の行われている交差点において、赤信号無視の自動車と青信号で直進する自転車が衝突した場合は、基本過失割合が10:0になります(別冊判例タイムズ38号235図)。

また、同一方向の直進自転車が、後方から追越しをかけてきて左折する自動車に巻き込まれるように衝突された場合も、基本過失割合は10:0となります(別冊判例タイムズ38号290図)。

ケース3:自動車対バイク

信号機により交通整理の行われている交差点において、右折の青矢印信号で進入したバイクが、赤信号で対向から直進する自動車に衝突された場合、基本過失割合は10:0になります(別冊判例タイムズ38号188図)。

ケース4:自動車対自動車

一方が赤信号無視の他、一般道での後方からの追突事故、完全停止中の衝突事故、対向からセンターラインオーバーの自動車に衝突された事故は、衝突を予見したり、回避したりすることが不可能であることから、過失割合は10:0と考えられています。

(2)過失割合9:1の事例

以下では、交通事故での基本過失割合が9:1の事例をご紹介します。

ケース1:自動車対歩行者

信号機により交通整理の行われている交差点において、赤信号で横断を開始して、その後渡り切る前に青信号になった場合の歩行者が、赤信号で直進する自動車に衝突された場合、基本過失割合は9:1になります(別冊判例タイムズ38号7図)。

ケース2:自動車対自転車

信号機により交通整理の行われていない交差点において、自動車側に一時停止の規制のある場合で、交差する道路を直進する自転車に衝突した場合、基本過失割合は9:1となります(別冊判例タイムズ38号243図)。

ケース3:自動車対バイク

信号機により交通整理の行われている交差点において、直進する自動車が赤信号で進入し、対向から右折しようとするバイクが青信号で交差点に進入した後、赤信号で右折を開始して、衝突された場合、基本過失割合は9:1になります(別冊判例タイムズ38号184図)。

ケース4:自動車対自動車

信号機により交通整理の行われていない交差点において、自動車同士が出合い頭に衝突した場合で、一方の自動車が走行していた道路が優先道路である場合、基本過失割合は9:1となります(別冊判例タイムズ38号105図)。

この場合の優先道路とは、道路標識等により優先道路として指定されているもの及び当該交差点において当該道路における車両の走行を規制する道路標識等による中央線又は車両通行帯が設けられている道路をいいます(道路交通法36条2項)。

3.交通事故の判例の調べ方

各損害や過失割合を過去の判例から類型化してまとめた「赤い本」や「別冊判例タイムズ38号」以外に、個別の論点についてさらに過去の判例などを調査する際に用いる書籍をご紹介いたします。

(1)交通事故損害賠償必携-資料編-

事故の発生から損害の算定、自動車保険金の請求に至るまでの処理に必要な資料を網羅的に記載されている書籍です。

残念ながら2022年版以降は発行されませんが、参考になる書籍です。

(2)交通事故民事裁判例集

50年以上の歴史を誇る判例誌で、重要な最新判例が掲載されているのが特徴です。

(3)交通事故判例要旨集

こちらも歴史ある書籍で、特に古い判例を調査する場合に適しています。

判例の要旨もわかりやすく記載されています。

まとめ

本記事では、交通事故で加害者側との示談交渉の際に、過去の判例がさまざま場面で必要となることのほか、過失割合が10:0あるいは9:1になった判例の紹介や、判例の調べ方をご紹介しました。

専門家である弁護士に相談することで、過去の判例を把握し、適切な損害賠償額を得ることができるでしょう。

納得のいく解決ができるよう、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

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執筆者 中越 琢人 弁護士

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