バイク事故によって脊髄損傷になった方に知っておいていただきたいこと

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

「バイク事故で脊髄を損傷し、今後の生活に不安がある」
「もう治らないといわれてしまった」
「脊髄損傷で後遺障害等級の認定を受けた」
「バイク事故による脊髄損傷で適切な賠償を受けたい」

本記事はこのようなご状況の方へ向けています。

本記事では、脊髄損傷について、どのような傷病なのか、交通事故の賠償問題という観点ではどのような点に注意すべきかについてご説明します。

本記事が、みなさまが将来的な不安を解消するための一助となることを願っています。

1.脊髄損傷とバイク事故の関係

脊髄損傷は、交通事故による受傷の中でも最も重度な怪我のうちのひとつです。

そして、脊髄損傷の方の半数近くがバイク事故によって脊髄損傷を負っています。

脊髄損傷とはどのような傷病なのか、以下にご説明します。

(1)脊髄損傷とは

脊髄損傷とは脊髄を損傷してしまうことです。

脊髄とは、脳と全身を繋ぐ神経で、とても大切なものです。

脳の指令を全身に伝達する、そして身体の各部位でおきたことを脳へ伝達するという連絡経路の役目を果たしています。

神経というと細いものをイメージするかもしれませんが、脊髄はかなり太いです。

およそ小指くらいの太さがあるとされています。

脊髄は、首から腰にかけて脊柱(背骨)の中を通っていて、どこを通る脊髄かによって名称が異なります。

上から順番に、頚髄(首)、胸髄(胸)、腰髄(腰)、仙髄(臀部)の4つがあります。

(2)脊髄損傷の種類

脊髄損傷は、脊髄の損傷の程度に応じて、「完全損傷」と「不完全損傷」の2つに分類されます。

#1:完全損傷

完全損傷とは、神経が完全に遮断され、脊髄の機能が完全に壊れてしまった状態です。

脳との経路が断たれてしまっているため、動かない(麻痺)ばかりか、感覚や知覚といった機能が失われます。

もっとも、全てというわけではなく、損傷した箇所よりも下の部位に限られます。

#2:不完全損傷

不完全損傷とは、神経の一部は損傷しているものの、神経が完全には遮断されていない状態を指します。

損傷の程度に応じ、運動機能は失われているものの感覚知覚機能は残っているケース、ある程度は運動機能も残っているケースなどさまざまです。

完全損傷か不完全損傷か、判別できるタイミング

脊髄損傷が完全損傷か不完全損傷かを判断できるのは、24時間~48時間程度続く「脊髄ショック」という状態を脱してからです。

脊髄ショックとは、脊髄が損傷した際に生じるショック状態のことで、その間は運動機能や知覚感覚機能が失われます。

そのため、事故直後に麻痺が生じていたとしても完全損傷ではないケースがあります。

実際の症状は事故から1~2日程度で明らかになってきます。

では、脊髄損傷にはどのような症状があるのか、以下でご説明します。

(3)脊髄損傷の症状

脊髄損傷によるもっとも代表的な症状は麻痺です。

ですが、脊髄損傷の症状は麻痺だけではありません。

脊髄損傷が起こると、首や背中の激しい痛み、運動機能の消失、感覚・知覚機能の消失、内臓機能の喪失などが発生します。

脊髄が損傷した場所に関連する部位に影響が出ます。

たとえば、

  • 頚髄 呼吸機能への影響
  • 胸髄 感覚・知覚機能の消失
  • 腰髄 下肢の筋力低下
  • 仙髄 膀胱の機能消失

などがそれぞれ代表的なものとして挙げられます。

(4)脊髄損傷の診断方法とは?

脊髄損傷は、実際に麻痺が存在していて、MRI撮影やレントゲン撮影で脊椎・脊髄の損傷部位が明らかとなることで診断できます。

なお、交通事故の賠償という観点では、後遺障害申請の際に、画像診断とセットで神経学的検査と呼ばれるものを行なう必要があります。

これについては、後ほどご説明します。

(5)脊髄損傷の治療とは?

脊髄損傷の主な治療は、リハビリを行い、少しでも神経の機能回復を目指すことです。

リハビリの内容としては、運動療法(筋力トレーニングや歩行訓練など)、電気刺激療法などが挙げられます。

リハビリは、根気よく続けていく必要があります。

たとえば、入院によるリハビリで半年間、退院した後も通院によって年単位で継続していくということが考えられます。

長期にわたることから、被害者の方のメンタルケアも課題となります。

そのため、交通事故に関することに被害者を関わらせたくないと考えるご家族の方も少なくありません。

2.バイク事故における脊髄損傷が認定を受ける後遺障害等級

上述したように、脊髄損傷は大変な後遺症がのこってしまうことがあります。

後遺症が生じた場合は、「後遺障害等級」の認定を受けることによって、「後遺障害慰謝料」と「逸失利益」をという賠償を相手方へ請求することができます。

ここでは脊髄損傷における「後遺障害等級」「後遺障害慰謝料」「逸失利益」についてご説明します。

(1)脊髄損傷による後遺障害等級と各症状

脊髄損傷による後遺障害等級にはどのようなものがあるのでしょうか。

脊髄損傷の後遺障害等級

脊髄損傷の後遺障害等級認定の基準は、自賠法施行令で以下のように7段階で設けられています。

#1:脊髄損傷の後遺障害等級

脊髄損傷の後遺障害等級認定の基準は、自賠法施行令で以下のように7段階で設けられています。

後遺障害等級 後遺障害の内容
第1級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
第2級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
第3級3号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
第5級2号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
第7級4号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
第9級10号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの

#2:脊髄損傷の後遺障害等級認定基準

上述の後遺障害の内容は、それぞれがどういう症状を指しているのかピンとこないと思います。

自賠法施行令が準じている労災保険の補償においては、脊髄損傷の後遺障害等級認定基準は、次のようになっています。

基準の中に「高度」「中等度」「軽度」、「単麻痺」「片麻痺」「対麻痺」「四肢麻痺」という言葉が登場します。

これらは、麻痺の部位と程度を表したものです。詳しくは#3で解説します。

①脊髄損傷による第1級1号の後遺障害認定基準

  1. 高度の四肢麻痺があるもの
  2. 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・更衣等について常時介護を要するもの
  3. 高度の片麻痺であって、食事・入浴・更衣等について常時介護を要するもの

②脊髄損傷による第2級1号の後遺障害認定基準

  1. 高度の片麻痺があるもの
  2. 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・更衣等について随時介護を要するもの

③脊髄損傷による第3級3号の後遺障害認定基準

  1. 中等度の四肢麻痺があるもの

④脊髄損傷による第5級2号の後遺障害認定基準

  1. 軽度の四肢麻痺があるもの
  2. 中等度の片麻痺があるもの
  3. 高度の単麻痺があるもの

⑤脊髄損傷による第7級4号の後遺障害認定基準

  1. 軽度の片麻痺があるもの
  2. 中等度の単麻痺があるもの

⑥脊髄損傷による第9級10号の後遺障害認定基準

  1. 軽度の単麻痺があるもの

⑦ 脊髄損傷による第12級13号の後遺障害認定基準

  1. 運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんどない場合の軽微な麻痺を残すもの
  2. 運動障害はないものの、広範囲に感覚障害があるもの

#3:麻痺の分類

上述の後遺障害等級認定基準には「高度」「中等度」「軽度」、

「単麻痺」「片麻痺」「対麻痺」「四肢麻痺」という言葉が登場します。

脊髄損傷の症状の程度は、次のように麻痺の部位と麻痺の程度という2つの視点で分類されています。

①麻痺の部位による分類

②麻痺の程度による分類

脊髄損傷の麻痺の程度は、高度、中等度、軽度に分類されます。

その基準は以下の通りです。

麻痺の程度 程度の説明
高度 障害のある上肢または下肢の運動性・支持性がほとんど失われ、障害のある上肢または下肢の基本動作ができないもの

※基本動作:下肢は歩行や立位、上肢は物を持ち上げて移動させることを指す

例)腕や足が全く動かない、少しは動くがほとんど動かない

中等度 障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が相当程度失われ、障害のある上肢または下肢にかなりの制限があるもの

例)500g程度のものを持ち上げられない、文字を書くことができない、杖や装具が無ければ歩行が困難である

軽度 障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が多少失われており、障害のある上肢または下肢の基本動作を行なう際の巧緻性及び速度が相当程度損なわれているもの

例)文字を書くことが困難、歩行はできるが転倒しやすく速度も遅い、杖や装具が無ければ階段を昇ることができない

(2)脊髄損傷による後遺障害慰謝料の相場

ここまで、脊髄損傷の後遺障害等級についてご説明してきました。

次は、この後遺障害等級の認定を受けることによって相手方に賠償請求することができる「後遺障害慰謝料」についてご説明します。

交通事故賠償においては後遺障害等級の等級に応じて後遺障害慰謝料というものを請求することができます。

後遺障害慰謝料とは、後遺障害が生じたことに対する慰謝料です。

その金額は、後遺障害等級に応じて相場が決まっています。

ここで注意が必要なのは、保険会社が用いる相場感と、弁護士が用いる相場感が異なる点です。

この保険会社が用いる基準を「自賠責基準」、弁護士が用いる基準を「弁護士基準」または「裁判基準」といいます。

自賠責基準と裁判基準とは以下のような差があります。

自賠責基準 裁判基準
第1級 1,650万円 2,800万円
第2級 1,203万円 2,370万円
第3級 861万円 1,990万円
第5級 618万円 1,400万円
第7級 419万円 1,000万円
第9級 249万円 690万円
第12級 94万円 290万円

(3)脊髄損傷による逸失利益はいくらもらえる?

さらに、逸失利益についてです。

逸失利益とは、将来得られるはずだった利益を失ってしまうことを指します。

逸失利益は、「事故前年度の年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間」という計算式で計算します。

#1:労働能力喪失率とは

労働能力喪失率とは、後遺障害が残ったことによる仕事への影響をパーセンテージで表したものです。

これは認定された後遺障害の等級によって基準が設定されています。

#2:労働能力喪失期間とは

労働能力喪失期間とは、後遺障害が残ったことによる労働能力の喪失が考えられる期間のことです。

「治療が終了となった年から67歳までの年数」もしくは「平均余命の2分の1の年数」のいずれか長い方を採用します。

#3:事例 年収500万円、治療終了時に35歳だった場合の逸失利益の計算方法

「事故前年度の年収が500万円」の、「治療終了時に35歳」だった被害者を想定し、後遺障害等級に従って計算をしてみます。

なお、30歳未満の若年労働者、学生、主婦等は別の基準を用います。

ご自身にはどの金額が当てはまるのかわからない方は、お気軽にお問い合わせ下さい。

※以下、令和2年4月以降の基準を採用しています。

●第1級1号、第2級1号、第3級3号:

500万円×100%(労働能力喪失率)×20.3888(67歳までの32年を表すライプニッツ係数)=1億194万4000円

※ライプニッツ係数:中間利息を控除するために利用される係数のことです。中間利息とは、途中で発生する利息のことです。逸失利益は本来数年先に受け取るべき金額であるところ、本来受け取るべき時期の到来までに利息が付くことになります。その利息を控除しなければ、受け取り過ぎるということになるため、このような計算がなされます。

●第5級2号:

500万円(事故前年度の年収)×79%(労働能力喪失率)×20.3888(67歳までの32年を表すライプニッツ係数)=8053万5760円

●第7級4号:

500万円(事故前年度の年収)×56%(労働能力喪失率)×20.3888(67歳までの32年を表すライプニッツ係数)=5708万8640円

●第9級10号:

500万円(事故前年度の年収)×35%(労働能力喪失率)×20.3888(67歳までの32年を表すライプニッツ係数)=3568万400円

●第12級13号:

500万円(事故前年度の年収)×14%(労働能力喪失率)×20.3888(67歳までの32年を表すライプニッツ係数)=1427万2160円

3.脊髄損傷の後遺障害等級を獲得するために

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脊髄損傷による症状は、残念ながら完治しないことがほとんどです。

だからこそ、適切な後遺障害の認定を受け、適正な賠償金を受け取る必要があります。

では、適切な後遺障害等級を獲得するためには、どのようなことが必要となるのでしょうか。

以下、重要な3つの要素をご説明します。

(1)適切な診断を受ける

後遺障害申請で適切な等級を得るためには、適切な診断を受けることは欠かせません。

なかでも、大切にしてほしい3つの要素があります。

ひとつは画像診断、ふたつ目は神経学的検査、そして3つ目が医師の診察をしっかりと受けることです。

以下、それぞれについてご説明します。

#1:画像診断を受ける必要性

脊髄損傷と診断されるには、実際に麻痺が存在していて、MRI撮影やレントゲン撮影で脊椎・脊髄の損傷部位が明らかとなることが必要とご説明しました。

このことを画像診断と呼びます。

適切な後遺障害を獲得するために、事故からできるだけ早く、MRI撮影やレントゲン撮影、必要に応じてCT撮影を行なってください。

なぜなら、事故から時間が経過してしまうと、異常が写りにくくなってしまったり、事故との因果関係を疑われてしまう可能性があるからです。

そうなると、脊髄損傷であると認められなかったり、脊髄損傷ではあるけれども事故のせいとは認められないと言われてしまったりします。

こうなると適切な賠償を受けることができなくなってしまいます。

このような事態を避けるために、できるだけ早く画像撮影を行なっていただきたく思います。

#2:神経学的検査を受ける必要性

神経学的検査には、感覚テスト、反射テスト、筋力テストなどが挙げられます。

これらは、神経に異常があるかどうかを確認するために行なわれるテストです。

脊髄損傷には、どこを損傷したかによって出る症状が違うという特徴があります。

これらのテストを受けることで、画像診断の結果と症状が合致しているかを確認することができます。

脊髄損傷を考える上で非常に大切な情報となりますから、これらの検査も受けていただきたく思います。

#3:医師の診察をしっかりと受ける必要性

また、主治医の診察を定期的に受けることも非常に重要です。

なぜなら、撮影した画像で写った異常と、実際に発生している症状とを結びつける必要があるからです。

「画像では異常があるけれども、実際にどのような症状が発生しているかはわからない」となると、せっかくの画像診断も意味がありません。

脊髄が損傷したことによってどのような神経症状が出ているのかを、様々なテストを通じて、主治医に確認していただく必要があります。

(2)自覚症状を記録しておく

後遺障害の等級を認定する調査では、「いつから、どのような自覚症状があったのか」がとても重要になります。

事故が原因で症状が出たということを確認する必要があるからです。

例えば、事故後1か月が経過した段階で初めて出てきた症状については、事故との因果関係を否認される可能性があります。

しかし、もし「主治医には伝えていなかったけれども、事故の翌日から感じていた」ということであれば大変です。

主治医に伝えていないことはカルテに記載されていません。

そのため、「あのとき実はこうだった」と立証ができず、適切な後遺障害の認定がされない恐れがあります。

そのため、自覚症状をしっかり主治医に伝えること。どのように伝えていたかを自分でも記録しておくこと。

このような対応が大切です。

また、主治医も症状の経過がしっかりわからなければ、適切な治療方針を示すことが難しくなります。

適切な治療を受けるため、そして適切な賠償を受けるためにも、主治医としっかりコミュニケーションを取ることが非常に大切です。

 (3)弁護士に相談する

脊髄損傷の怪我を負われた方は、常に不安を抱えられていると思います。

「自覚症状はどのように主治医に伝えればいいの?」、「後遺障害の申請はどうすればいいの?」、「今後の生活はどうすればいいの?」等、疑問や不安は尽きないと思います。

脊髄損傷は、交通事故で起き得る怪我の中でも、非常に重く、そして難しいものです。

バイク事故で大きな怪我を負われた方は、今後適切な賠償を受けるためにも、必ず弁護士にご相談いただくべきと考えています。

まとめ

本記事では、バイク事故による脊髄損傷の診断方法や注意点、後遺障害等級との関係をご紹介しました。

脊髄損傷の怪我を負った被害者は、これまでと同じようには生活ができない可能性が非常に高いです。

そのため、適切な後遺障害の認定を受け、適切な賠償を受けることが非常に大切であると考えています。

できるだけ早く脊髄損傷に精通した弁護士へ相談し、不安を解消し、適切な賠償を受けていただきたいと思います。

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執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。