高次脳機能障害の後遺障害等級は何級になる?認定される等級やポイントについて解説

執筆者 野沢 大樹 弁護士

所属 栃木県弁護士会

私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。

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「医者から高次脳機能障害と言われたけどこれってどういうもの?」
「高次脳機能障害は後遺障害の何級になる?」

交通事故の被害に遭った方、あるいはその親族の方で、医師から「高次脳機能障害」という診断名を聞かされたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

「障害」という言葉が使われていることから、これが後遺障害に該当するのかどうかなどについて気になる方もいると思います。

本記事では、高次脳機能障害が後遺障害に該当する可能性があること、該当する場合の後遺障害等級はどうなるかなどについて、ご説明します。

本記事が、高次脳機能障害とはどのようなものか、高次脳機能障害と診断された場合に取るべき行動などを理解する助けとなれば幸いです。

1.高次脳機能障害とは?

高次脳機能障害とは、交通事故などの原因によって脳が損傷したことにより、単純な知覚機能(視覚、聴覚、触覚など)、運動機能(手足の動作など)ではなく、これらを組み合わせて行う行動等に障害が出て、日常生活や社会生活に支障が生じる状態をいいます。

交通事故を原因として高次脳機能障害が生じてしまった場合は後遺障害があると認められる可能性があり、障害が脳のどの機能にどの程度現れているかによって認定される等級が決まります。

以下で、高次脳機能障害と認められる可能性のある後遺障害等級について詳しく見ていきましょう。

(1)高次脳機能障害とは?

繰り返しになりますが、高次脳機能障害は、交通事故などの原因によって脳が損傷することにより、知覚、運動等を組み合わせて行動する機能に障害が出て、日常生活や社会生活に支障が生じる状態のことです。

知覚障害(目が見えない、皮膚の感覚がないなど)や運動障害(手足を動かしにくいなど)といった単純な機能には障害がないものの、それらをつなぎ合わせた上で判断を行うネットワーク機能の障害がある場合に、高次脳機能障害があるということになります。

例えば、人の顔を認識することはできるものの、その人が誰なのか判断することができないという状態が考えられます。

この場合、単純な機能である視覚には問題がないものの、そこから得られる情報を記憶と結び付けたり、特徴で区別したりするという、視覚以外の機能とつなぎ合わせた判断ができなくなっていますから、高次脳機能障害があるものと考えられます。

(2)高次脳機能障害で後遺障害が認定される主な症状

高次脳機能障害がある場合、その障害の程度によって、1級から9級までの後遺障害等級が認定される可能性があります。

脳は部位によってさまざまな機能を分担していますから、損傷した部位によって異なった能力について障害が現れることになります。

高次脳機能障害の具体的な症状には、以下のようなものがあります。

能力 具体的な症状
意思疎通能力
(記銘・記憶力、認知力、言語力等)
・新しいことを覚えられない
・言葉思いどおりに出てこない
・何度も同じことを聞く
・言われている言葉が理解できない
・文字を声に出せない
問題解決能力
(理解力、判断力等)
・複数の作業を同時に行えない
・行動を計画したり、計画どおりに遂行したりできない
・指示どおりに動くことができない
・地図を読んで目的地にたどり着くことができない
作業負荷に対する持続力・持久力 ・疲れやすい
・居眠りをしてしまう
・気が散りやすく飽きっぽい
・声かけがないと作業が続けられない
・作業のミスが多い
社会行動能力
(協調性等)
・考えが自己中心的である
・感情の変動が激しく気分が変わりやすい
・感情や言動をコントロールできない
・気分が落ち込みやすい

これらについては、程度によっては、もともとマルチタスクが苦手、もともと感情の振り幅が大きいといった具合に、事故に遭う前からそのような傾向があるという人も少なくありません。

そのため、事故によって高次脳機能障害が生じたというためには、事故前からどのように変わったのかという点が重要になります。

これらの障害がある場合、どの等級が認められるかについては、介護が必要かどうかによって大きく分かれています。

さらに介護が不要なものについては、上記の4つの能力がどれだけ欠けているかによって細かく分かれています。

分類は次のとおりです。

#1:介護が必要な等級

1級1号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

身体機能は残存しているものの、重篤な高次脳機能障害や高次脳機能障害による高度の痴ほうや情意の荒廃があるために、生活維持に必要な身の回りの動作に常時介護や看視を必要とするもの

2級1号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの

著しい判断能力の低下や情動の不安定などにより、日常の身体的動作について家族からの声掛けや看視を欠かすことができない、あるいは自宅内の身体的動作は一応できるが1人で外出することができず外出の際には他人の介護を必要とするもの

#2:介護がなくても生活ができる等級

①3級3号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの

日常の生活範囲は自宅に限定されておらず、日常動作を介助なしで行うことはできるものの、4能力の1つ以上の能力が全部失われている、または2つ以上の能力の大部分が失われているために、一般就労が全くできないか、困難なもの

②5級2号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの

単純な繰り返し作業を行うことは可能なものの、4能力の1つ以上の能力の大部分が失われている、または4能力の2つ以上の能力の半分程度が失われており、一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持に職場の理解と援助を欠かすことができない者

③7級4号:神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの

一般就労を維持できるものの、4能力の1つ以上の能力が半分程度失われている、または2つ以上の能力の相当程度が失われており、一般人と同等の作業を行うことができないもの

④9級10号:神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

一般就労を維持できるものの、4能力の1つ以上の能力の相当程度が失われているために、作業効率や作業能力に問題があるもの

2.高次脳機能障害において等級認定を受けるためのポイント


これまで見てきたように、高次脳機能障害がある場合は労働能力に制限が生じるため、自賠責保険に申請することにより、後遺障害の認定を受けられる可能性があります。

しかし、医師に高次脳機能障害と診断されたとしても、自賠責保険において後遺障害が認められるとは限りません。

同じ高次脳機能障害という言葉を使っていても、その定義は医療、自賠責保険における後遺障害の認定の場面、そのほかでは行政など、それぞれで異なるため、それぞれに応じた要件を意識する必要があります。

自賠責保険で後遺障害が認められるためには、気を付けなければいけないいくつかの重要なポイントがあります。

以下では、どのような点があれば後遺障害の認定を受けやすいのか、ご説明します。

(1)診断書に脳損傷をともなう外傷の記載がある

高次脳機能障害は脳の損傷による障害です。

したがって、脳に損傷を生じうる頭部外傷があると診断されているかどうかが重要となります。

例えば、以下のような傷病名の記載があれば、脳損傷があると認められる可能性が高くなります。

・脳挫傷
・びまん性軸索損傷
・くも膜下出血
・硬膜下血腫
・頭がい骨骨折

頭部に外傷があるというだけでは足りず、脳に損傷が生じると判断できるかどうかが重要です。

診断名を確認してもわからない場合は、経験のある弁護士に相談するのがよいでしょう。

(2)診療録等に意識障害についての記載がある

事故後に意識があったかどうか、なかった場合はどの程度の時間なかったのかという点は重要になります。

意識がない時間が長ければ長いほど、脳が受けた衝撃、ダメージは大きいと考えられますから、その分高次脳機能障害が脳損傷によって生じるリスクも高まります。

反対に、事故直後も意識がはっきりしているという場合には、後遺障害が認められるほどの損傷があることに疑義が生じます。

意識障害の程度については、JCS(ジャパン・コーマ・スケール)、GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)といった基準があり、わが国ではJCSの方が多く用いられる傾向にあります。

JCSは軽い方からⅠ群、Ⅱ群、Ⅲ群に分かれており、それぞれ、一桁、二桁、三桁の数字で表されます。

GCSは満点を15点として点数が低いほど意識障害が重いものとなります。

細かく見ると次のようになります。

 

JCS(ジャパン・コーマ・スケール)
Ⅰ:刺激しないでも覚醒している状態 0 意識清明
Ⅰ‐1 だいたい清明であるが、今一つはっきりしない
Ⅰ‐2 見当識障害がある(場所や時間、日付がわからない)
Ⅰ‐3 自分の名前、生年月日が言えない
Ⅱ:刺激で覚醒するが、刺激をやめると眠り込む状態 Ⅱ‐10 普通の呼びかけで容易に開眼する
Ⅱ‐20 大きな声または体を揺さぶることにより開眼する
Ⅱ‐30 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すことにより開眼する
Ⅲ:刺激しても覚醒しない状態 Ⅲ‐100 痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする
Ⅲ‐200 痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめたりする
Ⅲ‐300 痛み刺激に全く反応しない

 

GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)
開眼(E, eye opening) 4 自発的に開眼
3 呼びかけにより開眼
2 痛みにより開眼
1 開眼なし
最良言語反応(V, best verbal response) 5 見当識あり
4 混乱した会話
3 不適当な発語
2 理解不明の音声
1 発語なし
最良運動反応(M, best motor response) 6 命令に応じて可能
5 疼痛部位を認識する
4 痛み刺激から逃避する
3 痛み刺激に対して屈曲運動を示す
2 痛み刺激に対して伸展運動を示す
1 痛み刺激に対して反応なし

そして、これらで示される意識障害の程度とそれが継続した期間によって、以下のとおり、後遺障害が認められるための目安が定まっています。

意識障害の程度 期間
軽度(JCSⅠ群、GCS13~14点) 1週間以上
中程度以上(JCSⅡ群・Ⅲ群、GCS12点以下) 6時間以上

後遺障害等級の認定申請を検討する際には、診療録や救急搬送の記録に、事故後の意識障害の有無の記載があるかを確認しておくのがよいでしょう。

(3)脳についての検査所見がある

仮に、(1)や(2)のような記載が認められたとして、さらに重要なのは脳の画像所見です。

脳挫傷や、脳内出血による圧迫の痕、脳委縮による脳室の拡大といった画像所見が認められれば、高次脳機能障害について後遺障害等級の認定を受けられる可能性があります。

高次脳機能障害の疑いがある場合には、頭部のCT、MRI画像検査を受けておくようにしましょう。

(4)以上のような所見がない場合

以上はあくまで、高次脳機能障害が認められる可能性の高いポイントですので、最終的には総合考慮となります。

そのため、上記のポイントをすべて満たさなければ、後遺障害の認定が受けられないというわけではありません。

また、仮に自賠責保険において後遺障害が認められなかったとしても、訴訟においては認められる場合もあります。

例えば以下の事案では、事故直後に「脳挫傷」等の診断がされておらず、画像所見もなかったことから自賠責保険では後遺障害が認められなかったものの、交通事故により頭部に衝撃を受けたと認められることや意識障害があったことから後遺障害が残存したということが認められています。

 

・名古屋地方裁判所平成24年2月24日判決(自保ジャーナル1872号1頁)

傷病名は「脳震盪」とされており、頭部CT、MRI画像上も特筆すべき異常所見がなかったことから、自賠責保険においては高次脳機能障害

が認められず非該当との認定を受けていた事例。

裁判所は、被害者の脳損傷について画像所見から直ちにその所見は認められないものの、そのことから直ちに高次脳機能障害を否定することはできないとした上で、被害者が上顎の骨を陥没し歯を5本折ったことから頭部に衝撃を受けたと認められ、事故前後の記憶がないこと、事故直後の意識消失があり、意識障害の程度は低いが一時的記憶障害があり、事故後に記憶障害、注意障害、情緒面の不安定、動作性の低下などの精神症状が現れていることを総合して、7級相当の高次脳機能障害の後遺障害が残存したと認定した。

このように、自賠責保険で認定を受けるためのポイントをすべて満たさないという場合でも、症状に応じた賠償を受けられるケースも存在します。

後遺障害の認定を受けられるか、賠償請求が可能かどうかを検討する上では、経験のある弁護士に話を聞いてみた方がよいでしょう。

3.高次脳機能障害の疑いについて弁護士に相談、依頼するメリット

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高次脳機能障害の疑いがある場合、弁護士に相談、依頼することには以下のようなメリットがあります。

(1)何をしたらよいかについてアドバイスを受けられる

交通事故によって高次脳機能障害が生じたかどうかについては、障害について本人が自覚していないこともあります。

そのような場合に、周囲の方が高次脳機能障害の疑いを抱いた場合には、経験のある弁護士へ相談することで、高次脳機能障害であるかどうかの診断を受けるためのアドバイスを受けることができます。

例えば、どのような検査を受ける必要があるか、その検査を受けるためにどのような病院へ行けばよいかなどについて話を聞くことができるでしょう。

高次脳機能障害かどうかもわからない状況では満足な治療を受けることもできませんから、弁護士に相談しアドバイスを受けることは、被害に遭った方の今後を決めるうえで重要です。

(2)適切な後遺障害等級の認定を受けられる可能性が上がる

弁護士に交通事故の賠償について依頼することにより、適切な後遺障害等級の認定を受けられる可能性が高まります。

後遺障害等級の認定を受ける場合、加害者の保険会社に後遺障害診断書等の提出を行う方法と、被害者側で書類を収集して行う方法の2種類があります。

加害者側の保険会社に後遺障害診断書を提出する方法だと、それ以外の書類は保険会社が収集することになります。

それらの書類に不足がないかどうかを確認することができませんので、不十分な資料で認定を受けてしまうことになりかねません。

一方、被害者側で請求を行う場合、書類を収集する手間がかかります。

このとき、弁護士に依頼すれば、これまでご説明したような、後遺障害等級の認定を受けるための重要なポイントを踏まえた上で、認定手続の代理、資料の収集の代行などを行うことができます。

高次脳機能障害について後遺障害等級の認定を受ける場合、後遺障害診断書のほかに「神経系統の障害に関する医学的意見」、「頭部外傷後の意識障害についての所見」といった書類を医師に作成してもらう必要があります。

また、家族等の近親者が「日常生活状況報告書」を作成する必要もあります。

これらの書類の記載についてどのようなことに気を付ければよいかについても、バックアップを受けることができます。

このように、弁護士に依頼して手続を適切に行うことにより、資料収集の負担を軽減できますし、後遺障害等級の認定を受けられる可能性を高めることもできます。

(3)障害の種類、等級に応じた適切な賠償請求ができる

後遺障害等級の認定を受けたあとも、その等級に応じて、適切な賠償請求を行うことができます。

後遺障害があると認められた場合、治療中の治療費や慰謝料に加え、等級に応じて、以下のような損害を請求することができます。

・後遺障害慰謝料:後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料
・逸失利益:後遺障害によって労働能力が制限されることにより減少した将来の収入

逸失利益については、被害者の事故前の職業等、考慮する要素が多く、被害者本人では算定が難しい場合があります。

また、後遺障害慰謝料についても、弁護士がいない場合は複数ある算定方法のうち自賠責基準が用いられることが多い一方で、弁護士に依頼することにより自賠責基準よりも金額の高くなる弁護士基準を用いて請求することができます。

加えて、高次脳機能障害による後遺障害の場合、介護が必要な1級、2級の場合にとどまらず3級以下の場合でも声掛けや見守りのための将来的な介護(看視)費用が認められることがあります。

また、介護のための家屋改造費などについても請求できる可能性があります。

さらに、高次脳機能障害の場合、症状の悪化を防ぐために、将来にわたってリハビリテーションや通院を行う必要がある場合があります。
このような場合は、その費用についての請求ができるということもあります。

このように、高次脳機能障害について後遺障害等級が認められた場合は賠償請求の場面においても考慮しなければならない項目が増えることになりますから、金額等の検討について専門家の判断をあおぐことは重要です。

したがって、賠償請求の場面においても弁護士に依頼することは大きなメリットがあります。

まとめ

本記事では、高次脳機能障害とはどのようなものか、高次脳機能障害がある場合どの程度の後遺障害等級が認められるか、認定を受けるために重要なポイントは何かなどについてご説明しました。

高次脳機能障害は症状が多岐にわたり、被害者本人が自身の症状を自覚できていないことも珍しくありません。

そして、後遺障害等級の認定を受けるために気を付けるポイントが多く、適切に損害賠償請求を行っていくためには専門家の手助けが必要なものです。

高次脳機能障害かどうかわからないがその疑いがある、あるいは高次脳機能障害と診断を受けたが後遺障害の認定を受けられるか不安があるというような場合には、一度は弁護士に相談されることをお勧めします。

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