交通事故で歩行者に過失あるとなる場合とは?歩行者が悪いケースを解説

交通事故で歩行者も過失が問われる?歩行者が悪いとされる可能性があるケースを解説

執筆者 野沢 大樹 弁護士

所属 栃木県弁護士会

私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。

「歩行者が飛び出してきたことが原因で交通事故が発生した」
「歩行者が悪いと思うが、それでも損害を賠償しなければいけない?」

交通事故に遭った方の中には、事故態様などについてこのような疑問をお持ちの方もいるでしょう。

急な飛び出しや信号無視など、交通事故の発生について歩行者に原因があった場合、自動車側の過失割合が軽減されるかもしれません

今回の記事では、交通事故で歩行者に原因があると思われる場合の過失割合や損害賠償などについて解説します。

1.交通事故における歩行者の扱い

1.交通事故において歩行者は「交通弱者」扱い

歩行者は交通事故に遭った場合に大きな被害を受けやすく、自動車との接触は死亡事故にもつながるため「交通弱者」として扱われます。

そのため、自動車と歩行者との交通事故では、運転手の責任が大きくなりやすいです。

道路交通法70条により、運転手は他者に危害を及ぼさない速度と方法で運転する注意義務を課せられます。

歩行者が交通弱者であることにより、自動車の運転手は歩行者に特に注意を払わなければいけないことになります。

そのため、歩行者が原因と思われる交通事故でも、運転手の過失がゼロになることは滅多にありません。

歩行者との交通事故だと全ての過失を免れることは難しいものの、状況によって歩行者側にも過失割合が認められています

過失割合とは、交通事故によって発生した結果についての責任をどのくらい負うか示した割合のことです。

突然の飛び出しや信号無視など明確に歩行者に原因があるケースであれば、自動車側の過失割合は軽減されます。

2.交通事故における歩行者の過失割合

交通事故で歩行者が悪いかどうか判断するための過失割合

交通事故の発生について、歩行者にも原因がある場合、それぞれの事故の状況によって過失割合が変わります。

これは、歩行者が死亡した場合も同様です。

交通事故の内容は千差万別ですが、過去の裁判例をもとに基本の過失割合が定められており、個別の事情に応じた修正要素を組み合わせて過失割合を決定します

原因が歩行者にある代表的な事故を確認し、過失割合がどのように適用されるのか把握しましょう。

(1)歩行者の急な飛び出しが原因の場合

歩行者の急な飛び出しが原因の場合、事故の発生した場所が横断歩道上かそうでないかで過失割合が変わってきます。

横断歩道上での事故の場合、基本過失割合は自動車100:歩行者0となります。

これは、道路交通法38条により横断歩道上では歩行者が優先されているからです。

しかし、突然の飛び出しだと判断されると歩行者の過失が認められ、最大で自動車85:歩行者15まで修正されます

#1:横断歩道のある場所

自動車 歩行者
基本過失割合 100 0
急な飛び出しの過失割合 85 15

横断歩道では歩行者優先のため、原則的に自動車の過失割合は必然的に大きくなります。

一方、横断歩道でないところでの交通事故の基本過失割合は自動車80:歩行者20です。

突然の飛び出しの場合、過失割合を最大で自動車70:歩行者30まで修正されます

#2:横断歩道のない場所

自動車 歩行者
基本過失割合 80 20
急な飛び出しの過失割合 70 30

運転手には進路上に出てくる歩行者を予見して事故を回避する義務があります。

そのため、横断歩道のない場所における事故であっても原則として自動車側の過失が大きくなりますし、突然の飛び出しでも自動車の過失が重くなっています。

歩行者を認識しづらい夜間に中央分離帯のある国道での飛び出しがあったというようなケースだと、修正要素が重なり歩行者側の過失が大きくなる可能性もあります。

(2)歩行者の信号無視が原因の場合

信号のある横断歩道上の事故で、歩行者に信号無視がある(歩行者側の信号が赤信号)場合、自動車側の信号の状況で過失割合が変化します。

信号無視した歩行者と直進車の交通事故だと、自動車側が青信号であっても、基本過失割合は自動車30:歩行者70であり、自動車側にも3割の過失が認められます。

自動車側の信号によって、過失割合は以下の表のようになります。

#1:横断歩道で信号無視をした歩行者と直進車

自動車側の信号 自動車 歩行者
青信号 30% 70%
黄信号 50% 50%
赤信号 80% 20%

自動車側の信号が赤または黄信号の場合には、自動車側の過失割合が重いと判断されることになります。

一方、自動車が右左折したときの事故だと、自動車側が青信号の場合の基本過失割合は自動車50:歩行者50となり、自動車側の過失は5割まで増えてしまいます。

自動車を含む車両は、道路交通法第34条により右左折するときは徐行しなければならないとされています。

ルールに従っていれば徐行しているはずなのだから、運転手は歩行者の動静を確認しやすく、信号無視をしてくる歩行者を予見しやすいはずだ、ということになるため、自動車側の基本過失割合は重くなっています。

#2:信号無視をした歩行者と右左折する自動車

自動車側の信号 自動車 歩行者
青信号

(基本過失割合)

50% 50%
黄信号 70% 30%
赤信号 80% 20%

自動車側の信号が赤または黄信号の場合に、自動車側の過失割合が重いと判断されるのは、直進の場合と同じです。

3.交通事故の歩行者(被害者)の慰謝料

交通事故の歩行者(被害者)の慰謝料

交通事故で歩行者がケガをしたり死亡したりした場合、自動車側は損害を賠償しなければならない可能性があります。

自動車の過失割合が大きければ、歩行者に原因があると思われる場合でも加害者である運転手に対して損害賠償を請求できるためです。

損害賠償は、歩行者がケガをした場合、その治療費や慰謝料を支払うことになります。

この場合の慰謝料とは、痛みや恐怖など精神的苦痛を負ったことに対し支払われるものです。

たとえば、加害者である運転手に対して請求される慰謝料ですが、これには三つの種類があります。

傷害慰謝料 交通事故によって怪我をさせられたことによる精神的苦痛に対する補償
後遺障害慰謝料 後遺障害が残ったことで今後も続く精神的苦痛に対する補償
死亡慰謝料 死亡した本人・遺族による精神的苦痛に対する補償

上記の慰謝料がそれぞれ請求できます。

重い後遺障害や死亡の場合、巨額になることもあり得ますが、歩行者にも原因がある場合、損害賠償を満額支払う必要はありません。

損害賠償は、100%加害者に責任があるケースを除いて、過失相殺された額を支払います

過失相殺とは、過失割合にもとづいて損害賠償額を減額することをいいます。

たとえば、過失割合が自動車70:歩行者30で、損害額が1000万と決まったとします。

歩行者へ支払う額は、損害額の70%である700万円です。過失相殺の計算式は以下のようになります。

  • 1000万×(1‐0.3)=700万

それぞれの過失に見合った割合で、支払うべき損害賠償額は決定します。

つまり、自動車と歩行者の交通事故の場合には、事故状況に応じた過失割合が適用されることにより、自動車側の損害賠償義務は軽減されるということになります。

4.適切な過失割合にするためには

適切な過失割合にするためにやるべきこと

双方の過失割合に応じて損害賠償額は変わります。

実態に応じた過失割合が認められるためには、事故の状況についての証拠が必要になります。

証拠により正確な事故状況を保存できれば、事故の原因に応じた損害賠償額が認められることになります。

正確に事故状況を保存するには、以下の方法が有効です。

  • 事故現場や車両を撮影する
  • 事故の状況を細かくメモしておく
  • 警察官の氏名・相手方の氏名と連絡先をメモしておく
  • 目撃者へ証言をお願いする
  • 事故相手との話し合いを録音する
  • ドライブレコーダーの映像を確認してバックアップをしておく

運転手の責任が重くなる横断歩道上での事故でも、歩行者側に原因があるという証拠があれば歩行者の過失割合は加算されます。

事故の状況を正確に把握できるように、証拠の保存は必ず行いましょう。

不利益を被らないよう適切な過失割合を求めるなら、弁護士へ相談することをおすすめします。

事故状況ごとに適切とされる過失割合は異なるため、専門的な知識がないままにやみくもに相手に原因があると主張しても適切な過失割合を定められることにはなりません。

そのため、過失割合についての知識のある弁護士に交渉を任せることが、有益なのです。

また、当事者同士だと交渉が上手くいかなくても、弁護士を立てることでスムーズに進むことも珍しくありません。

「飛び出しによる交通事故なのだから歩行者に原因があるはずなのに過失割合がおかしいのではないか」と感じる場合は、弁護士に依頼することを検討してもよいでしょう。

まとめ

信号無視や飛び出しなどの歩行者に原因がある交通事故では、運転手の過失割合が軽くなる可能性があります。

歩行者の側も運転手の側も、事故の状況を正確に保存するようつとめ、適切な過失割合が認められるようにするのがよいでしょう。

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執筆者 野沢 大樹 弁護士

所属 栃木県弁護士会

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