実際に減収がなければ後遺症による逸失利益が争われる理由とは?

交通事故に遭って怪我をしてしまい、治療を続けたものの後遺障害が残ってしまった場合、少なくとも数年、後遺障害の重さによっては仕事ができなくなる年齢まで、仕事の効率が低下した状態が継続し、収入減が生じた状態が続く可能性があります。

賠償実務上、このような収入減については、後遺症による逸失利益として相手方への賠償が認められていますが、他方で、事故の相手方との示談交渉や裁判では、様々な事情によって、後遺障害が残っても、現実には減収が生じていないのではないか、と争われることもあります。

今回は、減収がないとして後遺症による逸失利益が争われる場合についてご説明します。

1.逸失利益が争われる理由について

後遺障害が残れば、その影響で事故に遭う以前のようには仕事ができなくなってしまうことが多いため、その影響で生じた減収分の賠償はされなければいけないというのは、いわば自然な考えといえるでしょう。

もっとも、交通事故の相手方へ請求することができるのは、あくまでも事故によって被害者が現実に被った、もしくはこれから被るであろう損害であり、現実に生じ得ない損害の賠償を請求することができないのも当然です。

そのため、相手方の立場からすれば、後遺障害の影響で減収が生じていないとも考えられる場合に、逸失利益を争ってくるのは仕方のないことかもしれません。

ただし、逸失利益は、将来的な減収が実際に見込まれるかどうかという可能性の問題であり、具体的な事情のもと、実際に減収が生じる可能性があることについてしっかりと主張や立証をしていくことができれば、裁判でも逸失利益がすべて否定されることはあまりないと思います。

2.どのような場合に減収がないとして争われるのか

(1)現実の収入がない場合

そもそも事故当時、失業するなどして仕事をしていないような場合は、後遺障害が残っても、仕事への影響というものがなく、減収が生じる余地がないので、その意味では逸失利益を考えにくい最たるものといえるかもしれません。

もっとも、事故当時は失業していたとしても、将来的には仕事に就いて 収入を得られる可能性があるのですから、その可能性を考慮せずに、逸失利益を一切否定するのは公平ではありません。

そのため、被害者に、労働能力及び労働意欲があり、かつ、今後就労する蓋然性があると認められる場合には、再就職によって得られるであろう収入を基礎として逸失利益が認められます。

この場合、特段の事情がない限り、失業前の収入が参考にされることになります。

なお、失業者とは違いますが、仕事をしておらず現実の収入がない専業主婦についても、家事労働が金銭的に評価されるので、一般的には逸失利益が認められます(家事労働の逸失利益自体の肯否が争われることはあまりありません。)。

(2)後遺症の性質上、労働能力の喪失が認められないと考え得る場合

一口に後遺症といっても、その内容や程度は様々であり、中には、一般的に仕事への影響がないと考えられているものもあります。

その典型例は、醜状障害(醜状痕が残ってしまった場合)や、歯牙欠損(歯がなくなる、もしくは大きく欠けてしまった場合)などです。

これらの後遺症は、その程度によって自賠責法上の後遺障害に当たり得るものですが、労働能力への影響が容易に考えられる痛みやしびれ、可動域制限などと異なり、労働能力の喪失は全くない、もしくはほとんどないのではないかと相手方から主張されることが多くあります。

しかし、これらの後遺症であっても、労働能力の喪失がまったくないと考えるのは早計であり、具体的な事情が考慮されて、労働能力の喪失が認められることも少なくありません。

たとえば醜状障害であれば、役者やモデルのような、人に見られる職業にとっては、顔に醜状痕が残っていることで仕事が減ってしまうことは容易に考えられます。

また、役者等の特殊な職業でなくとも、醜状痕の存在のために配置が転換される、職業選択の幅が狭められるなど、労働能力に直接的な影響を及ぼすおそれがあると認められる場合にも、一定割合の労働能力の喪失は肯定されるといえます。

直接的な労働能力の喪失が認められにくい場合であっても、対人関係等に消極的になるなどの形で、間接的に労働能力に影響を及ぼすおそれが認められる場合には、逸失利益ではなく、後遺障害慰謝料の加算事由として考慮されることもあります。

(3)現実の減収が生じない場合

公務員の方などは、制度上、収入額が定まっており、後遺障害が残り、仕事の効率に影響が出たとしても、事故前からの減収は生じません。

このような場合に、果たして逸失利益が認められるのか、労働能力の喪失はどの程度になるかが争われることが多いです。また、公務員以外であっても、実際に減収が生じていない場合については、同様に争いになることがあります。

確かに、1で述べたような損害賠償の考え方からすれば、現実に事故による減収がなければ、逸失利益は認められないとも考えられます。

この点については、最高裁昭和56年12月22日判決が、被害者に減収が生じていない事案で、「特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はない」としたうえで、「後遺症に起因する労働能力低下に基づく財産上の損害があるというためには、たとえば、事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであつて、かかる要因がなければ収入の減少を来たしていると認められる場合とか、労働能力喪失の程度が軽微であつても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合など、後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情の存在を必要とするというべきである」との判断を示して逸失利益を否定しました。

この最高裁判例の判断からすると、現実に減収が生じていない場合には、原則として逸失利益は認められないものの、「後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情」が認められる場合であれば、逸失利益は認められることになります。

そしてこの「特段の事情」の例として、減収が生じていない理由が、本人が、減収が生じないように特別の努力をしているためで、それがなければ減収が生じているはずである場合や、被害者の職業の性質に照らして、昇給や昇任、転職等に際して不利益な取扱いを受けるおそれがある場合を挙げています。

このように、現実に減収が生じていない場合に逸失利益が認められるか否かは、上記のような「特段の事情」の存在を立証できるかどうかがポイントになります。

とはいえ、被害者に減収がない場合で、逸失利益をまったく否定した裁判例は比較的少なく、逸失利益の存在自体は認めたうえで、減収がない場合の労働能力の喪失の程度を、後遺障害等級ごとの目安とされる労働能力喪失率の基準と同じと考えてよいのか、という点で判断が分かれている傾向にあります。

実際の裁判では、労働能力喪失率の認定に当たって、

①昇進・昇給等においてどのような不利益を受けるおそれがあるか
②後遺症によって業務にどのような支障が出ているか
③事故以前のように働けないことで退職や転職をしなければいけない可能性はあるか
④勤務先の規模・存続可能性等
⑤減収が生じないようにするために、本人がどのような努力を行っているか
⑥勤務先がどのような配慮をしてくれているか

などの事情が考慮されています。

そのため、適正な労働能力喪失率、ひいては逸失利益が認定されるためには、これらの事情をいかに具体的に主張立証できるかが重要です。

以上のように、たとえ実際に減収が生じていない場合であっても、なぜ減収が生じていないのか、その事情をしっかりと主張立証することで逸失利益が認められる可能性は十分にありますので、まずは当事務所までご相談いただければと思います。

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