被害者が死亡した場合の逸失利益はどうなる?算定方法を解説!

逸失利益とは、不法行為(交通事故)がなければ被害者が得ていたであろう経済的利益を失ったことによる損害をいいます。

交通事故に遭ったことにより発生した治療費や通院交通費が積極損害と言われるのに対し、逸失利益は交通事故がなければ得ていたはずの利益を得ることができなかったものとして消極損害と言います。

実際に発生したものとして金額が明確となる積極損害は、金額が明確になるので算定は容易ですが、消極損害である逸失利益はどのように算定するのでしょうか。

特に、被害者が死亡してしまった場合、将来得ていたであろう経済的利益をどのように算定するのでしょうか。

算定方式は以下のとおりになります。

算定方式

基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

生活費控除率やライプニッツ係数など、あまり聞きなれない言葉があると思いますが、1つずつ説明いたします。

(1)基礎収入額

逸失利益の算定の基礎となる収入額ですが、以下のように、被害者の立場によって算定方法が変わります。

#1:給与所得者の場合

原則として事故前の収入を基礎として算出しますが、現実の収入が賃金センサスの平均額 以下の場合、平均賃金が得られる蓋然性があればそれが認められます。

※賃金センサスとは、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」というものをもとに作成されたもので、年齢、性別、学歴で統計上の平均賃金を出しているものです。

→基本的には死亡直前1年間の収入を基礎とし、源泉徴収票や給与明細書などで立証することとなります。

ただし、若年労働者(概ね30歳未満)の場合には、学生との均衡の点もあり全年齢平均の賃金センサスを用います。

なお、平成27年における全年齢平均金額は、男性の場合は547万7000円、女性の場合は372万7100円となっています。

#2:事業所得者の場合

基本的には、申告所得を参考にしますが、申告額と収入額が異なる場合、収入額を立証することができれば実際の収入額を基礎とします。

また、家族で店を経営しているなど、家族の労働などの総体のうえで形成されている場合には、所得に対する本人の寄与部分の割合によって算定します。

そして、現実収入が平均賃金以下の場合、平均賃金が得られる蓋然性があれば、男女別の賃金センサスを用います。

#3:会社役員の場合

会社役員は労務の対価として報酬を得ていない場合もあり、その部分については基礎収入として認められにくいです。

役員報酬の全部又は一部が、労務提供の対価として認められると立証することができれば、基礎収入に含めることができます。

#4:家事従事者の場合

家事従事者の場合は、賃金センサスの女性学歴計全年齢平均の賃金額を基礎とします。

家事従事者が兼業主婦で給与所得もある場合には、実収入が平均賃金以上のときには実収入で算定し、平均賃金より下回るときは平均賃金により算定されます。

→すなわち、給料か平均賃金かいずれか高いほうで計算されることになります。

#5:無職者の場合(学生・生徒・幼児・高齢者)

基本的には賃金センサスの全労働者の全年齢平均の賃金額を基礎とします。

高齢者にあっては、就労の蓋然性があれば全年齢平均賃金額を基礎とします。

#6:失業者の場合

労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性がある場合は認められます。

そのときの基礎収入は、再就職によって得られるであろう収入ですが、①基本的には失業前の収入を参考とし、②失業以前の収入が平均賃金以下の場合には平均賃金が得られる蓋然性があるときに男女別の賃金センサスで算定します。

(2)生活費控除率

被害者が死亡した場合、収入がなくなってしまいますが、他方で被害者が生存していれば生じていた経費(生活費)が発生しなくなります。

逸失利益の算定にあたっては、判例上、生活費を控除する取扱いとなっています。

そして、生活費控除は、当該被害者の家族関係、性別、年齢などに照らし、以下のとおり、逸失利益全体に対して一定の割合を控除する方式がとられています

一家の支柱の場合 ①被扶養者1人の場合…40%
②被扶養者2人の場合…30%
一家の支柱以外の場合 ①男性の場合(独身・幼児を含む)…50%
②女性の場合(主婦・独身・幼児を含む)…30%
※女性の生活費控除率が男性のそれに比べて低いのは、女子の生活費が現実に少ないからではなく、女性の平均給与が男性と比較して低いために、同率で控除すると男女間格差が大きくなりすぎるからであると言われています(福岡地裁平成6年4月18日参照)。
年金受給者の場合 50%~70%
年金収入を逸失利益とする場合には、年金生活者の年金収入に占める生活費の割合は高まるのが一般的であることから、生活費控除率は引き上げられることが多いです。

(3)就労可能年数

就労可能年数とは、文字通りではありますが、被害者が生存していれば働くことができていた期間をいいます。

原則としては、67歳までとされています。

もっとも、死亡時から67歳までの年数が、簡易生命表にから求められた平均余命の2分の1以下となる場合には、平均余命の2分の1の期間が就労可能年数とされます。
※簡易生命表とは、年齢ごとの死亡率や平均余命を計算、指標化した表で、厚生労働省が毎年発表しているものです。

→たとえば、60歳の男性が、平成27年に交通事故により死亡した場合で考えると、60歳男性の平均余命は平成27年の簡易生命表によれば23.55歳であり、その2分の1は11.775歳です。

60歳から67歳までの7年間のほうが短いことから、この場合の就労可能年数は、11.775年となります。

また、未就労者の就労の始期は原則として18歳とされますが、大学卒業を前提とする場合には大学卒業予定時を就労の始期とされます。

(4)ライプニッツ係数(中間利息控除)

ライプニッツ係数とは、賠償金を前倒しで受け取る際に控除する指数をいいます。

すなわち、逸失利益の場合、将来発生していたであろう経済的利益が失われた分を、前倒しで受け取ることになるため、将来付いていたはずの利息をあらかじめ控除するということです。

以前は「ホフマン方式」という計算方法も採られていましたが、平成12年1月より年利5%の「ライプニッツ方式」に統一されています。
※なお、2020年には民法が改正され、法定利率が5%から3%に変わります(ただし3年毎に市場動向に応じて変動あり)。

これによって、法定利率5%のときよりライプニッツ係数が低くなることから、逸失利益は増加することになります。

もっとも、法定利率3%が適用されるのは、改正民法が施行されてからですので、施行後に発生した交通事故事件にのみ法定利率3%で算定されたライプニッツ係数が適用されると思われます。

目次

まとめ

以上のような計算方式をもって、死亡による逸失利益を算定することになりますが、簡単に算定できるものではありません。

被害者にも様々な方がいらっしゃいます。

職業や家族関係、就労状況などいろいろな事情により逸失利益は計算されます。

特に死亡事故の場合、逸失利益がどうとか計算方法がどうとか考えられる状況になく、保険会社からの提案が本当に正しいものなのか、はっきりとわからないこともあると思います。

適切な賠償額を請求するためにも、死亡による逸失利益でお悩みであれば、是非当事務所にご相談ください。

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