交通事故によらずに死亡した被害者の逸失利益等は認められるか?裁判例を基に解説

交通事故が原因で被害者が亡くなった場合、被害者(正確に言えば、被害者の相続人)は、死亡による損害の賠償を相手方に求めることができます。

これに対して、交通事故とは無関係の原因で被害者が死亡した場合、たとえばガンなどの事故に直接関係がない病気による死亡や、他の交通事故での死亡などについて、被害者に後遺障害が残ったものの、その賠償を受ける前に死亡した場合、被害者の相続人は後遺症による逸失利益や将来の介護費用などの賠償を受けることができるのか否かが問題となります。

なぜなら、後遺症による逸失利益は、被害者が将来得られるべき利益が得られなくなったことに対する補償であるからです。

また、将来の介護費用は、被害者に後遺障害が残ったことで必要になる費用であるため、被害者が死亡してしまった場合、死亡時点以降は逸失利益や介護費用は発生しないとも考えられるからです。

1.後遺症による逸失利益は認められるのか

後遺症による逸失利益については、2つの最高裁判例が、被害者が交通事故とは無関係に死亡したという事情を逸失利益の算定に当たっては考慮すべきでないとの判断をしています。

(1) 最高裁平成8年4月25日判決

この最高裁判決の事案は、交通事故で脳挫傷等の障害を負った被害者が、知能低下や左腓骨神経麻痺、複視などの後遺障害が残存します。

症状固定と診断された後、その数日後に、心臓麻痺で亡くなってしまったというものでした。

同判決は、逸失利益の算定に当たっては、交通事故後に被害者が死亡したとしても、事故の時点で、その死亡の原因が具体的に存在し、近い将来、被害者の死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、被害者の死亡の事実は労働能力喪失期間を認定するうえで考慮すべきものではないと判示しました。

実務上、後遺症による逸失利益も含め、交通事故による損害は、事故発生時に発生するものと観念されています。

そのため、すでに発生した損害が、その後の事情によって変わってしまうのとするのは、そのような考え方に反します。

また、偶然の事情で加害者が得をし、被害者側が損をするのでは、あまりにも不公平な結果となります。

同判決は、このような理由から、事故の時点で被害者がまもなく亡くなることが明らかに予測されるような場合でない限り、逸失利益の算定に当たってその後の死亡の事実を考慮すべきでないと判断したものです。

(2)最高裁平成8年5月31日判決

同判決の事案は、第1の交通事故で左膝開放骨折や、右第五中手骨骨折の傷害を負い、左膝痛、右第五中手骨変形等の後遺障害を残して症状固定した被害者が、症状固定日から約3か月後に、第2の事故に遭い死亡したというものです。

この判決でも、(1)の最高裁判決と同様に、特段の事情がない限り、死亡の事実は労働能力喪失期間の算定上考慮すべきものではないということが判示されています。

また、この判決は、第2の事故の加害者が負担すべき賠償額は、第1の交通事故に基づく後遺障害により低下した被害者の労働能力を前提として算定されるので、第1の事故の後遺症による逸失利益の算定において死亡の事実を考慮しないことによって初めて、被害者とその遺族が、前後2つの交通事故により被害者の被った全損害についての賠償を受けることが可能となることを、理由の1つとして挙げています。

被害者が死亡した場合、生活費控除という問題も生じます。

死亡事故の場合は、被害者が得られるはずの利益が失われると同時に、もし生きていれば支出するはずだった生活費もかからなくなるので、損害賠償額から生活費を差し引かないと、もらいすぎになるため、この生活費控除が行われるのです。

もっとも、同判決は、交通事故と死亡との間の相当因果関係が認められない場合については、生活費控除は認められないとの判断をしました。

法律実務上、生活費控除のような、損害を受けた反面、利益も得たというような場合に、損害賠償額から得られた利益を差し引くことを損益相殺といいますが、この損益相殺は、損害と利益が同一の原因によって生じたことが必要となります。

しかし、被害者が交通事故と無関係に死亡したという場合、生活費の支出を必要としなくなったことは、後遺症による逸失利益損害の原因(交通事故)と同一原因により生じたものということができないため、原則として生活費控除は認められないというのが同判決の理由です。

2.被害者が死亡した際の将来の介護費用は認められるのか

  • 最高裁平成11年12月20日判決

脳挫傷等の傷害を負った被害者が、四肢麻痺等によって寝たきりとなったために、第1級の後遺障害を残して症状固定となった後、約2年10か月後に胃がんで死亡したという事案です。

同判決は、後遺障害の逸失利益に関する2の最高裁判決の考え方を維持しつつも、介護費用の賠償については、逸失利益の賠償とは別個の考慮を必要とするとしました。

そのうえで、介護費用の賠償は、被害者が現実に支出すべき介護費用を補填するものであるが、被害者が死亡すれば、その時点以降の介護は不要となるから、もはや介護費用の賠償を認める理由はなく、その費用をなお加害者に負担させることは、被害者やその遺族に根拠のない利得を与えるという不公平な結果になるとして、被害者の死亡時点以降の介護費用の賠償を認めませんでした。

3.将来の介護費用の支払い方法について

将来の介護費用の支払方式については、一括で賠償金の支払を受ける一時金賠償方式と、ある一定の時期ごとに賠償金の支払を受ける形の定期金賠償方式の2通りがあります。

しかし、一時金賠償方式で将来の介護費用を受け取ってしまえば、その後すぐに被害者が事故と無関係で死亡したとしても、返還を要求されるということは基本的にありません。

そのため、被害者の死亡した時期が早いか遅いかによって、死亡後の将来の介護費用も得られるか否かの結論が変わるのは不公平にも思えます。

しかし、もはや介護が不要になった場合にまで、事故の時点で介護費用も含めて損害が発生したものとすることは相当ではありません。

また、被害者が一定の時点に死亡した場合とその後に死亡した場合とで賠償すべき損害額が異なることはある程度致し方ないと考えられます。

同判決も、このような考え方のもと、将来の介護費用の請求の可否が死亡時期によって変わるのはやむを得ないとの立場を取っています。

交通事故による損害賠償請求の可否については、実務において様々な考え方に基づいて判断されることになるため、一般人の方が対応するには限界があります。

まずは当事務所までご相談いただければと思います。

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