むちうちで3か月通院したときに請求できる慰謝料とは?

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

「保険会社からの治療費の支払いが打ち切られてしまった」
「3か月病院に通ったけど賠償金はいくらになるの」
「むちうちの場合は慰謝料はどれくらいになるのか」

交通事故に遭われた後、いつまで病院に行けばいいのだろう、慰謝料はいくらもらえるのだろうと、ご不安になりながらご通院を継続される方が多いのではないでしょうか。

本記事では、交通事故にあった場合の慰謝料の計算方法や、むちうちの治療の注意点をご説明します。

この記事を読んで、交通事故において適正な慰謝料を受け取るためのご参考になさってください。

1.むちうちで3か月通院した際の慰謝料の相場

交通事故によって怪我をした場合、慰謝料を請求することができます。

慰謝料の金額は、症状の程度や病院に通った日数、入院した日数により異なるものの、算定方法は、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判所基準)の3通りに分けられます。

(1)自賠責保険基準

まず、自賠責保険基準とは、強制加入の自賠責保険による基準で、法律によって定められている最低限のものです。そのため、3通りの基準の中で最も低い基準になります。

自賠責保険基準では、1日あたりの通院慰謝料を4300円として計算します(令和2年3月31日までに発生した事故は4200円)。

また、慰謝料の算定のための通院日数は、通院期間と実際に病院に行った実通院日数の2倍のうち少ない方の日数になります。

たとえば、通院期間90日、実通院日数30日の場合で考えると、計算方法は下記になります。

×90日×4300円=38万7000円

〇30日×2×4300円=25万8000円

実通院日数の2倍<通院期間になるので、通院期間60日として、25万8000円が自賠責保険での慰謝料と計算されます。

(2)任意保険基準

次に、任意保険基準は、加害者側の任意保険会社が慰謝料算定に用いる基準で、公表されていません。

保険会社によって基準が異なります。

多くの場合に自賠責基準を下回らない程度かつ弁護士基準より低くなる金額になっております。

(3)弁護士基準(裁判基準)

最後に、弁護士基準は、裁判所基準ともいわれ、過去の裁判例がもとになっている基準になります。今まで説明した3通りの慰謝料算定基準の中で、最も高い基準になります。

弁護士基準の中でも、怪我の内容に応じて、別表Ⅰと別表Ⅱの2種類を使い分けることになります。

原則は別表Ⅰを用いますが、むちうちで他覚所見が無い等の場合は別表Ⅱを用います。

下記の図を参考に実際にむちうちで3か月通院した場合の慰謝料を考えましょう。

本件では、他覚的所見等がないむち打ちの場合を想定して、別表Ⅱを用いて慰謝料を計算します。

入院の場合は横軸、通院の場合は縦軸で、それぞれ対応する枠内に書かれた数字が慰謝料(万円単位)ですので、縦軸3か月の53万円となります。

(別表Ⅱ)

もっとも、通院期間に対して実際に病院に通った通院日数があまりにも少ない場合には、上記通院期間の計算がそぐわないとして減額される可能性があります。

たとえば、通院期間は90日だが、実際の通院日数が15日のような場合が想定されます。

このようなケースでは、例外的に実通院日数の3倍、本件で言うと45日を通院期間として計算することも考えられます。

2.交通事故によるむちうち治療の注意点

(1)主治医と適切な通院頻度を相談する

交通事故で適切な賠償を受けるためには、医師の指導にもとづいて定期的に病院に通う必要があります。

通院時のポイントは以下のような点があります。

#1:最低でも1か月に1回以上は病院に通う

むちうちで通院したことを相手方に慰謝料という形で請求するためには、1か月に1回は通院しておく必要があります。

なぜかというと、交通事故とむちうちの発生が原因と結果の関係にある必要があるからです。

もし1か月以上通院期間が空いてしまうと、その症状が交通事故の影響によるものなのか判別がつかなくなってしまいます。

そのため、痛みが生じている中でお仕事を優先して長期間通院を控えるということは良くありません。

ここではおけがの治療を優先し、きちんと、少なくとも1か月に1回は通院する必要があります。

#2:通院回数はある程度の回数が必要

交通事故による受傷で被害者が負った痛みは第三者からはわかるものではありません。

被害者の痛みを客観的に示すものとして、病院に通った日数、頻度があげられます。

通院日数が極端に少ないと怪我自体が重くないとみられてしまう可能性があります。

そうならないためには、症状が出ているのに不必要に通院を我慢することはしないで、きちんと通院しておくことが大切になってきます。

#3:沢山通院すればいいのか?

一方で、毎日のように高い頻度で通院すればいいのかというと、そうではありません。

相手保険会社は自賠責から被害者の方に支払った金額の補填を受けられる範囲内を目安に治療費等の対応をすることが少なくありません。

自賠責保険は治療費や慰謝料等すべて含めて120万円が上限に相手方保険会社に補填をするため、高頻度の通院で治療費が高額になるとその上限に達してしまい、治療費の支払い対応を早く打ち切られてしまう可能性がでてきます。

このように、通院は必要であるけれども、その頻度は極端に少なくても多くてもいけません。

弁護士としては、お怪我に応じた適切な慰謝料の支払いを受けるという観点から言うと、医師がお怪我の状況から必要と判断するという前提で、月に10~15回くらいの回数を目安に通院することが望ましいと考えています。

主治医の方と相談しながら適切な通院頻度で通院しましょう。

(2)後遺障害等級が認定される場合がある

交通事故による受傷で一定期間治療を継続しても症状が完治しない場合、後遺障害と認定される可能性があります。

むちうちの場合、交通事故から6か月程度通院しても痛みやシビレが残っている場合は、後遺障害等級認定の申請を行う必要がでてきます。

後遺障害等級を受けると、認定を受けた後遺障害の等級に応じて慰謝料や逸失利益等の賠償を相手方に対して求めることができるようになります。

#1:むちうちで後遺障害が認定される可能性がある等級は12級と14級

自賠法施行令によると、むちうちによって残存した症状が以下に該当する場合は、後遺障害等級が認定されます。

第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの

第14級9号  局部に神経症状を残すもの

#2:むちうちによる後遺障害の判断基準

後遺障害等級12級の「局部に頑固な神経症状を残すもの」や14級の「局部に神経症状を残すもの」という表現だと、具体的にどういう症状が後遺障害にあたるのかピンとこない方は多いと思います。

具体的には、以下のような自覚症状・検査結果の方が後遺障害にあたる可能性があります。

まず、代表的な症状に、手足のシビレ、眩暈、頭痛、肩こり等が挙げられます。

このような症状は本人の訴えに基づくものなので、医学的に整合性のある画像所見や神経学的検査の結果によって受傷との因果関係を示す必要があります。

画像検査とは、レントゲンやMRIの撮影になります。

特にむちうちを原因とする手足のシビレの症状は、頚椎や腰椎の椎間板に障害がでている場合が多いので、MRI撮影は有効とされています。

MRI検査の結果、椎間孔の狭窄や椎間板の膨張が見られると、後遺障害等級の認定がされる可能性が高くなります。

また、画像検査以外の方法で病変を探る検査に神経学的検査というものがあります。

具体的には、頭部を後屈して圧迫を加えるジャクソンテスト、頭部を傾斜・後屈して圧力を加えるスパークリングテスト、筋力の程度を調べる徒手筋力検査などです。

この検査で陽性の判断がでると、自覚症状が医学的なものであると主張することができるようになります。

そして、自覚症状、画像、神経学的検査といった情報は、それぞれが総合的に判断されます。

たとえば、自覚症状に手足のシビレと眩暈が感じられ通院頻度も高いが神経学的所見が陰性の場合、14級が認定される可能性があります。

これに対して、画像所見や神経学的検査が全くない場合には、非該当の可能性が高くなります。

以上のように、むちうちで後遺障害等級に該当するのかの判断においては、通院期間や通院頻度に加え、本人の自覚症状と医学的に整合性があるのかという点が総合的に判断されます。

#3:12級と14級の違い

12級と14級の違いは、本人が感じている症状が説明可能なのか、それとも証明できるのかという違いです。

被害者の自覚症状が事故を原因とするものであることが「医学的に証明できる」場合は12級に該当し、自覚症状が事故の態様などから「説明できる」範囲に留まる場合は14級が該当します。

3.むちうち治療の打ち切りを打診されたら

(1)独断で通院を中止しない

相手保険会社から治療費支払いの打ち切りの連絡がきたので、治療を終了しなければいけないのかと不安に思い、独断で通院を中止してしまう方もいらっしゃいます。

しかし、治療費支払い対応の打ち切りは、相手保険会社が治療費の立替支払いの対応をしないというだけなので、打ち切り後も痛みが残存している場合には治療を継続することは可能です。

この場合には健康保険や労災保険を利用することで、負担を軽減することができます。

また、自身でお支払いした治療費は、治療終了後に相手保険会社に求めていくことになります。

そのため、病院から発行される領収書や明細書は大切に保管することをお勧めします。

あくまで治療の必要性は、本人の訴えに基づいて主治医が判断するものです。

痛みが残存する場合には、主治医に自覚症状を正確に伝え、主治医の指示にしたがった治療を継続しましょう。

(2)弁護士へ相談

弁護士へご相談・ご依頼いただくと、下記のようなメリットが考えられます。

#1:通院に専念することができる

交通事故に遭うと保険会社から書類作成の協力、通院状況の確認等さまざまなご連絡がきます。

日中お仕事をされている方も多く通院と並行しながら、慣れない事故対応をすべてご自身で行うのはとても大変だと思います。

また、そのような状況では通院に専念することは難しくなってしまいます。

その点、弁護士にご依頼いただくと、保険会社や関係各所とのやり取りはすべて弁護士が行いますので、ご本人の負担が軽減できます。

加えて、症状や治療経過を弁護士が把握しているため、打ち切りを打診された場合でもスムーズに対応することが可能です。

#2:適正な慰謝料で示談することができる

弁護士は相手保険会社に弁護士基準を用いて慰謝料を請求します。

もっとも、弁護士基準は裁判を前提にしている基準なので、被害者本人が相手保険会社に弁護士基準で慰謝料の交渉をしても、応じてくれる保険会社はほぼありません。

むしろ、保険会社は、弁護士基準より低く個人の事情を考慮しない一律なものである任意保険基準で提示してくることが多いです。

示談は、これ以上損害賠償請求をしないことを約束するものです。

そのため、示談が成立してしまうと、仮に示談後に交通事故による症状が発現したとしても、追加で損害賠償を請求することができません。

保険会社から提示された金額が適正なのか疑問を感じた方、弁護士基準で示談をしたいと考えている方は、一度弁護士にご相談することをお勧めします。

まとめ

本記事では、交通事故によるむちうちのために3か月通院した場合の慰謝料の相場やむちうち治療の注意点をご紹介しました。

むちうちは骨折に比べたら軽い怪我だし、弁護士に相談するなんて大げさと考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、前述したようにむちうちの場合の通院や示談交渉にはさまざまな注意点があります。

治癒に向けて十分な治療や通院をして適正な慰謝料で示談するためにも、ぜひ弁護士にご相談ください。

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執筆者 花吉 直幸 弁護士

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