財産分与について⑥ ~債務編~
1.財産分与に債務は含まれるのか
財産分与という言葉ですぐに想像されるのは、居住している不動産や預貯金などのプラスの財産をいかに分けるかという点だと思います。
しかし、財産というものには、プラスの財産の他に、マイナスの財産すなわち債務(借金)もあります。
財産分与の際には、債務は分け合うことになるのでしょうか。
この点、かつては「債務は財産分与の対象にはならない」と考えられていました。
夫または妻が自分の名前で借りた借金を、他方の配偶者が負担しなければならないというのはおかしいとされていたのです。
財産分与はあくまで「夫婦が協力して得た財産」を分け合うものであるのだから、借金についてはこれに該当しないという考え方です。
しかし、夫婦が共同生活の中で得た財産が分与の対象になるのであれば、同じように夫婦が共同生活をする中で負った借金も分け合うと考えた方が公平です。
そのため、最近の実務では、夫婦が共同して負ったといえる債務についても、財産分与の対象に含まれ得ると扱われています。
2.財産分与の対象となる債務とは
債務が財産分与の対象に含まれ得ることは上記のとおりですが、では含まれるものと含まれないものの区別はどのようにつけるのでしょうか。
これは、①債務の発生時期と②債務の発生原因の二つの観点から決定されます。
①債務の発生時期 不動産や預貯金も、結婚前から持っていたものは財産分与の対象にならないことは以前にも説明しました。
債務についても、同じように、結婚前から負っていた借金は、原則として財産分与の対象には含まれません。
②債務の発生原因 債務の発生原因、つまり借金を負った理由や、借り入れたお金の使い道はさまざまです。
したがって、債務の発生時期が結婚後であっても、債務の発生した原因によっては、財産分与の対象に含まれないことになります。
(1)個人的な債務は、含まれない
財産分与の対象はあくまで、夫婦が共同して作出した財産であることが前提です。
したがって、夫婦の共同生活に関係のない個人的な債務は、財産分与の対象には含まれません。
たとえば、ギャンブルや遊興費のための借金、個人的に楽しんでいる趣味のための借金、相続によって負った債務などは、夫婦の共同生活には関係しないため、財産分与の対象にはなりません。
(2)日常家事債務は、当然に含まれる
耳慣れない言葉だと思いますが、「日常家事債務」とは法律上の言葉です。
夫婦が共同生活をするにあたって通常必要とされる一切の事項を意味し、具体的に何が該当するかは、夫婦の職業や地位、収入や資産、慣習などによって異なります。
例を挙げれば、生活必需品の購入、電気・ガス・水道の供給契約、住居の賃貸契約、家族の医療費、適当な範囲の娯楽などは、一般的に日常家事債務に該当すると考えられます。
日常家事債務に該当する場合、夫婦は支払いについて連帯して責任を負うことになるため、離婚をしたとしても、債務についての責任は継続することになります。
そのため、財産分与の対象となります。
(3)共同生活のために発生した債務は、含まれる
日常家事債務とはいえないが、夫婦や家族が共同生活を営む上で発生する債務はどうでしょうか。
たとえば、収入からすれば少し高額な子どもの塾の受講費用や家族旅行費用、生活費が足りない際のまとまった金額の借り入れなどは、日常家事債務に該当しない可能性があります。
しかし、夫婦が共同して作出した財産を分け合うのが財産分与であることからすれば、このような債務についても、分与の対象とするのが公平です。
したがって、これらの債務も、財産分与の対象となります。
(4)資産形成のための債務は、場合によって含まれる
結婚後に、資産形成をするために債務を負う場合があります。
たとえば、株式投資やFX取引などを行うために借り入れをし、これが失敗した場合にはどうなるでしょうか。
基本的には、夫婦一方が自身の意思だけで行った場合、個人的な借り入れと同様、財産分与の対象には含まれません。
しかし、夫婦の共有財産を形成するために負った債務の場合には異なります。
わかりやすい例で言えば、家を購入する際の住宅ローンです。
これは、夫婦で共同して居住するためのものなので、仮に家が夫婦どちらかの名義であっても、ローンは財産分与の対象となります。
3.財産分与でどのように評価するのか
さて、財産分与の対象にプラスの財産である資産とマイナスの財産である債務が混在する場合に、どのような方法で財産分与をすればよいでしょうか。
(1)資産の総額が債務の総額よりも大きい場合
資産の総額と債務の総額を比べて、資産の総額のほうが大きい場合には、その差額を2分の1ずつの割合で分けるように調整することが一般的です。
たとえば、夫婦の資産と債務が
マンション 1200万円
預金 200万円
自動車 100万円
住宅ローン 1000万円
というような状況だった場合、
資産=1200万円+200万円+100万円=1500万円
負債=1000万円
差額=1500万円-1000万円=500万円
となります。
したがって、500万円の半額である250万円ずつを分け合うこととなります。
(2)資産の総額が債務の総額よりも小さい場合
資産の総額と債務の総額と比べて、資産の総額のほうが小さい場合には、取り扱いが難しくなります。
たとえば、
マンション 500万円
預金 100万円
住宅ローン 1000万円
というような状況だった場合、
資産=500万円+100万円=600万円
負債=1000万円
差額=600万円-1000万円=-400万円
となります。
これを上記①と同様に考えれば、夫婦が双方で200万円ずつ負担をすることになりますが、現在の実務ではそのような取り扱いはほとんどされていません。
これは、財産分与という手続きは夫婦間の問題であり、借金の貸主である第三者には効力を及ばせることができないため、「200万円ずつ借金を負担する」という解決を行うことが事実上できないことが理由のひとつです。
また、そもそも、財産分与はプラスの財産を分け合うというのが出発点であるため、プラスの財産がゼロとなった場合に、債務を分割するということが馴染まないという意見もあります。
そのため、債務の方が大きくなった場合には、プラスの財産の分け方を考える際に考慮するという程度に扱われることが一般的です。
上の例で言えば、たとえば
・夫が住宅ローンをそのまま負担するので、それ以外の資産もすべて夫が取得する
・夫がマンションを取得し住宅ローンを負担するので、預金だけ50万円ずつ分け合う
などの分与方法が考えられます。
まとめ
以上のとおり、財産分与を考える上では、プラスの財産である資産だけでなく、マイナスの財産である債務の取り扱いが重要となります。
特に、住宅ローンや学資ローンなどは、日常生活の中ではかなり大きな金額を長期分割で借り入れていることが多く、プラスの財産以上の金額の借り入れもありえます。
債務の負担をどうするかについて、きちんと意識して財産分与を行わないと、大きく不利益をこうむってしまう可能性もあります。
財産分与で迷うことがありましたら、ぜひ一度専門家である弁護士にご相談ください。
最も適切な分与方法を、一緒に考えましょう。
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