財産分与について⑦ ~財産分与の割合~

1.原則は「2分の1ルール」

財産分与とは、夫婦が共同で形成したさまざまな財産を分け合うことです。

その際、当然「いくらずつ分け合うか」という点が問題となります。

夫婦の収入が完全に同額であるような場合以外は、夫婦がそれぞれの名義で得た財産の量には差が生じます。

では、例えば、夫の年収が400万円、妻が兼業主婦として200万円である場合、財産分与で夫は妻よりも2倍の財産を得ることができるのでしょうか。

さらにいえば、夫の年収が400万円で、妻が専業主婦をしていた場合には、妻は財産分与を得られないのでしょうか。

これらは、いずれも誤っています。

夫婦が共同生活を営んでいる中で得た財産は、名義にかかわらず、原則として他方配偶者の協力(寄与)があると考えられます。

上記の例で言えば、夫は、妻が兼業主婦または専業主婦として家事や育児を行っていてくれるからこそ、その収入を得られたと考えられるのです。

以前は、専業主婦は、収入に対する貢献は3分の1程度である、とされていたこともありましたが、現在では基本的に収入に対する貢献度は半分ずつであるとされています。

したがって、財産分与を考える上では、現在の実務では原則として分与割合は2分の1とされています。

これを俗に「2分の1ルール」と呼びます。

したがって、財産分与は、分与の対象となる財産の総額を、原則として半分ずつ夫婦で分け合うことになります。

2.「2分の1ルール」が修正されるとき

上記で、財産分与の割合は「2分の1ルール」が原則だと説明しました。

しかし、原則があれば当然例外もあります。

「2分の1ルール」を適用しては、かえって不公平や不均衡が生じるような、特段の事情がある場合には、修正されることもあります。

つまり、財産分与の対象となる共有財産の形成に対して、一方に「特に大きな寄与・貢献がある」場合には、そちらに割合を大きく修正するのが公平といえます。

たとえば、下記のような事情がある場合には、修正をすべきか検討されることになります。

(1)夫婦の一方の特殊な才能によって資産形成がなされた場合

夫婦の一方の収入がどれだけ多くとも、基本的には2分の1ずつ分与します。

収入を得るための共同生活のなかで、お互いが半分ずつ寄与していると考えられるからです。

しかし、夫婦の一方の特別な努力や才能のおかげで、通常よりも相当高額の資産形成がかなったとすると、機械的に「2分の1」とするのは、やはり不公平感があります。

例えば、医師として診療所を経営していた夫が、婚姻後診療所を医療法人に拡大し、同法人経営により巨額の資産を形成した場合に、夫の経営手腕によるところが大きいと判断されれば、夫の方に大きな割合が分与されるということもあり得ます。

(2)資産形成に特有財産が寄与している場合

特有財産とは、夫婦が共同で得た財産以外のものを指し、財産分与の対象外です。

例えば、結婚前から持っていた預貯金、共同生活と無関係に得た相続財産や近親者からの贈与などがこれに当たります。

この特有財産が、結婚生活の中で共有財産に姿を変えていくことは珍しくありません。

例えば、住宅ローンの頭金に夫婦一方の親から援助をもらったり、自動車を購入する際に婚姻前からの預金を下ろしたりすることがあります。

親からの援助や、婚姻前から持っていた預金は特有財産ですが、これを用いて購入した物は夫婦の共有財産となります。

このような場合には、特有財産を支出している分、資産形成に対する寄与度が高いとして、分与の割合が大きくなることがあります。

(3)夫婦の一方に大きな浪費がある場合

財産分与は、夫婦どちらの名義かは関係なく、結婚後に夫婦が共同して得た財産が対象になります。

したがって、夫名義の預貯金と妻名義の預貯金の合計を分け合う形になります。

しかし、例えば、夫婦が共働きでそれほど収入に差がないにもかかわらず、夫名義の預貯金がほとんどなく、妻名義の預貯金が高額であった場合には、妻は自身の預貯金の大半を夫に渡すことになります。

夫名義の預貯金が少ない理由が、もっぱら夫が婚姻費用を支払っていたり、夫の預貯金を使って共同資産を形成しているなどであれば問題はありません。

しかし、夫名義の預貯金が少ない理由が、夫が浪費をしていたせいであれば、倹約に努めた妻の預貯金の半分が財産分与で分け与えられてしまうのは不公平だとも考えられます。

したがって、このような場合には、浪費をした側の分与割合を小さく修正することが考えられます。

(4)同居・協力しての資産形成がない期間がある場合

財産分与がなされる根拠は、その財産が夫婦で同居・協力しながら形成してきたことにあります。

そうすると、婚姻期間中に、同居をしていなかったり、協力を得られなかったりする場合には、分与の前提が覆ってしまいます。

例えば、夫婦共働きで稼動していたところ、突然妻が仕事を辞め、海外留学へ旅立ってしまったような場合、その留学期間は夫が一人で共有財産を形成していることになります。

すると、その期間は同居・協力しての資産形成がないことになります。

婚姻期間全体から見て、ごく短期間であれば、不公平感も少ないですが、例えば婚姻期間5年のうち2年もそのような状況だったとしたら、公平性がないとも考えられます。

このような場合には、財産分与の割合を修正し、公平な解決をめざすことになります。

上記の事情はあくまで例示なので、ほかにも特段の事情が認められる場合はあり得ます。

大切なのは、具体的にどのような寄与・貢献によって財産分与の対象となる資産が形成されたかという点を詳細に検討することです。

3.修正はどのようにされるのか

では、特段の事情があると認められた場合、2分の1からそれぞれどれだけ修正されることになるでしょうか。

この点は、協議離婚など、話合いで合意ができるのであれば、合意で定められた割合となります。

しかし、特段の事情の有無をめぐっては、意見が対立してしまうことも多く、最終的には裁判官が判断を示すことになります。

裁判官が修正を検討する場合、家庭生活における夫婦双方の具体的な行為を、相対的に評価することとされています。

したがって、双方がそれぞれどのように収入を得ていたのか、家事や育児の分担はどうなっているのか、などの事情を裁判官にわかりやすく説明することが必要になります。

そのような事実を総合考慮して、裁判官は裁量に基づいて割合を決定するのです。

まとめ

上記のとおり、現在の実務では「2分の1ルール」によって、原則としては分与の対象となる財産を半分ずつ分け合うことになります。

割合が修正されるのは、あくまで特段の事情があるときの例外となっています。

しかし近年は、家庭のあり方もどんどん多様化してきており、これまでの原則によっては妥当な解決が導けないことも多くなってきています。

財産分与の割合に疑問を感じることがあれば、まずはぜひ一度、離婚問題に詳しい弁護士にご相談ください。