離婚にまつわる慰謝料について ~暴力行為編~

1.家族間でも暴力行為は当然に違法

家庭内暴力は、昨今では「ドメスティックバイオレンス」とも言われ、略して「DV」と言われます。

「ドメスティックバイオレンス」や「DV」という言葉が普及したことにより、これまでは家庭の中に埋もれていたような暴力行為に問題意識が向けられるようになったのは、よい傾向だと思っています。

たとえ、家族に対するものであろうとも、暴力であることに違いはなく、暴行罪(刑法208条)や傷害罪(刑法204条)に該当する行為です。

暴力行為が行われた結果、婚姻関係が破綻した場合には、裁判で離婚が認められる離婚事由になります。

また、暴力行為を行った者が離婚の原因を作り出したことになるため、他方の配偶者は離婚となってしまったことに対する慰謝料を請求することができます。

2.暴力行為を原因とする離婚慰謝料を請求するため必要なこと

一般的に離婚の慰謝料を請求するためには、下記のようなことを立証していく必要があります。

 

立証が必要になる項目

  1. 相手方が原因となる行為を行ったこと
  2. その原因行為によって婚姻関係が破綻したこと
  3. それによって損害が発生したこと

以下では、上記の順にしたがって、暴力行為の場合を説明いたします。

(1)相手方が原因となる行為を行ったこと

つまり、相手方が暴力行為を行ったことを立証する必要があります。

この点は、ともすれば簡単なように思えますが、実際はなかなか難しい問題があることも多いです。

たとえば、ある日暴行を受け、その直後に通院治療を受けているような場合には、怪我をした事実が診断書から分かるため、その原因となる暴行もあったと特定することは比較的容易です。

しかし、家庭内の問題を外に漏らしたくないという思いで治療にいかない場合や、継続的に暴行を受けることによる相手方に対する恐怖心から治療にいけない場合も少なくありません。

場合によっては、明示的に相手方が治療に行くことを禁止しているということもあります。

暴力行為を受けた場合には、可能であれば病院へ行くことが治療のためにも、その後の離婚などのためにも好ましいですが、「病院に行っていないから、暴力行為があったことを立証できない」とあきらめる必要はありません。

暴力行為を受けていた経緯や通院していない経緯を丁寧に聴取した上で、暴力行為の特定を行っていくことは可能です。

(2)その原因行為によって婚姻関係が破綻したこと

つまり、暴力行為が行われたことが離婚の要因となっているということを立証する必要があります。

たとえば、ある暴力行為が行われた後、別居が開始され、そのまま離婚へと話が進んでいった場合は、原因として分かりやすいと思います。

しかし、継続的に暴力行為が行われている場合には、具体的に婚姻関係が破綻したのはいつなのかという点がはっきりとはしていないことも少なくありません。

継続的に暴力行為が行われているのであれば、婚姻関係が破綻していることは明らかではありますが、他にも原因になりうる事情がある場合には、どの時点で婚姻関係が破綻し、その決定的な理由は何だったのかという点が争いになることがあります。

ここも、家庭内の事情なので客観的な資料によって立証が容易にできるものではないため、当事者から丹念に聞き取りを行って立証の準備をしていく必要があります。

(3)それによって損害が発生したこと

慰謝料は金銭の支払いなので、生じた損害を金銭換算するといくらくらいになるのか、という点が問題となります。

この点は、まずは「離婚となってしまったこと」つまり「婚姻関係が破綻に至った経緯」から、どのくらいの苦痛・精神的損害が発生したかという点を検討することになります。

慰謝料についての概要編で詳述したとおり、慰謝料額の算定要素としては①有責性、②婚姻期間、③相手方の資力の3点が主に考慮されることとなりますが、暴力行為の場合には①有責性を判断するにあたり、下記のような点が重要となります。

重要ポイント

  • どのような暴力行為がなされたか
  • 暴力行為がなされる原因はあったか
  • その頻度や継続した期間はどの程度か
  • それによってどのような怪我を負ったか

また、暴力行為によって傷害結果が発生している場合には、その身体的な損害についても慰謝料を請求することとなります。

法律上の考え方からすれば、「怪我を負わされたこと」と「その結果離婚になったこと」は別の損害とされます。

裁判例でも、夫が継続的に妻に対して暴力を振るい、妻が鎖骨骨折などの傷害を負った結果、運動障害の後遺症が残ったという事案において、離婚の慰謝料としては350万円を認定した上で、怪我を負わせたこと及び後遺症を残したことの慰謝料等として1714万円の支払いを認定しています。

離婚にまつわる慰謝料の概要は、以下の記事をご覧ください。

離婚にまつわる慰謝料について ~概要~

まとめ

家庭内の事情を外部に話し、伝えることは、心理的に容易なことではないと思います。

特に、家庭内暴力では、物理的な暴力だけでなく、言葉の暴力も合わせて行われていることも多く、継続的になされている場合には、肉体的にも精神的にもどんどん磨耗していってしまいます。

「こんなことをされるのは、自分の方に非があるのではないか」と思ってしまうケースもあります。

しかし、そんなことはありません。

暴力は、どのような場合にも許されるものではありません。

適切な手続きで、共に適切な解決を目指したいと考えています。

必ず、状況を打破して再出発を図ることはできます。

独りでふさぎこんでしまう前に、まずは弁護士にご相談ください。