離婚をする際には公正証書を作るべきか?公正証書を作成するメリット

以前、当事者間のお話し合いの結果は、離婚協議書という文書で残しておくべきというお話をしました。

(「離婚協議書を作るには」についてはこちらの記事をご覧ください)

離婚協議書を作るには?離婚協議書の内容について詳しく解説!

そして、その中で場合によっては離婚協議書を公証役場で公正証書にして作成したほうがよいこともあります。と述べました。

では、離婚協議書を公正証書にする場合とそうでない場合ではどのように違うのでしょうか?

混同してしまっている方も少なくないと思われますので、少しご説明いたします。

1.公正証書とは

公正証書とは、公証人が、その職務権限において作成した文書のことを指します。

あまりなじみがないと思いますが、全国には公証役場という役場があり、そこに公証人という公務員がいます。

公証人の多くは、退官した元裁判官や元検察官です。

これらの公証人は、依頼者の依頼に応じて、文書を作成することができますが、この文書を公正証書といいます。

つまり、離婚公正証書という場合には、離婚条件などが記載された文書を公証人に作成してもらったものを指すことになります。

2.公正証書作成の一般的なメリット

単なる離婚協議書は、当事者間で作成できます。

それに対して、公正証書となると、費用を払って公証人に作成してもらわなければなりません。

では、そうまでして公正証書を作成するメリットはあるのでしょうか。

(1)高い証明力がある

すでに述べたとおり、公正証書は公証人が内容を確認した上で作成します。

したがって、一般の当事者同士で取り交わされる契約書や協議書に比べて、高い証明力があります。

たとえば、離婚協議書で取り決めたとおりの内容を相手方が履行しない場合に裁判をするとします。

その場合、離婚協議書は重要な証拠になります。

しかし、相手方が「その協議書は偽造である」などと言ってきたらどうでしょうか。

逆に、相手が協議書の内容を書き加えて理不尽な請求をしてくる可能性もゼロとは言い切れません。

この点、公正証書は公証人が第三者として介入して作成され、しかも公証役場で原本が保管されます。

そのため、偽造や変造の心配がなく、高い証明力が認められます。

(2)紛失に対応できる

メリット①でも説明したように、公正証書は原本が公証役場で保管され、当事者には控え(コピー)が渡されます。

そして、控えを火事や盗難などで紛失した場合には、再発行を受けることができます。

したがって、大切な約束を記した書面を紛失してしまうリスクを考えなくてよいのです。

(3)内容の漏れが少ない

公正証書は公証人が関与して作成します。

そしてその公証人は元裁判官などの法律知識のある人間です。

したがって、ご夫婦だけで作る離婚協議書よりも、法的に誤った内容や、内容的に抜けや漏れが少ない書面を作成することができます。

3.最大のメリットは、すぐに強制執行できること

さて、上記のメリットは公正証書一般に言えることです。

離婚で公正証書を作成する最大のメリットは、公正証書に「執行認諾文言」というものを付けることができるということです

少し考えてみましょう。

離婚協議書や離婚公正証書は、離婚が決まってから作成されます。

財産分与や親権者など、決めることは多いですが、基本的には離婚の時点で決まってしまえば、その後にいざこざを生むことは少ないです。

そうすると、「その後に備える」ための離婚協議書や公正証書が最も効果を発揮するのは、離婚後の養育費の支払いについてです。

夫婦にお子さんがいる場合、離婚をして親権が一方に帰属したとしても、法律上の親子関係は消えません。

そのため、親権者ではない親は、養育費の支払いをする義務があります。

これは、不払いとなれば子どもの生活への影響に直結するので、とても重要なものです。

しかし、残念ながら、当初定めた期限まで(一般には子どもが成人するまで)支払いを継続する例は、わずか20%程度といわれています。

つまり、10組に8組は、途中で養育費の支払いが止まってしまうのです。

この場合、親権者側としては、相手方に支払いを要求して、どうしても払わないようであれば最終的には強制執行(差し押さえ)をしなければなりません。

しかし、原則として、強制執行をするためには「勝訴判決」が必要です。

つまり、裁判を起こし、離婚協議書などで相手方の支払義務を立証し、判決を得てから、やっと強制執行手続きに移る、という長い道のりを要するのです。

このように裁判は時間も費用もかかります。

養育費が支払われず、困窮している状態で、さらに時間と費用をかけて裁判をしていくことは現実的に考えると、相当困難です。

そのような状況を打破するためにあるのが、公正証書の「執行認諾文言」というものです。

これは、公正証書の中で、「もしもここに書かれている金銭の支払いを怠ったら、すぐに強制執行されても文句はないです」ということを、支払う側に認めさせ、公正証書の中に記載をしてお

くことで、裁判をせずに公正証書のみで強制執行をすることが可能となるというものです。

つまり、執行認諾文言がついている公正証書は、判決と同じ効果を持っているのです。

したがって、いざとなれば簡易・迅速に支払いを受けることができるため、養育費の支払いが約束の中に含まれる場合には、公正証書を作成しておくべきなのです。

4.公正証書を作成するためには

このように、多くのメリットがある公正証書ですが、作成のためにはいくつかステップがあります。

(1)内容はあらかじめまとめておく

公証人は、あくまで文書を作成してくれるだけです。

もちろん、一定の相談には乗ってくれますが、相手方との交渉や調整といった役割は担えません。

したがって、まずはどのような内容にするかを、あらかじめ相手方との間でまとめておく必要があります。

(2)公証役場へ双方が出頭する

作成する公証役場は、どこでも構いません。

裁判の場合には「管轄」という地域の縛りがありますが、公証役場は極論、縁もゆかりもない場所でも問題ありません。

しかし、離婚の構成証書を作成する場合には、当事者双方が公証役場に出頭する必要があります。

自分ひとりでささっと作ってしまうということはできません。

もちろん、代理人を選任しても大丈夫ですし、この代理人は必ずしも弁護士等である必要はありません。

ただし、明確な内容の委任状と本人確認用の資料が必要になります。

(3)内容を確認し、調印する

公証人に、公正証書にしてほしい内容を伝え、文言を整えてもらいます。

そして、できあがった公正証書は、公証人が読み上げて当事者双方の確認を得た後、捺印することによって完成します。

まとめ

さて、今回見てきたように公正証書には大きなメリットがたくさんあります。

そのため、作成に手数料がかかったとしても作成しておいた方がよい場合が多いです。

しかし、「公正証書さえ作っておけば大丈夫」と思い込むのは危険です。

公正証書は、形式面がしっかりしているだけに、内容が誤っていたり不十分だったとしても容易に修正できません。

確かに公証人は、一般の方が相手の場合、その希望を汲み取って文言を整えてくれますが、そこに誤解や行き違いが生まれてしまっている例も少なからずあります。

特に、文言の規定のされ方しだいでは、せっかく執行認諾文言を付けたにもかかわらず、強制執行ができないという事態もあり得ます。

したがって、公正証書を作成する場合でも、事前に弁護士などの法律専門家にご相談いただき、内容の確認をしておくことをお勧めします。

当事務所では、離婚条件の交渉から離婚協議書の作成、それを元とした公正証書作成のための調整まで、すべての場面でサポートが可能です。

ぜひ一度、ご相談ください。