財産分与について④ ~退職金編~

1.退職金は財産分与の対象になるのか

企業に雇用されている場合などに、定年などを理由に退職をする際に金銭が交付される場合があります。

一般にこの金銭を「退職金」といいます。

規模の大きい企業や、長期間勤続した場合などには、高額となる場合もあり、この退職金が離婚時の財産分与の対象となるか否かは、重大な点となります。

結論から言うと、退職金は財産分与の対象になる場合もならない場合もある、ということになります。

分与対象となるか否かを判断するには、下記のような事情を検討する必要があるのです。

  • 問題となる退職金はどのような性質のものか
  • 退職金がすでに支払われているか、まだ支払われていないか
  • まだ支払われていない場合、支払われる見込みがどの程度あるか

以下で、順番に解説していきます。

2.退職金の性質

ひとくちに「退職金」といっても、その性質や内容はさまざまです。

というのも、「退職金」というものは、法律で具体的に定められているわけではないのです。

そのため、企業によっては「退職手当」や「退職慰労金」などという名称を設けている場合もありますが、本稿ではいずれも退職時にもらえる金銭という意味で、「退職金」と呼称します。

退職金は、一般的には勤続年数などに応じて金額が上昇していく傾向にあります。

そのため、退職金は、賃金の後払い的な性質を持っていると考えられています。

つまり、退職にいたるまでに行った労働の対価を退職時にもらうという制度と理解されています。

そうであるとすると、婚姻関係にある状況で行った労働の対価が含まれていると考えられるので、給与と同様に、退職金も夫婦が共同して形成した財産であるといえます。

そのため、一般的には退職金は、財産分与の対象になると考えられています。

もっとも、上記の理由からすると、逆に退職金が労働の対価ではないと認められる場合には財産分与の対象から外れるということもありえます。

過去の審判では、勤務先の統廃合により退職金が支出されることとなった事案で、当該退職金は、あくまで勤務先が合併するという偶発的事情に端を発する生活補償としての性質を持つものと判断し、財産分与の対象からはずしたものがあります(東京家審八王子支部H11.5.18)。

したがって、労働の対価制が認められない場合には、退職金そのものを分与するという方法は取れない可能性があります。

ただし、その場合でも、そのほかの財産を分与するに際して、総合考慮のひとつの材料にはなりえます。

たとえば、「退職金で500万円入るのだから、預金の分与は少し相手方に多めに分けて相手方の扶養の側面も考えるべきである」というような財産分与は十分にありえます。

3.退職金がすでに支払われているか否か

退職金の性質を確認し、労働の対価として財産分与の対象になったとします。

そして、退職金がすでに支払われているのであれば、その退職金をどのように分与すればよいかと考えていけばよいことになります。

退職金を原資として、何かを購入しているような場合には、それは退職金が形を変えただけなので、この購入した物を財産分与の対象とすることができます。

たとえば、退職金を使って不動産を購入していた場合には、実質的には退職金ですから、その不動産を財産分与の対象として分与方法を考えていくことになります。
(「不動産の財産分与」についてはこちらの記事をご覧ください)
https://www.mizukilaw.com/personal/divorce/divorce-15/

しかし、悩ましいのは、すべての離婚が退職金を受領した後に起こるわけではないという点です。

離婚の際にまだ支払われていない、将来の退職金を財産分与の対照とすることができるのかという問題が生じるのです。

この点は、以下の退職金が支払われる蓋然性を判断して決することになります。

4.退職金が支払われる見込みはどの程度あるか

離婚をする際にまだ支払われていない退職金は、財産分与の対象となるでしょうか。

この点、まだ支払われていないが、支払われることが確定している場合には、財産分与の対象としてよいことには争いがありません。

たとえば、2ヵ月後に退職が迫っており、退職金額も支給日も定まっているようなばあいには、たとえ現実に退職金の支払いがまだ行われていなかったとしても、財産分与の対象と考えられます。

しかし、将来支給がされることが確定的とはいえない場合には、問題となります。

退職金の支払いまで相当年数があるような場合には、それまでの間に勤務先の倒産や不況による賃金の減額、退職金規定の改定など、さまざまな可能性があり得るからです。

また、定年を迎える前に予期せぬ懲戒や人員整理などで退職となる可能性も否定しきれません。

したがって、実務上の取り扱いとしては、退職金の支給される蓋然性が高いかどうかという点で財産分与の対象となるかを切り分けています。

どういう条件がそろっていれば支給の蓋然性が高いと判断される、という明確な基準はありませんので、各事案に応じて、具体的な事実関係を元に判断していくことになります。

主な考慮要素としては、勤務先の規模や経営状態(倒産の可能性がどの程度あるか)、他の従業員に対するそれまでの支給実績(経営状態による触れ幅が大きいか否か)などといった点が上げられます。

したがって、例えば支給は10年以上も先の話であっても、職業が公務員である場合には支給の蓋然性が高いと判断される場合もありますし、逆に定年まであと2年程度という時期まで迫っていても、支給実態が勤務先の業績に応じてばらつきがあるようであれば、支給の蓋然性が低いと判断されることもあり得ます。

5.退職金が分与対象となる場合の金額はいくらか

上記の検討の結果、退職金が分与対象となるとしても、必ずしも支給される金額のすべてが対象となるわけではありません。

なぜならば、あくまで財産分与は、夫婦が協力して得た財産を分けるものですので、退職金が労働の対価だとしても、夫婦の協力の元に得られたといえる必要があるからです。

そこで、分与対象の金額を考える上では、下記の2点が大切となります。

 

分与対象の金額を考える上で大切なこと

  • 勤続年数と婚姻期間
  • 他方配偶者の寄与率

1点目の勤続年数と婚姻期間については、婚姻後に勤務開始し、退職後に離婚する場合には問題となりません。

しかし、例えば勤続年数が30年であるのに対し、婚姻期間が10年であった場合には、30年間の労働の対価である退職金の全額を、夫婦が協力して得たということはできません。

したがって、あくまで婚姻期間(場合によっては同居期間も含む)がどの程度かということを考える必要があります。

また2点目の寄与率は、その退職金を得るにあたって、どの程度の協力があったかという意味です。

一般的には50%とされる例が多いですが、夫婦の具体的事情に応じて修正されることもあります。

以上から、実務上は以下の式に基づいて計算されることが多くなっています。

 

計算式

退職金額×(婚姻期間÷勤続年数)×寄与率

 

例えば、勤続35年で退職金規定上は800万円がもらえるような企業において、婚姻期間が15年で、通常程度の協力をしている夫婦の場合には、

800万円×(15年÷35年)×50%≒171万円

となり、分与額は約171万円となります。

6.最後の問題は、どのように分与するか

ここまでで、下記の点を検討してきました。

 

  1. 退職金は分与対象となるのか
  2. 対象となるとしてその金額はいくらか

残る問題は、その金額をどのように分与するかという点です。

退職金がすでに支払われており、残っている場合には、現物を分割すればよいのでそこまで難しくないでしょう。

しかし、退職金がまだ支払われていない場合には、いつどのように分割するかが問題となります。

ひとつは、離婚時に分割をする方法です。

この方法は、離婚の際にすべての財産分与を終えることができるので、紛争を一挙に解決することできます。

しかし、そのためには、退職金の分与相当額を支払えるだけの資力が必要です。

また、実際に将来退職金が支払われるかという不安要素もあります。

もうひとつには、実際に将来退職金が支払われた時に分割をするという方法です。

これは、退職金の不支給や金額の不確実性などを解消することができますが、解決が先延ばしになってしまう、強制執行も行いづらいというデメリットもあります。

上記のようなメリットとデメリットを比較しながら、最良の方法を模索することとなります。

まとめ

退職金の財産分与については、それ自体の性質がどのようなものかという点から、分与をいつどのようにするかという点まで、さまざまな検討事項があります。

また、退職金と似て非なるものとして、退職後に支払われる企業年金というものもあり、区別が困難であることもあります。

適性かつ確実な財産分与を行うためにも、退職金の財産分与に悩んだら、ぜひ一度弁護士にご相談ください。