ソフトウェアライセンス契約について

ソフトウェアライセンス契約とは

ソフトウェアライセンス契約とは、ソフトウェアの権利者(ライセンサ)が、ソフトウェアの使用を望む者(ユーザ)に対して、ソフトウェアの使用を許諾する契約です。
同じソフトウェアライセンスであっても、

・ユーザの基幹業務を統合的に管理するソフトウェア:ERPパッケージソフトウェア
・特定の機能の提供を目的とするソフトウェア:文章作成ソフトや表計算ソフトなど
・ゲームや機器に組み込まれたソフトウェア

など、様々なものがあります。

ソフトウェアライセンス契約の始まり-クリック1つで契約成立?

ソフトウェアライセンス契約はどのように始まるのでしょうか。契約というと契約書に記名捺印するのが典型です。しかし、ソフトウェアライセンス契約では、紙の契約書を使わないことも多くあります。
では、どのような契約方法があるのでしょうか。

(1)シュリンク・ラップ契約

シュリンク・ラップ契約では、市販のソフトウェアの外箱等に、規約と、包装を開封するとその規約に同意したものとみなされることが記載されています。このような記載がある外箱等を開封したと同時に契約が成立します。
ただし、実際にユーザが規約の内容を理解して同意したといえるような客観的な状況が必要です。以下のような場合には、シュリンク・ラップ契約は成立しません。

・ライセンス契約についての表示が外箱の包装やシールにない場合
・ユーザが簡単に見つけられないような場所に規約の記載がある場合

今のところ、日本では、シュリンク・ラップ契約が成立しているか争われた裁判例はありません。

 

(2)クリック・オン契約

クリック・オン契約では、ソフトウェアのインストール時に、モニターに規約を表示させ、ユーザに「同意」のボタンを押させることで契約が成立します。クリック・オン契約では、「同意」のボタンを押す前に、ユーザがモニター上で契約内容の全文を見ていることが必要です。
近年、ソフトウェアはインターネットを通して配信され、ユーザが自分でインストールするタイプが多くなっています。このような状況からすれば、今後もクリック・オン契約が広く使われることでしょう。
クリック・オン契約も、シュリンク・ラップ契約と同様に、実際にユーザが規約の内容を理解して同意したといえるような客観的な状況が必要です。以下のような場合には、シュリンク・ラップ契約は成立しません。
・「同意」を求める画面や「同意」のボタンが他の画面やボタンと明確に区別されていない場合

 

<ケース>
規約全文を読まなくても契約が成立する場合(東京地裁平成21年9月16日)

(事案の概要)
ゲーム運営者とユーザとの間で契約が成立しているか争われた事案です。
画面上に規約の一部とスクロールボタンが表示された状態で

「GAMECITYの市民登録を行い、サービスをご利用いただくためにはコーエーネットワーク利用契約(本件規約)をご了承いただくことが必要です。以下の規約をお読みください」、「ご承諾いただける場合『承諾する』ボタンをクリックし、登録ページにお進みください。そうでない場合は『承諾しない』ボタンをクリックしてください。『GAMECITY市民登録』トップへ戻ります」

との注意書きが記載されていました。画面をスクロールさせて規約を全部見なくても「承諾する」ボタンをクリックすることができる状態でした。クリック・オン契約は成立しているでしょうか。

(裁判所の判断)
本ケースでは、規約の全文を見ていないでも「承諾する」をクリックできる状態にあるのですから、クリック・オン契約は成立しないようにも思えます。
しかし、裁判所は、クリック・オン契約の成立を認めました。その理由としては、ゲーム運営者が、サービス利用に規約への承諾が必要なこと、規約に同意する場合には「承諾する」ボタンを、同意しない場合には「承諾しない」ボタンをクリックするようことなどを丁寧に説明していることが考慮されたものと思われます。

 

(3)契約成立のためにライセンサが注意すべきこと

シュリンク・ラップ契約にしても、クリック・オン契約にしても、ライセンサからすれば契約が簡単に締結できるようになり、便利な方法です。
しかし、契約が成立するためには、結局のところ、実際にユーザが規約の内容を理解して同意したといえるような客観的な状況が必要です。その状況を作るためには規約を確実に見てもらえるような丁寧な説明文や見やすい表示が必要です。
反対にいえば、上記の裁判例のように、ある程度の不手際があっても、丁寧な説明や見やすい表示を心がけていれば契約が成立することもあります。ライセンサとしては、できるだけ丁寧な説明や見やすい表示となっているか意識するといいでしょう。

 

ソフトウェアライセンス契約のデフォルトルール-どの法律が適用されるか

ソフトウェアライセンス契約では、規約に多くのルールが定められています。しかし、全てを記載するのは不可能です。規約に記載されていない問題はどのように解決すればいいでしょうか。

(1)民法の基本ルール

<ケース>

画像加工ソフトのソフトウェアライセンス契約を締結しました。ユーザは事前にどういったファイル形式の画像を加工したいかをライセンサに伝えていました。しかい、実際には、そのソフトウェアはユーザが伝えていたファイル形式には対応していませんでした。ユーザはライセンサにソフトウェアライセンス契約が無効であるといえるでしょうか。

 

民法には、契約全般に適用されるルールがあります。たとえば、勘違いで契約をしたら、売買契約でも、賃貸借契約でも無効となりますし(錯誤無効)、騙されて契約をさせられた場合には売買契約でも、賃貸借契約でも詐欺で取り消せます(詐欺取消)。
そのような、契約全般に適用される民法のルールは、ソフトウェアライセンス契約にも適用されます。上記のケースであれば、ユーザがライセンサに伝えていたファイル形式の画像を加工できると思ったからソフトウェアライセンス契約を締結したにもかかわらず、実際にはユーザがライセンサに伝えていたファイル形式に対応していないという点で勘違いがあります。そのため、ソフトウェアライセンス契約について、錯誤無効を主張できます。

 

(2)売買に関するルール-不良品に対する補償

<ケース>

ソフトウェアライセンス契約をしたものの、不具合があり、ソフトウェアが作動しませんでした。ユーザは、ライセンサに対して、どのような補償を求められるでしょう。 ソフトウェアが①文書作成ソフトや表計算ソフトのような同様のソフトウェアが数種類ある場合、②自社のためにオーダーメイドで作成されたソフトウェアであり、他で代替が利かない場合とで、求めるべき補償は変わるでしょうか。

 

売買契約のルールが適用される理由

一見するとソフトウェアライセンス契約と売買は全く違うものと思えるでしょう。しかし、ソフトウェアが入ったCD-ROMを買ったときに中身のソフトウェアに不具合があった場合と、ソフトウェアをダウンロードしてソフトウェアに不具合があった場合ではほとんど違いがありません。
このように、物やサービスを受け取って、それに対する対価を支払うという点では売買契約もソフトウェアライセンス契約も同じです。そのため、可能な限り売買契約の規定が適用されます(民法559条)。

瑕疵担保責任

ライセンス契約と関係する売買に関するルールで最も重要なのは、瑕疵担保責任です。瑕疵担保責任とは、契約の目的物が不良品であった場合には、相手方に補償を請求できる制度です。
具体的には、契約の解除(返品返金)、損害賠償請求ができます。上記のケースの①のような同様のソフトウェアが数種類ある場合であれば、不良品を作るようなライセンサのソフトウェアを再度使おうとは思わないので、金銭的解決を図り、他のライセンサのソフトウェアを使おうと考えるのが一般的でしょう。
しかし、ソフトウェアの中には、上記のケース②のような自社のためにオーダーメイドで作成されたものもあります。オーダーメイドのソフトウェアは、作成までにある程度の期間をかけてライセンサとユーザが打ち合わせをして作成するソフトウェアですから、多少の不備があったからといって、易々と他のライセンサのソフトウェアに乗り換えることはできません。そこで、このような場合、ユーザは、ライセンサに対して不具合を修正するよう請求することができます(瑕疵修補請求)。瑕疵修補請求ができるのは、不具合があることを知ったときから1年であるので、期間制限には気を付けましょう。

1 原則自由なソフトウェアの「使用」

(1)ソフトウェアの「使用」とは
ライセンサの許可がないとできないソフトウェアの「利用」は著作権法の21条から28条に記載されています。「利用」以外の行為は、ソフトウェアの「使用」といわれ、ユーザは自由にできます。
具体的には、以下のような行為等がソフトウェアの「使用」に当たります。
・ソフトウェアを事故のPC等で実行すること
・社内ネットワークにソフトウェアをインストールして、社内の特定少数の端末からアクセスしてソフトウェアを使用すること

(2)違法な「使用」もある
原則として自由なソフトウェアの「使用」ですが、違法な場合もあります。もし、プログラムを取得した時点で、違法に複製されたプログラムであると知っていたのであれば、著作権侵害とみなされます(著作権法113条2項)。

(3)違法な使用をした場合にはどうなる?
ソフトウェアの「利用」と異なり、違法な「使用」が行われた場合でも、原則として契約に定められた損害賠償請求等の措置に限られます。

2 著作権者が独占できるソフトウェアの「利用」

(1)ソフトウェアの「利用」とは
著作権法上、ライセンサの許可がないとできないソフトウェアの「利用」は以下のとおりです。
① 複製(21条):ソフトウェアを他の媒体にコピーすること
② 公衆送信(23条):インターネットやLANで多数の人にソフトウェアを提供すること
③ 翻案(27条):元のソフトウェアをベースにした二次創作物を作成すること
④ 二次的創作物の利用(28条):翻案により作成されたソフトウェアを利用すること
これらについて、詳しく見ていきます。

(2)複製(著作権法21条)
<ケース>

ソフトウェアプログラムを実行する際、ハードディスク等にプログラムが記録され、RAM上に一時的に蓄積されることがあります。これはソフトウェアの「複製」に当たるでしょうか。

複製とは、既存の著作物に依拠し、その創作的な表現部分の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいいます(知財高裁平成28年4月27日、接触角計算(液摘法)プログラム控訴審)。

具体的には、
・CD-ROM等の記録媒体にソフトウェアをコピーする場合
・CD-ROM等の記録媒体に記録されているソフトウェアをPC等の記憶装置にインストールすること
・コンパイラやアセンブラ等の言語変換ソフトを使用してソースコードをオブジェクトコードに変換すること(元の内容が同じであれば言語変換したものを作成しても「複製」といえます)
・実行中のプログラムのメモリダンプ(ある瞬間にメモリ上に展開されているプログラムやデータを丸ごと写し取ることです)
などがあります。

では、実行中のメモリダンプが「複製」に当たるのであれば、上記のケースのように、ソフトウェアプログラムを実行して、それがRAM上に一時的に蓄積されてしまうだけで「複製」に当たってしまうのでしょうか。
この点については、裁判例があります。

東京地裁平成12年5月16日判決(スターデジオ)
「著作権法上の「複製」、すなわち「有形的な再製」に当たるというためには、将釆反復して使用される可能性のある形態の再製物を作成するものであることが必要であると解すべきところ、RAMにおけるデータ等の蓄積は、…一時的・過渡的な性質を有するものであるから、RAM上の蓄積物が将来反復して使用される可能性のある形態の再製物といえないことは、社会通念に照らし明らかというベきであり、したがって、RAMにおけるデータ等の蓄積は、著作権法上の「複製」には当たらないものといえる。」

このように、RAM上のプログラムは、それ自体が反復継続して使用される可能性があるものではないので、著作権法上の「複製」に当たらないとされています。
さらに、現在は、著作権法47条の8が新設されていて、情報処理を円滑効率的に行うために必要な範囲で、コンピュータの記録媒体にソフトウェアを記録することが認められています。そのため、仮にRAM上のプログラムの蓄積が「複製」に当たったとしても、著作権法上違法とはなりません。

(3)公衆送信(著作権法23条)
公衆送信とは、公衆によって直接受信されることを目的として無線通信または有線電気通信の送信を行うことをいいます(著作権法2条1項7号の2)。

具体的には、
・インターネットを使用して、ソフトウェアを多くの人に提供すること(自動公衆送信。著作権法2条1項9号の4)
・LANで社内の多数の従業員にプログラムを送信すること
・インターネット上のサーバにソフトウェアを記録して、誰でもダウンロードできるようにすること(送信可能化。著作権法2条1項9号の5イ)
などがあります。

(4)翻案(著作権法27条)
翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想または感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいいます(最高裁平成13年6月28日、江差追分事件)。

具体的には、
・プログラム言語の逐語的な変換
・プログラムの移植
・新機能の追加
・既存機能の変更
などがあります。

著作権法では、アイディアの保護はしていないので、仮に同じ機能であっても、プログラムの記述が違っていれば、翻案権の侵害にはなりません。

(5)二次的著作物の利用(著作権法28条)
翻案により作詞されたソフトウェアに関する上記の各行為(複製、公衆送信等)も、著作権者に無断ではできません。

(6)著作権者の許諾がなくてもできるソフトウェアの「利用」
著作権法は、著作権者の許諾を得なくてもソフトウェアの「利用」ができる場合を既定しています(権利制限規定)。ソフトウェアライセンス契約に関するものだと次のようなものがあります。

①プログラムの著作物の副生物の所有者による複製等(著作権法47条の3)
著作権法47条の3第1項本文は、プログラムの記録媒体を所有している者について、著作権者の許諾を得なくても一定の複製・翻案ができます。
これによって、バックアップやメモリダンプなどができます。

②電子計算機における著作物の利用に伴う複製(著作権法47条の8)
上述のように、情報処理を円滑効率的に行うために必要な範囲で、コンピュータの記録媒体にソフトウェアを記録することが認められています。

③リバースエンジニアリングに伴う複製
著作権法に明文で規定されているわけではありませんが、相互運用性の確保や傷害の発見等の一定の目的でなされるソースコードの調査・解析等を目的としたリバースエンジニアリングの際に不可避的に生じるプログラムの複製は、著作権侵害にならないと考えられています。